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34話:無尽 魔獣 デスコアアタック

「無尽魔獣デスコアアタック! えらい殺伐とした名前やな! サブマッチは安心安全とちゃうんか!?」

「くっくくく、もちろん安心安全だ! だが、この種目は『間引きに最も近い』サブマッチでもある! ルールを説明するぞ!」


「まず、サブマッチの開始から10分の間、観客席周辺を除いたこの一帯に、魔物型ターゲットの軍勢を召喚し続ける!」


 デスティはそう言いながら、観客席の外へ向かって右手を突き出す。

 すると、視界に広がるエバグリ平原、その荒涼とした光景の全てが暗緑色の閃光に包まれて。


「こ……これはっ、えっらい数出したなぁ……!?」


 閃光が収まった直後の光景に、デスティを除いたすべての人間が息を呑む。


 魔物、魔物魔物魔物魔物魔物…………。

 荒涼とした茶色い地平は、数えるのも馬鹿らしい数の魔物で染め上げられていた。

 それは『群れ』や『集団』などという生ぬるいものではない、身動きに支障が出るレベルでミチミチに詰め込まれた、混沌そのもの。


「嘘だろ、こ、こんな数、どうやって……!?」「全部あの人が出したの!?」「いやいや1人ではあり得ねーって!」「どんな出力と魔力だよ!?」


 百獣狩りサブマッチが霞むレベルの大群を目の当たりにして、魔法自慢であるはずの魔法学校の生徒達は大いに動揺するのだった。


「さすが、ズゥ・ハーク家の現当主。滅ぼすのと生み出すとで方向性は真逆だけど、終結士族にも劣らない死霊魔法の出力ね。それにしてもこの数、大戦時代を思い出すわ……」


 ただ1人ミイサだけは、どこか懐かしい様子で目の前の光景を眺めている。

 かつて人類は、地上を埋め尽くす魔物の軍勢を、一掃するほどの強大な力を以って、世界に平和をもたらした。

 デスティの力はその真逆だ。しかし地上を魔物で埋め尽くす魔法もまた、同じくらい強大な力だろう。


「くくくっ、数に驚いてる場合じゃねーぞ」


 そんな観客達をみて、デスティは愉快そうに笑いながら、さらに言葉を続ける。



「選手は倒しても倒しても無限に湧くコイツらを、時間内にどれだけ倒せるか、2人同時(・・・・)に競ってもらう!」


 明かされたルールに、今度こそ観客達は驚きで言葉を失うしかなかった。


「……え、2人同時って言った……!?」「選手同士が巻き込まれて死んじゃうんじゃ……!?」


 2人、同時である。

 これからマティアスとミカボシは、同じく結界の外で、100をゆうに超える魔物の大群を、2人で一斉に倒し合う。


 この軍勢を相手にするならば、マティアスとミカボシは当然、勝つために力を振るうだろう。

 そうして振るわれる力は、かつての大戦で使われた力である。


 即ち、間違いなくお互いを巻き込み、巻き込まれれば命の保障が出来ない技の応酬を始めると、デスティは言っているのだ。


「ちょいまちデスティ、今ふたり同時ってゆうたか!?」

「そうだ」

「いやいやそれは危険すぎや! マティアス選手もミカボシ選手も、お互いの攻撃に巻き込まれて死んでまうで!?」


 ルールを予め知らされてなかったのか、或いはわざとなのか、ジュンコは動揺しながらも、デスティの真意を問いただした。


「安心しな、そうはならねー。何故ならこのサブマッチには、安全円滑、なおかつスリリングに楽しむための、三つの特殊ルールがある!」


 しかしそこは、流石のデスティである。

 無策でこのようなさサブマッチを開催するはずもなく、きっちりと対策を取っていると名言する。


「まず一つ! このサブマッチ中、ミカボシは『治療魔法を複合した魔法攻撃のみ』を許可している!」

「治癒魔法を複合?」

「例えば、炎に治癒魔法を組み合わせると、熱くもない、傷を癒しながら燃える炎になる。こういう系統の魔法ならマティアスに攻撃が当たっても傷一つつかねえし、治癒魔法は死霊魔法と反発し合う特性上、ターゲットだけを破壊できるっつー寸法だ!」

