23話:ハマって抜け出せないタイプの勝負師
これにてVS.スピリットマスター編は終了です!
次回から新章となります。
武闘学校でのサバイブ・マッチが見事成功してから、3日ほど経過した。
「ふわぁ……」
ダルコ総合学園の一年生の教室。
昼休憩に入った中頃、マティアスは自分の席で大きなあくびを一つする。
「んんっ……今日も平和だった」
ついでに座ったまま大きく両手をあげて、伸びももう一つ。
今、ダルコ総合学園では、サブマッチが行われない平和で退屈な時間が流れていた。
それもこれも、武闘学校でのトラブルによりジュンコが魔法を使えなくなってしまったからである。
彼女曰く使えない事もないらしいのだが、意外な事にその身を案じたデスティは『最低でも3日間』、彼女が魔法を使うことを強く禁じたのだ。
強大な力が飛び交うサバイブ・マッチでは、どうしても強固な結界が必須であることは事実。
それ故に、ダルコ総合学園ではジュンコが回復するまでサブマッチが開催できないのであった。
「サブマッチが無いと教室も静かだなぁ。いやまあ、デスティさんが転校してくる前に戻ったって言えばそうなんだけど……」
マティアスは体中から力を抜くように、ぐてー、と両腕を机に投げ出して顎を机につける。
サブマッチが開催できないのであれば、わざわざマティアスに挑戦状を叩きつけてくる生徒もいない。
この間マティアスはサブマッチをする以前の様に、教室で静かに過ごしていた。
「……なんか、暇だ」
……静かに過ごしていたが、その表情はどこか不満気であった。
気疲れの原因であった好奇の視線もこの三日間でだいぶ収まった、故にこの平和な時間は待ち望んだもののはずだが、理屈に反してマティアスの身体はうずうずとしているのである。
(物足りない感覚が抜けない……ひょっとして僕、サブマッチが恋しくなってるのかなぁ?)
うずうずの原因と言えば、マティアスが思い当たるのはサブマッチしかなかった。
技を存分に振るうことが出来るサブマッチは、マティアスにとって刺激的で楽しい競技となっていた。故に、たった3日サブマッチが出来ないというだけで、身体は不満を訴えていたのだ。
「はー、武闘学校は今頃サブマッチ三昧なんだろうなぁ」
マティアスはダルコ武闘学校の事を思い出して、羨ましさからため息をつく。
なんでも、デスティが贈与したというマジックアイテムがあれば結界魔法使いや死霊魔法使いがいなくともサブマッチを開催できるらしい。
校則として真剣勝負の代わりとなったサブマッチだが、力比べをするのが大好きな武闘学校の生徒の事だ、今頃向こうでは大ブームが起きているに違いない。
ちなみにこのマジックアイテムは作るのに手間がかかるようで、総合学園の分を用意していなかったらしい。『こうなるなら余分に作っとくべきだった』とはデスティの談だ。
「あれあれマティアス君、なんだか欲求不満そうな顔してるねん。武闘学校に転入して刺激的な毎日を送ってみない?」
「あはは、僕が武闘学校に転入したら刺激的すぎて死人が出ちゃいますよアルマさん」
そうしてマティアスが机でくすぶっていると、頭上から声が掛けられる。
しばらくぶりに聞いた、気軽で人懐っこいアルマの声に、マティアスはごく自然な流れのまま応対して――。
「――ってアルマさん!?」
「わーおいいリアクションだー」
――ワンテンポ遅れて、異常に気付いた。
ここはダルコ総合学園。
武闘学校の生徒であるアルマ・ラ・ジーンが何故ここに。
一瞬だけ幻聴を疑うも、マティアスが驚きと共に顔を上げれば、確かにアルマがマティアスの反応を楽しむように笑っているではないか。
否、アルマだけではない。いつの間にやら机の周りには……。
「ワタシも居ますヨ!」
「ウチもおるで」
「ジュンコさんにガーネットさんまで!?」
「マティアス、ワタシはクラスメイトデス。居るのがフツーデス」
「あ、そうだった。つられて驚いちゃった……」
ジュンコとガーネットを含めた3人に囲まれているのであった。
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「えっと、アルマさんはお詫びのために総合学園まで来たってこと?」
「そそ、主にジュンコさんに迷惑かけちゃったからね」
「まあウチは気にしとらんけどな、次は気を付けてくれたらいいだけや」
「ワタシはアルマを最初に外で見かけタノデ、学園を案内してマシタ」
近くの机を借り、4台をくっ付ける形で、マティアス達はそれぞれ席に座り会話をしていた。
事情を整理すると、先日のサブマッチで迷惑をかけたお詫びのためにアルマが総合学園を訪れ、それを見かけたガーネットがジュンコのクラスまで案内していたらしい。
「あ、でも警備員さんとか先生に止められなかったんですか?」
