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31話:驚異の魔道兵器! アマツミカボシの実力

いつも評価、ブクマ、ありがとうございます!

 魔導学校と総合学園のサバイブ・マッチが開催されるという話は、魔導学校中に直ぐに広まっていった。


 ダルコ州最強のサブマッチャーを決めるため、総合学園最強と魔導学校最強のサブマッチャー同士で戦うのだと。

 そして魔導学校を代表するのは、フリント・コールの作った戦術兵器ミカボシである。

 この事を聞いた生徒達は、大きく三つに別れた。


 一つは、フリントの手によって生み出されたミカボシが、魔導学校の代表としてサブマッチに出場することを喜ぶ魔道科の生徒。


 もう一つは、他校との交流サブマッチに多少の興味をそそられつつも、争いあう両学科の熱を嫌って特に騒ぐことのなかった中立の高等部生徒および、中等部の生徒。


 そして、最後の一つは。


「マジックアイテムが魔導学校代表とかふざけんなー!」「フリントー! 潔く代表の座を辞退しろーっ!」「やっちゃってくださいシュラ先輩!」「ミカボシなんかスクラップにしてやってー!」「降参しろーっ!」「上級生相手に勝てるわけねーだろー!」


 魔道科の生徒の被造物であるミカボシが、魔導学校代表として出場する事が気に食わない魔法科の生徒達である。



 時は交流サブマッチまで3日を残し、場所はサブマッチ開催地として定番の場所となった魔導学校のグラウンド。そこでは、今まさにサブマッチが始まろうとしていた。


 観客席は、魔法科の生徒達がフリントとミカボシに向けてヤジを飛ばし、それに対抗するように魔道科の生徒達も怒号で言い返すという、暴動一歩手前な状態であった。

 しかし、当のフリントは全く気にすることなく嘲笑の笑みを浮かべ、今回のサブマッチで相対する相手を見据えていた。


「最後の慈悲をかけてやろう、フリント。総合学園との交流サバイブ・マッチ、その参加権をオレに譲るがいい」


 相対するフリントにそう言い放つのは、魔導学校魔法科の最上級生シュラ・オキスハイト。


「いやいやいや、それのどこが慈悲なのさ」


 ミカボシを後ろに控えさせたフリントは、あきれた様子で首を横に振る。

 サブマッチに勝って、ミカボシの参加権を奪うつもりだろうとフリントは見当をつけていたのだが、争う前から譲れと言われれば、呆れるしかないだろう。

 しかしシュラは、尊大な態度で「当然、慈悲に決まっている」といった。


「今から行われるオレとのサブマッチ、仲間たちの前で無様に負ける姿を晒したくないだろう。そうなる前にキサマに参加権を譲らせてやろうという慈悲だ」

「ははっ、魔法科の最上級生は3年間何を勉強してるかと思えば、まさか冗談の勉強だったとはね、しかもつまらないし」

《まず、交流サブマッチの参加権を有しているのは私であり、マスターではありません。また貴方とこれからサブマッチを行うのも私です》


 フリントは「何言ってんのコイツ」といった視線をシュラに向け、ミカボシはシュラの言葉に訂正を入れる。


「しもべ共々、このオレに対する口の聞き方がなっていないようだな」

トシが上なだけで学科も違うアンタに使う敬語なんてないし、ミカボシにもインプットしてないんだよ、シュラセンパイ」


 どこまでも傲慢なシュラに対し、フリントは不遜な態度で言い返す。

 フリントにとっては、たとえ年齢が上だったとしても、それが魔法科の生徒なら敬うに値しないのだった。


「フン、減らず口を。オレの慈悲を受け付けないというのならば仕方あるまい、完膚なきまでに叩きのめしてくれる」

「いらない慈悲を押し売りされてもね……。というか、アンタら3年生がサブマッチ(こんなこと)してていいのかな? 就職やら研究やらで、てっきりサブマッチには興味がないのかと思ってたんだけど」

 

