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17話:ケセラン・パサラン・タイムアタック

 ダルコ武闘学校が誇る広大なグラウンドの中に、マティアス、ガーネット、アルマの3人はいた。


 このグラウンドは上空からみると長方形の形をしていて、長辺を綺麗に三分割するように結界が張られている。


 そうして生まれた三つの空間の中、短辺にあたる端部分にマティアス、ガーネット、アルマの3人が待機していた。

 見ようによっては、結界がレーンのように見えるし、これから端から端まで走って競走をするようにも見えるだろう。


「ルールを説明をするぞ!」


「ケセランパサランタイムアタックは、武闘学校特有のバカ広いグラウンドをふんだんに使った、選手同時参加型のサブマッチだ!」


 デスティが拡声器を持って、グラウンドに声を響かせる。

 どうやら今回のサブマッチは、総合学園で行った1人1回ずつのものではななく、3人同時に行えるものとのこと。


「ルールは非常に単純! サブマッチャーはグラウンドの端からスタートして、最奥に配置された特殊ターゲット――『ケセラン・パサラン』型のグールをどれだけ早く仕留めるかを競ってもらう!」


 そういった途端、観客席上空のあちこちに魔法の発動光がちかちかと輝いた。

 小さな煌めきの中から無数に現れたのは、人の頭くらいのサイズをした真っ黒い毛玉である。

 黄色く輝く目をもったその毛玉は、空中を埃のようにフワフワと漂っていた。

 これが幸運を呼ぶ魔物と名高いケセラン・パサラン、その死体人形グールらしい。


 少しの間、観客達の上空を漂うと、ケセラン・パサランはサラサラと風に飛ばされる砂のように消えていった。

 それと入れ替わるように、フィールド内――ちょうどマティアス達がいる場所から最も離れた奥の方に、ケセラン・パサラン型のターゲットが出現する。こちらはサブマッチャーが倒すべき標的のようだ。


「このケセラン・パサラン自体に耐久力はまるでねーが。道中にはサブマッチャーの進路を妨害する『お邪魔グール』達を大量配備してある」


 マティアス達が居るサブマッチのフィールド内にもまた、魔法の発動光がバチバチと炸裂する。

 光からわらわらと現れたのは、人形のターゲット。

 しかし演舞などに現れた個体とは違い、全身の体色はグレー色をしており、何より顔には大きくバツ印が書かれていて、みるからに『ハズレ』っぽい印象を与えている。

 

 マティアス達が待機している場所の反対側、その最奥にはケセラン・パサランが配置されて、道中を塞ぐように、20体近くのお邪魔グールがうろうろと徘徊する形となった。


「コイツらの耐久は人間と同じだ。掻い潜ってもいいし、諸共薙ぎ倒して突破してもよし、とにかく早くケセラン・パサランを倒せ!」


「これを各サブマッチャーが3回行い、1番早いタイムを出したやつが優勝だ!」


「なお、サブマッチの基本原則により、フィールドを囲う結界をわざと直接攻撃するなりして、観客の安全を脅かす行為は禁止だ。まあんなことするメリットはどこにもねーがな」


