50話:千変万化流に「拾い食い厳禁」の掟が作られたワケ
なんと第一部完結まで……残すところあと10話です!
ここまで読んでくださった皆様には感謝しかありません、このまま最後までよろしくお願いします!
千変万化流には、決して破ってはならない『禁』があります。
力に溺れ無闇に振るうことべからず、戦場以外で変身により欺くべからずなど、幾つかあるのですが。
その中に、『決して拾い食いをするべからず』と言うものがあります。
何を隠そうこの禁は、あの事故によって生まれたものです。
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「あー、腹減った。飯代ケチるためとは言え、夜まで待つのはキツイぜ」
若い頃の祖父は、金使いがとても荒かったそうです。
日々の生活費もままならず、食事すら抜くこともあったと聞いています。
あの事故の夜もそうでした、祖父は遊ぶお金を残すために、夕食を抜いていたんです。
しかし千変万化流は、変身魔法こそ使いますが本質は武術です。それも、食事を抜いたらまともに動けなくなるくらい体力を使う技ばかりです。
だから祖父は、食べ物を口にする必要がありました。
「さーて、今夜のお夜食は……よし、大量大量♩」
……そうです。
祖父は間引きの仕事中、こっそり『魔物』を食べて処理する悪癖がありました。
もちろん、特区から出てきた魔物は生きていますから、そのまま踊り食いです。
魔物には毒を持つものも多いし、そもそも調理しないと人が食べられたものじゃないはずなのに、どうしてそんな事ができたのかと言えば……それは祖父がとある魔物に変身していたからです。
「千変万化流、貪系――万食蓬莱!」
それが、あの日みなさんが目撃した祖父の姿――『貪』という魔物です。
大喰らいで、『自分にとって悪影響と感じる成分は摂食しても全く吸収せず、その成分だけを抽出して吐き出せる』という、変わった特徴をもった魔物でもあります。
祖父はこの姿で魔物を食べていることを、みなさんには秘密にしていました。
魔物を踊り食いすること自体非常識ですし、なにより食費を節約するためにやってるのを、皆さんに知られたくなかったのが最大の理由です。
「いっただきまーす! ガァツァツァツァツッッ!!! うんめぇぇぇーーーー!!!」
祖父は、魔物を食らってお腹を満たしていたのですが……あの夜、実は祖父が食べた大量の魔物の中に……居たんです。
「……ん? あえ、あれれ? なぁ〜んか、ふわっと来た……??」
体内に酒を作る魔物――ボンボンオロチという大蛇です。
「オレぇ、もしかして酔っ払ってるぅ〜?」
『貪』の消化能力は確かに高機能なのですが、よりによって祖父は酒好きだったせいで、摂食したアルコールを害がある成分だと見做さなかった、だから祖父は見事に酔っぱらってしまったんです。
「うぃ〜、ひぃっく……。まあいいかぁ、食ってりゃそのうち覚めるだろ……!」
ただ酔っ払ってしまっても、魔物相手に遅れは取らないくらい強いので、祖父はそのまま魔物を食べ続けていたんですが……。
「ごぁぁぁあっ!!」
「あぁ……? サイクロドラゴォ? ひっく……随分食べ応えありそうだなぁ、オメー。グッグッグッ……!」
そこにサイクロ・ドラゴが現れて。
「うぃ〜〜〜、ひっく……グッグッグッ……!」
「――あの魔物は!?」
フラットさんも駆けつけて。
祖父は酩酊して碌に喋ることもできず、イメージもまとまらないから人の姿に戻れなくなってたので――。
「オジン! 手こずってるようだから、手を貸してあげるよ! さあて、コイツは通るかなっと! 『フレム・ブリンガー』!!!」
(あれ? フラットが見えたような「――!? ッギィヤァァァアァァァァッ!!!?」
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「……後は、先ほど僕が話した通りです。フラットさんに吹き飛ばされた祖父は、その後次々とみなさんから誤射を受けました」
「お話は以上です」とマティアスは真犯人について語り終えると、ふぅー……と大きくため息を吐いた。
「「「…………」」」
フラット達三人は、押し黙ったまま身体をぶるぶると震わせる、それはまさに、噴火寸前の火山の如き様相で。
そして詰まるところ、この事件の真犯人とは……。
「「「オジンの自業自得じゃねーかぁぁぁ!!!!」」」
「全くもって仰る通りです。祖父が本当に申し訳ありませんでした……」
他でもない、勤務中に拾い食いして酔っぱらっていた、オジン本人の事であった。
怒髪天を衝くとばかりに噴火する三人、そしてマティアスはとっても気まずそうに、深々と頭を下げるのであった。
「はぁ、はぁ……マティアス君は、悪くはない、がっ……! オジンのクソボケをもう一度ぶっ殺してやりたい……!」
「あの、あのクソボケっ……!! あたしがうん十年どんな思いでっ……!」
「後悔して大損したぞ大クソボケェ!!」
ともすればオジンをもう一度くらい殺しかねない程に怒り散らすフラット達。