「ううん。デスティさん達に用があるって言ったら、すぐ通してくれたよ? なんか顔が青ざめてたけど」
「あー……それはそうでしょうね……デスティさんの名前をだしちゃったら……」
学生とはいえ他校の生徒、おいそれと学園に入れるのだろうかとマティアスは疑問に思ったものの、アルマの言葉で全てを察した。
もはや学園中を牛耳っているといっても過言ではないデスティの『知り合い』と思われたのなら、学園関係者はたとえ他校の生徒でも顔パスで通すだろう。
「……ってあれ、セネートさんは来てないんですか?」
アルマがここまで何事もなく来れた理由を察した直後、マティアスは違和感に気付く。
そう、アルマの相棒である精霊セネートの姿が見当たらないのだ。
もっともマティアスは精霊使いの事は詳しくないので、今日はたまたま別行動をとっている、といわれたらそれまでなのだが。
「セネっちはまだ上級生のクラスでデスティさんとお話し中だよん。なんかセネっちに用事があるんだって」
「用事ですか」
「ウチもよう聞かされてないけど、どーせサブマッチの話や」
「実はセネっちってこの国だとちょっとした有名人らしいんだよね。だから多分、その関係の話だとアタシは睨んでる。まああとでセネっちに何話したか聞けばいいけど」
「なるほど……」
「んで二人が話してる間に、アタシはアタシでマティアス君に渡す物があったから来たってワケ」
「渡す物ですか?」
アルマは正面に座るマティアスに、ペンダントを渡す。
ペンダントに嵌め込まれていたピンク色の宝石に見覚えを感じたマティアスは、すぐに気づいた。
「これって……アルマさんが付けてるペンダント?」
「うん。セネっちを宿してる精霊の器、そのスペアだよん。こないだのお礼にプレゼント。ま、精霊は宿ってないからただのペンダントなんだけどね」
「い、良いんですか? これ、大切な物なんじゃ……」
渡すものというのは、アルマがつけている精霊の器――正確にはそのスペアだった。
煌びやかに輝く宝石、そして精霊使いにとって重要なものだろう精霊の器となるソレを、こうも簡単に手渡して良いのだろうかと、マティアスは少々萎縮していたが……。
「アタシの故郷じゃ、器のスペアをあげるのは戦友に対する最大の友好の証なんだ」
「だから遠慮なく受け取って。アタシ、みんなにはたくさん感謝してるんだよ」
ぎゅ、とアルマはマティアスの手にペンダントを握らせると、言葉を続けた。
「アタシさ、ちょっと趣味が変わってるっていうか、崖があったら落っこちてスリルを楽しむよーな人間なんだよね。でもそのくせ身体はやたら頑丈なせいで、スリルな事はあらかた慣れ切っちゃっててさ……」
「でも、マティアス君とガーネットちゃんとのサブマッチで競い合って、久々に『負けるかも』ってゾクゾクできた。まあホントに負けちゃったのは素直に悔しいんだけど、すっごい楽しかった」
「それに、今じゃ武闘学校でサブマッチが大流行りして、皆がアタシに勝負を挑んでくるようになったんだよ! それも、これまでみたいにアタシがただ勝つ戦いじゃない、勝つか負けるかのギリギリの勝負ができてる!」
「だから今、アタシはスリルで楽しい日々を送ってる。本当にありがとう、アタシと戦ってくれて、サブマッチを広めてくれて」
「アルマさん……」
心からの感謝の言葉に、マティアスは嬉しさ半分、気恥ずかしさ半分といった様子。
ただ……。
「受け取っとき、マティアスくん」
「ワタシ達も頂きマシタシ」
「……はい。大事にします」
ただ、先刻と違い、ペンダントを受け取る右手に躊躇いは無くなっていた。
「それなら僕も、アルマさんにお礼を言いたかったんです」
「え、アタシお礼されるようなことしたっけ?」
「アルマさんと武闘学校の皆さんのお陰で、悩み事が解消したんですよ」
首を傾げるアルマ、確かに彼女からしてみれば身に覚えはないだろう。
しかしマティアスにはアルマと、武闘学校の生徒達に感謝するべきことがあった。
「僕、デスティさんに『サブマッチのスター選手になれ』って言われてまして……」
「でも僕って目立つような人間じゃないし、そもそも『スター』って何なんだろうって感じで、よく分からなくて困ってました」
「だけど、武闘学校の皆さんがアルマさんに宣戦布告したあの時に、分かったんです。スターって、アルマさんみたいな人の事なんだって」
「アタシが……スター?」
かつてデスティは言っていた。
サブマッチがこの国に普及するには、スターが必要だと。
スターとは、誰もがこうなってみたいと惹きつけてやまない、圧倒的な強さをもった一等星だと。
少し前のマティアスには、その星が何なのか分からなかった、しかし今は。
「アルマさんに勝つために、生徒の皆さんは力を磨いて、挑戦する」
