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26話:遭遇、アマツミカボシ!

 ダルコ州のはるか上空、そこには白く巨大な翼を持った獣達が2頭、悠々と飛行していた。

 猛禽類とよく似た上半身と頭部を持ち、しかしその下半身と後ろ足は馬そのものという、ふたつの生物をそのままくっつけた見た目をしたこの魔物は、ヒポグリフと呼ばれている。


 食い喰われるの関係とされるグリフォンと馬の交雑種であり、発見例も眉唾物の噂しかなく、学者からは『ありえない存在』とも呼ばれている。


「イヤッフーゥ!」

「いやぁ、ヒポグリフって乗り心地ええなぁ……ウマの部分に乗っとるからやろうけど」

「しかも飛行速度は並のドラゴンより上。くっくくく、これなら魔導学校まであっという間だな」


 そんなヒポグリフの一頭にガーネットとジュンコが二人乗りしていて、そしてもう一頭にはデスティが乗っていた。

 魔物使いでもない人間が、あのヒポグリフを従えて空を飛ぶというのは更にあり得ない事態である。見るものが見れば卒倒するほどの衝撃を与えるだろう。

 しかし、この光景には種も仕掛けもあった。


「マティアス、もっとスピード上げて行きマショウ!」

「え、もっと速くですか!? えっと、ジュンコさんは大丈夫そうですか?」

「大丈夫や、デスティを抜かせ抜かせー!」

「調子乗って落ちるなよオメーら。……まあそれはそれとして2人乗ってるそっちに負けるつもりもねーが」

 

 ガーネットの呼びかけに、ヒポグリフ――マティアスは、少々困惑気味に返答する。


 そう、実はこの二頭、ヒポグリフであってヒポグリフではない。

 ガーネットとジュンコが乗っているのはマティアスが変身したものであるし、デスティが乗っているのは彼自身が死霊魔法で生み出した改造死体なのであった。


「えっと、じゃあもう少し速くしますね」

「わぶっ、はやっ! でも全然安心感あるな、もしかして人のせて飛ぶの慣れとったりする?」

「時々両親を乗せて職場に連れて行ったりしてますから……他の人にバレないように、こっそりとですけど」

「マティアス! アクロバットやりまショウ! ディザスター・ベーブ、シリーズ5巻のベーブの如く、ヒポグリフでロデオデス!」

「うえっ!? むっ、むりむりむり!? 人を乗せてアクロバット飛行なんて怖すぎるって!?」

「ガーネットちゃん、ウチも乗っとるから流石にアクロバットは勘弁してほしいな……」

「ムムム、仕方アリマセン。今度ワタシ1人の時にお願いシマス」

「だから怖いんだってば……」


 ヒポグリフに乗って飛行するという得難い体験、特にガーネットは西方小説にあった場面を再現しようとはしゃぎっぱなしであった。


「オメーら、飛ぶのに夢中で目的を忘れんじゃねーぞ!」


 加速したマティアスにデスティが乗るヒポグリフもぐいと追いついてきて、デスティは向かい風にかき消されないよう大声で呼びかける。


「忘れとらんって! 魔導学校におるサブマッチャーを見に行くんやろ!」

「エット……なんて名前デシタッケ?」

「アマツミカボシ、でしたよね。その前の肩書きみたいなのは長すぎて覚えにくいですけど……」


 そう、先程まで道場で練習をしていたマティアス達は、魔導学校に突如として謎のサブマッチャーが現れた事を知り、正体を確かめようとダルコ魔導学校へ飛んで行くことにしたのである。


 そのサブマッチャーの名は『対魔物用広域殲滅飛翔箒アマツミカボシ』。

 どう見ても人の名前をしていないこのサブマッチャーは、魔導学校で連戦連勝を重ねているらしかった。


「そうだ。サブマッチは人外でも参加できるが、ルールを守れる奴かどうか振興委員会が確認する必要がある。まあオレだけで充分な用事だが――」

「わかってます。でもやっぱり気になりますから」

「ハイ! ワタシも謎のサブマッチャーの正体、見てみたいデス!」

「あんなおかしな名前見たら、気になって特訓に集中できんわ」


 言外に「オメーらまでこなくてもいい」といっているデスティに対し、マティアス、ガーネット、ジュンコはそれでも着いてくると答える。


「……今日はサブマッチをやらねーぞ、いいな」


 興味津々な3人を見たデスティは少しだけ沈黙すると、サブマッチをしに行くわけではないと、念を押すように言うのであった。


「なんや、いつもはやるやる言うとるのに。あ、もしかして、練習して疲れとるウチらに無理させんようにしとる? ……自分で言っててアレやけど、人を心配するデスティとか気持ちわるいな……」

「随分と元気が有り余ってるみてーだな。おいマティアス、ジュンコを俺のヒポグリフに乗せ替えろ、アクロバットしてヒーヒー言わせる」

「飛行中に乗り換えは危ないですよう!?」

「やーん、デスティこわーい(棒読み)」

「…………」

「デスティさんそんなグイグイ寄らないで下さい! ジュンコさんも煽らないでー!?」

「アクロバットならワタシが行きマス!」

「ガーネットさん飛び移ろうとしないで怖すぎるからー!?」

 

 どうやら心配しているというのは図星だったらしい、が、ジュンコの言い方があんまりだったので、デスティは青筋を浮かべてマティアスの方へ激突せんばかりに詰め寄ってきた。


