33話:交流サバイブ・マッチ当日
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今回は後書きにちょっとおまけ話があります。
そうして、ダルコ総合学園とダルコ魔導学校の、交流サバイブ・マッチの当日が訪れた。
フリントが会場に選んだエバグリ平原は、魔導学校が唯一、ダルコ州の外に所有している、広大な土地である。
魔法の実験場も兼ねているここは、数多の魔法実験を重ねた結果、草木はろくに生えていない荒野と化した。
馬車を使って向かうと十数時間もかかるという、遠い上に何もない土地だが、ダルコ州から離れた位置にあるため、どれほど危険な実験を行おうとも、他国や人里に被害が及ぶことはないという利点があった。
それ故に、これから行われるサブマッチにおいても、マティアスやミカボシが全力を出しても問題は起きないだろう。
「くたばれフリントー!!」「ミカボシなんかぶっ壊しちまえーっ!!!」「あーやだやだ、自分達が敵わないからって他校の生徒にまで頼り出すとか」「みっともないね魔法科の連中は」「ミカボシにおんぶに抱っこの魔道科に言われたかねーわ!」「ミカボシ以外雑魚の集まりの癖に!」「「「「なんだとう!!! やんのかこらぁ!!!」」」」
そんな荒野の片隅には、木製の階段席が設けられていて、座っている観客がフリントへの野次と、野次に対する野次を口々に言い合っていた。
主に、魔法科と魔道科の中でもお互いを敵視し合っている生徒達である。
彼らは前日の休日夜から、はるばる馬車でこの会場へとやってきていた。
「こんなとこまで来て、よう喧嘩するわ……」
「くっくく。宣伝の効果はバッチリだな」
観客席の一番上に設けられた解説席から、喧騒を見下ろしていたジュンコはドン引きし、デスティは目論見通りと言った風に笑っている。
サブマッチで多少の諍いはよくあることだが、観客全員がいがみ合う姿はなかなか見られたものではない。
「なあデスティ、いったい何を言うたらこんな喧嘩する連中ばっかり集まるんや」
「そりゃオメー、『変身魔法使いマティアスと魔道具ミカボシ、ダルコ州の頂点に相応しいのはどっちだ!』っつー宣伝ポスター様のお陰だ」
「ああなるほど……。それで魔道科はフリントを、魔法科はいちおう魔法使いのマティアスくんを応援しにきとるっちゅうわけか」
「そういうことだ」
マティアスとミカボシの試合で、なぜ魔法科と魔道科のいがみ合う生徒達が集まったかと言えば、そういう理屈であった。
「総合学園の生徒でも魔法使いは魔法使いだ」「マティアスーっ! 魔法使いの意地をみせてくれーっ!」
実際、魔法科の生徒達の何人かは、マティアスにエールを送っている。
マティアスが学校中にばらまいた宣伝ポスターによって、生徒達はこの戦いを『総合学園の魔法使いマティアスと、魔導学校の魔道具ミカボシ』のサブマッチと認識していた。
魔道科は当然ミカボシを応援するとして、ミカボシに敗れた魔法科は、自分達が倒せなくとも、せめて魔法使いの手で倒してほしいと思いこの場に来ているのだ。
「いくら魔道科が嫌いやからって、休日に何時間もかけてこんな遠いとこまで来て、他校のマティアスくんを応援するとは……筋金入りやな」
「ああ、どっちも筋金入りだ。そのお陰で筋金が入ってない、平和的な連中は軒並み来てねえのもマティアスの狙い通り」
見渡す限りの喧騒の中には、高等部の姿はあれど、中等部の生徒達の姿は見当たらない。
当然である。貴重な休日二日を丸々消費して、何もない荒野のサブマッチ会場にわざわざ足を運び、上級生のいがみ合いの中に混ざってまで観戦したいという下級生など普通はいない。
「言っとくけど! アタシ達は違うからな」
「マティアスさんの応援に来ました」
「ソウ、ワタシ達は言ワバ、マティアスのチアガールズなのデス! ……デスから、ベル、アレサ。このチア服に着替えマショウ?」
「いっ、いやいや、そんな薄くて色んなとこ見える服は恥ずかしいって!」
「わ、私も流石にちょっと抵抗が……」
例外といえば、観客席の背後で騒いでいる、ベル、アレサ、ガーネットくらいだろう。
この3人だけは、純粋にマティアスを応援していると言っていい。
ちなみにガーネットは普段着ではなく、露出度の高いミニスカートなチア服と、両手にポンポンを持ちながら、ベルとアレサに同じ服を着させようと目論んでいる。
