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16話:激戦サブマッチ! 武闘学校VS総合学園

「ダルコ武闘学校の全校生徒諸君! 目覚めたようだな! 俺はダルコ総合学園から来た、サブマッチ振興委員会総会長のデスティだ!」


 いままで気絶していた生徒達を覚醒させたのは、けたたましく、悪魔の如き邪悪に満ちた声だった。

 目を開けてみると、自分たちは校庭とは段違いに広い場所にいて、白くて硬い、まるで骨で出来ているようなベンチにずらりと座らされていることに気づく。


 さらに見渡してみれば、何やら実況席と立札がしてある場所があって、白髪の男が拡声器を手になにやら喋っているではないか。


「な、なんだアイツ!? てかここは……グラウンドか?」

「俺達、いつの間にか座らされてるぞ?」


「下剋上をお楽しみの最中にわりぃが、中断だ。今からテメーらにはサバイブ・マッチという競技を布教するため、観客になってもらった!」


 デスティの言葉を聞き、今の自分たちの状況を改めて確認した生徒達は、にわかにざわつき始める。


 自分たちは満身創痍の四天王に襲い掛かろうとして、会長に蹴散らされた――そこまでは覚えている。

 どうやら気絶している最中に、学校の裏手にある運動用グラウンドまで運ばれたらしい。

 そうしてグラウンドを取り囲むように、自分たちはベンチに座らされているようだった。


 そして周囲を見渡しても、同じ境遇の生徒達がいるだけで、生徒達が追っていた四天王の姿は、影も形もなかった。


「サバイブ・マッチ、たしか先公が近いうちにそんなイベントをやるって言ってたよーな気がするぞ」

「やってられっかよ! 四天王たちが弱ってる今、下剋上のチャンスなんだぜ!?」


 特に拘束などはされておらず、座っているだけなので「抜け出して四天王を倒せるかもしれない!」と、いまだ下剋上を諦めていない一部生徒は、デスティの声を無視し四天王を探すべく席を立とうとしていたが……。


「なお観客席および実況席は安全対策のため結界で覆ってある。オメーらはサブマッチ終了まで大人しく観戦してもらうぜ」


 見計らったように、デスティに釘を刺されてしまった。

 見てみれば、自分たちを取り囲むように結界が張られている。


「結界、実況担当のジュンコや! この結界は体調が悪い人とかトイレに行きたい人は出れるようになっとるから、そこんとこは安心してな!」


 実況席から、ジュンコと名乗った黒髪の少女が結界について補足説明する。

 どうにも、余程の用事がない限り外には出してもらえないらしい。


「すっげ……こんな分厚くてデカい結界……初めて見た」

「ぶ、ぶちやぶるか?」

「やめとこうぜ、なんか、全力でやっても壊れるどころかこっちが怪我しそうだ……」


 破るために攻撃をしようにも、結界は余りにも巨大で、そして観客席と結界の距離は近かった。

 激しい攻撃をすれば周囲の人間に被害が出てしまうだろう、下手をすれば攻撃が跳ね返って自分が怪我をするかもしれない。


「はいどーも生徒会長のアルマでーす。このデスティさんの言う通り、今日はサブマッチをみんなで楽しむ日にしました。みんな大人しく見ててねー。これは会長命令でもあるよん」


 追い討ちをかけるように、アルマもまた実況席で拡声器を持ちながら、生徒達に大人しく観戦するよう明言した。

 会長命令という事もあって大半の生徒達は大人しく、一部の気性の荒い生徒達も渋々ながらデスティの言うことに従うのであった。



「っくくく、不満たらたらって様子だが退屈はさせねぇ! まずテメーらにはサブマッチの基本的なルール説明と共に、総合学園が誇るトップサブマッチャーの演武を見てもらう!! ジュンコ、選手の紹介だ!!」