 フリントはやたら好戦的なシュラに質問した。

 魔導学校の最上級生である3年生は、学科同士のいがみ合いにそれほど関与する印象は今までなかったからだ。


 これは別に、進級すれば不仲が解消されるというわけではなく、単純に勉強などやるべき事が多いのでそんな暇がないというのが実情である。

 フリントはそれを知っているからこそ、今回の交流サブマッチに首を突っ込んできたシュラが、どういうつもりなのか質問したのだ。


「確かに間引きを目指すオレにとって、サブマッチなぞ児戯も同然。今も興味は薄い」

「なら引っ込んでて欲しいな。僕だってその児戯に時間を使わされるのは勘弁なんだけど」

「だが、魔導学校で最強を名乗り戦うというのなら、ふさわしいのはキサマのガラクタなどではなく、このオレだ」

「……はっ、そういうこと。でもいまの冗談は面白かった。人間風情が僕のミカボシを差し置いて最強なんてね、笑えるよ」


 このシュラという最上級生は、間引きに就職を希望している生徒だったことを思い出し、フリントは納得すると同時に鼻で笑った。


 ――やっぱり馬鹿だ魔法科は。今どき間引きとか最強とかくだらないし、ミカボシに勝てるわけないのに。


「減らず口を。だがその口も、勝負の結果をもって永遠に閉ざしてやろう。――サバイブ・マッチ開催の宣言をしろ!」

「サバイブ・マッチ実行の要請を受理しました。これよりフィールドを結界で隔離します、観客の皆様は結界の外側に移動してください」

「永遠に閉ざすって、殺し合いじゃないんだからさ……まあ、口を閉ざすのはそっちになると思うけどね。それじゃミカボシ、任せたよ」

《了解しました》


 シュラがグラウンドに設置してあるサブマッチ実行装置に命令すると、実行装置から機械的な音声が流れ、魔力光を放ち出す。

 十字型の実行装置を中心に、ドーム状の結界がグラウンド中へ広がって、内側のフリント達と外側を観客たちを隔てた。 


「展開を完了しました。これより演舞に移り――」

「余興はいい、さっさと始めるぞ」

「同じく。余計な時間はかけたくない」

「――全選手による演舞の省略要請を受理」


 実行装置の言葉を遮って、シュラは演舞を省略するよう言い放つ。

 省略するとシュラの実力を事前に知る事ができず、ミカボシに若干の不利が生じるのだが、フリントはその程度で負けるはずがないという自負と、あまり時間をかけたくないという理由で、省略に同意した。


「サブマッチの種目を選定中……決定しました。フィールドを二分します、両サブマッチャーはスポットされた地点へ移動してください」


 続けて、長方形のグラウンドが半分になるように結界の壁が真っ直ぐ展開し、フリント達とシュラはそれぞれ二分した空間に隔離される。

 更にグラウンドの中央2箇所が光で照らされており、装置の言う通りに各々がそこへ移動すると、フリント達とシュラは壁を挟んで背中合わせという形で、待機することとなった。


「サブマッチャーの待機を確認。これより、『ダーリックホエール解体サブマッチ』に使用するターゲットを召喚します」


 実行装置が発言した途端、フリント達とシュラ、それぞれの目前に死霊魔法の炸裂光が輝き、ダーリックホエールが地響きとともに顕現する。

 

「ルールを説明します。スタートの合図で格サブマッチャーは用意されたターゲットを攻撃し、相手より先に破壊してください。これを3セット行い、先に破壊した回数の多いサブマッチャーが勝利します」

「同時にスタートか……フッ、よりによってこの俺と破壊の速さ比べとは運がなかったな。同情するぞ」

「勝手にどーぞ」


 ルールを聞いたシュラは、自身の勝利を確信する。

 間引きを目指す彼にとって、図体が大きいだけの1匹を蹴散らすことは造作もない。

 更に言えば、彼が勝利を確信する理由はもう一つある。


(今のうちに余裕ぶっているがいい。キサマはオレには勝てん。オレはこのガラクタのやり口を既に知っているのだからな……!)


