29話:やはり、何事もサブマッチで決着をつけるのがイチバンだ
マティアス達が魔導学校のグラウンドへ戻ると、そこにはデスティとフリント、そしてミカボシが待っていた。
彼らの傍には『サブマッチ実行装置』である十字の形をしたオブジェも置いてあって、その様子から作業は終わっているらしい。
「そっちの作業は終わったみたいやな」
「オメーらも文字通り片付いたみてーだな」
「ハイ! 皆さんベッドに叩き込んでキマシタ!」
「デスティさん、荷台をありがとうございました。助かりました」
「気にすんな。大したことはしてねー」
デスティと言葉を交わし合い、マティアス達は合流する。
「ほんで、ミカボシはサブマッチに参加できそうなん?」
「ああ、合格だ」
ジュンコが尋ねるとデスティは短くそう答えた。
あまりにもあっさりだったので、ジュンコは目を丸くする。
「珍しいなぁ。あんだけ安全にうるさいアンタが一発で通すとは」
「ミカボシは自分の意思で人間を攻撃出来ねーし、魔物であっても人間の管理下なら同じ。さらにサブマッチ中の結界強度を分析して、魔法の威力を抑えるなんて事もできる。他にもまあ色々と制限や機能はあるんだが、それらを加味して、ミカボシ単体でサブマッチをするなら問題ねえと判断した」
「だから言っただろう? 僕のミカボシは完璧だって」
フリントは誇らしげに、後方に控えているミカボシを親指で指さした。
どうやらミカボシに備えられた安全機能は、デスティの想定するサブマッチの安全を保障できるほどに優秀なものらしい。
「待ってください。でもさっき、ミカボシは魔法科の人に向けて魔法をつかってましたよね?」
「ソー言えばそうデシタネ。眠らせる魔法ヲ撃ってマシタ」
そこに、マティアスが待ったをかける。
いくらミカボシ自身の意思で攻撃はできなくとも、作り主であるフリントの命令なら攻撃できるのではないかという懸念だった。
グラウンドに倒れていた魔法科の生徒に対し、フリントの感情に合わせたかのようにミカボシが魔法を放つ光景をジュンコは思い出す。
しかしフリントの表情は誇らしげなまま、崩れない。
「なかなか鋭い指摘だけど、あれは医療行為だからセーフ。もし僕があの時ミカボシに攻撃を命じてたら、ミカボシは指示を聞かなった」
《肯定します。例えマスターであろうと、私は人間を攻撃する命令を受け付けません》
「ちなみに、ミカボシは人間に対して嘘はつけないように作ってる。これで疑念は払拭できたかな、お人好し君」
「……そうですか」
一応、筋は通っている。
魔法を無理に使った彼らは、眠る以外に治す方法はなかった。
彼らを黙らせる事が目的だったとしても、あの時点で彼らに眠らせる魔法を使うことは、確かに医療行為となる。
嘘がつけないらしいミカボシ自身の申告もあって、マティアスは納得せざるを得ない。
「文句もないみたいだし、これで晴れてミカボシはサブマッチに参加できる資格を得たわけだ」
「ほう? サブマッチが出来なくても困らないと言ってた割には、随分と意欲的じゃねーか」
今までサブマッチにさほど執着していない素振りを見せていたフリントだったが、今では打って変わってミカボシの参加が認められたことに満足している様子だったので、デスティは指摘する。
するとフリントは「そりゃあ、あんな事を聞かされたらね」と答えた。
「あんな事?」
「近いうちに間引きとサブマッチをするんだろう? それも盛大にやる奴をさ」
マティアスが聞き返すと、フリントはそのわけを話し出す。
「僕としてはね、間引きが関わるなら話は別なんだ。マジックアイテムが間引きの人間より優れてると証明できる絶好の機会、逃す手はないね」
「じゃあフリントさんは、ミカボシを間引きとのサブマッチに参加させるつもりなんですね」
「そんなところかな」
