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39話:指導完了、しかし訪れる新たな一難

これにて「VS.脅威の魔導兵器編 」は終了です!

次回から新章、および第一部最終章が開幕します!

 エバグリ平原の、観客席から離れた場所。

 問題児以外の観客とデスティ達は、マティアスの指導が終わる間、そこで待機していた。


「マティアスさん、大丈夫でしょうか……?」


 ベルは心配そうな様子で、向こうに展開された異界を見ていた。

 まるで大穴が開いたような見た目の、真っ黒で巨大な球体、あの中にマティアスがいる。

 手筈通りならば、今頃あの中では問題児たちに礼節を叩き込んでいるはずだ。


「まあ大丈夫だろ、異界の中と外じゃ時間の流れが違うからな。外の数分は中じゃ数時間だ。マティアスも思う存分指導できる」

「いや、時間の問題じゃなくて。マティアスの兄ちゃんがホントに先輩達を更生させられるか、不安なんだよ。人数も多いし、抵抗されたら無事じゃすまないかもだし」


 しかし、ベルもアレサも不安だった。

 マティアスの実力については、今しがたサブマッチで目の当たりにしたとはいえ、相手は魔導学校の問題児たち数十人という集団である。

 指導を拒否するだけにはとどまらず、激しい抵抗に遭うかもしれない、そう簡単に上手くいくのだろうか。


「そこは信頼するしかねーな。ま、生徒共が束になってもマティアスには敵わねーから、そこは安心していい」

「ウーン、数分が数時間……ワタシはマティアスのお腹が心配デス」

「ところがどっこい、異界にいるだけで栄養が供給されるから飲食の心配も要らねーんだな、これが」

「オウ、ソーでしたか、デスティナさん詳しいデスネ」

「そりゃ死霊魔法使い(ネクロマンサー)だからな」

「いやネクロマンサーは関係ないやろ」


 マティアスが指導を終えるまで暇だからか、デスティは心配する一同にあれこれと説明すると。


「兎に角だ、サブマッチも終わった。無関係の観客にも事情を説明した。俺たちはここで結果を待ってりゃいい」

「……そうですね」

「だよなー、結局まつしかねーかー……」


 今は待つしかないと結論付けるのであった。

 ベルとアレサもそうするしかないと理解していたので、大人しく待つことにした。


「アッ、ソー言えばサブマッチ! チャンと終わらせてないデスケド、マティアスの勝ちデスヨネ? 大規模サブマッチ、ワタシ出れマスヨネ?」


 ガーネットは思い出したように、先のサブマッチの勝敗についてデスティに質問していた。


 そう、後日行われる大規模サブマッチのチームメンバーは、このサブマッチの勝者によって左右される。

 サブマッチの総括を飛ばしてしまったが、結果はマティアスの勝利と言って差し支えなく、ならば、チームメンバー全員をミカボシにしようとしていたフリントの野望は、潰えるはずである。


「当然、勝ったのはマティアスだ。間引きとのサブマッチに出場すんのも、各校の代表者で決まりだ」

「これで、フリントの全員ミカボシ計画は御破算ってわけやな」

「フゥー!!」

「ま、ミカボシが魔導学校最強なのは変わんねーから、チームに一体は入ってもらうつもりだがな」


 マティアスの勝利が決定し、大規模サブマッチへの参加が決定したガーネットは、大いに喜ぶのであった。

 これで、魔導学校にまつわる諸々の問題は概ね解決し、あとはマティアスの成果を待つだけだと、誰もが思っていた。


「――少しいいかな? デスティナ・ズゥ・ハーク君」

「? オメーは……」


 一人の老人が、デスティに声をかけるまでは。


====


 ――それから数分後。

 パアン、と黒い球体は弾けるように消滅し、ついに異界の魔法が解かれた。

 現実世界へと帰還した生徒達は、教師達とマティアスの前にズラリと整列している。


 彼らの姿はボロボロでドロドロだった。

 皆一様に口を硬く結んだ表情をしていて、サブマッチを観戦していた時の面影は何処にもない。

 しかし、その目には強い意志の光が宿っていた。


「全員傾聴!!!」


 前に立ったマティアスがそう叫ぶと、生徒達はザッ、と姿勢を改めて正し、聞き入る体勢を取る。


「――諸君等は全員イヌから始まり、ゲロを吐き、鼻水を垂れ流し、泣き叫び、ションベンを撒き散らし合った末に一致団結し、晴れてカスを卒業した!! 今の諸君等は人を生かし魔物を殺す、礼節と力を兼ね備えた完璧な戦士だ!!!」

