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49話:今明かされる、驚愕の真実!

 戦勝記念日、それは人類が魔物との戦争に勝利した日に制定された祝日であり、ダルコ州の住民にとって最も特別な日である。


 おおよそ100年前に始まり、一時は終わりなき戦いとさえ呼ばれた魔物との戦争は、このダルコの地にて終結を迎えた。

 ダルコに住んでいる者の大半は、この最終戦争で戦った当事者と、その子孫達だ。

 『今の平和は自分たちが切り拓いたもの』という強い自負があるからか、彼らには州全体で戦勝記念日を盛大に祝う風習があった。


 戦勝記念スタジアムは、その中心とも言っていい場所だろう。

 ダルコ州で最大規模を誇るこの建造物は、数万人もの人数を軽く収容できるほどに広く、普段はスポーツの観戦などに扱われている。

 戦勝記念日になると、毎年何かしらの行事が行われ、周辺は出店などが立ち並び、まさにお祭り騒ぎといった様子で人々は賑わうのであった。


 そして、今年の戦勝記念スタジアムはいつも以上の盛り上がりを見せていた。 

 周辺の通路は往来が若干窮屈に感じる程度に混雑していて、スタジアムへ向かう人々の数が例年以上に多い事を示している。

 さらに、道行く人々の半数以上はダルコ州が属するミクス国では見かけない、様々な装束を身にまとっていた。

 つまるところ、デスティの宣伝効果が功を奏し、国外からの観光客が大幅に増えたのである。


 道行く彼らは口々に「どっちに賭けた?」「デスティをボコボコにして欲しいから千変万化シェイプシフター」「できればこの手でボコボコにしてぇなぁ」「それな」などと、物騒なことを言いながらも、楽しそうな様子でスタジアムへと向かっていた。

 

「……」


 そんな浮つく空気の中、真剣な表情でスタジアムへ足を進める一人の老人がいた。

 フラット・コールその人である。


(あの日の真実、真犯人……か)


 マティアスに誘われてからというものの、フラットの頭の中は、その事でいっぱいになっていた。


 確かにあの夜、オジンは自分が知らない姿に変身して戦っていたが、あれはイレギュラーとして現れたサイクロドラゴに対抗するために変身していたのだと、フラットは今までそう思い込んでいた。


(俺がオジンを殺しかけたのは、誰かに仕組まれた事だったのか? だとしたら、それは誰が、一体何のために? 俺は……今まで何も知らずに生きてきたのか?)


 今更ながら、フラットはあの事故について、自分が知っている以上の情報を何一つ知らなかったことに愕然としていた。


 しかしそれも、仕方のない事であった。

 今までフラットは事故の話を誰にも話さず、また事故を起こしてからオジンと会話することも避けてきた。


 責められるのが怖くて、できなかったのだ。


 死にかけで発見されたオジンは1ヶ月の間昏睡状態となり、その間に間引き内で事故の精査が行われ、変身魔法使いは間引きに参加することを禁ずるルールが制定されている。


 結局『見間違えられるような姿に変身したオジンに過失がある』と判断されて、その日間引きをしていたフラット達は、軽度な罰を与えられるだけに留まってしまったのだ。

 フラットは自ら間引きを辞めようと何度も考えたが、自分がいなければ立ちいかなくなる一族の事もあって、辞めることも出来なかった。


 そうしてオジンは遊び半分で殺されかけた挙句、目覚めた頃には間引きに自分の居場所が無くなっていて、加害者であるはずの自分は、今ものうのうと間引きを続けているのである。

 これでいったい、どの面を下げてオジンに会えというのか。

 正直殺されたって文句は言えないと、フラットは思っていた。 


(だが今日、全てが分かる)


 目の前の戦勝記念スタジアムを、フラットは見上げる。

 真実、真犯人、これまで自分が抱えてきた後悔は正当なものだったのか、今日、すべて明らかになる。

 期待半分、緊張半分といった様子でフラットはスタジアムへと入り、来賓室を目指すのであった。


====


 スタジアムの中の来賓室。

 そこは特別な来客を持て成すためか、ちょっと高そうなソファや、大きなテーブルなどが置かれた、小奇麗な部屋であった。

 とはいえ、今日ここに集まったマティアス達は、仲良く歓談するために来たわけではない。

 マティアスはさっそく真実を伝えるべく、ソファから立ち上がって、礼をしながら簡潔に挨拶する。


「今日は来てくださってありがとうございます。フラットさん――


 





