21話:達人同士の決着! 勝者は一体誰なのか!?
「さあ、期せずしてアルマ選手の地位を賭けることになった今回のサブマッチ! とうとうこれで最終競技や!」
ジュンコの声がグラウンドに響き渡り、観客達から歓声が上がる。
回数を重ねるごとにタイムを縮めていく選手達、そして窮地に追い込まれたアルマの覚醒と、熱い展開が続いたからか、観客達の盛り上がりは絶好調であった。
「でもその前に! アルマ選手もパワーアップしたことやし……デスティ、ここで改めてスタート前の解説といこか!」
「おし、まかせろ」
競技が一瞬で終わるせいで実況、解説は無理だと学習したジュンコは、最終競技の前に選手達の解説をするようデスティに促す。
「まずは現在トップのマティアス選手! 千変万化の名の通り、お次はどんな姿になってタイムを縮めてくるのか、ウチも全く予想つかへんで!」
「魔力さえあれば何でもなれるのが変身魔法だが、どの姿になるかはマティアスの選択次第だ。今の所は順調にタイムを縮めていってるが……選択を誤れば遅れをとるだろうな、油断はできねーぞ」
千変万化流の技と変身を駆使して、サブマッチの最適解を常に更新し続けることのできる『千変万化』マティアス。
現状最も早いタイムを叩き出しているが、その順位は薄氷の上にあるものだとデスティは指摘する。
果たしてマティアスは、更なる速度を更新するのか、それとも現状に甘んじる結果となるのか。
「お次は現在二位のガーネット選手! 一見いままでと変わらん装備に見えるけど、何か秘策があるのかー!?」
「魔弾は着弾した瞬間に炸裂する以上、お邪魔グールの存在は必ず障害になる。これを対策できねーとガーネットの負けは決定的だが……逆にどうにか出来るなら、間違いなくこの中で1番速いタイムが出せるだろーな」
規格外の銃と魔弾を扱い、あらゆる敵を遠距離から爆散させる『魔弾の射手』ガーネット。
遠くにいるターゲットを撃ち抜くという点で、このサブマッチに1番の適性がある彼女、しかし道中の障害物がその独走を阻んでいた。
顕になった魔弾の弱点を乗り越え、彼女は再び一位の座に返り咲けるのか。
「そして最後は完全顕現を果たしたアルマ選手と精霊セネート! パワーアップした2人はトップになれるんかー!?」
「完全顕現で実体化した以上、セネートもターゲットを直接攻撃できるようになってる。武遊の技だけじゃなく、セネートが何か仕掛けることもありうるな」
無敵の肉体と無双の剛腕を誇る、『武遊チャンピオン』のアルマと精霊セネート。
心の底から焦がれたスリルを得て、奥義を開眼した彼女達の実力は計り知れない。
完全顕現によって高まるパワーで、これまでの結果をひっくり返すことが出来るか。
「さあ、コース上にケセラン・パサランとお邪魔グールが出揃ったで! これで準備は完了や!」
「待たせたな! 今よりケセラン・パサランタイムアタック――」
開始の合図が目前に迫り、サブマッチャー達は三者三様の表情を見せる。
マティアスは真剣な表情で前を見据え。
ガーネットは不敵に笑って銃を構え。
アルマは満面の笑みでセネートに身体を掴まれた。
これより始まるのはサバイブ・マッチ。
時代に取り残された力を、生かすための競技。
「――スタートっ!」
怪物達の速さ比べ。
その最終幕が切って落とされた。
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(これで最後……だけど、ひょっとしたらもう僕は、これ以上速いタイムを出すことはできないかもしれない)
スタート直前、マティアスの表情は硬かった。
その顔は一位を取っているとは思えないほどに余裕がなく、追い詰められている側の表情であった。
事実、マティアスは追い詰められたと感じている。
(直前まで考えたけど。少なくとも今の僕には、空龍砲以上にタイムを縮められる技と姿が思いつかなかった)
その原因は単純で、二回目の時点で自身の限界を悟っていたからだった。
確かに変身魔法には、理論上限界は存在しない。
しかし、実際には『想像の限界』というものが存在している。
使い手がより優れた魔物の姿を思い浮かべることが出来ないなら、変身魔法使いの強さはそこが限界になるのだ。
まだ若く、戦いの経験が少ないマティアスにとっては、祖父から教わった技と姿が全てであり、空龍砲は教わった中でも最もこのサブマッチに適した技だった。
それ以上のタイムを出すならば、新たな千変万化流の技を考えて編み出す必要がある。
しかし今のマティアスでは、技を編み出すための経験も、思考も、試行回数も、何もかもが足りていない。
(だけどガーネットさんもアルマさんも、きっとさっきの僕のタイムを確実に上回ってくる。それだけは分かる)
彼女達の表情を見れば、自ずと信じられる。
自分のタイムを超えて見せるという気迫と、それに裏打ちされた実力。
アルマのパワーアップは肌で感じられたし、ガーネットもまだ力を隠している、だから分かるのだ。
空龍砲のままでは、確実にタイムを抜かれる。
(だから、僕がこれまで以上にタイムを詰めるとしたら)
しかし、このまま黙って彼女達に一位の座を明け渡すことはしない。
マティアスの千変万化流に限界はあっても、まだ自分は全てを出し尽くしてはいないのだから。
「――スタートっ!」
(千変万化流の技から外れた、僕だけの技を使うしかない!)