 シュラはサブマッチに興味はない、確かにそれは事実だが、さりとて敵に対して無関心になるほど愚かではない。

 彼は、今まで敗れていった後輩達からミカボシの戦法を聞きくことで、対策を立てていた。


《マスター、どのように勝利しますか?》

「とりあえず、いつのものやり方でよろしく」

《了解しました》


 そうとは知らず、フリントはミカボシにいつもどおりの戦法で戦うことを命令した。

 1人と1体の準備は整い、あとは実行装置からのスタートを待つだけとなる。


「全準備完了。これよりダーリックホエール解体サブマッチ――――スタート」


 サブマッチの火蓋が切って落とされた。

 直後に動いたのは。


破壊魔法バーストマギア!」


 放つ魔法の名前を高らかに叫び、シュラは右手をダーリックホエールへ向ける。

 呪文を詠唱せずに(・・・・・・・・)、手のひらから銀色の光球が放たれた。

 光球がダーリックホエールへ着弾すると、ビキビキと身体にヒビ割れを起こし、粉微塵に粉砕する。


「1回目、シュラ・オキスハイト、先着」


 実行装置の単調な声だけが、グラウンドに響いた。

 一歩遅れて、シュラが先制した事実に魔法科の生徒達から歓声が、魔道科の生徒からはブーイングが上がる。


 ミカボシは――まだ動いていない。

 目の前のダーリックホエールに、攻撃すらしていなかった。

 それを見たシュラは、笑った。


「ククク……思った通りだな。後輩ざこ共の詠唱を録音し、マジックアイテム特有の超高速詠唱で、模倣コピーした魔法を本人より早く行使する。それがキサマのやり口だ。相手をコケにするのには適した戦術だが、このオレには通じん」


 ミカボシは相手の声から魔法を模倣する。

 相手と全く同じ魔法を、相手よりも速く行使することでサブマッチに勝利してきたのだ。

 しかし今回は、ミカボシが魔法を模倣する様子はない、否、できないのだとシュラは確信している。


「……無詠唱か」

「魔道科のキサマでも、それくらいは知っているようだな」


 フリントがぽつりと呟いて、シュラはそれを肯定する。

 魔法使いの高等技術、その一つ。頭の中で詠唱を行い、魔法を行使する技をシュラは会得していた。

 詠唱から模倣されるなら口に出さずに魔法を使えばいい。シュラはミカボシの戦法、その欠陥を突いたのである。


 しかも、シュラが立てたミカボシの対策はこれだけではない。


「言葉も出んようだな、そんなキサマに最悪の事実を教えてやろう。この破壊魔法はオレ自身が編み出したオリジナル。よって呪文は未だこのオレの脳内にしか存在しないということだ」


 もし仮に、シュラの使った魔法が広く使われているものであれば、既にミカボシは習得している可能性があっただろう。

 しかし、この破壊魔法に限っては、それはない。

 破壊魔法はシュラが発見した魔法であり、この世界で行使できる人間は、今の所シュラしかいないのだから。


「もうわかっただろう。キサマにオレの破壊魔法を模倣することは、不可能だ」

「早いところ魔導書に記録しておいた方がいいよその魔法。不慮の事故でアンタが死んだら失伝するからさ」

「なっ…………余計なお世話だ!」


 フリントに指摘されて、シュラの顔がほんの一瞬だけ青ざめた。

 どうやら、今までその可能性を思い当たらなかったらしい。


「そ、それよりも、既にオレが先に破壊したわけだが、そのガラクタを動かさなくていいのか? それとも……既に戦意を喪失したか?」

「まさか、3回もあるからさ、最初くらい様子見させようかなってね。それじゃあミカボシ」


 よぎった不安を紛らわせるように、シュラは動かないミカボシを嘲笑った。

 しかし、フリントは余裕の態度を崩さないまま、ミカボシに命令を下す。


やり返せ(・・・・)