フリントは好戦的な笑みを浮かべながら、間引きを自らが作ったミカボシで打倒することが目的だと話した。
彼自身は間引きと馴染みが深い終結士族の筈なのだが、なにやら事情があって間引きに対抗心があるらしい。
「まあ、ミカボシの成績はダルコ魔導学校の中じゃトップだ。サブマッチャーチームに加わる資格は充分にある、つーか俺は最初からそのつもりでもあったんだが」
どんな理由や事情であれ、ミカボシという魔導学校最強のサブマッチャーが協力してくれるのは、マティアス達にとっても頼もしい事だった。
だが。
「ミカボシがチームに加わる? 面白い冗談だね」
「なに?」
「逆だよ。ミカボシより弱い人間は、全員チームから外れて貰うんだ」
フリントはデスティの言葉を否定して、そんなことを言い放つのだった。
ミカボシがチームに加わるのではなく、ミカボシより弱い人間をチームから外す。
「オメー、まさか……」
どこかちぐはぐな言葉、その意味を察したデスティは怪訝な表情をした。
「フリントさん、それってどういう意味ですか」
「大規模サブマッチでチームメイトの人数は5人だと聞いてる。だったら僕はミカボシを5体ほど量産する」
「!」
マティアスが言葉の意味を質問すると、フリントはなんて事ないと言った風に、そう言ってのけた。
チームの人数分、ミカボシを複数作る、ここまで言われれば流石に、その場の全員がフリントが言おうとしている意味を理解できる。
「この際だからはっきり言おうか。僕はね、各校の代表者を集めてチームにするよりも、チーム全員をミカボシで埋めた方が強いと思ってる」
「そ、そんなん『サブマッチャー対間引き』やのうて『ミカボシ対間引き』のサブマッチになってしまうやん!」
真っ先に反応したのはジュンコだった、サブマッチを広めるための祭り事なのに、ミカボシだらけではその意味が変わってしまうと。
「やるからには勝つつもりなんだろう? だったら強くて勝てる存在こそチームメイトに相応しいんじゃないのかい? 各校に忖度してるのか知らないけど、わざわざ弱い人間を採用してチームの戦力を落とす方がおかしいと思うけどね」
「そ、それは……」
しかしフリントは意に介さない。
ミカボシがサブマッチに参加できるとお墨付きを貰った以上、同じ性能の同型機だって参加が認められる筈だ。
間引きの人間も生半可な実力ではない、相対するサブマッチャーも相応の実力が必要なのは確かだ。
なるほど、確かに一応の筋は通っている。
ただし。
「フリントさん、流石に聞き捨てなりません」
「ワタシ達をナメすぎデスヨ」
それはダルコにいる全てのサブマッチャーを『ミカボシより弱い』と決めつけたも同然で、当然マティアスとガーネットが黙ったままでいるわけがないのだが。
2人の怒気で、場の空気が殺伐としたものに変わる。
ガーネットは銃こそ持っていないものの、フリントへ向ける眼差しは今にも撃ち殺さんばかりの鋭いものとなっていて。
マティアスは無表情であれど、据わった目でフリントを見つめていた。
「あれ、もしかしては君達は実行委員じゃなくてサブマッチャーだったの? それは失敬」
マティアスとガーネットは名乗りこそしたがサブマッチャーだとは言っていなかったので、フリントは今まで二人をサブマッチ振興委員会の人間だと勘違いしていたらしい。
「でも発言は撤回しないよ。君たちがどれだけ腕自慢だろうが僕のミカボシには敵わない」
「なら、確かめてみますか?」
「サブマッチなら受けて立ちマスヨ」
売り言葉に買い言葉といった様子で、3人はどんどんヒートアップしていく。
このままサブマッチで白黒つけようかとなったその時、デスティが「その辺にしとけ」と両者に割って入った。
「オメーら約束をわすれんな」
「デスティさん……」
「フリントもだ、今日何戦サブマッチをしたと思ってる。幾らミカボシがマジックアイテムつってもやり過ぎだ、壊してーのか?」