「任しとき!」


 デスティがグラウンド中央へ向けて指をさす。

 そこには生徒達にとって、見慣れない二人の姿が立っていた。


「ハナを飾るはこのガンマン! 銃の本場アメスタンからやってきた! 一撃必殺の弾丸バラまく『魔弾の射手(フライシュッツ)』! ガーネット・トウニー!」

「『ここに居るお客さん達は幸運だ。銃を抜いた俺を見て、生きて帰れるんだからな』! フゥーっ、決まりマシタ……!」


 1人は、茶色い中折れ帽と外套が目立つ、西国アメスタンの伝統衣装に身を包んだガーネット。


「お次は総合学園最強のサブマッチャー! あらゆる魔物へ妖怪変化! 極めた人外格闘技に死角なしの『千変万化シェイプシフター』! マティアス・リーヴィング!」

「よろしくお願いします!」


 もう1人は、白い上衣に黒い袴――千変万化流の道着を着用した、マティアスである。


「ず、随分レベルたけぇ女子だな……」

「ちっこいほうは男の子だよね?」

「こいつらがトップなのか? 女子の方はカッコいい服着てるけど、もう片方はなんか普通だな」


 ざわざわと生徒達が騒ぎ始める。

 見た目が対極に位置しているマティアスとガーネット、この2人が頂点を名乗るというサブマッチとは一体どんな競技なのか、少々興味が湧いてきた――と言ったところだろう。

 つかみは上々、そう判断したデスティはアルマと一緒に実況席へと移動する。


「サブマッチの基本ルールは実に簡単だ! 死霊魔法で作り上げた、この死体人形(グール)がターゲット! こいつをどれだけ素早くぶち壊せるかを競う!」


 そして、マティアスとガーネットの前方に、2体の人型ターゲットを配置した。


「グールっていうか、でっかいゴム人形だなありゃ」

「うーん、見た目はちょい不気味だけど……頑丈そうには見えん」

「でくの坊が相手かよ、あんなの簡単じゃん」


 人型ターゲットは細やかな造形は皆無の、真っ赤でのっぺりとした外見をしているが、威圧感はさして感じられない。

 武闘学校の生徒達は「あの程度なら自分たちでも簡単に壊せる」と思っていたのだが…。


「さあマティアス! ガーネット! オメーらの力を披露してやれ!」


 デスティの一声で、マティアスは一礼し、ガーネットは虚空から銃を取り出した。


「千変万化流、腕変形、蠍獅(ふし)(マンティコア)の型」


 マティアスは一瞬だけ目を瞑り、想像する。

 それは密林に潜む、絶対強者。

 炎の如きたてがみをゆらめかせ、黄金に輝く瞳で人を狙い、喰らう魔獣。

 空を舞う一対の大翼、獲物を軽々と粉砕する四肢、鋭利で頑強な牙、あらゆる部位が恐怖の象徴になりうるが――


 ――この右腕は、魔獣マンティアにて最も恐れられている、万死の毒尾である。


毒腕穿孔どくわんせんこう!」


 瞬間、マティアスの右腕が、肩から消失する。

 そして右肩を思いっきり引き、それから大きく前へ突き出す。

 消えてしまった右腕を、鞭のように降るような動作の直後――


「ボンバー・バレット!」


 ガーネットは銃を構え、引き金を引く。

 ズゴンッッ!! と、重く強烈な発砲音が大気を震わせた。

 直後にターゲットの身体が吹き飛び、そして――


 ――ターゲットの一体は、突如として現れた長い毒尾に、胸部を丸ごと貫通されていて。

 ――もう一体は、凄まじい爆炎と共に、粉々に吹き飛んでしまっていた。



「……ちょ、ちょっとあれ、ヤバくね?」

「火力おかしいんじゃねーの……!?」

「あれマンティコアの尻尾だよな、触っただけで死ぬ毒が出るって言う……」


 がやがやと騒いでいた生徒達は、皆一様に息を呑んでいた。

 かたや触れたら即死の毒を秘めた尻尾で見るからな致命傷を負わせ、もう片方は当てるだけでもタダでは済まない弾丸で、当たったら爆殺する魔法陣を仕込んでいた。


「殺す気満々じゃん……!?」


 攻撃に込められた殺意が、違いすぎる。

 彼らは、下剋上であっても相手を殺さないよう戦う自分達では決して出来ない攻撃に、圧倒されていた。


「サブマッチに、容赦は必要ねぇ!」


 生徒達の動揺をぶち破るように、デスティは声を大にして言った。


「サブマッチで相手をすんのは死霊魔法で作った死体だ! すでに死んでるもんならどこまでも壊していい! このとーり生きた人間相手じゃ使えない技だろーがバシバシ使え!」