《了解しました。―――》


 ミカボシは甲高い音を発した、最速まで圧縮されて、言葉として聴き取れなくなった詠唱音だ。

 そして次の瞬間――銀色の光球がミカボシの前へ生み出され、ダーリックホエールめがけて発射した。

 同じ映像を繰り返すように、ダーリックホエールの身体がヒビ割れていって、最後には砕けちっていく。


 それはまさしく、先ほどシュラが使った破壊魔法そのものであった。


「貴様、まさか……!」

「アンタの頭の中に呪文があるっていうから、その頭を読み取らせてもらったよ」

「狡い手をっ」


 シュラは舌打ちする。

 模倣されまいと無詠唱で魔法を行使したが、無意味だったからだ。

 マジックアイテムであるミカボシは、その機能の一つに、人の思考を読み取る魔法を有している。


「それで、オレの破壊魔法を真似することは不可能なんだっけ?」

「フン……模倣できたところで、勝負に負けていることを忘れているようだな」

「様子見だからね、センパイにいい気分になってもらおうっていうサービスだよ」

「ぬかせ」


 フリントの挑発に対し、シュラは自身の優位を主張した。

 確かに模倣はされたが、最初の勝負はシュラが先着しているのである。


 勝負は残すところあと2回、そのうち一度でもシュラが先着すれば、このサブマッチの勝者はシュラだ。


(……模倣はされたが、さしたる問題ではない)


 想定外はあったものの、それでもシュラは自身の勝利は揺るがない、内心そう思っていた。

 

(ヤツが模倣したのは破壊魔法でも最弱のものだ。オレはより強力な破壊魔法を使って、模倣された魔法よりも早くターゲットを破壊すればいい)


(加えて、ヤツがオレの思考を読み、強力な魔法を模倣しても無駄だ。思考を読む以上、ヤツの詠唱は必ずオレの後追いになる。それは同時スタートのこの競技では致命的な出遅れだ)


(つまりオレは、より強力な破壊魔法を叩き込むだけで勝利する!)


 次で勝負をつけるべく、シュラは頭の中で魔法を詠唱した。

 思考速度を飛躍的に加速する魔法である、これを使えば、ミカボシにも負けない速さで無詠唱ができるだろう。


「さあ、次の勝負を始めろ! オレの破壊魔法とこのガラクタの破壊魔法、どちらがより優れているか決着をつけてくれるわ!」 

「両サブマッチャーの同意後、次のサブマッチに移ります」

「こっちも了解。あっ、そうだミカボシ。交流サブマッチに彼女(・・)は出ないらしいから、あの機能はここで使おう」

《了解しました。マスター》


 2度目の速さ比べに移る直前、フリントはミカボシに何やら指示を出した。

 するとミカボシは、直立での浮遊姿勢から横倒しになって、地面に対して水平となるように浮遊姿勢を変えたのだった


(姿勢を変えた? あの機能? 猿真似では勝てないと気付いたか? ……まあいい、手口を変えようと、オレの破壊魔法以上に早い魔法など存在しない!)


 その行為とフリントの言葉の意味が、シュラには分からなかった。

 姿勢を変えたところで、何か変わることがあるとも思えない、故に疑念は自らの自信で圧殺することにした。


「それでは、サブマッチ2回目――」


 フリント達とシュラの目の前に、再びダーリックホエールの巨体が落ちてくる。


「――――スタート」


 スタートの合図が、実行装置から放たれた。

 シュラは右手を上げ


「炸裂破

模倣(トレース)魔弾の射手(フライシュッツ)


 ドオンッッ!! とシュラの背後から爆発音にも似た音が炸裂した。

 さらに続けて、凄まじい熱気と赤い光、ゴアッッ! という何かが勢いよく弾けとんだ音も。



「第二回、先着、アマツミカボシ」


 そしてあとに残るは、実行装置の勝者を告げる声だった。


「なん、だ……今のは……ッ!?」


 あまりの音量にシュラは驚いてしまった、思考も、無詠唱も完全に止まったのである。

 致命的なミスを犯しても、シュラに悔いる余裕はなかった。

 ミカボシが何をしたのか確かめるため、シュラはおそるおそる振り向く。



「あっはは、さすが魔道科の作った魔弾(・・)()だ。すごい威力」


 水平に浮くミカボシ、そのボディの下部には銃と思わしき砲塔が新たに取り付けられている。

 フリントは、黒く焼けこげたフィールドを見て満足そうに笑っている。

 ターゲットの姿はどこにもない、肉片すら残さず焼き尽くされたようだった。


 シュラはその光景を見てなお、理解が及ばなかった。

 ――魔法を模倣するのではなかったのか?

