41話:丸く収まりそうで、収まってない者共
「エエーっ!? マティアスとデスティナサンが、サブマッチデスカ!?」
「んー、確かにズゥ・ハーク家って噂には聞いた事あるけど……デスティさんがサブマッチに出るって、そんなに観客が集まるの?」
次なるサブマッチはマティアス対デスティ、それをきいたガーネットは羨ましそうに驚き、アルマは首を傾げる。
たしかに、アルマの疑念は尤もだ。
果たして、終結士族や間引きに匹敵する知名度、それに伴う集客効果をデスティが持ち合わせているのかというと……。
「くっくく、その辺りは安心しな。こう見えて悪名には自信がある。そうだな――ジュンコ、俺がサブマッチに出るって聞いたら、どう思う?」
「対戦相手がデスティをボッコボコに負かしてくれんかなって期待してぜったい見に行く」
「おお、即答……」
「俺にはこういう連中が国外にごまんといる。普段の脅迫の賜物だな」
「ファンちゃうわ! 自覚あるんならちょっとは自重せい!」
あるにはあるらしい、少々歪んでいるが。
据わった目つきで即答するジュンコに、アルマは若干圧倒されつつも、納得するのだった。
「沢山のお客サンに囲まれてサブマッチ……羨ましいデス」
「ねえねえデスティさん、あたし等も混ぜてよー。一対一とは言わずにさー、ここに居るみんなで一斉にくんずほんぐれつって感じで」
「まあ、アルマちゃんったらはしたないワ。でもそっちの方が面白そう」
「……ダメだ。オメー等も確かに実力者だが、今回のサブマッチは『ダルコ最強サブマッチャーと、俺が戦う』その事実が大規模サブマッチに匹敵する『箔付け』になる。余分な情報は省いときたい」
「「えーっ……」」「booッ……」
大舞台でのサブマッチを羨ましがるガーネットとアルマ(とついでにセネート)だが、デスティにはけんもほろろに断られてしまった。
確かに、これまでのマティアスの成績は、この二人をも抜いてトップである。
デスティという大物とマティアスという大物がぶつかり合うと喧伝すれば、人々の関心を惹くこと間違いなしだろう。
「それで、サブマッチはいつやるんですか? 種目は?」
「まあそう焦るな、今思いついたばっかな上にやるのは当分先だ。なんせ外から客を呼ぶから、準備も時間がかかる」
「あっ、それもそうですね……」
さっそくサブマッチの事を詳しく聞こうとするマティアスだったが、デスティに諌められて、今すぐの話ではない事に気付いた。
そう、このサブマッチの目的はあくまで、デスティの名を使って外国から観客を呼び込み、ダルコ州にサブマッチを広める事である。
当然、いま開催して客が集まる訳がないので、入念な準備と宣伝が必要なのであった。
「ざっと見積もって3か月後だ。その辺りにちょうどいい祝日がある。特にこのダルコ州に相応しい奴がな」
「3か月後の、祝日……。あ、戦勝記念日」
3ヶ月後と聞いたマティアスが真っ先に思い浮かべたのが、戦勝記念日。
それは人類が魔物との戦争に勝利した日で、世界にとって特別な日だが、終戦の地であるダルコ州ではより特別な日として扱われている。
具体的に言えば、平日にもかかわらず学校や一部を除いた仕事は休みであるし、州全体はお祭り騒ぎになって、あちこちで催し物が開催されるのである。
「いい日だろ? まあ本当はその日に間引きとサブマッチするつもりだったんだが」
「そうですね、僕も、そう思います」
デスティの言葉にマティアスは同意する。
戦勝記念日という、ある意味で力の存在意義が失われた日に、サブマッチという新たな存在意義を人々に知らしめる。
これほどサブマッチに適した日はないだろうと、マティアスは思ったのだ。
「おし、今後の予定も決まった事だし、今日はこれで解散するか。ジュンコ、帰って総合学園分のサブマッチ実行装置を作るぞ」
「げえーっ!? 面倒なんやけど……」
「アレは俺とオメーの2人じゃなきゃ作れねーだろ」
「せめて明日にしてーや! ウチ学校で疲れたし」
「その明日から俺が忙しくなるから今日作っとくんだよ。作ったらオメーは暫く楽できる」
「ん-……なら、ええけど」
話はひと段落ついたとして、デスティは解散を宣言すると、ジュンコの首根っこを掴んで帰ろうとする。
どうやら、明日からさっそく準備に取り掛かるつもりのようで、自分が居ない間、総合学園でサブマッチができるようにしておきたいらしい。
「つーわけで俺達は帰る、俺はしばらく学園の方に顔を出せなくなるが、サブマッチをする時は実行装置を使えよ」
「あ、はい。お疲れ様です。……あの、デスティさん」
「ん?」
「僕も何か、サブマッチの準備で手伝えることはありませんか?」
マティアスはデスティに声を掛ける。
デスティが自分を対戦相手に自分を選んでくれたことはとても嬉しい、しかしただ口を開けて待つだけで、諸々の準備をデスティにやらせるというのは心苦しいものがある。
ようするにマティアスは、参加するだけではなく、自分も何か手伝いたいと思ったのだった。
デスティはマティアスの言葉を聞いて一瞬だけ目を丸くすると、くくくと笑った。
「熱心なのは有り難いが、気持ちだけ受けとっとく。こういうのは俺の仕事だ」
「そーそー、マティアス君は選手なんやし、お偉いさんと交渉とかはデスティに丸投げしとき」
「あ……そう、ですね」
しかし、催し物の調整はデスティしか出来ないという理由で、マティアスの申し出は断られた。
マティアスもそういった交渉の経験はないので、大人しく食い下がる。
「それじゃオメーら、戦勝記念日を楽しみに待ってろよ」
「みんなまたなー」
「はい、また。気を付けて帰ってください」
「サヨナラ!」
「ばいばーい」
「またネー」
そう言って、デスティはジュンコと共に帰っていった。
マティアス達もまた思い思いの挨拶を返して、その姿を見送ったのであった。
――こうして、一時はどうなるかと思われた大規模サバイブ・マッチ開催不可の問題は解決したかのように見えた。
しかし、事態は一見丸く収まっているようで実はそんなにおさまってはいなかった、なぜなら……。
(確かに僕は振興委員じゃないけど……それでも、できることを探してみよう!)
(マティアスと晴れ舞台で戦うノハ……ワタシデス!)
(もう最悪乱入してでも……アタシもサブマッチに出る!)
マティアス、ガーネット、ジュンコは、想像以上にやる気のある奴らだったからである。