――に、アイリーンさんと、ルドウスさん」


 マティアスの対面に座っていたフラットは、両隣りに座る2人の顔をちらりと見て、そして思った。

 ――多くない? と。


 来賓室にはマティアスとフラットの他に、2人の老人がいた。

 一人の老婆はアイリーン・マルトルク、引力と斥力を操る魔法に、槌術ついじゅつを組み合わせた武術を振るう『地平服ちへいふく鉄槌姫てっついき』。


 もう一人の背の高い老人はルドウス・バツディウム、世にも珍しいガルグイユ(ゴーレムの亜種)職人で、ガルグイユの軍隊と自ら乗り込む超巨大ガルグイユによって、あらゆる魔物を物量で圧し潰す『黒曜将軍(ブラックジェネラル)』。


 二人とも終結士族の族長で、フラットにとっては顔馴染みと言っていい。

 そしてあの日の夜、フラットとオジンの他に間引きをしていたメンバーでもあった。


「その、マティアス君? どうして、この二人を……?」

「……っ」

「……」


 フラットは2人に視線を向けると、気まずくなって直ぐに逸らした。

 アイリーンとルドウスもそうなのか、かち合った視線をさっと逸らす。


 昔は親しい仲だったのだが、あの事故以降、彼ら3人はお互いを避けるようになってしまった。

 フラットはそれを、二人から軽蔑されているのだと思っている。

 当然だ、自分はオジンを殺しかけ、間引きから追放した張本人なのだから、と。


「……それは俺の台詞だ。オジンとこのボウズよぉ、フラットとアイリーンまで来るなんて聞いてなかったぞ」

「あたしもさ、どうして二人までいるんだい」


 フラットは、なぜここに二人がいるのか分からない、しかしそれは二人にとっても同様のようで、何故お互いを呼びつけたのか、マティアスに質問すると。


「もちろん。貴方達にあの夜の真実を共有してもらうためです」

「「「?」」」


 マティアスの返答に、三人は揃って首を傾げた。

 三人ともどうして他の二人が知る必要があるんだ? という意味の疑問である。


「何を言ってるんだ? あの夜の事は、二人は関係ないだろう?」

「関係ないとはなんだよ、お前らこそこの件は無関係じゃねーか?」

「? この件はあたしの問題だろ?」


 三人はお互いに、その事を口に出すと――


「だって俺がオジンを殺しかけた時、君達は近くに居なかったんだから――」

「だってオレがオジンを殺しかけた時、お前らは近くに居なかったわけだし――」

「だってあたしがオジンを殺しかけた時、アンタらは近くに居なかったじゃないかい――」



「????」

「????」

「????」


 ――『何かおかしいぞ?』と、もう一度、三人は同時に首を傾げた。


 首を傾げたまま固まるフラット達を見て、マティアスはジト目になりながら、はぁ……と小さくため息をついた。

 ものすごーく、呆れているのだ。


「これがまず、祖父が死にかけた真実です」


「あの時、祖父はまず最初に(・・・・・)フラットさんからの誤射を受けて――遠くまで吹き飛ばされたんです」


「吹き飛ばされた先は、偶然にもアイリーンさんが間引きをしていた区域でした、祖父は次に(・・)アイリーンさんから誤射を受けて、また吹き飛ばされました」


「そうして最後に(・・・)ルドウスさんの担当区域に飛ばされて、そこで最後の誤射を受けました」


「つまり、祖父が死にかけた本当の理由は――『あの日間引きをしていた皆さんから、魔物と間違われて誤射されたから』です」



「「「…………はぁ!!?」」」



 三人とも顎が外れるのではないかと思うくらい、口をあんぐりと開けて固まった。

 まさかまさか、オジンをやったのは『自分』ではなく『自分達』であったとは露ほども思っていなかったのである。


「きっ、君たちまでオジンを魔物と間違えたのか!?」

「あっ、あん時は余裕がなくてだな……!? てか突然見た事ない魔物が空から降ってきたら襲撃だと普通思うだろーが!?」

「あたしもだよ!? というかオジンはよく死ななかったね!?」


 もはや、『どうしてオジンは死にかけていたのか?』というより『なんでそれでオジンは死んでないの?』という疑問の方が強くなるほどの真実に、ぎゃあぎゃあと騒ぐフラット達。