「人間相手じゃ、使えない技……」

「殺しちまう技も、自由に使っていいってことか……!?」


 デスティの言葉を聞いて、武闘学校の生徒達は再びざわめきを取り戻す。

 サブマッチなら、自分たちもあのように全力で技を振るっていいのか、と。



「くく……掴みは上々だ」

「うはー、デスティさんわっるい顔してるぅ」

「ウケがいいに越した事はねーからな。なんせこれから先、サブマッチは戦闘行為に取って代わるんだ」

「ほんと良く考えたわねぇ。下剋上の掟を消すんじゃなくって、新しく『サブマッチを全ての戦闘行為へ代わるものとする』っていう掟を作るなんて」

「いやー消すより増やす方が簡単なのは盲点だった」


 生徒達の興味がサブマッチに釘付けになっていくことを察知してデスティは邪悪そうに口を歪め、アルマとセネートは感心したとばかりに、うんうんと頷く。

 そう、デスティはサブマッチを校則に取り入れることで、校内の戦闘をコントロールしようと提案したのだった。


「サブマッチは本来、専用のマジックアイテムで場を整えなきゃ開催できねえからな。これで四六時中戦闘が起きる事もなくなるし、怪我人の心配もしなくていいってワケだ」


 当初の目的通り武闘学校にサブマッチを広めることができるし、武闘学校側は相次ぐ戦闘行為にブレーキをかけることができる。

 たまたまとはいえ、丁度いい解決策が見つかったのは幸運だったと言えよう。


「あーっとデスティさん、そのサブマッチに必要なマジックアイテムってどう用意したらいいんだっけ?」

「心配すんな、元々武闘学校に贈呈する予定だ」

「んまー太っ腹ねぇ! でもそっちのお金とか大丈夫なの?」

「こいつ金持ちやし気にせんでえーよ。いっつもこの調子であちこちマジックアイテム配っとるんや」

「いやー、何から何までお世話になりますー」


 お礼を言うアルマに対し、デスティは「そう感謝する必要はねーよ」と言って邪悪そうに笑うのであった。


「とぉころでぇー。こーんな面白そうなお祭り、トーゼンあてくし達も遊んでいいのよねぇー?」

「あたり前だ。四天王は寝不足、副会長は事務作業で知恵熱、この学校で戦える奴がまとめてぶっ倒れてるじゃねーか。オメーら以外に誰があの二人の相手ができるんだ?」


 猫なで声ですり寄るセネートに、デスティはきっぱりと言い放つ。

 そう、このサブマッチは総合学園と武闘学校の合同試合となる。

 武闘学校における実力者がまとめて保健室へと担ぎ込まれている今、マティアス達とサブマッチで張り合えるのはアルマとセネートのコンビだけなのであった。


「はー、そりゃ相手するけどさ」

「っくくく、演舞を見て自信を無くしたか?」

「んにゃ、直接戦えないのが勿体ないなぁー……。あの二人めちゃつよじゃん? 魔弾とか毒針とか、アタシ直接くらってみたいぐらいなんだけど……」

「……よほど硬さに自信があるか自殺願望でもあんのか? んな物騒なことしなくても、サブマッチならゾクゾクする勝負ができる」


 マティアスとガーネットの演舞をみてなお、アルマの余裕は崩れない。

 むしろ二人が見せた技をみてキラキラと目を輝かせているようだった。


「おら、演舞に行ってこい。やり方は今見せた通りだ」

「あいあいさー」

