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28話:魔導学校の生徒事情

評価、ブクマ、閲覧、いつもありがとうございます!

 グラウンドで倒れていた魔法科の生徒達を保健室へと運び終えるまで、さほど時間はかからなかった。


 デスティが用意してくれた骨製の荷台は一度にかなりの人数を積み込めたし、ガーネットとジュンコ指揮下の死体人形が詰め込み作業を担当し、マティアスがウマ型魔物に変身し移送する。

 また、魔導学校も全体的に広い造りになっていたので、変身したマティアスも、人間をたくさん積んだ荷台も、楽々と保健室まで移動することができたのだ。


「あのっ、兄を運んでくださってありがとうございました。皆さんそこに居合わせただけなのに、手伝って頂いて……」

「ほんとありがとう。というかあたしら案内くらいしか出来なくて、正直めっちゃ申し訳ない」


 魔法科の生徒が所狭しと並んで寝ている保健室で、灰色ローブを着た2人の女生徒はマティアス達に深々と頭を下げた。

 少女の片方は茶髪を三つ編みにしていて、眼鏡をかけた大人しい雰囲気をしている。

 もう片方の少女は跳ねっ毛で赤髪、ショートヘアで、活発的そうな雰囲気という、それぞれ印象が正反対な2人であった。


「どういたしまして。気にしなくて大丈夫だよ、僕達も放っておけなかったから」

「皆サン、地面に転ガッタままダト可哀想デスシ」

「そうそう。それにウチらだけじゃ保健室の場所なんて分からんかったしな、助かったわ」


 お礼を言うベルとアレサに対して、マティアス達は当然のことをしたまでだと返す。

 十数人と倒れていた生徒を少女達だけで保健室まで運ぶというのも無理な話であるし、休日なので学校にいる人間がそもそも少なく、マティアス達以外に運搬を手伝う人間はいなかったのだから。


「そんな、本当にありがとうございます。えっと……あっ、まだ名前も言ってませんでしたね、私、ベル・カーレルっていいます」

「そういやそうだった。あたしはアレサ・エスコフィ。ベルとは親友で、幼馴染だ」

「僕はマティアス・リーヴィング」

「私はガーネット・トウニー! ヨロシクお願いシマス!」

「ウチはジュンコ・ナカノハ、よろしゅうな」


 保健室への搬送が終わったので、マティアス達はようやくお互いに自己紹介を交わし合っていると……。


「う、ううっ……」


 傍のベッドで寝かされていた男――ベルの兄が、呻き声を上げながら目覚めた。

 それを見たベルは、すぐさま兄の枕元へ駆け寄った。


「兄さん、具合は大丈夫?」

「ベル……ここは、保健室……?」

「そうよ。ここにいるマティアスさん達が、倒れてるみんなを運んでくれて――」

「そうだ、サブマッチは!? ベル、俺は勝ったのか!?」


 兄を心配し、事情を説明しようとする妹の言葉を遮り、ベルの兄は興奮した様子で気を失う直前までやっていたサブマッチの結果を尋ねる。

 