 お互いの言葉から、全員がオジンを攻撃した記憶がある事も判明して、どうやらマティアスの言う事が真実であることも確認するのだった。


「ああ、やっぱり皆さん自分がやったものだと思い込んでたんですね……。やたら自分を責めてるからそうだとは思ってましたけど」


 それをマティアスは、再度呆れ果てた目で見ていた。

 マティアスはフラットと実際に会い、セネートから他の終結士族の長のことを聞いて、ずっと違和感を感じていたのだ。


 フラット、アイリーン、ルドウスという名は、祖父がよく話していた昔の友人と同じ名前で。

 そしてマティアスは、祖父から千変万化流を間引きに使ってはならないと教わった際「なぜならワシは以前、魔物と間違われて同僚三人から殺されかけた!」と聞いている。

 極め付けに、直接会ってみれば、3人が3人とも自分がオジンを殺しかけたことを後悔していた。


 だからマティアスは「この人たちは全員で(・・・)祖父を殺しかけた事に気付いてないのでは?」と思って、この場に3人を呼び寄せたのだった。


「こ……こんな馬鹿な事が、真実だったとは……」

「いやまあ、オジンを攻撃した事実は変わんねーけど、変わんねーけどさぁ……。オレだけじゃなかったのかよ……」

「とゆーか、あたしらがちょっとでも話してたら、直ぐに気付けたじゃないかい……」


 自分達のあまりの滑稽さに、フラット達は肩をガックリと落とした。

 確かに、アイリーンの言う通り、自分達がどこかで事故の事を話していれば直ぐ分かってしまう真実である。


 しかし、全員が自分一人のせいだと思い込んで気まずくなって、お互いに責められるのを恐れていたから、今日までずっと誤解したままだったのだ。


「ちなみに祖父はその時の事について『一人だったら余裕で耐えれたんじゃがな! ワハハハハ』と言っていました」

「「「……あンの、クソボケェ……ッ! 人の気も知らずに……!!」」」


 そして、孫に事故のことを武勇伝っぽく語っていたらしいオジンに、フラット達は青筋を立てるのであった。



「……マティアスくん、オジンが死にかけた本当の理由は分かった。だが気になる事はもう一つある。あの事故を引き起こした真犯人というは、一体誰なんだい?」


 衝撃の真実を知らされてなお、それで話が終わったわけではない。

 マティアスはまだ3人に話していないことがある、それこそが、あの事故を起こした真犯人だ。


「ま、まさか、真犯人まで俺達ってことはねーよな……?」

「大丈夫です、あなた達じゃありませんよ」

「でも逆に、あたしら以外のそれらしい人間なんて居なかったと思うけどねぇ?」


 ルドウスの懸念をマティアスは否定するが、それでもあの場に犯人がいたとは思えないと、アイリーンは首を傾げる。

 間引きという職業が始まったばかりの頃とはいえ、仕事を始める前の人払いは徹底的に行われている、それはあの夜の時もそうであった。

 フラット達が犯人で無いとするならば、一体誰だというのか。


「犯人はいます。皆さんが祖父を間違えて攻撃する、最大の理由を作った張本人なんです」

「それは……オジンが見た事のない魔物に変身していた事か? その犯人の所為で、オジンはあの姿に変身せざるを得なかったと?」

「……はい、概ねその通りです」


 マティアスは一先ず犯人の事を置いておいて、事故が起きた原因について語った。


 あの日は、イレギュラーな事態が幾つも発生していた。

 本来、特区に居る筈の無いとされていたサイクロ・ドラゴが現れたこと、偶然にもオジンが変身すると宣言していた魔物であったこと、その日たまたまフラットがオジンの担当区域に来てしまったこと。

 その中でもマティアスは『オジンが同僚たちに話していない姿で戦っていたこと』を、最大の原因だと指摘すると。


「あの時祖父は『貪』という、何でも食らいつくす魔物に変身していました。それは――」






「――『拾い食い』をするためです」


 その理由を、言い切った。


「「「……はぁ???」」」


 本日二度目、三人はまたも口をあんぐりと開けて、驚愕するのであった。

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