 このような感じでてんやわんやになりながらも、マティアス達は魔導学校へと近づいていって、いよいよダルコ魔導学校が目下に見えてきた――その時である。


 魔導学校の運動場が、ほんの一瞬だけキラリと輝き。


《――――》


 金属が擦れるような甲高い音と、激しい風切り音と共に、ソレは突如としてマティアス達の目の前に飛来した。


「「「「!」」」」


 妙な形をした金属の塊が、空に浮いている。それが、マティアス達がソレに抱いた第一印象であった。


 ソレの全長はおおよそ人の倍。

 何かの金属で出来た長細い鈍色の楕円球をボディとし、後部には同じく金属製の赤い翼が2対はえている。

 翼といっても翼竜や鳥のそれとは全く様相が違い、それらを逆さに取り付けた、いわゆる前進翼と呼ばれる翼である。そして、それ以外のパーツは見当たらない。


 総じて、ソレは楕円形のボディに前進翼を取り付け、飛行時の空気抵抗をただ減らすことに特化しただけの金属塊きんぞくかいである。

 空を飛ぶための機構はどこにも見当たらないが、ボディの内側から電流の如く迸る魔力光が透けて見えるので、どうやら魔法で飛行を可能にしているようだった。


(速え、なんだあの加速。魔導学校からここまですっ飛んで来やがった!)

(速い! なんなのかわからないけど、ヒポグリフよりも……!)

「ワッツ!?」

「きゅ、急に飛んできていきなり何や!? この……この変な……オブジェ?」


 空中でピタリと静止し、まるでマティアス達を見定めるように留まる異形に、全員が思わず身構える。


 特にデスティとマティアスは、異常な速度に対し戦慄すらしている。

 もしこの存在が敵だったとして、このまま空中で戦うことになれば――勝ちの目はないと直感したからである。



ヒポグリフ(・・・・・)1頭、人間3名、死霊魔法創造物1体。魔導学校に接近する対象を確認しました》

「しゃ、喋った!? 喋ったでこのオブジェ!?」

《私はオブジェではありません。私は『対魔物用広域殲滅飛翔箒アマツミカボシ』。特区での魔物殲滅を目的に製作されたマジックアイテムであり、ゴーレムや守護石像(ガーゴイル)に近い存在です》


 チカチカと黒いボディに光を迸らせ、若い女性を思わせる言葉を発するソレは、自身を件のサブマッチャー、ミカボシだと名乗ったのだった。

 

「なるほど、オメーがミカボシだったか」

「妙な名前とは思うたけど、マジックアイテムやったとは……」


 ミカボシの正体は、意思を持ったマジックアイテムだった。

 名前からある程度想像できる正体だったので、マティアス達は納得していると……。


《驚かせてしまい申し訳ありません。こちらから、ふたつほど質問があります。あなた方は何者ですか? 魔導学校に何か用事があるのでしょうか?》


 すると、ミカボシはそんなことを聞いてきた。

 どうやら突然来訪した事に対して、ミカボシは警戒しているらしい。

 とはいえ、デスティたちは別に悪事を働きに来たわけではない。


「俺はサブマッチ振興委員会総会長のデスティナ・ズゥ・ハークだ。オメーがサブマッチの安全基準を満たしてるかどーか確認しにきた。他の奴らは付き添いだ、それと――」


 無駄な誤解を避けるため、デスティは魔導学校を訪ねた理由を話しつつ。


「――あっちのヒポグリフは魔物じゃねえ。人間が変身魔法で化けたもんだ」


 ミカボシが初めに言っていた言葉を訂正した、のだが……。


《――。解析。変身魔法の発生痕、未確認。偽証の意味を質問します》

「えっ? あの。僕は人間です。マティアス・リーヴィングって言います」

《――――。ヒポグリフより人類言語を確認。通常より言語野の進化を確認。該当する種を検索。――なし》

「えっと、もしかして混乱してる……?」

《対象を人語を覚える新種――”オウムグリフォン”と仮定します》

「新種の魔物ってことにされた!?」


 ミカボシの言動が少し怪しくなり、何故かマティアスは新種の魔物という扱いにされてしまった。


「ち、違います! 僕は魔物じゃないんですってば!」

《――――。再解析。100%ヒポグリフと一致。素晴らしい演技です。よく芸を仕込まれています》

「演技ってことにされてるな」

「そんなぁ!?」

「うーん。マティアスくんの変身を見抜けんのかな?」

「スゴイ技術で作られたマジックアイテムと思ってマシタケド、ちょっとポンコツデスネ」

《分析に不備はありません》


 ガーネットにポンコツと言われた所為なのか、ミカボシの声音が少しだけ低いものになった。

 とはいえ、見抜けていないものは見抜けていない。誤解を解くためには、マティアスが一度人間の姿に戻るのが一番手っ取り速いが、空中では流石に戻れないので……。


「このまんまだと埒があかねー、さっさと魔導学校に着陸するぞ。そこならマティアスも元の姿に戻れる」

「そ、そうですよ! 着陸したら、僕が人間だって分かります!」

《分かりました。全対象が無害であることを確認。魔導学校への着陸を許可し、マスターの待つグラウンドまで誘導します。私の後に続いて降下してください》


 マティアス達はとりあえず、眼下の魔導学校へ着陸することにした。

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