 ――呪文を唱えた気配がまるで無い。

 ――あの、ミカボシに取り付けられた物はなんだ?


「き、キサマ……一体何をしたっ!?」


 様々な疑問が浮かび上がって、シュラはたまらずフリントに問いかけるしかなかった。


「なにって、総合学園に銃と魔弾を使う人がいたから、それを再現しただけだよ」


 フリントはあっけからんと答える。

 そう、フリントがミカボシに再現させたのは、ガーネットの銃と魔弾である。


「銃……銃だと!? き、キサマ、魔法使いとしての矜持すら捨てたか!?」

「ミカボシはマジックアイテムだってこと、センパイはまーだ理解してなかったみたいだ。というか、わざわざ魔法合戦に付き合う義理もこっちには無いし」


 魔法と魔法のぶつけ合いだと思い込んでいたシュラは、怒りで顔を真っ赤にする。

 しかし、そもそもミカボシは魔法使いではないし、サブマッチで銃と魔弾を使う事はルール違反でもない、なのでフリントは呆れていた。


「さて、このサブマッチも残すところあと一回だ」


 ニンマリとフリントは心底小ばかにするような笑みを浮かべる。

 現在、シュラとミカボシの先着回数は同数となり、最後の一回で先着したものが勝者となる。

 しかし。


「アンタの無詠唱が速いか、ミカボシが銃の引き金を引くのが速いか、競争しようじゃないか」

「く、くそ……っ! こんな、こんな、ことが……!!」


 挑発を受けてシュラは、魔法を使い限界まで思考を加速する。

 しかし、無詠唱は頭の中で呪文を唱える技術であって、詠唱そのものを破棄する技術ではなく。

 それゆえに、出の速さで『無詠唱の魔法』が『銃と魔弾』に勝る事は――――。


====


「サブマッチの結果を発表します。先着2回。勝者、アマツミカボシ」


「バカなぁァァぁ……!」


 結界が解かれたグラウンドに、サブマッチ実行装置の勝者を告げる声と、シュラの絞り出すような叫び声がこだまする。

 結局、シュラの魔法はミカボシの銃と魔弾の速度には及ぶことはなかった。


「やっぱ魔法より魔道具だよ!」「卑怯だぞフリントー! 真面目に勝負しろー!」「最新のマジックアイテムに勝てるわけないんだから……」「人のまねばっかりしやがって!」


 サブマッチの勝者はミカボシとなり、観客たちは大歓声――ではなく、シュラの敗北にかこつけて魔法科を馬鹿にする魔道科の生徒と、フリントの勝利に難癖をつけて魔道科を貶す魔法科の生徒の二つに分かれて、まさに喧々諤々、罵倒の大嵐といった有様となっていた。



「銃は下手な魔法よりも強し、いやあ名言だったね」

「こんな……こんな結果、なにかの間違いだ……!! オレは……間引きにもっとも近い魔法使いだぞ……!!」


 サブマッチが終わってなおヒートアップしていく周囲だが、フリントはまるで気に留めず、敗北したシュラの悔しそうな顔が面白くてたまらないという様子だった。

 一方のシュラは、自分の敗北を信じられず、その場で戦慄わなないており……。


「それじゃあね、僕はこれで帰らせてもらうよ」

「ま、まて! もう一度だ! もう一度、再戦させろっ!」

「無理だってば、アンタ思考を加速させすぎてる。それ以上やると頭が壊れるよ」


 さっさと学校へ戻ろうとするフリントに、シュラはすぐさま再戦を申し込むも、あえなく却下された。


「こっ、この程度で壊れるオレではない! おオレは、キサマという……終決士族の人間より強い事を証明し……、間引きの座を盤石なものに……っ!!」


 口ではそう豪語しているものの、シュラは目の焦点もあっておらず、紡ぐ言葉もどこかおかしくなってしまっている。

 確かにこのまま再戦すれば、フリントの言う通り、重篤な症状がでてもおかしくないだろう。


「……あっそ」


 そして、フリントの表情と声音が一瞬にして不機嫌なものへ変わった。

 別にシュラのしつこさに辟易したわけではない。

 