スタートの合図がグラウンドに響いて。
そしてマティアスは、千変万化流の――型を破る。
「千変万化流、混合型、空竜砲」
パン、とマティアスは両手の掌を合わせて、真っすぐ腕をターゲットの居る方向へ伸ばす。
同時に、二回目と同様に空龍砲の姿へと各部位を変身させた。
傍から見れば、同じ手をを使うのかと思うだろう。
しかし違いはある。
「加えて、蠍獅の毒針」
合わせた両手の掌をマンティコアの毒尾と毒針に変身し、エアロドラゴンの口内へ配置していた。
あらゆる生物を死に至らしめる万死の毒針、尻尾と分離し、含み針の如く飛ばせるそれを。
「発射ッ!」
エアロドラゴンのドラゴンブレスの勢いに乗せて、射出する。
ブレスによる加速を充分に受け、毒針が最高速度へと達したその瞬間に――
(今だ、消えろ!)
飛翔する毒針が、消える。
マティアスの魔法は、普通の変身魔法ではない。
本来の変身魔法は変身のためにその部位を一旦消失させる必要はないし、そのような現象は通常起きない。
だがマティアスは、そうしなければ変身が出来なかった。
なぜ、自分だけこのような動作を挟むのか、それはマティアス自身も分かっていなかったが……生まれながら備わっていた故に、その特性を理解し使いこなしている。
例えば、変身をせず消失だけで留めることもできるし。
身体を消しても感覚はしっかりと感じ取れることから、触れず見えないというだけで、実は存在しているということも分かっている。
即ち消えた毒針は、何もかもをすり抜けて、最速でケセラン・パサランへと向かってゆき。
「ここだっ! ――我流、毒弾穿孔!」
その目前へと迫った刹那に、消失を解除する!
突如として現れた万死の毒針は、当然ケセランパサランへと直撃し――
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スタート直前、ガーネットはこのサブマッチにおける最適解、つまり一直線にターゲットを撃ち抜く方法を、既に思いついていた。
(一直線に撃ち抜けばワタシの勝ち。ツマリ……モット大きい銃と大きくてフツーの弾丸があれば、全部ブチ抜いて楽々クリアデス)
確かに魔弾はお邪魔グールで遮られてしまう。
しかしそれなら、ただの弾丸を撃てばいいだけだ。
さらに、より大きい銃で、大きい弾丸を放てば、おそらく障害物諸共を吹き飛ばし、ターゲットを狙撃できるだろう。
「『だがそのやり方はスマートじゃない』」
しかしガーネットは、小説のセリフを引用しながら、この方法を否定する。
「『標的が遠くにいるから。障害物が多いから。その度に銃も弾もデカくする、と。――バカか? しまいにゃ銃を大砲に戻すつもりか?』」
「『いいか、俺はガンマンだ。この手で銃を持ち、魔弾で標的を仕留める。だから』」
自分はディザスター・ベーブに憧れた、魔弾の射手である。
その矜持が安易な方法で勝利することを許さなかったのだ。
「『あらゆる障害は、魔弾で撃ち抜く』」
故にガーネットは、新たな魔弾を取り出し、銃に装填した。
非常に頑丈な、ドゥランチウム鋼で作り上げられた特製の弾丸である。
――魔弾は何故、障害物を貫けないのか?