「見せてもらうぜ、アヴェルニア史上最強と謳われた武遊チャンピオンの実力をよ」


 そうしてアルマたちは実況席を立ち、自らも演舞へ参加しに行ったのであった。



「お次は、2人の挑戦を受けて立った武闘学校最強にして最年少の生徒会長! アルマ・ラ・ジーンと精霊セネートの演舞を始めるで!」


 ジュンコの実況がグラウンドに響き渡って、生徒達の間に熱気が高まっていく。

 マティアス達の攻撃を目の当たりにしても、「俺たちの会長だって負けてない」と言わんばかりの様子であった。


「アルマさん、セネートさん。演舞、頑張ってください」

「遠慮は不要デスヨ!」

「……へ? あ、うん。ありがと」

「んまー2人ともありがとー! あてくし、張り切っちゃうからよく見ててネー!」


 アルマとセネートがフィールド内へ向かう途中、実況席へ戻ろうとするマティアス達と鉢合わせた。

 対戦相手に無邪気に応援されて、セネートは2人に投げキッスを、そしてアルマは少々呆気に取られた。


「応援、されちゃったワネ。これから競い合うっていうのに」

「うーん。この公平感というか、いかにも健全な競争って感じ、なんだか『武遊大会』を思い出すなぁ……」

「そーねぇ」


 相手を蹴落すために戦う下剋上の殺伐さとかけ離れた、スポーツのようなサブマッチの雰囲気にアルマは遠い故郷で行われていた武遊大会という競技を思い出していた。


 それは精霊と人間のコンビが、技と技をぶつけ合い、最高の精霊使いを決める大会。

 大戦時に生まれた魔物を滅ぼすための技を、競技という形で見事に昇華してみせたもの。


 そしてアルマが、満足できないままに頂点の座を手に入れてしまった、苦い思い出でもある。


「サブマッチは、楽しめると良いわね」

「……うん、そうだね」


 アルマは思う。

 ――願わくば、サブマッチは誰もが満足できる結果になることを。



「さあ死体人形は用意した! 強度は人間とほぼ同じ、オメーの好きにぶっ壊してみやがれ!」


 デスティの声を共に、アルマ達の目の前に全身グレー色をした死体人形がぬるりと立ち塞がる。


「これをぶち壊して、力をお披露目するんだね」

「どう壊しちゃう? あてくしたちの実力は、学校のみんなが知るところなワケだけど」

「もち、全力で! せっかくお客さん達がいるわけだし、驚かせちゃおう!」


 セネートが耳打ちすると、アルマはにぃ、とイタズラを思いついたように笑った。


「オッケーよアルマちゃん! あてくしの器、纏ってちょーだい!」

「ランプラーアーマー、装・着!」


 アルマは首から下げた、ピンクの宝石が埋め込まれたネックレスを右手で握りしめる。

 すると、ネックレスは眩い光を放って、指の隙間から漏れた光がみるみるアルマを包んでいき――。


「おおーっと!? アルマ選手突然光ったと思ったら、全身甲冑姿で現れたー!」


 ジュンコが実況する通り、アルマは紫を基調とした、身体にピッチリ張り付くスタイルの風変わりな鎧に全身を包んでいた。

 

「解説のデスティ、今のは一体なんなんや!?」

「アレが精霊使いの戦闘態勢だ。精霊使いはああやって精霊を宿らせた『器』っつー物を武器にして戦う。つまりあの鎧が精霊セネートが宿る器にして、アルマの武器ってわけだ。普段はネックレスの形にしてるようだがな」