「ミカボシならまだまだ余裕があるけどね。ご忠告どうも」
「ムムム……デモ、このままジャ気が収まりマセン」
「んなこたぁ分かる。ケリをつけるのは日を改めてからだ」
サブマッチは安全こそ確保しているが、命を落とす危険性を秘めた競技である。
故にデスティは全てのサブマッチャーには万全の態勢で挑むことを徹底していて、それは人間ではないミカボシに対しても同じだった。
しかし、だからといってマティアス達の気持ちを無視するわけではなく、またフリントの発言を看過することもしない。
「まず、サブマッチ振興委員会の立場から、俺の見解を伝える。間引きとやり合う面子は、このダルコ州で最強のサブマッチャー軍団だ。それだけが最重要事項で、種族は問わねー」
デスティはまず、大規模サブマッチに参加できる条件を明言した。
それは即ち、最強であることが何よりも重要で、チーム全員がミカボシになったとしてもそれで最強ならば認めるということであった。
「そして、このダルコ州でもっとも頂点に近いサブマッチャーはオメーらだ」
「魔導学校で無敗のミカボシ。そして総合学園のツートップで、武闘学校の生徒会長相手にも勝利経験のあるマティアスとガーネット」
「7日後にサブマッチを開催する。そこで、どっちが強いのかを決めようじゃねーか」
「わかりました」
「望むところデス!」
「……ま、いいんじゃないかな」
間引きと相対するにふさわしいのは、人間か魔道具か、後日行うサブマッチではっきりさせる。
実にシンプルな最強サブマッチャー決定戦に、3人は同意するのだった。
「そのサブマッチでミカボシが勝ったら、ミカボシだけでチームを組ませてもらうよ」
「ああ、構わねー。それが本当に最強ならな」
「ふふふふ、言質はとった。……ああそれと。開催までの間に、2人が過去行ったサブマッチの記録映像を見させて貰ってもいいかな?」
フリントはデスティに約束を取り付けた。
勝利は決まったとばかりにフリントは笑みを浮かべた後、しれっとそんな事を言ってきた。
「僕たちの、過去の記録ですか」
「対策を立てる気デスネ」
「興味があるんだよ。こっちは他校の生徒とサブマッチは初めてなんだからいいだろう? 代わりに、ミカボシの記録を見ていいよ」
あからさまな敵情視察であることを、フリントは隠しもしない。
当然マティアスとガーネットもその意図に気付いているが、ミカボシの記録が気にならない訳でもなかった。
どうするべきかと2人が顔を見合わしていると……。
「もとより記録映像は誰でも好きに見ていいぞ。映像記録用クリスタルをサブマッチ実行装置に持ってけば、移すこともできる」
「えっ」
「ソーなんデスカ?」
「あ、そう? なら活用させてもらうよ。それじゃあ僕たちはこれで、次会うときはよろしく」
《よろしくおねがいします》
記録映像は自由に見てもいいとデスティが話すと、フリントはマティアス達の返事も聞かないまま、踵を返して魔導学校へと入っていく。
ミカボシもマティアス達に一言あいさつすると、フリントの後を追っていった。
「――ひとまず用事は終わったが……やる事が増えたな」
フリントの姿が見えなくなったことを確認すると、デスティはサブマッチ実行装置に触れて、何やら操作をし始めた。
「マティアス、ガーネット。このクリスタルにはミカボシがサブマッチをしている映像が記録してある。オメーらが持っとけ」
「あ、はい」
「アリガトウございマス」
「えらい親切やな。流石のアンタも、サブマッチをフリントに乗っ取られるんは嫌やったか」
「…………運営側の俺が、選手の片方を贔屓するわけねーだろ? ただ、サブマッチで競うんだったら条件は公平にしとかねーとな」
「はいはい、素直やないなぁ。まあウチもフリントの思い通りなるんは嫌やけど」