「ううん……兄さんの負けだった」

「なに!? お、俺の全力でも、駄目だったのか!? なら、他に誰か魔法科でミカボシに勝てた人間は……!」


 ベルは悲しそうな表情で答えた。

 それは兄が負けたからというよりも、サブマッチの勝敗に固執する兄の姿が見ていられないという顔だった。


「いないわ。ねえ兄さん、無茶しすぎよ。勝つためだからって、倒れるぐらい強力な魔法を使うのは危ないし、やり過ぎてるわ」

「やり過ぎだろうとなんだろうと。俺たち魔法科が魔道科に負けるわけにはいかなかったんだ! なのに……」


 本日行われたサブマッチは、すべてミカボシの全戦全勝で、魔法科に勝者はいない。

 ベルの兄はその事実に、悔しさと怒りで身体を震わせ、拳をベッドに叩きつける。

 心配する妹のなど、目に入っていないようだった。


「くそっ! フリントの奴、自分じゃ勝てないからって魔道具に頼りやがって……! こうなったら……!」


 ずい、とベルの兄は身体を起こそうとするのを見て、ベルとアレサは仰天し、慌てて彼を寝かせようと2人がかりで押さえ込もうとする。


「お、おい何してんの!? 起きたら駄目だって!」

「もう一度サブマッチをするんだよ! フリントを引き摺り出して、直接やれば今度こそ勝てるはずっ……!」

「無茶よ兄さん!?」

「無茶でもなんでも、魔法を極めた俺たち魔法科があんな物いじりしか能のない魔道科の連中に負けたままでいられるか――」


 ベルの兄は、魔法科の自分が魔道科の産物であるミカボシに負けたことがよほど頭にきているらしく、とても冷静には見えない。

 


「あんなぁ、ベルちゃんの兄さん」

「チョット冷静になりマショウ」


 ジュンコはすぐさま結界で作ったハリセンを取り出した、一度ぶったたいて正気に戻そうと思ったのだ。

 ガーネットは腕まくりする、エルボーの一つでもぶちかまして、ひとまずベッドに沈めておこうとして。

 そしてマティアスは、2人よりも速く――


「落ち着いて ください」

「――ひ、ひぃっ!?」


 自らの上半身を巨大な狼のソレへと変身させ、ベルの兄を抑えるように、ベッドの上へのしかかっていた。

 この魔物は“バルガイストウルフ”という赤黒いオオカミで、人の倍はある体躯を誇り、その顎と牙は、人間の頭など簡単に噛み砕いてしまうほど強く大きい。

 そんな魔物が突然のしかかり、牙を剥き出して睨みつけてくるのだ、ベルの兄が悲鳴を上げるのも仕方がないだろう。

 そしてマティアスは、彼を威圧するようにに、ゆっくりと、少し怒りが混った声音で語りかけた。


「ベルさんのお兄さん 貴方はいま 魔法を使える身体じゃない ベッドで安静にして下さい」


「それと これはフリントさんにも言いましたが」


「競い合った相手や 他人に対する敬意の無い発言は 謹んでください」

「は、はひ……」


 反論させないほどの迫力でマティアスが注意すると、ベルの兄は恐怖でガチガチになりながら、ベッドへ身体を沈めるのであった。


「――騒がしくしてすみません。倒れた人はみんな運びましたし、ここを出ましょう」

「「…………」」


 ベルの兄がベッドで寝たのを確認すると、マティアスはすぐに人間の姿へと戻る。

 その変貌ぶりに、ベルとアレサは目の前で起きた事を理解できず、硬直しているようだった。


「マティアス、ナイスデス!」

「あービビったぁ。マティアスくん、怒らせたら怖いタイプやな……」


 ガーネットが無邪気にマティアスの行為を褒める中、ジュンコはひっそりとマティアスを怒らせまいと誓うのであった。


====


 健康な自分達がいつまでも保健室でたむろしているのは迷惑だという理由から、一同は保健室から退室する。

 そして、マティアス達はそろそろデスティが仕事を終えているだろうという事でグラウンドへ戻る事に、ベル達は部活動の後片付けを放り出して運搬作業をしていたので、家庭科部の部室へと戻ることにしたのだった。