「あー……なんか学校で習うた気がする現象や。それなら安心やな」


「そして二つ! マティアスは遠慮なく技をぶっ放していい! なぜならミカボシは魔道具だ! 万が一壊れても直せると、そこのフリントからお墨付きをもらってる!」

「そっちは身も蓋もないんやな!? それでええんかミカボシ達は!?」

「別に構わないよ。まあ、ミカボシが壊されるとは思わないけどね」


「最後の三つ! 無制限にぶっ放していいマティアスと、制限されたミカボシの格差を埋め合わせるためのルールだ!」


 デスティはそういうと、マティアスとミカボシをそれぞれ指さした。

 それと同時に、マティアスの胸の中心と、ミカボシのボディに、一瞬だけ暗緑色の閃光が煌めいて。


「これは……なんだろう? 光ってる?」

「……僕が提案した案には無いルールだね。ミカボシ、分析」

《――死霊魔法と目印めじるし魔法の複合創造物です。質量は無に等しく、体表に吸着し、光を発します》


 魔法の炸裂光の後には、マティアスには緑色に、ミカボシには赤色に光る、こぶし大程の大きさの丸い物体が引っ付いているのだった。

 ミカボシはそれを瞬時に分析し、引っ付いて光る、ただそれだけの物体だと結論づける。


「今、マティアスとミカボシの身体に、俺が死霊魔法で作った『デス・マーカー』を引っ付けた! コイツは光るだけで何の効果もねーが、些細な衝撃、そして治療魔法に反応して砕け散る! そしてサブマッチ中、コイツを砕かれた選手はその時点で敗北だ!」

「なるほどなぁ。マーカーを死守しつつ、相手より多くのターゲットを倒すか、先に相手のマーカーを壊すかを競う、っちゅーわけやな!」

「要約すっとその通りだ! そのほか、観客席にわざと攻撃をしたり、結界を破ったりするのは禁止事項だ。まあこれはいつものルールだ」


 つまるところ、マーカーを命の代わりとすることで、選手達が同時に競技を行う故のスリルだけはきっちり残しつつ、命のやり取りは発生しない。

 スリルと安全を考慮した、よく考えられたルールであった。




(このマーカーを壊されたら負け……)


 マティアスは胸に引っ付いたマーカーを手に取って、感触や性質を確かめる。


(不思議だ。触る感触は無いけど、取ろうとしたら普通に手に取れるんだ……)


 試しにマーカーを右手に持ったまま、右手を魔法で消してみると、マーカーは地面に落ちる事なく右手があった位置に静止している。

 そのまま、いつものように消した部位を変身させるべく動かしてみる、するとマーカーもその動きに連動するように虚空を移動した。


(……これ、身体を消しても、消した部分に引っ付いたままだ。どういう仕組みなんだろう?)


 マティアスは内心、首を傾げた。

 消した身体の部位は、見えなくなっていても確かに存在している。

 だからといって触ることは出来ないし、通常であれば物を持ったまま手だけを消すと、持っていたものは重力に従って落下するはずなのだが。


(それと、マーカーは魔法で消すことは出来ないみたいだ……いやまあ消すと壊せなくなるから不公平なんだけど。でもこのマーカー、結構な弱点になっちゃうな)


 マティアスは身体を消すことで、身に迫る攻撃をすり抜けて回避することができる。

 しかしマーカーを消す事が出来ないなら、この方法は使えないとマティアスは判断した。

 攻撃に合わせて身体を消してもマーカーだけは取り残されて、あっさりと破壊されてしまうだろう。


「残念だったね。せっかく身体を消せるのに、目立つ弱点をつけられるなんてさ」

「フリントさん」

「でも安心するといいよ。真っ先にマーカーを狙って終わらせるなんてせこい真似はしない、ミカボシはターゲットを殲滅させるだけで充分だからね」


 マティアスがマーカーの仕様を確認していると、フリントが話しかけてきた。

 言外に「そんな事をせずとも、君はミカボシには敵わない」と挑発しているも同然だった。


「……フリントさん、貴方は」

「ん?」


 無論、言葉の意図に気づかないマティアスではない。

 しかし、不思議と怒りは湧いてこなかった。

 むしろ。


「僕に勝ちたいなら、素直にそう言った方がいいと思います」


 ガーネットやアルマのように「自分が勝つ」と宣言するのではなく。

 「お前では勝てない」と、相手を下に見る形でしか勝ちたい欲求を伝えないフリントに対し、疑問と僅かな憐憫を覚えるだけだった。


 マティアスの言葉を受けたフリントだが、その表情も、声音も、特に変わらない。

 