ただ、普段は制服のローブばかり着ている2人にとって、チア服は恥ずかしいようだった。
「……ガーネット、解説席の後ろで応援されると声が入る。今回は大人しく観戦だ」
「オゥ、残念デス……」
デスティはガーネットが飛んで跳ねてと応援するつもりだと察したので、釘を刺しておく。
3人が解説席の背後に座らせているのは理由があるので、仕方ないことであった。
「――あらあら残念。せっかく可愛らしい服を来た女の子達が見られると思ったのに」
「もうちょい席が離れてりゃ許可したんだがな」
そこへ、妙齢の女性が残念そうな顔をしながら、デスティの所へやって来る。
紫色ローブに同じ色をした大きなとんがり帽子を被ったその女性は、とても目立っている筈なのに、不自然に存在感が薄い。
ジュンコ達は突然会話に入ってきた彼女に驚くも、デスティだけはごく自然に対応していた。
「ドチラ様デスカ?」
「「こ、校長先生……!?」」
「校長先生!?」(えらい若いなぁ……)
「ダルコ魔導学校、校長のミイサよ。ジュンコさんにガーネットさんは初めましてね」
「あっ、どうもご丁寧に……」
「ハジメマシテ!」
魔導学校の校長を名乗った彼女は、初対面のジュンコ達に挨拶をし、それからデスティの方へ向き直った。
「ここにきたって事は、そっちの準備はできたってところか?」
「ええ。各教師は観客席に潜入済み。あとはサブマッチの結果次第」
「わかった。そろそろ始める」
ミイサはデスティに報告する。
ミイサ達を筆頭とした魔導学校の教師陣達も、マティアスの作戦、その協力者であった。
「……なあデスティ、先生方まで作戦に協力してもろうたん?」
「マティアスの手柄だ。ここ数日は教師達に混ざって手伝いしてたからな」
「うふふっ、そうね。マティアス君ってば可愛らしくて、よくお仕事も手伝ってくれたし、その上みんなの不仲を解決したいって言ってくれたから、お姉さんつい協力したくなっちゃったの」
「くくくっ、そんな殊勝な理由だけじゃねーだろ?」
「あら? ばれちゃった」
いたずらっぽく笑うミイサに、デスティもまた意地悪く笑いながら指摘する。
「そうね……ズゥ・ハーク家当主の死霊魔法に、マティアス君の不思議な変身魔法、こんな珍しい魔法たちを見れる機会は滅多にないもの。私個人としても、協力しない理由がないわ」
「俺のは別にめずらしくねーだろ。葬儀屋の魔法だ」
「ふふふっ、そういうことにしてあげる」
腹の探り合いじみたやりとりを交わし合うミイサとデスティ。
どうやら魔導学校の校長は、一癖も二癖もあるらしい。
「それじゃあ、私は目立たないように隠れて観戦するわね~」
「あ、校長先生の姿が」
「見えるノニ、不思議と注目できまセン……」
「目眩しの魔法ですね」
「……不思議な人やったなあ。でもあんな凄そうな人も味方やったら作戦も上手くいくやろ」
「マティアスが勝ちさえすればな。それだけはアイツ次第だ」
絶好の場所に、強力な助っ人達、マティアスが考えた作戦は確かに、全て順調に進んでいる。
しかしそれらの準備は、あくまでサブマッチの後に必要となるものであって、サブマッチの勝利自体は、マティアスが実力で成し遂げなければならなかった。
「……ちなみにデスティ、マティアスくんを贔屓したりは」
「無い。サブマッチは必ず両選手に対し公正に行う。サブマッチの後にマティアスが何かするのは、自由にやっていいけどな」
「変なとこ真面目やなぁ……」
念の為、ダメ元でジュンコは聞いてみたが、デスティはそこだけは譲らない。
はぁ、とジュンコはため息をつく。
もしミカボシが勝利したら間違いなく作戦は失敗する。それがわかっていても、デスティは公正にサブマッチを運営するだろう。
「それでデスティナくん。このサブマッチ、あなたはどっちが勝つと思っているの?」
「わあ!? 校長先生まだそこおったんか!?」
「勝敗なんざ予想してねーが、お互い行儀良く勝負すりゃミカボシが有利って所だな」
横合いから飛んできたミイサの声にジュンコは驚き、デスティは一切の動揺なく対応する。
どうやら目眩しの魔法をかけつつも、近くにはいたらしかった。
「あらら? それじゃあ、お行儀が良くなかったらどうなるのかしら?」
「さあな、なんせ前代未聞のサブマッチだ。何が起こるか予想がつかねえが――」
デスティは分からないと言いつつも、神妙な面持ちで断言する。
「――最悪ミカボシが死ぬ。それだけは確かだ」