 ただ、目的地への道は途中まで同じだったので、一同は一緒に魔導学校の廊下を歩いていた。


「あのっ。マティアスさん、先ほどは兄が手間をかけさせてしまってすみませんでした」

「ベルさんが謝ることじゃないよ。むしろ僕の方が謝らないといけないかも……」

「えっ? マティアスさんは別に何も悪くないと思いますけど」

「ほら、ちょっと辛抱できなくて、お兄さん相手に手荒なことしちゃったし……」

「なんだそんくらい、全然いーって」


 歩き出してから開口一番に、ベルは兄の無茶を止めてくれたことに対して再び頭を下げる。

 しかしマティアスは、ベルの兄の言動に怒りを覚えて、感情のままに変身しおどしつけた事を申し訳なく思っているのだった。


 尤も、恐ろしくはあったものの、マティアスは特に兄を傷つけたりはしなかったので、ベルとアレサはちっとも気にしていないようだが。


「あれくらいやんなきゃ、魔法科と魔道科の喧嘩なんて止まらないし……」

「ベルのお兄さん、魔法使えナイのにリベンジする気まんまんデシタネ。他の寝てる人タチも、今にも起きそうデシタシ。マティアスのお陰で静かになりましたケド」

「フリントっちゅーやつもいけ好かん態度やったしな。人を椅子にするわボロクソ言うわ、ウチらを手伝う気もゼロやったし」

「……気になったんだけど、やっぱりこの学校って生徒同士の仲が良くないの?」


 マティアスは気になっていたことをベル達に尋ねる。

 先程みたベルの兄の魔道科に対する異様な敵愾心、そしてフリントが見せた魔法科の生徒全般に対する無礼な態度から、マティアスはダルコ魔導学校は個人間ではなく生徒全体で仲が悪いのではないかと思ったのだった。


「……はい。『魔法科』と『魔導科』は仲が悪いんです」

「アタシら中等部はそんなことないんだけどな」


 そしてその予想は的中していた。

 魔導学校はマティアス達と同年代の生徒達が、学科に別れていがみ合っているのであった。


「やっぱりそうだったんだ」

「……アノー。魔法科と魔道科の違いッテ、ナンデスカ?」

「えっと、魔道科は魔道具の作り方を勉強する学科です。社会や生活の役に立つ、便利な魔道具を発明してます」

「魔法科はその名のとーり、魔法そのものを勉強する学科だ。大魔法や未知の魔法を見つけたり、魔法の新しい使い方とかを研究するんだぜ」

「ナルホド……」

「高等部は生徒同士の成績や素行を点数化して学期末に競い合う行事があって、何かと競い合うことが多いんです」

「いっつも仲悪いんだ。お互い見下し合っててさ、魔法を使った嫌がらせと口喧嘩は日常茶飯事なんだぜ」

「なるほどなぁ。道理でえらい回数のサブマッチをやっとるわけや……」


 2人の説明を聞いたジュンコは納得する。

 学生同士を競い合わせる校風が元からある状態でサブマッチが広まれば、とうぜん生徒達はサブマッチを使って争い出すだろう。

 魔導学校が他校と比べてサブマッチの回数が多かったのは、そういう事情があったからだった。


「ああでも、最初は魔法科だけがサブマッチにハマってたんだぜ。魔法科は戦争にしか使わないような魔法も習うから、当たり前っちゃ当たり前なんだけどな」

「しばらくして魔法科の人達が、サブマッチの成績で魔道科の人達と張り合うようになったんです。魔道科の人達は戦うための魔法は習いませんから、魔法科の人達が勝って当たり前だったんですけど……」