終結士族アレと一緒にするなよ)


 シュラがフリントを、終結士族の一員だと思っていたことに対する怒りだった。

 フリントは足を止めて、シュラの方へ振り向く。


「……随分と間引きに拘ってるみたいだから、忠告するよ。間引きを目指すのは時間を無駄にするだけだ。やめた方がいい」

「な、に?」


 シュラは、その言葉の意味が直ぐに理解できなかった。

 だが、直ぐに気を取り直して、激昂する。

 年下で他人、それも魔道科の人間に自分の進路をとやかく言われるのは我慢ならないと言った様子であった。


「時間の、無駄だと!? キサマ、オレを愚弄する気か――」

「言っておくけど、アンタに間引きをやる才能がないって言ってるわけじゃないし、終結士族だけで充分だからアンタは間引きになれないって話でもない」

「なにを、いってる……!?」


 シュラの怒声は、フリントの言葉を聞くうちに小さくなっていく。

 別に、怒りが収まっているわけではない。

 それまで見ないように蓋をしていたモノを、言葉で丁寧に掘り返されている……そのような恐怖が、シュラの怒りを削いでいるのだ。


「間引きを人間がするような時代はさ、もう終わるんだよ」


 事実、フリントはシュラを馬鹿にするために喋っているわけではない。

 自分を終結士族扱いした八つ当たりとして、シュラに現実を突き付けるつもりだった。


「なん、だと……」

「間引きみたいな危険な仕事なんてのはね、これから先すべて、マジックアイテムが人間の代わりにやってくれる。だからアンタはいくら努力しても、間引きにはなれない。なる必要がない(・・・・・・・)

「そ、そんなことは……」

「無いとは言わせないよ? アンタはミカボシに負けたんだから。魔物を倒すのが早い方と遅い方……間引きとしてどっちが優れているかは一目瞭然だ」

「…………っ!」


 シュラは、何も言い返すことができなかった。

 フリントの言ったことは、シュラ自身が内心痛感していたからだ。


 適正関係なく魔法を模倣し、魔法以外も模倣する、その上サブマッチを何度こなそうが、マジックアイテムゆえに精神をすり減らすなどということもない。

 すなわち、ミカボシは人間である自分を遥かに超えた存在である、と。


 ……間引きという職業は、大半が終結士族の人間で構成されている。

 それは、特区の管理は終結士族だけで事足りるという事実と、それ故に一般の人間は間引きになることが難しいという現実を示している。

 その上、ミカボシというマジックアイテムが人の代わりに間引きを行うのなら、その人間すら要らなくなってしまうだろう。


「…………」


 シュラは絶望した面持ちで、俯き、黙り込む。

 これから先、人間が力を持つ必要性は、どこにもなくなってしまうのではないかと本気で思ってしまったのだ。


「そんなわけだから、アンタの破壊魔法も発掘作業なんかに使った方が社会のためになるよ。それじゃあ、せいぜい頑張って」


 完全に心が折れたシュラを見て、フリントは心底満足気に頬を歪めた後、ミカボシを連れて魔導学校へと戻っていったのだった。


====


 フリントは校内の廊下を歩いていた。

 ミカボシのメンテナンスを行う為、自らが所属している『魔道兵器開発部』へと向かっている最中だった。


「お疲れ様、ミカボシ。銃と魔弾はどうだった?」


 その道すがら、フリントは背後のミカボシを振り向いて、今日のサブマッチで使用した銃と魔弾の使い心地をミカボシに尋ねる。


《威力、攻撃到達速度は対魔物用兵器として優れていますが、この大きさの銃と魔弾を搭載する場合、飛行を阻害する可能性があります》

「じゃあ取り外そう」

《よろしいのですか?》

「交流サブマッチには総合学園の女子の方は出ないって聞いてるし、今日の活躍を見れただけで十分だ」

 

