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40話:たった一つの冴えた果し合い

これより新章が始まります!

第一部の最終章です、この物語の反響次第ではございますが、この章が終わりましたら一旦この小説は完結とさせていただきます。(続編を望まれる声など多数ある場合や、続編の意欲が高まりましたら続きを書くつもりです)


「ど、どうしてですか……!? サブマッチに参加させないって……!?」

「サブマッチという競技をするべきではないからだ。間引きを生業とする人間は」


 動揺するマティアスに対し、フラットは断固とした口調でそう言い切る。

 

「あらかじめ言っておくが、私はサブマッチを嫌悪しているわけではないよ。今日、観戦して見事だと思った。事故や人的被害を一切出さずに、力を思う存分振るえる。選手も観客も楽しめる安全な競技だ」

「それなら、なおさらどうして……?」

「だからこそできない。なぜなら間引きを担う人間は、力を振るうことを『楽しい』を思ってはならないからだ」

「楽しいと、思ってはいけない……?」


 マティアスは信じられない、といった様子でフラットを見る。

 祖父は、フラットとはいつでも倒した魔物の数を競い、笑い合った仲だと言っていた。

 目の前にいるフラットが、祖父から聞き知っている彼と同一人物なら、そんなことを言うはずはない。


「サブマッチは選手観客共に確固たる安全が保証されている。だが間引きの使命はそうではない。ひしめく魔物がこちらを狙い、討ち漏らさぬよう全滅必殺を心掛け、同士討ちをしないよう常に意識しながら戦う必要がある」


「このように不安定な環境で戦う『間引き』は、特に己の力に恐怖し、警戒しなければならない。自らの手で仲間を殺めてしまわないようにだ」


「サブマッチを通して、間引きをする人間が力を振るうことを『楽しい』と思うようになれば……それは力に対する警戒を緩め、致命的な事故に繋がると私は考えている」


「……かつて君の祖父が、私の過ちで間引きを引退せざるを得なくなったように、だ」

「!」


 尤もらしい理由を重ねる中、フラットが最後に付け加えた言葉で、マティアスは気づいた。

 この人は、間引きの最中、祖父に大怪我を負わせた当人なのだ。

 そしてその事を、今もずっと引きずっている。


「よって、間引きの人間はサバイブ・マッチに参加させることはできない」


「これは、私だけが決めた事ではない。終結士族の長、複数名と話し合って決めたことだ」


「申し訳ないが、理解してもらいたい。……では」


 フラットは軽く頭を下げると、虚空から箒を取り出して、足早に飛び去っていってしまう。

 有無を言わさないその態度に、マティアス達は説得もできず、ただ立ち尽くすのであった。


====


 魔導学校でのサブマッチも終わって、翌日の放課後。

 マティアス、デスティ、ジュンコ、ガーネットといういつもの面々に、アルマとセネートを交えた6人は千変万化流の道場に集まっていた。

 

「今日ここに集まったのは他でもねー。今後について話し合うためだ。まずは終結士族への説得の件だが……」


 円陣を組んで座る全員は、その言葉を皮切りにセネートへと視線を集中させた。

 セネートは周囲の視線に冷や汗をダラダラと流していると。


「ごめんなさいデスティちゃん! あてくし、説得に失敗しちゃったワっ!」


 開口一番、道場の冷たい床に頭を擦り付け、謝罪を敢行する。

 今回、セネートは終結士族にサブマッチを勧めて欲しいとデスティから頼まれていたのだが、ものの見事に失敗してしまったのであった。


「セネっちもこのとーりベストは尽くしたんで、どうか許して欲しいといいますかー……」

「誓って手は抜いてないワ! 終結士族の族長たちに、ひとりひとり懇切丁寧にサブマッチのことオススメしたの! でも皆ウケが悪くって、それでもイチバン話の分かりそうなフラットちゃんにサブマッチを見てから判断してもらえるよう、頼み込んだのヨ……!」

「わーってる。責めるために呼んだわけじゃねー。族長達はどんな反応してた? サバイブ・マッチは安全な競技だってのは伝えたんだな?」


 弁明するセネートに、フォローをするアルマ。

 謝罪されたデスティは、特にセネートを責める事はしなかった。

 それよりも、終結士族のサブマッチに対するリアクションをデスティは知りたがっていた。

 特に、族長達が問題視している点を改善すれば、不参加の考えを改めるかもしれない、そういう理由からである。


「モチのロンよ! でもでも、フラットちゃんをはじめ、アイリーンちゃんもルドウスちゃんも、みんな一貫して『力を楽しむ行為は許可できない』の一点張り。フラットちゃん以外はサブマッチそのものに否定的だったワ……」