その怒りもごもっともである。そもそもオジンが真面目に仕事をしていれば、事故は起きなかったのだから。
「あは、ははは……」
マティアスはもう、苦笑いで誤魔化すほか無かった。
ちなみにこの時『まあ酔っ払って無かったら三人だろうと問題なかったがな! ぶわはははは!』という祖父の言葉も思い出していたのだが、これ以上刺激すると怒り過ぎて彼らの体調が悪くなりそうだったので、黙っておく事にした。
「はぁ、罪悪感とか、そういうの吹き飛んじまったわ」
「ルドウスさん、重ね重ね祖父が本当にすみませんでした……」
「あー、そんな謝んなくていい。ボウズはなんも悪くねえ」
頭を下げようとしたマティアスを、ルドウスは制止する。
「……まぁ、オレ達もオレ達で大ボケだわな、オジンに聞いてりゃ簡単に分かる事だったっつーのによ、がっはははははっ!」
「はっ。そうだねぇ、はたから見りゃとんだ笑い話だ」
「笑い話……か。ははっ、確かに笑える」
フラット達は先ほどまで怒り狂ってはいたが、一頻り怒ると憑き物が落ちた表情になり、やがてあまりの馬鹿馬鹿しさに笑いを漏らしていた。
「あーそうだ、ボウズ。気分転換にサブマッチっつーのを楽しませてもらうわ」
「そうだね、せっかく会場まで来たんだし、あたしも観に行こうか」
「ほ、本当ですか!?」
それまでサブマッチに否定的であった彼らは、改めて、サブマッチを見る気になってくれたらしい。
マティアスは心底嬉しそうに、顔を輝かせた。
「ここに来る途中であのデスティってヤツを一目見たんだが、相当やれるヤツだと俺は踏んでる……気張れよ」
「はいっ」
「フラット、あんたはどーすんだい? ついでだし見に行くだろ? サブマッチ」
ルドウスとアイリーンは来賓室を出て行こうとする。
しかしただ一人、ソファから立ち上がろうとしないフラットに、観戦に行かないのかを尋ねると。
「ああ、まだ聞きたいことがあってね。大した事じゃないから、先に行っててくれ」
「あいよ」
どうやらフラットはマティアスに何か聞きたいことがあるらしく、ルドウスとアイリーンはひと足さきに退室していった。
そうしてマティアスとフラットは、来賓室に二人きりになった。
「それでフラットさん、聞きたい事って?」
「ふむ……なぜ君はもっと早く、私に真実を話さなかったんだ?」
「ええっと、やっぱり三人そろって知った方が良いんじゃないかと思いまして……」
「ああいや、そういう事じゃないんだ。私が『間引きをサブマッチに参加させない』と伝えた、あの時の話だよ」
「あ、なるほど……」
確かに、やろうと思えばマティアスには出来たはずであった。
あの時点で真実を話して誤解を解けば、そのままフラット伝手にアイリーンとルドウスも説得できていただろう。
「あの時に話してくれれば、間引きとのサブマッチが実現できたかもしれないのに、どうしてだい?」
「それは……まだ、皆さんが勘違いしてるって確信がなかったのも、あったんですけど」
しかしマティアスはそれをせず、『ノー・デス・サブマッチ』まで秒読みというこのタイミングで、フラット達の誤解を解いた。
その理由はというと……。
「……先に謝ります、ごめんなさい。失礼かもしれませんが。実は僕、間引きの人たちと普通のサブマッチをするより、デスティさんと一騎打ちをする方が楽しそうだなって思ったんです」
少しだけ申し訳なさそうな顔をして、マティアスは理由を話すのだった。
ガーネットを始めとする強者たちと知り合ってからマティアスはずっと、サブマッチで競い合いながらも、どこかもどかしい気分を抱えていた。
――彼らと自分は、どちらが本当に強いのだろう?
かつて、デスティは『どっちが強いか決めたいなら直接殴り合うのが一番だ』と言っていた。
マティアスも、そう思っている。直接戦って、どちらが強いのかハッキリさせたい、その上で自分こそが最強なのだと胸を張って言ってみたい。
「……わかるよ。私にもわかる。この力はいつだって呆気なく相手を蹂躙する。戦争中、魔物を倒しすぎて、少し飽きたこともあった」
「実はオジンともよく話した事がある。お互い全力で喧嘩が出来ればいいのに、とね」
「……そうですか」
フラットは嫌な顔をすることなく、マティアスに共感しているようだった。
自分も、そしてオジンも同じような思いを抱えていた時期があったのだと。
祖父の名前に、少しだけ懐かしさに浸ったマティアスは、意を決したように息を吸って、話し出した。
「――フラットさん。見てて下さい」
「力を振るうのに、確かに危機感は必要だけど――楽しさまで捨てなくてもいいんだって、僕はこのサブマッチで証明してみせます」
マティアスの言葉によって、彼らを縛っていたトラウマは既に解け、力に対する過剰な危機感と恐怖は薄れているだろう。
あとは、行動で伝えるだけである。
「マティアス君……真実を話してくれてありがとう。君がデスティくんに勝利するところを、楽しみにしてるよ」
「はい!」
自分達が全身全霊で戦い、その果てに誰一人として傷つくことが無ければ――サブマッチなら、力を存分に楽しんで良いのだと証明できるだろう。