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そして、数分後。
遂に時間となり、サバイブ・マッチの幕が開ける。
「観衆共の皆々様! お待たせしたな! これよりダルコ魔導学校、対、ダルコ総合学園の各校代表者による、交流サバイブ・マッチを開催する! 俺は司会、解説担当のデスティだ!」
「結界と実況担当のジュンコや! 今日はよろしゅうな!」
デスティが開催を告げて、ジュンコが観客席を包む結界を張り巡らす。
いつものサブマッチと違うのは、結界で守られるのは観客席のみであるという点。
選手達は、結界の外――エバグリ平原の全域を使って競い合うこととなる。
「会場の安全確保も完了! 事前に通達してあるが、今回のサブマッチは少々特殊なルールとなっている! 賭博とその下見である演舞は無しで、選手の紹介に移るぞ! ジュンコ!」
「おっし、任せとき!」
マイクを手に取ったジュンコが、1人と1体のサブマッチャーの名を高らかに告げる。
「総合学園のチャンピオンがやってきたッ! 幾千幾万の魔物に変じて、勝利を喰らう大怪物! その名は『千変万化』! マティアス・リーヴィング!!!」
「よろしくお願いしますっ」
片方はマティアス、魔導学校の問題を打ち砕くべく最善を尽くした、総合学園最強のシェイプシフター。
「お次は魔道科フリント・コールが生み出した『脅威の魔導兵器』ッ! その戦歴はなんと全戦全勝! アマツミカボシが、フルスペックでチャンピオンを迎え撃つっ!」
「あー……やっと馬車酔いが醒めてきた」
《大丈夫ですか、マスター?》
「問題ないよ。さて、行こうかミカボシ。僕らの有用性ってやつを存分に見せつけようじゃないか」
《了解しました》
片方はミカボシとフリント、サブマッチで全力を出すべく手練手管を尽くした主人と、魔導学校最強の魔道兵器。
名前を呼ばれた両者は客席の隅にある待機席を立ち、結界を潜り抜けて、観客たちの目の前で相対する。
「フリントさん、ミカボシ、いい勝負をしましょう」
マティアスがフリントに向けて、右手を差し出す。
これから競い合う相手への敬意を込めた握手だったが、フリントはその手を取らなかった。
「握手は遠慮しておくよ。残念だけど君じゃミカボシといい勝負はできない。全機能を解放したミカボシに、食らいつく事すらできずに圧倒されるからさ」
「……そうですか」
挑発するフリントに対し、マティアスは言い返すこともなく、ただ残念そうに右手を下げるのであった。
「選手の紹介も終わったところで、競技を発表する! 今回のサブマッチは新競技だ! その名も――」
デスティが高らかに叫ぶ。
これから始まるのはサバイブ・マッチ。
平和な世界に取り残された力を、生かすための競技だが――今回は違う。
「――自分以外は全て敵! 殺るか殺られるか、狩り尽くすか! 『無尽魔獣・デスコアアタック』!」
怪物と兵器。
人と道具。
この時代で、どちらが力を持つに相応しいかを決定するための、力と力の生き残りをかけた戦いである。
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観客席の隅で待機していたマティアス達が、結界を通り抜けて観客たちの前に姿を現したに、観客たちはますますボルテージを上げていた。
フリントに向かって負けろと罵声を浴びせる声、マティアスに向かって勝てるわけないと罵声を浴びせる声、そして関係なしにお互いをけなし合う声が、一層強まる。
そんな、観客たちの中には……。
「フリントーっ、ミカボシーっ! 魔道科の力を見せつけてやれーっ!」
「――失礼。この席、座っていいかね?」
「へ? いや特に席は決まってねーから、自由にどーぞ……」
「そうか、ありがとう。この場所なら孫の活躍が良く見えそうだ」
1人だけ、この場に似つかわしくない老人が混ざっていた。
ちょこっとおまけ
ジュンコ「そういやデスティ。今回はなして演舞やらんの? いや賭博が無いのは健全でめっちゃええんやけど」
デスティ「……今回のサブマッチは俺が死霊魔法をフルパワーで使うからな、賭博の運営に回してる余裕がねえだけだ」
ミイサ「あら? マティアスくんが『賭博目的の無関係な人が会場に来ないように、デスティさんに無理を言って賭博を止めて貰いました』って言ってたのは聞き間違いだったかしらー?」
ジュンコ「へぇー……? へぇぇぇーーーーっ……???」
デスティ「……………………チッ」