「みんなにとって強さの目標になる人、それこそが僕が思うスターでした。それなら僕も、そんなスターになってみたいって、最近思うようになったんです」
武闘学校最強の生徒として君臨するアルマと、彼女を超えるため力を磨く生徒達の姿を見て、マティアスはスターという存在がどういうものなのか、理解することが出来たのだ。
「だからアルマさん、僕に気づくきっかけをくれてありがとうございました」
「えへへ、なんかくすぐったいな……。アタシがそんなお手本みたいな感じだったなんて」
マティアスにお礼を返されて、今度はアルマが恥ずかしそうにする番であった。
アルマからしてみれば、自分が目一杯楽しもうと好き勝手していただけだったので、尚更である。
と、そんなふうにマティアスとアルマが、互いにお礼を言い合っていると……。
「ンー……」
「どしたんガーネットちゃん?」
「イエ、二人の話を聞いてタラ、サブマッチがしたくなってキマシタ……」
どうやらガーネットも、マティアスのウズウズが移ってしまったらしい。
何とも言えない顔をしているガーネットだが、そうは言ってもジュンコが魔法を使えないので、出来ないものは出来ないのだ。
「今魔法使うたらデスティにめちゃめちゃ怒られるから、今日は我慢してな」
「ハイ……」
「いやー残念だよね。サブマッチが出来たら、アタシがゲストで総合学園に殴り込みって流れなのに」
「確かにそれは面白いかもですね」
「皆サブマッチにすっかり夢中やなー。……デスティが見とったら悪い顔して笑いそうや」
サブマッチさえできれば、とウズウズするサブマッチャー達に、ジュンコは「目論見通り」といった様子のデスティの悪い顔を想像して、少し呆れ顔をする。
「あはは、そうですね……。でも、夢中になるのも仕方ないですよ。今まで鍛えてばっかりだった技を、思う存分振るって人と競い合うのって凄く楽しいですし」
「サブマッチだとホントに魔物を撃ってるミタイで、射撃場で撃つヨリ爽快感バツグンなのデス」
「うんうん、サブマッチは最高だよね、選手として勝負するのもゾクゾクだし、観戦するのもスリルが味わえるし!」
「そうなんですね。僕もたまには観る側に回ってみるのもいいのかも……って、え?」
三者三様にサブマッチのいいところを言い合っていると、マティアスはアルマの発言に首を傾げた。
「アルマさん、観戦しててスリルが味わえるんですか?」
選手として参加する分には勝ち負けのスリルがあるだろうが、勝ち負けのない観客側でスリルを味わうとはこれ如何に。
サブマッチ中は観客の安全は絶対に守られているはずなので、マティアスの疑問は深まるばかりだったが……。
「うん、ゾクゾクするよ! 何たって観客側で参加したらお金が賭けられるじゃん!」
「「「えっ」」」
アルマの発言で、その場が凍りついた。
「いやー人気薄の生徒に生徒会予算まで全ツッパした時なんか、かいたことない汗がダラダラ流れてきてゾクゾクで……それで勝っちゃったらもう最高だよね……」
「まてまてまてーい!? アカン! アルマちゃん絶対賭け事やったらアカン性格しとるって!」
「だ、だめですよアルマさん! というかそんなことして他の人に怒られないんですか!?」
「そりゃもうまず副会長がバチギレしたよん。『このアホを一刻も早くブッ倒して会長職から降ろせぇぇぇぇ!!!』って本気でアタシを倒そうとしてくるの。それもまたゾクゾクして最高でさ……」
「モハヤ無敵デスネ!?」
しかしアルマはそんな場の雰囲気などまるで無視して、うっとりした様子で蛮行を語り続ける。
なんということでしょう。部の悪い賭けをしてスリルを楽しみ、怒られる事すらスリルとして楽しめてしまうアルマは、ある意味最高(正しくは最悪)の形でサブマッチにハマってしまっているのだった。
「あーもう! やからデスティにサブマッチで賭け事はやめー言うとるんや! ハマって抜け出せん奴が一定層おるっちゅうのにー!」
「それでさマティアスくんサブマッチの賞金を持て余してるって風の噂で聞いたんだけど……お金貸してくれない?」
「今の話の流れでよく貸して貰えると思いましたね!? ダメに決まってるじゃないですか!?」
「だって賭けちゃいけないお金ほど賭けたらゾクゾクできるじゃん」
「最悪の理由ですよ!?」
「コレもう一回ワタシ達でアルマを倒した方が良くないデスカ? 今度コソ会長職辞める条件デ」
混沌極まる教室内で、マティアスは「アルマさんのこういう面だけはお手本にしない事にしよう……」と硬く誓うのであった。
おまけ情報
ダルコ武闘学校、生徒副会長のセージャは時間魔法の使い手です。
時を止めて自分だけ動いたりできます。
でもアルマが硬すぎるので、セージャがいくら殴ってもノーダメージなためタイマンでは絶対勝てないのです。
なので彼女はアルマの大ボケ行動を力尽くでは止められない……。