「ほえー。ってあの鎧が武器?」


 ジュンコはアルマの姿を見て、首を傾げた。

 確かに彼女は全身を鎧で包み込んでいるが、その両手には何も握られていない。

 防具を着込んでいるだけで、アルマは丸腰なのである。


「他に武器らしいもんは見当たらんし、アルマ選手は素手で戦うんやろか?」

「ノンノン。近頃の精霊と精霊使いはそんな野蛮な戦い方しないのよ!」


 ジュンコの疑問に応えたセネートは、ふんぬ、と気合いを入れるようにポージングを決める。

 するとセネートの身体が、空気を入れた風船のようにモリモリと膨れ上がっていって……。


「おおーっと!? 精霊セネートの肉体が巨大化したぁ!?」

「最初に見た時と同じくらいデカイデス……」

「ちょ、ちょっと迫力が凄いですね……人間くらい簡単に摘み上げられそう」


 山の如き巨体となったセネート。ジュンコだけでなく、マティアスとガーネットも思わずたじろぐ。


「コレが、アタシ達の戦闘態勢ってヤツだよん」

「あてくしたちのコンビネーション、見せてあげるワ!」


 彼女達は精霊使いと精霊のコンビ。

 戦うのはアルマだけではなく、相棒であるセネートも当然戦いに参加するのだ。


「なるほど、精霊使いのアルマさんは鎧で守りを固めながら補助、精霊のセネートさんは攻撃に回る……そんな感じでしょうか」

「オゥ! 魔物使いと同じデスネ!」


 2人の戦闘態勢を見たマティアスは、おおよその戦闘スタイルを予想する。

 たしかに、屈強かつ巨大なセネートは見るからに強そうに見えるし、頑丈なアルマが補助を行うならそうそう妨害できないだろう。



でよ! あてくし愛用のストリングちゃんっっ!」


 ――そしてついに、アルマ達が動き出した。

 セネートは右手から白い煙をボフン! と発生させると、煙はみるみるうちに一つの形へとまとまり、それは真白い一本のロープへと変化する。


「セネっち! アタシの準備は万全だよっ!」


 対するアルマは、両手をバッと水平に広げて直立の姿勢。

 それはそれは見事な『Tティー』の字であった。


「分かったわアルマちゃん! ちょいと摘んで巻き巻き巻き――!」

「おおーっと精霊セネートはアルマ選手を掴んで、取り出した白いロープをアルマ選手の身体に巻き付けて……巻き付けて……何をしとるんやー!!?」

「え、ええと……何をしてるんでしょうか……?」

「アルマもTの字のママじっとしてマスネ……?」


 そこからが何かおかしかった、いやおかしいだけで言えばアルマの姿勢からそうだったのだが。

 セネートはアルマをひょいと片手で摘むと、生み出したロープでアルマの身体をぐるぐると巻き出したのである。

 アルマはT字姿勢で無抵抗のまま、頭を押さえつけられるように縦に一巻き、そしてつま先から胸へ登るようにぐるぐると横巻に巻き上げられていった。


「精霊セネート、ロープでぐるぐる巻きにしたアルマ選手を……右手で持ったまんま、独特の姿勢で左脇の下にとどめとる! わからん!? 一体なにをするつもりなんや!? ウチには全然わからん!?」

「ウフフフ! 第200回『武遊大会』チャンピオンの爆転ショット、魅せてア・ゲ・ル♡」


 バチコーンとウィンクを1発ぶちかましてから、セネートの表情がクワッとこわばった。

 真剣そのものの眼差しは、ただ一線、目の前に立つターゲットへと注がれる。


 そして、一瞬の間の後に、アルマを摘む右手が。


「3(スリィ)……2(ツー)……1(ワン)ッ! GO!!! ショットォォォォーーーーー!!!!」

「アルマ選手がぶん投げられたーーーーっ!!?

「「えええええええ!!?」」


 ――ぶぉんっ! と居合切りの如き速度を持って振り抜かれた。

 当然、右手に摘んだアルマはとんでもない速度で放り投げられる。


「ただ投げただけじゃねぇ! アルマに巻き付けたロープが解かれてって、とんでもねー回転を生み出してやがる!」


 しかしそれだけに留まらない。  

 デスティが指摘する通り、セネートは放り投げたアルマは巻かれたロープによって、超速回転を伴っていた。

 その怒涛の勢いは最早、人間竜巻といって差し支えないだろう。

 莫大な回転力を保持したまま、アルマは真っ直ぐターゲットへと突き進み。


「「くらえーっ! これがアタシ(あてくし)達のっ、フェアリアル・フィニッシュっっ!!!」」


 ゴガギッ!! という鈍い衝突音がフィールドに轟いた。

 回転するアルマの突撃を正面から受けたターゲットは、まるで小石を飛ばすかのように空中へと放り上げられ、結界の壁面へ激突したのだった。


「な、なななんと、ターゲットの四肢が! バラッバラになって吹き飛んでったー! これは凄まじい威力や! 絵面が理解しきれんけど!! とにかく凄い威力!!」

「な、ななな……!?」

「トンデモナイものを見てシマイマシタ……!」


 あまりにも常識はずれな光景を目の当たりにして、マティアス達は空いた口が塞がらなかった。

 それも仕方のない事である、まさか精霊が精霊使いを独楽コマみたいに投げつけて攻撃するなど、予測できるものではない。


「か、解説のデスティ! 今の、解説できるか!?」

「くくくくっ、まかせろ」


 マティアス達の内ただ一人、デスティだけは頼もしい事に知っているらしい。

 待ってましたとばかりに彼は解説を始めた。


「あれが『武遊』だ。精霊が魔物と安全に(・・・)戦うため精霊使いが考案した、最新、最高効率を誇る超高等戦術! 精霊使いはああやって、精霊に武器として使われながら戦う!」