「「「押忍ッ!!!」」」

「この鍛錬を通して理解しただろう! 諸君らの力は、偉大な先人たちが後世に残そうと苦心を重ねた賜物である! 決して私怨で振るうものではないことを、今一度肝に銘じておけ!!!

「「「押忍ッ!!!」」」

「よしッ! ここまでよく着いて来れたっ!! ただいまをもって、千変万化流の礼儀指導を終了する!! 全員解散ッ!!!」

「「「押忍ッ!!! 師範、ありがとうございましたァッ!!!」」」


 一糸乱れぬ『押忍』の声が、エバグリ平原の空気を震わせる。

 どこか軍隊じみたやり取りを経て、マティアスは指導を締めくくるのであった。


「「「「「………………」」」」」


 その締めくくりだけをデスティ達はきっちり目撃して、無言のまま固まる。

 そして、みんな同じ事を思っていた。

 ――どんな礼儀指導だよ。

 

「あっ、みなさーん! 生徒の皆さんに、ちゃんと礼儀を教えられましたよー!」

「いやさっきのアレはなんやったん!?!? 今のマティアス君とさっきのマティアス君で温度差が酷すぎるんやけど!? 風邪ひくわ!!?」


 とてとてと朗らかに駆け寄るマティアスに、ジュンコは思いっきりツッコミを入れた。

 先ほどの姿は白昼夢かと思うほどの豹変ぶりであった、否、先ほどまで豹変していたというべきか。


「マティアス、口調がチョット変でしたケド……中で何があったんデスカ?」

「うん、普段通りだとみんな言う事を聞いてくれそうになかったから、爺ちゃんの真似をして喋ってたんだ。お陰で、みんなに礼節の何たるかをバッチリ理解してもらったよ」

「ナルホド、おじいさんの真似」

「アレは礼節を身につけたと言ってええもんなんかな……? いや、まあ確かに一致団結はしてるみたいやけど、なんか……一度人格をぶっ壊されてない?」


 ジュンコは生徒達の方を見る。そこには「生き残った! 俺達生き残れたよぉぉ!!」と滂沱の涙を流し、お互いに抱き合って無事を喜ぶ魔道科と魔法科の生徒や、安らかな表情で仰向けに倒れている生徒、そして直立不動の姿勢で「人間として生まれてこれて、本当によかった……!」と泣きながら噛み締めるように言うフリントなどがいた。


 なんというか、とにかく悲惨というか、苦労したんだろうなぁという感じだった。


「せ、先輩達が、泣きながら抱き合ってる……!?」

「違う学科同士なのに……マティアスの兄ちゃん何したんだ……!?」

「あら、ベルさんにアレサさん。わざわざ残って見届けてくれてたのね、ご苦労様」

「あ、校長先生」

「あの……中で何があったんですか?」

「……ちょっと口では説明しづらい事よ。でも、マティアスちゃんはとても良くやってくれたわ、これでもう、魔法科と魔道科が争う事もなくなるはずよ」

「「はぁ……」」

「ああそれと、しばらくは今日の事をあの子達には聞かないであげてね。多分、思い出がフラッシュバックして『ワン』としか喋れなくなると思うわ」

「「!?」」


 おなじく異界から脱出していたミイサにベルとアレサは事情を聞いてみたが、彼女はマティアスの指導風景を何と言って良いものか迷った挙句、詳細は省いて爆弾発言だけを残すのだった。


