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32話:とても都合の良い提案

「交流サブマッチの種目をオメーに決めさせて欲しいだと? 却下だ」

「えーっ!?」


 魔導学校の来客室に、フリントの情けない声がこだまする。

 

 交流サブマッチの準備のため来客室をちょくちょく乗っ取っているデスティは、椅子に座り机に頬杖をついて「何言ってんだコイツ」と言った風に、相対しているフリントの提案をすっぱりと断る。


「えーじゃねぇ。一方の選手が種目を決めていいわけねーだろ」

「いやいや、サブマッチに出るのはミカボシであって僕じゃあないわけだし! ワンチャン、いけないかな?」

「いけねーな。そもそも、種目の決定権はオレにある」

「くっ、なんて正論だ。とりつく島もない……!」


 フリントは確実な勝利のため、ミカボシに有利なサブマッチを、交流サブマッチの種目にするべく直談判しにきたのだが、結果はご覧の通り一蹴されてしまった。


「サブマッチは選手に対して公正・・に行う。じゃねーと、興行として成り立たねーからな」


 サブマッチを行う二人の選手のうち片方が種目を決めていいのなら、とうぜん決める側が自分に有利な種目を選ぶだろう、というかフリントはそのつもりで提案しに来たのだ。

 しかしこれでは決められる側が不利になるし、運営であるデスティがこのような公平性に欠く行為を認めるわけにはいかない、これも当然のことである。


(……ここだ)


 だが、フリントも馬鹿ではない。

 馬鹿正直に話したのは、デスティから公正の二文字を引き出して交渉するためだった。


「……公正ね。僕から言わせて貰えば、今のサバイブ・マッチこそ、公正さに欠けた、欠陥だらけの競技だよ」


 フリントの挑発的な言葉に、デスティは「ほう」と不敵に笑う。

 その反応に、フリントは確かな手応えを感じた。

 いける、この切り口からならこっちの意見を通せる、と。


「欠陥だらけ、ときたか。ならその根拠を聞かせてもらおうじゃねーか」

「僕のミカボシはまだサブマッチで全機能(フルスペック)を発揮したことがない。それは、サブマッチの大半がミカボシの全力を出すのに不都合な種目ばかりだからさ」

「本領はこんなもんじゃねえ、とでも?」


「その通り。巨大なだけで動かないターゲットの討伐、限られた空間内で行われる討伐競争、どれもその場で魔法を使えばクリアできるし、ミカボシ最大の能力である機動力を発揮する必要がない。そのせいでミカボシは魔法科の真似事をしなくちゃいけなかった」

「くくくっ、連戦連勝を誇ってる奴のセリフじゃねーな」

「そりゃあ、相手が魔法科の連中だからね。ミカボシが全力を出すまでもない、っていうのも勿論ある」


 ついでに魔法科を貶しながら、フリントは今のサブマッチこそ、ミカボシというサブマッチャーに対し公正ではないと訴えた。

 これは、ミカボシに有利な種目を選ぶための方便ではあったものの、あながち間違いではない。

 事実、ミカボシはこれまでのサブマッチで、一度もフルスペックで戦った事がないのだから。


「……なるほどわかった、それで、少しでもミカボシが実力を発揮できる種目にしたいわけか」

「少し違うね。僕が新しい種目を提案する、ミカボシが全力を出せるサブマッチを考えてきたんだ」

「……ほう?」


 フリントはデスティに、自らが考案したサブマッチ、その内容をまとめた紙束をデスティに渡した。

 第三者からアイデアを提案されることが珍しかったのか、ここにきて初めてデスティは少し驚いた表情をして、興味深そうにその内容を熟読する。


「どうかな? これこそ、ミカボシが全力を出すに相応しい場所と競技内容さ」


 フリントが渡した資料には、考案したサブマッチの要件と内容が書かれている。

 主に、開催場所をグラウンドではなく、より広い場所へ変更することと、観客のみを結界で保護し、選手は結界の外で自由に動き回れる状態にすること。


「これは……オメー、正気か」

「酷いなぁ。できる限り公平性は保ってると思うんだけど。まあミカボシが全力を出せるだけ、対戦相手には相対的な不利があるっていえばそれまでだけど。それは今までのミカボシがそうだったからね」

「有利不利の問題じゃねー」


 デスティの視線が、資料のある一点で止まった。

 それは肝心の種目に関する文章で、そこに書いてあった内容は。


「最悪、ミカボシが死ぬぞ」

「問題ない。ミカボシはマジックアイテムだ、壊れたら直せばいい」


 ミカボシの安全を度外視した、危険なものであった。


 デスティは無表情でフリントを見据えて、警告する。

 しかしフリントは躊躇いなく言い切った、勿論、本気で言っている。


「キミの言いたい事は分かってるよ。サブマッチは安心安全な競技で、誰かが傷ついたり命を落とすのは御法度なんだろう?」

「でも、ミカボシは道具であって、生き物じゃない。それなら過激かつ斬新なサブマッチをしても大丈夫だ。観客だって強い刺激が欲しいに決まってる」


 フリントはデスティに堂々と語って見せた。

 ミカボシがマジックアイテムであるからこそ、人間同士ではできない過激なサブマッチができる、そうすればサブマッチはより盛り上がる。

 そう訴えれば、デスティは自分の案を受け入れるはずだという算段であった。


「わからねーな。だとしても、わざと危険に晒す必要はねーと思うが」

「……キミ、意外と優しいんだね。僕としては『これほど危険なサブマッチでも、ミカボシは勝利できる』ってところを知らしめたいんだけど」

「……オメーがそう言うんだったら、分かった」


 それでもなお渋るデスティに、フリントは過激にする必要性を語ることで、ようやく了承を得ることができた。


「提案に乗ってやる。つっても、俺だけじゃなくマティアスの同意も必要だがな」

「えーっ。それってさ、もし断られたら……」

「当然、却下だ。じゃあマティアスを呼ぶぞ」

「へ? 呼ぶって――」


 マティアスの同意まで必要とは思わず、フリントが嫌な顔をしていると、デスティはパチンと指を鳴らした。

 少し間をおいて、ドアの向こうからドタドタと慌ただしい足音が聞こえてきて……。


「デスティさん! 今度は何の用事ですかっ!? さっき頼まれた宣伝ポスターの張り替え作業とか、先生方との打ち合わせ連絡とか、色々まだ終わってないんですけどっ!? ……ってあれ、フリントさん?」