「そこに魔道科のフリント先輩が、ミカボシを作って魔法科の先輩達に逆襲し始めたのが今、って感じだ」


 ベル達から『フリント』の名前が出たことで、マティアスは以前デスティが言っていたことを思い出す。

 ダルコ魔導学校の人間は、火力だけならマティアスやガーネットにも比肩する強者がゴロゴロといる、と。


 おそらく、デスティが言っていた強者とは魔法科の生徒達だ。

 そしてフリントが造ったミカボシは、その魔法科の生徒達を相手に、連戦連勝を収めたことになる。


「……フリントさんも、只者じゃないみたいですね」


 マティアスは死屍累々と積み上がっていた敗者達の山を思い出し、戦慄する。

 ミカボシもそうだが、そんなマジックアイテムを作り出したフリントもまた、尋常ではない技術力をもっているのだろう。


「フリント先輩は魔道科で1番の天才なんです。有名人ですよ」

「なんたって『コール家』っていう終結士族の人だからな」


 フリントが終決士族と聞いた途端、マティアス達の頭によぎったのは、ピンク色をしたムキムキの男なのか女なのかよくわからない大精霊セネートの姿であった。


「「「フリント(さん)が終結士族!?」」」

「う、うん。すごいけど、そんな驚くことか?」


 まさかフリントは大戦時代の英雄だったのかと驚くマティアス達。

 しかし、よくよく落ち着いて考えてみれば……。


「って、あーそうかそうか、終結士族ゆうても子孫の方か」


 フリントは学生で、見た目もしっかり人間だ。

 よって、終結士族といっても英雄そのものではなく、末裔の方の終結士族である。


「ま、終結士族なのになぜか魔法科じゃなくて魔道科にいる不思議な人だけどな」

「終決士族の人が魔道科にいるのは普通じゃないんですか?」

「うん、変わってる。だって終結士族って間引きをやるんだから、普通なら魔法科に入って強い魔法を覚えるもんじゃん」


 フリントを不思議な人と評するアレサにマティアスはその訳を尋ねると、このような答えが帰ってきた。

 なるほど確かに、間引きをするなら強力な魔法を学べる魔法科にいた方が都合が良いのだろう。


「まあ誰もフリント先輩が魔道科を選んだ理由は知らないと思うけどな。アタシも知らんし」

「それにフリント先輩が優秀だから、魔道科の人は誰も気にしてないみたいです」


 ベル達はフリントと特別親しいわけでもないので、それ以上の事は知らないようだった。

 


「ところで皆さんは、どうして魔導学校に?」

「アタシも気になってた。私服だけど多分他校の生徒だよな?」


 一通り魔導学校のことを話した後、ベル達はマティアス達について尋ねてきた。

 すると、何故かジュンコが『まってました』とばかりに目を輝かせると……。


「せやで、ウチらは総合学園の生徒や。今日はデスティっちゅうサブマッチを支配する極悪ネクロマンサーにムリヤリ連れてこられてな、ミカボシの正体を探りに来たんや。2人もデスティには気を付けるんやで」

「「は、はい……」」

平然へーゼンと嘘ついてマスネ」

「デスティさんが居ないからって好き放題言ってる……」


 日頃こき使われている鬱憤を晴らすかの如く積極的にデスティのイメージダウン活動に乗り出すジュンコに、マティアスとガーネットは顔を引き攣らせるのであった。


「え、ウソなのか?」

「ま、まあ総合学園の生徒なのは本当だよ。今日ここに来たのは、デスティさんって人の用事に僕達が興味本位でついてきただけで。あ、デスティさんはサブマッチの――そう、管理をしてる人なんだ」

「サブマッチの伝道師デス。サブマッチをする為にイロイロ支配してるのは否定ヒテーデキマセンケド……」

「保健室に人を運んだ時も、警備員さんなんかデスティさんの名前を出したらすぐ学校に入れてくれたよね、カーペットまで敷いてて……一体どこまでデスティさんの支配が及んでいるんだろう……」

「なんだか凄い人なんですね……」


 誤解が無いように正確な情報をベル達に伝えるマティアスとガーネットだったが、デスティが色々と規格外なせいで真実味のある話が出来そうになかった。

 とはいえベル達はマティアス達を信頼してくれたので、疑われてはいないようだったが。



 ――このように、雑談を交えながら歩いていくと。


「――あっ、ここでお別れですね」

「このまま真っすぐ行って、突き当りを左に曲がればグラウンドにでられるぜ」


 ついにベル達と離れる時が来た。

 万が一迷わないよう、アレサはグラウンドまでの道順を説明する。


「ありがとうございます、ベルさんにアレサさん」

「また会いましょうネ!」

「今度はサブマッチの後片づけ抜きでお話しようなー!」


 そうしてマティアス達は、グラウンドへと向かう。

 ベルとアレサはその姿をしばし見守ると……。




「……マティアスさん達の話が本当なら、デスティさんって人いまこの学校に来てるんだよね」

「……ああ。サブマッチをこの学校に広めた張本人、向こうから来てくれたなら好都合だ。さっさと部室を片づけて、ソッコーで話を付けに行こうぜ」


 何かを強く決意した様子で、話し合っているのだった。

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