 ミカボシの意見を聞いて、フリントはサブマッチの勝因となった武装を、呆気なく取り外すことを決めた。

 実のところ、銃と魔弾はガーネットを驚かせるためだけに追加した武装なのだ。

 先日、デスティから彼女の不参加の伝書が届いたため、外すことに躊躇はなかった。


(それにしても……まさか彼女が『弾切れ』でサブマッチに参加できなくなった、って聞いた時は流石に笑っちゃったけどね)


 あれだけやる気があった彼女が参加しない事に対し、当初は疑問に思わなくもなかったのだが、「魔弾を練習で使い切ってしまい、次のサブマッチまでに魔弾の輸入が間に合わなかった」という理由を聞いてからは、納得していた。


 確かに、強力な魔弾はラルエメスのような魔法に強い外国ぐらいしか販売していない。

 ダルコ州で売ってある魔弾と言えば対人を想定したものしかなく、サブマッチに使うには物足りないだろう。

 ……もっとも、この魔導学校の生徒であれば魔弾を自作すればいいだけの話なのだが、総合学園の生徒である彼女は所詮そこまでが限界か、ともフリントは思っていた。


(そうなると、僕達の相手はあのお人よし君って事になるんだけど……)


 歩きながら、フリントはマティアスについて思考する。


(正直、彼の使う『武術』は脅威に思わない。だけど『魔法』は……)


 ただの変身魔法の使い手で、魔物に変身して武術を振るうのであれば、ミカボシの敵ではないと切って捨てていただろう。

 しかし、フリントは過去のサブマッチの映像、そしてミカボシからある報告を聞いた結果、マティアスを警戒していた。


「ミカボシ、再確認するけど。お人よし君の魔法は、模倣コピーすることが出来ない。それは本当かい?」

《肯定します。彼の魔法は変身魔法(・・・・)ではありません(・・・・・・・)。完全に未知の魔法を、変身魔法と同じ用途で使用していると推察されます。加えて、彼は魔法の行使に詠唱を必要としない『心情発現型』のため、現時点で魔法を模倣することは不可能です》


 フリントは念の為、ミカボシからマティアスに対する報告を聞き直した。

 魔道具であるミカボシは、決して人間に嘘をつけない、よってミカボシがもほうすることはできない

 その答えを聞いたフリントは「だよねぇ」と、面倒くさそうな顔をしながら返事をする。


「身体を一度消す必要がある変身魔法なんて聞いた事ないし、感情で魔法を使うから思考を読んでも呪文が読み取れない。どうしてこんな研究対しょ……もとい、逸材が総合学園にいるんだって感じだ」

《彼に直接質問することで魔法に関する情報を思考させ、私が思考を透視することで、魔法を模倣できる可能性があります》

「いや、やめとこう。心情発現型にはよくあることだけど、あのお人よし君、呪文も知らずに魔法を使ってる気がするし」


 ミカボシの提案を、フリントはあっさり却下した。

 マティアスに探りを入れたところで時間の無駄になる可能性が高いからだった。


《では、どのようにして勝利しますか?》

「まあ、普通の変身魔法をあらかじめインプットしておけば、武術は真似できるけど……んー」


 ミカボシに促されて、フリントは再度思考する。


 要するに、そっくりそのままやり返す、いつものやり口が通じにくい相手。

 しかもその魔法は誰も呪文をしらない未知の魔法だ、相手は変身魔法のように使っているが『そうとしか使えない』と決めつければ足元を掬われるかもしれない。


「それよりも、勝ちにいこう。ミカボシがフルスペックで戦えるようなサブマッチの種目を、こっちから提案すればいい」


 ならばと、フリントは発想を転換する。

 相手の情報を全て解き明かし、徹底した対策を取るのではなく

 こちらが全てを発揮できる戦場を用意して、圧倒してしまえばいい。

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