「いやいやいやアレのどこが安全や!? どこがっ!?」

「そりゃあ精霊にとって安全だ。ほら、セネートはアルマを投げるだけで、ターゲットを遠くから安全に仕留めてるだろ」

「ふつう精霊使いを守るもんちゃうんか!?」


 その解説に即ツッコミを入れるジュンコ。まあ仕方ない、ジュンコの扱われ方が乱暴すぎるものだから、いくら精霊が安全でもアルマが安全に見えないのだから。

 そんなジュンコの言葉に対し、デスティは「違うな」と答えた。


「精霊っつーのはな、力は強いが、実体化するとめちゃくちゃ打たれ弱くなる。ちょっとした攻撃……例えば人間が死なないような捕縛用の魔弾でも致命傷だ」


「だが一方で精霊使い達は、武闘の国ムロザの人間と交わったことで、丈夫な武具の作り方を学び、極端に頑丈な人間が生まれるようになった……アルマみてーにな」


「そして、精霊は実体化しなくても『自分の宿った器』と『相棒』だけは触れる」


「だから精霊が実体化して戦うより、実体化せず頑丈な人間を武器にして戦った方が安全で強いと気付いた結果、武遊が生まれたわけだ」

「アカン! 合理的なんは聞いてて分かるのに絵面のせいで全然納得できん!」

「ちなみに武遊大会ってのは、精霊があんな感じで人間をぶつけ合って勝敗を決める競技らしい」

「精霊は人間をオモチャかなんかと思うとるんか!?」


 言われてみれば確かに有効な戦術なのかもしれなかったが、ジュンコはどうしても先ほど見た光景のせいで信用できないようだった。


「まーまージュンコさん。アタシ普通に無傷だから。回転もいっつもやってるお陰で、目は全然回らないんだよん」

「そーそー、鎧の効果も勿論あるけど、アルマちゃんの硬さは格別よー。なんたってアヴェルニアの武遊大会でも最も激しい『人間ベーゴマ部門』でも、傷一つ負うことなく完勝してきたんだから♡」


 だが現に、回転を終えたアルマには傷一つなくぴんぴんした様子である。


「……精霊は実体化しないと物に触れない……ってことは――」


 デスティの解説を聞いて、マティアスは1人考え込んでいた。

 ――嫌な予感がしたのである。

 武遊という奇抜な戦術には、恐るべき真骨頂が秘められているのではないか、と。


「あの、デスティさん。もしかしてですけど、精霊って実体化しなかったらどんな攻撃もすり抜けちゃったり……しますか?」

「気付いたか、その通りだ。実体化してねぇ精霊には、器と相棒の人間以外は一切干渉できねえ」

「そ、それって……!」


 予感が的中して、マティアスは目を見開いた。


「セネートさんには攻撃が当たらない、アルマさんには攻撃が当たっても効かない……」

「ソレ、どーやって勝つんデスカ……?」

「勝てる奴がいなかったから、アルマとセネートは故郷でチャンピオンで、武闘学校で生徒会長なんだろーな」


 セネートが実体化せずに戦う以上、対戦相手が攻撃できるのはアルマのみ。

 しかしそのアルマは、魔物を屠る技を4つ同時に受けてなお無傷でいられるほど頑丈で。

 つまるところ武遊とは、無敵の精霊が、無敵の精霊使い(武器)を持って、一方的に暴れ回る法外な戦法なのであった。 


「くっくくく……! だが安心しな! 今日オメーらがやんのは殺し合いじゃあねぇ、サブマッチだ!」


 戦慄するマティアス達を揶揄うように、デスティは笑いながら、これから始めるサブマッチのタイトルを告げる。


「競技名は――『幸運に向かって走れ! ケセランパサラン・タイムアタック』だ!』

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