デスティは手のひらサイズの細長いクリスタルを、マティアスとガーネットに手渡した。
その丁寧さをジュンコに指摘されるも、デスティはあくまでサブマッチの公平性を保つためにやっていると主張する。
ただ、指摘から返答まで少々間が空いた事から、図星だったらしい。
デスティは表面上と理念ではフリントの意見を認めつつも、個人的には大規模サブマッチをミカボシまみれにはしたくないようだった。
「フッフッフ、安心してくださいデスティナサン。この、ダルコ最強のガンマンにオ任せデス!」
「僕達が絶対に勝ちます」
「くくっ、元よりオメーらがミカボシに後れをとるなんざ思っちゃいねーよ」
マティアスとガーネットは闘志を燃やす。
ダルコ最強のサブマッチャーになるため、そして、間引きとのサブマッチを無事に成功させるためにも、負ける訳にはいかない。
そう決意した時だった。
「やい、そこの白髪頭! アタシ達の話を聞いてもらうぞ!」
「「「!?」」」
白髪頭、とは間違いなく、頭髪の白いデスティの事を指しているのは明らかであった。
突如として聞こえてきた命知らずな言葉に、マティアス、ガーネット、ジュンコの顔がさあっ、と青ざめる。
聞き覚えのある溌剌な声、見てみればアレサとベルが玄関からこちらへと駆け寄って来るのが見えた。
「……アイツら、さっきの中等部か?」
「ア、アレサちゃんにベルちゃん!? そない大声でデスティに乱暴な事ゆーたらアカン!?」
「お前がデスティだな! サブマッチの支配者で、極悪ネクロマンサーの!」
「貴方がサブマッチをこの学校に広めた、デスティナさんですよね?」
「ご、ごごごくあーっ!? デスティ! これはジョークや! 魔導学校流の小粋なジョークで……!」
「全くもってその通りだが?」
(極悪ネクロマンサーまで肯定しちゃった!?)
(ジカクがあるんデスネ)
ずんずんと非常に強気な態度でデスティ詰め寄ってくる彼女達。
悪口を吹き込んでしまった手前、ジュンコは大慌てであまりフォローにならないフォローをして、マティアスとガーネットは驚きでフリーズしたまま、心の声だけでやりとりにツッコミを入れる事しかできなかった。
肝心のデスティは特に気にした様子もなかったのだが、マティアス達からすれば火のついた棒で爆弾を突くような行為なので、今は何ともなくても、ちっとも安心できないのである。
「そんで、オメーらは誰で、俺に何の用事だ」
「アタシはアレサだ!」
「中等部のベルです。お願いがあってきました」
そんなマティアス達を置いてけぼりにして、ベル達とデスティは会話を続ける。
デスティに対し敵意剥き出しといった様子の2人は、一度お互いに目を合わせて頷きあうと。
「この学校から手を引いてください」
「サブマッチ実行装置を持って帰って、もう2度とこの学校でサブマッチを開催しないでくれ!」
「――なに?」
今度こそ爆弾に火を付けるのだった。
サブマッチを広める事が目的のデスティにサブマッチを止めさせろと言えば、自分たちは敵だと言っているのと同じである。
まさに一触即発、デスティの目は、途端に鋭くなってゆき――
――ぐうぅぅ……。と、唸るような音が辺りに鳴り響いた。
具体的には、マティアスのお腹から。
「「「「…………」」」」
「えっと……。話の最中にごめんなさい。変身した後って、僕、お腹が空いちゃって……」
じっと、全員がマティアスの方を注視し、当のマティアスは恥ずかしそうにお腹を押さえている。
太陽は高く昇って、今はまさにお昼時。
今日は何かと変身を多用していたこともあって、マティアスの腹の虫がとうとう音を上げたのだった。
「……とりあえず、飯でも食いながら話すか」
毒気を抜かれたデスティが、ぽつりとつぶやく。
一同は、ひとまず昼食を取ることにするのだった。