 そうしてデスティがルールを発表し終えると、フィールド内で待機しているマティアスとガーネットはむむむと首を捻っていた。


「ナルホド、今回のサブマッチはよりスピード勝負、ってことデスネ」

「距離は結構離れてる。走っていくか、ここから狙い撃ち……はできるかなぁ? 障害物も多いし……」

「あれっ、2人ともこのサブマッチは初めてなの?」


 その様子にアルマは疑問符を浮かべる。2人は経験者だと聞いていたのに、このサブマッチをやるのは初めてのような雰囲気だったからだ。

 アルマの疑問にマティアスは「そうなんですよ」と素直に応じると。


「この種目は初めてです。多分デスティさんが全員初挑戦になるよう気を使ったんだと思います」

「ワタシ達もサブマッチやり出したのは最近デスシ。マダマダ初心者みたいなものデスヨ」

「なーるほど、デスティさんって意外と律儀だねぇ。……ちょっとぐらいアタシに不利があっても良いのに」

「? 何かありましたか?」

「なんでもないよん。正々堂々頑張ろうねー」


 経験差による有利不利は無い、そう聞いたアルマはぼそっと不満を漏らしつつ、適当に誤魔化した。


「さて……あの距離に、邪魔者はたくさん」


 そうして、目の前に広がるお邪魔グールの群れと、最奥で浮いているケセラン・パサランを見やる。


「ねえセネっち」

「なぁに? アルマちゃん」

「余裕だよねん。アタシらなら」

「ええもちろん、余裕のヨッちゃんだワ」


 アルマとセネートはニヤリと笑う。


「さあ待たせたな! 観衆共! これよりケセラン・パサラン・タイムアタック――開始だっ!」


 デスティの声を合図に、サブマッチが始まった。

 アルマは早速、演舞の時と同じようにTの字のポーズで直立する。


「爆転ショットだよセネっち!」

「あいさっ! ちょいと摘んで巻き巻き巻きぃぃ――――!」

「さあアルマ選手と精霊セネートは再び人間ベーゴマの構え! スタート地点から向こうまでぶっ飛ばせる算段があるのかー!?」


「見せてアゲル。武遊チャンピオンは、ベーゴマの遠投もっ…………!」


 びき、びききき……! とセネートの肉体から血管が浮き出て、渾身の溜めが入る。

 先程の演舞とは比べものにならないほどの力の入れようから――


「お手のものヨっ!!!」


 ――砲弾の如き速度で、回転するアルマが撃ち出された。


「うぉぉおおおりゃぁあぁ!!」

「おおーっ! アルマ選手、立ち塞がるお邪魔グールをことごとくガン無視! とゆーか投げた勢いで飛んでっとるでー!」

「大した突破力だ!」


 低空を飛びながら、アルマはお邪魔ターゲットを飛び越えて突き進んでいく。

 お邪魔グールたちが人形である以上、空中というスペースを妨害することは出来ないのだ。


「だが今は投げた勢いで空中にいるが、そのうち地面に接地する。そうなりゃ移動速度は大幅に下がっちまうぞ! どうでるチャンピオン!」

 

 回りながら宙を飛ぶアルマ、しかしデスティの言う通りその軸足は地面へと着く直前であり、しかも目の前にはお邪魔グールが立ちふさがっている。

 このままでは激突は必至。アルマは当然打ち勝てるが、ぶつかった分だけ速度が落ちてしまうのは明白だった。


「なんの! アタシがただ回って投げられてると思ったら大間違いだよん!」


 しかし、アルマは無策ではない。武遊の技は精霊のみならず、人間の側にも存在しているのだ。

 それは、回転するアルマの姿勢。

 回転軸は地面に対して若干斜めであり、ちょうど、前方向であるケセランパサランの方へ倒れこむような傾きをしていた。


「喰らえ、スピニングアタック・イーグル!」


 軸となる両足を一瞬だけ曲げて勢いよく伸ばし、地面を蹴り飛ばす。

 すると当然、アルマの身体は加速しながら大きく前方へ跳躍する。

 ゴガッ! とお邪魔グールがその跳躍に巻き込まれて、錐もみ回転しながら明後日の方向へ撥ね飛ばされる。

 

 ――しかし、アルマの勢いが落ちることはない。

 激突時に落ちる勢いを、跳躍で補強することにより、速度を落とさないまま攻撃することに成功したのだ。


「まぁだまだあぁぁぁ! イーグル! イーグル! イーグルッッ!」

「アルマ選手! ぴょんぴょんとステップを踏みながら、突き進んでいくぅー!!」

「接地による速度減少を最小限にして、最速を維持したまま突っ込むか!」


 まるで水面を跳ねて進む水切り石の如く、アルマは回転しながらグラウンドを跳ね飛んで行く。

 まっすぐ、障害物は力強く蹴散らし、そしてついにケセランパサランへと到達し。


「これで――おしまいっ!」


 パコォン! と子気味良い音を立てて、ケセランパサランはアルマの回転する腕に弾き飛ばされていった。

 打ち出された時とそう変わらない勢いのままの衝突に、脆いケセランパサランが耐えられる訳もなく、結界にぶつかったのち塵と化していく。


 目標を撃破したのを確認して、アルマは徐々に回転を落としていき、数秒の後に停止した。

 無論、全くの無傷である。目を回している様子もない。


「ふぅー。どうよ?」


 我ながら中々いい速度で、しかも最短距離で突っ切れた。もう一度やっても、これより速くは難しいかもしれない。

 アルマはそう実感しながら、実況席の方へ顔を向けて――


「アルマ選手が『最後に(・・・)』ケセランパサランを撃破! タイムは18.6秒で、一回目の競技が終わったで!」

「へ、最後?」


 ――驚愕することとなる。


「現在の順位は一位ガーネット選手の5.2秒、二位マティアス選手が8.5秒、三位アルマ選手が18.6秒や!」


「……えっ?」


 自身がまさか、ぶっちぎりの最下位であるという事実に。

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