「ど、どうするベル? なんか、壮絶な事が起きたみたいだけど、マティアスの兄ちゃんに聞いてみる?」

「う、うん……」


 このため、本当に何をやったんだ、と二人は気になって仕方がなかったのだが……。


「あの、マティアスさん」

「マティアスの兄ちゃん」

「ベルさんにアレサさん、どうしたの?」

「「えっと…………………ありがとうございましたっ!」」

「! うん、どういたしまして!」

 

 相対した瞬間、先ほどの、ものすごく厳しそうなマティアスを思い出した二人は、聞くのがちょっぴり怖くなってしまい、結局感謝の言葉だけを伝えることに。

 そんな二人の内心はつゆ知らず、マティアスは千変万化流が人の役に立った事を純粋に喜ぶのであった。


「あっ、そうだデスティさん、サブマッチの事なんですけど、勝負は僕の勝ちですよね?」


 これで魔導学校の問題は丸くおさまった、そう思ったマティアスは、デスティに中断してしまったサブマッチの結果を聞いた。

 それは、フリントの計画が頓挫したことと、大規模サブマッチの出場者のことを、確認するための質問だったのだが。


「…………その話だがな」

「?」


 質問を受けたデスティは、苦々しい表情をしながら言い淀んでいた。

 珍しい反応に、マティアスは首を傾げる。

 思えば皆、最初こそ生徒達の代わりように驚いていたが、それが落ち着いた今となっては、何故だか不安気な様子だった。


「あの、なにかあったんですか?」

「それどころじゃなくなっちまった」

「それって、一体」


 途轍もない嫌な予感が、マティアスを襲った。

 サブマッチの開催が根本からできなくなる、そんなトラブルが、自分のいない間に起きたのだろうか。


「そのことについては、私の方から説明しよう」


 デスティが口を開く前に、知らない声が後ろからかけられて、マティアスは振り向いた。


 そこには老人がいた。

 

 フリントと面影が似ている顔、そしてマティアスにとっては見覚えのある顔だった。

 そう、確か祖父の葬式で、一度顔を合わせている。


「貴方は……」

「やはり、君か…………久しぶりだね、マティアス君。フラット・コールだ」


 名前を聞くことで、マティアスは思い出した。

 マティアスはこの老人を知っている、他ならぬ祖父から、度々聞かされていたことに。 


(この人がフラットさん。じいちゃんの親友の)


 かつて祖父が若いころ、魔物との戦争を共に戦い抜き、戦後も間引きで一緒に働いていたという同年代の親友。

 その名前がフラット、目の前にいる老人であった。


「私は終結士族の代表をやっていてね、セネート様の勧めでサブマッチを見に来ていた。今回は孫のフリントが随分と世話をかけてしまったようで、すまなかった」

「あっ、えっ孫? フリントさんのお爺さん? ……ええっと、その……」


 マティアスは、フラット老人が、フリントの祖父だと聞いて大いに動揺した。

 つい先ほどフリントに一切の容赦無く指導をしてしまったせいなのだが、フラットは「気にしなくていい」とフォローする。


「君は正しい事をした。フリントは家庭でストレスを溜めすぎててね、それが態度という形で、普段から出てしまっていた。私も立場のせいで上手く改善できなかった。……これを機に、少しでも良くなってくれるといいんだが」

「はぁ」


 ひとまず、フリントを指導したことについて怒っているわけではなさそうだったので、マティアスは安心する。


「……話がそれてしまったね。私は、サバイブ・マッチなる競技の観察と同時に、大規模サブマッチの参加について話をするために来ていた。デスティナ君たちに伝えた言葉を、もう一度、君にも伝えよう」


 しかし、その安心も長くは続かなかった。


「終結士族代表として、サブマッチ振興委員会に返答する。終結士族および、間引きを行うすべての人間はサバイブ・マッチへの参加を認めない。よって、君たちが計画していた大規模サブマッチへの参加も断らせてもらう」

「――えっ」


 大規模サブマッチ、その目玉であり前提でもある間引きの参加を、真正面から断られてしまったのだから。

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