 大量のポスターらしき紙束を抱えたマティスが、とても忙しない様子で入室してきたのだった。


「おう、追加の用事だ」

「……な、なんでお人好し君がここに? ここ、魔導学校なんだけど、その服も先生が着るローブだし」


 まさか平日に、総合学園の生徒であるマティアスまでもが魔導学校に来ているとは思わず、フリントは面食らう。

 しかもマティアスが着ているのは、青い色のローブで、それは魔導学校の教師が本来着用するものであった。


「交流サブマッチの準備に人手が足りなくてな、手伝わせてる」

「手伝ってます。あとこのローブは学校の先生方から貸して貰いました。高等部の服装だと学生間のトラブルに巻き込まれやすいらしくて」

「そ、そうなんだ」


 マティアスが来ている理由は、つまりそう言うことらしい。

 フリントは一瞬「背も低いんだし、中等部の制服を着たらいいんじゃない?」という言葉がよぎったが、何故か痛烈な危機感を覚えたので口には出さなかった。


(というか、なるほど……。学校中にサブマッチの話が広まってるのは、こうやって宣伝してたからか。っていうか、お人好し君がここにいるんだったら、ミカボシを連れてくるべきだったな)


 事情を聞いたフリントは、ここ最近で交流サブマッチの話が急速に広まった理由を察すると同時に、どうせマティアスが居るのなら、ミカボシに読心させれば良かったと軽く後悔する。


「それでデスティさん。追加の用事ってなんですか? フリントさんがここに居るのと、何か関係があるんですよね?」

「ああ、コイツは今度の交流サブマッチでやりたい種目を、自分で考案してきた。オメーが確認して了承できれば、交流サブマッチの種目をそれに決定するっつー話だ」

「え、自分で考えてきたんですか? それはどうして……?」

「ミカボシの全力を出したいんだとよ。オレも内容を確認したが、ミカボシのこと以外は、オメーに不利も危険も無さそうだと判断した。あとはオメーがコレを読んで、納得できるかどうかだ、もちろん断ってもいい」

「全力、ですか……」

「僕としては、断って欲しくないんだけど」


 デスティがマティアスに、サブマッチの事が書かれた資料を手渡す。

 マティアスは腕に抱えていたポスター等をひとまず床に置いて、受け取った資料をパラパラと読み込んだ。


「これは……」


 初めは興味深そうに読んでいたマティアスの様子が、資料のある箇所で、真剣なものへと変わった。

 それはやはり、デスティと同じ部分で。


「フリントさん。これって最悪、僕がミカボシを壊しちゃうかもですよ」

「あ、そのくだりはもうやった。壊れたら直すから」

「もうやったんですか」

「まあ、君にミカボシが壊せるとは思わないけど」

「……フリントさん、あまり僕を舐めないでください。最近はサブマッチでお金があるから、もしミカボシを壊しても弁償できますよ」

「そういう意味の挑発じゃなかったんだけど。いや確かにミカボシは結構お金かけて開発したけどね?」


 全く同じやりとりをするのが面倒くさくなったので、フリントはマティアスの指摘をアッサリと躱すのだった。

 ただ、ついでに軽く放った挑発は、マティアスには微妙にズレた受け取り方をされてしまったが。


「ま、君が良いって言ってくれたらその内容でサブマッチが出来るからさ、ぜひ合意して欲しいんだけど」

「えっと……うん。フリントさんとミカボシがそれで良いなら、特に異議はないです」

「話が早くて助かるよ」


 マティアスは特に深く考えた様子もなく、フリントの考案したサブマッチを了承する。


(よっぽど自信があるのか、それともこっちの全力を出したいって意志を尊重してくれたのかは知らないけど、こっちは助かったよ。これで僕たちの勝利は確実だ)


 フリントは内心で勝利を確信した。

 ほとんど疑いもせずに了承されたのは引っかからなくもないが、礼儀正しそうなマティアスの事だから、もしかすると本当にこちらが全力を出せるように気を使ったのだろうと思う事にした。


「決まりだな。それじゃあ、交流サブマッチの種目は決定だ」

「いやーありがとう。これで僕のミカボシも、ようやくフルスペックがお披露目できそうだよ。それじゃあ、僕はこれで」

「はい、それじゃあまた……」

 

 そうして、フリントは来客室を後にする。

 ……そして、来客室に残されたデスティとマティアスはというと。



「あの、デスティさん。このサブマッチをやる場所って、例の作戦にうってつけの場所ですよね」

「ああ。偶然だったが、オメーにとって絶好の場所をよりによって向こうがわざわざ指定してくれるとはな。これで会場をグラウンドから変える言い訳を、考えなくて良くなったわけだ」


 フリントは気付かなかった。

 ミカボシの勝利に拘るあまり、自ら考案したサブマッチが、マティアスにとっても都合が良かったということに。

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