「全員同じ理由? 妙だな」


 どうやらセネートは、終結士族を代表する3人の族長に話をしたものの、その全員が、フラットと同じ理由で不参加を決めたらしい。

 不自然さにデスティは作為を感じるが、セネートが「妙な話でもないワ」と否定する。


「あまり大きな声には言えないケド。3人はそれぞれ若い頃に、間引き中の事故で同僚を殺しかけた事があるらしいの……」

「全員、前科があるってわけか」

「罪には問われてないらしいケド、そんな感じヨ。みんな、自分のせいだって負い目に感じてたワ。長く間引きをしてると、誰しも一度はそういうミスをするものなのネ……」


 セネートの言葉に、その場が重苦しい雰囲気に包まれる。

 間引きがサブマッチに参加しないのは、2度と事故を起こさないよう戒めるためだった。

 であれば、間引きをサブマッチに参加させるのは非常に難しいだろう、と、その場のほぼ全員が思ってしまったのだ。


「セッカク魔導学校のサブマッチは上手くいったノニ、一体どーすればいいんデスカ……」

「なんちゅー偶然や。フラットがマティアスくんのお爺さんを殺しかけた張本人って聞いた時はびっくりしたけど、まさか族長全員が似たような事故を起こしとるなんて……」


「………………?」


 一連の会話と、ジュンコの言葉を聞いたマティアスは、内心、首を傾げていた。


 確かに祖父は、間引きの最中に事故にあった。

 魔物だと間違えられて仲間に攻撃されて、死にかけたと言っていた。

 犯人がフラットであるというのも、フラット自身の表情からして、嘘ではないのだろう。


 しかし、祖父はマティアスに犯人の名前を教えはしなかったが……。



「これではっきりした。間引きを参加させるのは無理だ。大規模サブマッチは開催できねー」

「「「「「!?」」」」」


 そんなマティアスの思案は、デスティのこの言葉によって突然に中断された。

 デスティ以外の全員が、驚きで思わず固まる。

 無理もない、あの、サブマッチをする為ならば如何なる手段も問わないデスティが、できないと言い切ったのだから。


「う、ウチの聞き違いか……!? いま、デスティがサブマッチをせん言うた!? まだ何もしてないのに!?」 

「何もしてねーとは失敬だな。色々手を尽くして、考えた結果だ」

「いやいや! いつもと全然ちゃうやん!? 裏で脅したりせんの!? マティアスくんに頼んでフリントにお爺さん説得するよう命令するとか!」

「あのジュンコさん。僕はあくまで指導をしただけで、フリントさんを洗脳したわけじゃないんですけど……?」

「脅しのネタがあったら出来なくもねーけどな、あいつらは潔癖だ。それと、フリントに爺さんの説得ができても他の二人はできねーだろ」


 驚きのあまり滅茶苦茶なことを言いだすジュンコに、マティアスは顔を引きつらせ、デスティは大まじめに答える。


「連中の主張も間違ってない以上、間引きの参加は絶望的だ。ヤツら抜きでサブマッチを開催しても、客が集まらねー」

「ソンナ……ワタシ、大規模サブマッチ、楽しみにしてたノニ……。ナンとかなりまセンカ?」

「うーん、代わりになる人が居たら……。有名で、強い、間引き以外で……そんな人達いるのかなぁ?」

「ないない。強いだけならここに居るみんなそうだけど、知名度まで含めると流石に――あ、セネっちは別だっけ?」

「確かにあてくしはそうだケド、アルマちゃんとコンビじゃなきゃまともに戦えないワ。それだと武闘学校でサブマッチした時と変わらないワヨ」

「うーん、それもそっかー」


 どうにかして大規模サブマッチを開催できないかと、マティアスやガーネット、アルマ達も頭を回してみたものの、いい案が思い浮かぶことはない。

 ダルコ州では、魔物狩りのプロである間引きより、強くて有名な人間はいないという事実を再確認するばかりで、まさに八方塞がりだった。


「そう落ち込むな、万策尽きたわけじゃねー」


 しかし、そんな雰囲気を一蹴するかの如く、デスティはにやりと笑みを見せる。

 我に秘策あり、そう言わんばかりの表情にマティアスは思わず身を乗り出した。


「何か、方法があるんですか?」

「ああ、国外の超大物サブマッチャーをダルコ州へ招致する」


 国内がダメなら国外を。

 まさに、発想を逆転させた一手であった。


「サブマッチャ―も観客も、外から集めればいい。大物を目当てに観光客がわんさかやって来れば、ダルコ州もサブマッチを無視できねえ、否が応でも広まるはずだ」


「な、なるほど、それなら……!」

「間引きの代わりに、国外から大物を使うわけやな!」

「オオッ、光明コウミョーというヤツが見えマシタ!」

「してデスティさん、その超大物とは?」

「誰々? 誰を呼ぶのデスティちゃん?」


 国外から来る超大物にマティアス達は興味津々と言った様子で、デスティを質問攻めにする。

 するとデスティは、ぐっ、と親指を立てて、それを自分に向けた。


「俺だ」

「「「「「えっ」」」」」」

「くくくっ……。それともデスティナ・ズゥ・ハークは超大物じゃねーってか?」


 一同は目を点にして、愉快そうに笑うデスティを見た。


「あ、そうか。デスティさんなら、確かに……!」


 マティアスは気づいた。

 目の前にいるのは、世界を裏から支配していると噂される、死霊魔法使いの総本山ズゥ・ハーク家の現当主。

 実力は不明だが、有名なのは間違いなく。

 外からダルコ州にやってきているので、海外からの超大物といえば全くその通りであった。


「次のサブマッチ、この『最高位死霊魔法使い(アークネクロマンサー)』デスティナ・ズゥ・ハークは、ダルコ最強のサブマッチャー『千変万化流シェイプシフター』マティアスに勝負を挑むぜ」

「!」


 そしてデスティは、ビシリとマティアスに指を突きつけ、挑戦状を叩きつけたのである。


「僕が、デスティさんと……!」


 このダルコ州にサバイブ・マッチを広めるための一戦、その対戦相手に指名されたマティアスは、驚愕と歓喜に震えるのであった。


 千変万化流マティアスと、死霊魔法使いデスティ。2人が対決したこのサブマッチは、後々こう呼ばれることとなる。


 『第一回、世界最強決定戦』と。

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