「……これはご忠告、痛みいるよ」


 ただ、全くそうは思っていなさそうな、軽薄な笑みとともに、ミカボシの所へ戻るのであった。



「待たせたな観衆ども!」


 サブマッチの開始を告げるため、デスティの声が響き渡る。


 マティアスは開始と同時に変身するために、既に成る姿を想像し。

 フリントは介添人セコンドをするべく、ミカボシの後ろに小さな結界を作ってもらい、その中で試合を見守る。

 そしてミカボシは、直立で浮遊したまま、背後のマスターの指令をただ待つのであった。

 

「これより、無尽魔獣デスコアアタック――――開始だっ!!!」



 そうして、サバイブ・マッチが開幕する。


「千変万化流」 


 マティアスは想像する。

 地平まで続く魔物の大軍勢を、屠る姿を。


「はぁ、少しは挑発に乗ってこっちを狙ってくれたら楽だったんだけどね、まあいいか。ミカボシ――」


 マティアスの全身が消える。

 消え失せた身体が、音を立てることなく形を変える。

 何千何万回と繰り返し、鍛錬を重ねた変身までの移行に、無駄は無く、隙は無く、常に最速であり、通常の変身魔法を用いた場合のソレと、ほぼ同速。


「――全部倒せ」

《了解しました。『ほうき星の魔法使いシューティングスターモード』起動》


 何もない虚空に、巨大な赤竜が頭部から顕現していく。

 その最中さなか、マティアスは気づいた。




《アマツミカボシ、全対象の殲滅を開始します》



 目の前が。

 魔物の地平線が。

 既に(・・)火の海と(・・・・)化している(・・・・・)


 ごうごうと、鮮緑色の炎が、ターゲットを火種に燃え上がっている。

 治癒魔法を混合した、炎系統の魔法だ。

 マティアスの隣にいるはずのミカボシは、もうそこには居なかった、とっくのとうに魔物の群れを飛び越し、はるか先へと飛び去っている。


(はや、過ぎる……っ! 変身が終わる前にもう……!)


 致命的な出遅れに、マティアスは総毛立つ。

 ミカボシのやった事は単純だ。

 飛翔し、加速する、そして焼夷弾のごとく炎魔法を大量にばら撒きながら、ターゲット達の上空を突っ切る。

 マティアスが変身を終える前に、炎がターゲットへと着弾していた、それだけのこと。


「はははははっ。いくら君が最速で魔法が使えても変身しないと攻撃が出来ないんじゃ、ミカボシにスタートダッシュで勝てるわけがない」


 フリントは出遅れたマティアスを嘲笑う。

 マティアスにはその言葉を聞く余裕は全くなく、事実耳に入っていないが、それでもフリント言葉にせずにはいられない。

 終結士族を終わらせるために作り上げた、最高傑作の性能を。


「凄いでしょ。これがミカボシの真の実力さ」


「人類は魔法によって、天災に匹敵する殺傷能力を手に入れた。でも、魔法には大きな弱点がある。威力に比例して伸びる詠唱は、時間がかかる。攻撃する前に潰されたらソレでおしまい」


「そこでコール家の始祖となる『ほうき星の魔法使い』は、弱点を克服するために箒による飛行術を極めた。飛んで逃げてる間に魔法を唱えるんだ」


「僕の作ったミカボシは、その戦術を完璧に再現する。空を飛びながら地上を魔法で爆撃し続ける、最強の魔道兵器なんだよ」


 フリントが語っている間に、炎が収まる。

 すると、炎が消えた端から暗緑色の魔力光が炸裂し、生み出されたターゲットが再び平原を埋め尽くしていく。


(先手を取られた! 早く取り返さないと――)


 今の一瞬でミカボシがどれだけターゲットを倒したかは不明だが、すぐさまやり返さなければ、永久に差をつけられたまま負ける。


 そう考えたマティアスは、急いで残りの身体も顕現させようとして。


「ああそうだ、速さもそうだけど。攻撃の威力だってミカボシは間引きと遜色ない」


「つまり何が言いたいかって言うと」


 ぞくり、とマティアスの背筋に悪寒が走る。

 死ぬ(・・)

 直感が告げている。直ぐに逃げろと。


(っ!? まずい)

「ミカボシの攻撃は、ちゃんと避けた方が良いよ」


 ――きぃん、と空を引き裂く音がした、その瞬間。


発射ファイア


 魔物の地平線は、再び鮮緑色の爆発へと飲まれた。

 マティアスがいた場所も含めて。


「……ま、もう遅いか」


 引き返してきたミカボシの爆撃を、結界越しに受けながら、フリントは呆れたようにつぶやいた。

 隣にいたはずのマティアスの姿は、鮮緑色の業火に遮られて、見えなくなってしまった。

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