その答えは簡単だ、魔弾に刻まれた魔法は当たった瞬間に炸裂し、自らが発した魔法により魔弾は自壊するからである。
「装填、アンストッパブル・バレット」
つまり、魔弾に敢えて貫通力を持たせたいのなら、魔弾に刻む魔法に、破壊以外の効果を持たせればいい。
「――スタート!」
そうして、最後のサブマッチが始まった。
「bang!」
ガーネットは銃を構えて、その場で銃を狙い撃った。
ダァン! と激しい発砲音と共に魔弾が放たれる。
真っ直ぐターゲットへ飛翔する魔弾、しかし、射線には当然、デスティが配置したお邪魔グール達が立ち塞がっており、当然まずお邪魔グールに着弾してしまう。
しかし、魔弾は止まらなかった。
それどころか、お邪魔グールの身体を突き抜けてなお、更に速度を上げている。
ソレは、加速の魔法を内蔵していた。
命中対象から魔力を吸い上げ、進行方向への速度に変換する、効果はただそれだけ。
それ故に、禁じられてもおかしくない程に危険な魔弾である。
最初のお邪魔グールを突き抜けた魔弾は、次のお邪魔グールに着弾し、また速度を上げて貫通する。それが何度も繰り返される。
そう、止まらないのだ。
この魔弾は、完全に破壊されるか、何にも当たらず自然停止する以外には止まらない。
そして標的に命中するたびに、速度と射程を半無限に上昇させながら、直進していく。
不停止の魔弾は障害となるお邪魔グール全てを糧にして、この場の誰よりも速く、ケセラン・パサランへと肉薄し――
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「うっふふふふ! 直接攻撃なんてナンセンス! 完全顕現したあてくし達の武遊、見せつけてあげるワ!」
スタートの直前、セネートはデスティの解説に対して人差し指を左右に振って、的外れだと言わんばかりに笑う。
完全顕現を果たした今、確かにセネートも攻撃に加わる事は可能だ。
しかし、それでもセネート達は武遊を使ってこのサブマッチを攻略するつもりだった。
それは決して、拘りや、チャンピオンとしての矜持からくる選択ではない。
純然たる事実として、完全顕現をしたのなら、武遊の技が誰よりも速く倒せるとセネートが知っているからである。
「ねーねーセネっち! アタシこの新しい鎧の効果とかさっぱり分からないんだけど大丈夫かなこれ!」
アルマはばっと両手を広げて、完全顕現にあたって変貌を遂げた鎧をセネートに見せる。
器でもある鎧は装飾が豪華になった他に、お腹の部分に水晶玉のようなものが嵌め込まれている。
綺麗ではあるのだが、この変化に何の用途があるのか、アルマにはさっぱり分からなかった。
「なるなる! ノリでなんとかなるワ!」
「ノリで何とかなるんだ! あっはははは!」
そんなアルマの質問に、勢いとハイテンションだけで大丈夫とセネートは答える。
アルマも興奮がおさまりきっていないからか、その答えで満足してしまう始末だった。
ただ、セネートの言う通り、アルマは何も知らなくても何とかなる。
「器の使い方はあてくしが知ってるかラ♡」
使い方はセネートが知っているし、使う側もセネートなのだから。
「――スタートっ!」
スタート地点、アルマの後ろにセネートが控える形で、サブマッチは始まった。
「『人間ビーダマ』完全顕現エディションッッ!」
「!? 大変だセネっち! 鎧が球形形態にならないよ!?」
「それでいいの! あてくしを信じて!」
アルマ達が選んだ武遊の技は、2回目と同じで人間ビーダマ。
しかし前回と違って球体へと変形しない身体にアルマが焦るも、セネートは全く問題ないとばかりに、躊躇なくアルマの身体を掴んだ。
そして、セネートは両手でアルマの両腕を掴み、親指の腹をアルマの背中に当て、両腕を前へと突き出す。
これによりアルマは両手を広げ、体の前面を、ターゲットに向けて曝け出すような姿勢となった。
「ほぁぁぁああ! いくワヨいくワヨやっちゃうワヨー! あてくしのォ……全力ゥ……!!」
「おわああああっ!!? お腹がめちゃくちゃ光ってるー!!?」
セネートが気合いを入れるように叫ぶと、その身体からビンク色のオーラが立ち昇って、掴んでいるアルマの身体――正確には、鎧の腹部分にある水晶玉――がバチバチとスパーク音を出しながら、黄金色の閃光を放ち始めた。
そう、完全顕現で変わるのは、何も精霊の肉体強度だけではない。
精霊使いと器、精霊をこの世界につなぎ留める楔であったこの二つは、完全顕現を経ることで。
精霊の力を増幅させる”武器”と化す。
「グラン・ジーニアス・バスターーーー!!!!」
瞬間、水晶球の閃光が極太の光線となり、ターゲット目掛けて一直線に放たれる。
空気を切り裂く轟音、射線上に居たお邪魔グールは瞬く間に蒸発し、ゴール地点のケセラン・パサランもあっという間に、それどころか――
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「「「―――――!!!」」」
観客が、実況が、選手以外の全員が声を上げる間も与えられずに、最後のタイムアタックは終了した。
攻撃の炸裂音は、常人の耳では同時にしか聞こえず。
しかし、その結果は三者三様の、違うものだった。
「……達人同士の戦いってやつは、些細なミスにより勝負が決まる。ガキの頃に聞いた話だが、今回のサブマッチは正にその通りの決着になった」
もうもうと攻撃の影響で砂煙が立ちこめ、結果を聞くために静寂が支配するグラウンドに、デスティの声だけが響き渡る。
「サブマッチの最終結果を、一位から順に発表する!」
「一位! マティアス! 3回目のタイムアタックで最速クリア!」
「や……やったぁっ!」
「二位! ガーネット! 魔弾が外れたことにより、タイムアタック未クリア!」
「ノォ!!? ハ、ハズレ……!」
「そしてアルマとセネート! オメーらの3回目はマティアスより速かった、本来なら一位だったが――」
「――ターゲットどころか結界までぶち破るやつがあるか!! 観客の安全を損なう行為を行ったとして、失格だ!!!」
「「う……うっそおおぉぉぉぉぉ!!?」」




