15話:何事もサブマッチで解決すんのがイチバンだ
「いやー危ないとこだったね四天王諸君。アタシがこなかったら今頃……ってありゃりゃ? みんな寝ちゃってる」
アルマと名乗ったその少女は、近くで伏せている四天王達に対し気軽に話しかけるも、反応が無い。
どうした事かと注目して、四天王達が寝ている事に気が付いたようだった。
「しょうがないわネ。あの子達、ここ最近ずっと群がられっぱなしだったもの」
「なーんでみんなアタシを狙わないかなぁ。アタシ倒したら1番なのに」
ぬっ、とアルマの後ろから、学校を見下ろしていたピンク色の巨人が音もなく現れた。
しかし巨人のサイズが先ほどと全く違っている、山ほどあろうかという体躯はどこへやら、大人の二倍程度の背丈へと変化していたのだ。
慣れたものなのか彼女は驚きもせずにそのまま会話を続けているが、マティアス達は流石に驚かざるを得なかった。
「……!? さっきの巨人……だけど、小さくなってる?」
「ソレでも人にしては大きいデスネ」
「ありゃ『精霊』だな、幻影の身体を持つ神聖な種族で、見かけの大きさを自由に変えることができる。……だとすると、あのアルマってやつは精霊使いか」
「「「精霊……」」」
マティアス達は前方にいる、ピンク色のマッチョ巨人を改めて見た。
デスティ曰く、あのピンクの巨人は『精霊』らしい。
その存在は学校の授業でも聞くこともあり、曰く人間に味方する数少ない異種族で、火や水などの特徴を持つ、見目麗しい存在だと教えられていたのだが……。
「な、なんていうか、こう、ずいぶん屈強というか」
「濃ゆいとイイマスカ……」
「は、初めて精霊見たけど、イメージと全然ちゃう……」
「まー見た目なんて人間と同じで千差万別だからな。探せばイメージ通りのヤツもいるとは思うが」
それまでの精霊に対するイメージがガラガラと壊れてしまった気がしてならない。
まあ『肉体美』として見るなら、セネートのバキバキの筋肉は美しいといってもいいかもしれないが。
「やあやあ、そこのアナタたちー! ひょっとして、うちに用のあるお客さんー?」
「ああそうだ。俺はデスティ。ダルコ総合学校から、サバイブ・マッチっつー競技を広めにここへやって来た!」
「サバイブ・マッチ? あーなんか先生達がそんなこと言ってたっけ……」
そうやって話していると、アルマはマティアス達の方へ話しかけて来た。
距離が少々あるので若干声を大きくしてデスティが応対すると、彼女はこちらへ駆け寄ってくる。
「まあとにかく、初めましてだねん。アタシはダルコ武闘学校の1年生で生徒会長をやってます、アルマ・ラ・ジーンだよ。こっちのピンクいのは相棒の精霊で……」
「あてくしはこの学校で最も美しいと評判の大精霊セネートよ。ヨロシクネ♡」
((((武闘学校には精霊が一人しか居ないんだなぁ……)のか……)やろなぁ……)デスネ……)
ひょこ、と右手を軽く上げて挨拶するアルマと、バチコーン、と片目を瞑ってウィンクするセネート。
マティアス達はひとまず、彼女達に軽く自己紹介をすることにした。
「――えーっと、デスティさんにマティアス君、ガーネットちゃんにジュンコさんね、うん覚えた」
「バッチシ記憶したわ!」
そうして自己紹介を交わし合った後、アルマは「ちょっちゴメンなんだけど」とマティアス達に断りを入れた。
「とりあえず色々話しする前に、四天王の皆を保健室に運んでいい? いやーこのまんま放置してたらいつ他の生徒が襲ってくるか分からないしさ」
「そうだな、話どころじゃなくなる」
「いやーごめんねー来て早々見苦しいの見せちゃって、この学校けっこう血気盛んでね」
「けっこうってレベルじゃないと思いますよ……」
今現在の状況は、アルマ達が蹴散らした生徒達が呻き声と共に倒れ伏していて、四天王もまた睡眠不足でノックダウンしているのである。
悠長にサブマッチの話をしている場合ではないのは確かだったので、デスティ達は素直に同意する。
「あ、そうだ、皆さんを運ぶの手伝いますよ!」
「だいじょぶだいじょぶ。こう見えて力ある方だし、お客さんにそんなことさせられないよん」
「まーマティアスちゃんったら健気でかわいい! でもここはあてくしに任せて、精霊は実体がないけど、アルマちゃんの力があれば物に触れるわ!」
「か、かわいい……」
「セネっちさんきゅ。デスティさん達はとりあえず応接室で待っててよ、学校入ってすぐ右にあるからさ!」
マティアスの協力をお客さんだからという理由で断り、アルマ達は再び四天王達の元へ戻って行った。
そしてセネートに可愛いと言われ、マティアスは背筋に寒気を覚えると同時に地味に傷ついた。男としてはやはりカッコいいと言われたいのである。
「……なんというか、いたって普通の人っぽいよね、アルマさんって」
「ハイ、武闘学校の生徒会長っていうくらいダカラ、もっとムキムキでバキバキの大男かと思ってマシタ」
「ぶっちゃけ逆よなあの二人。アルマちゃん小さくてかわええし、あっちのほうが精霊って言った方が通じそうや」
四天王達や他生徒達よりよっぽど常識的な対応をされて、マティアス達は拍子抜けする。
「くくっ、だが生徒会長はアルマだ、武闘学校の誰より強いのは間違いねー。それにあの精霊は……」
ただ一人デスティだけが、とても愉快そうに笑っているのであった。
「それじゃ運びますか。……でも起きてくれた方が楽だし、先に起こすだけ起こしてみよっか」
「了解よアルマちゃん! さあ実体化してちょうだい! ヴェルゼルちゃんやアタスロットちゃんをあてくしの熱いベーゼッッッで目覚めさせてあげるワ!」
「うん、それは2人が永眠しそうだからセネっちは待機ね」
「そ、そんなぁ~!?」
並んで寝ている四天王の傍まできたアルマは、とりあえずセネートを待機させて、一番近いヴェルゼルを起こそうとする。
「おーいヴェルゼル、起きて起きて。今のうちに保健室いくよん」
「ぬ、むむぅ……。か、会長……?」
「あ、起きた」
ぺちぺち、と肩を叩き、頭を軽く揺さぶる。
ヴェルゼルはかなりの大柄な男なのでびくともしないように見えたが、幸い眠りが浅かったらしく割とあっさり起きた。
「な、なぜここに、それにこの有様は」
「どーしてって、そりゃ学生だから学校にはいるし、会長だから部下のピンチに駆けつけるでしょ」
「助けて下さったのですか……ありがとうございます」
「うん。それでみんな保健室で休もうよ。起きれる人は起こして、無理な人は運ぶってことで。お客さんはアタシが対応するからさ」
「……承知しました。我がみなを起こしてきますので、少々お待ちください」
アルマが来たのが意外だったのか、ヴェルゼルは起きて早々に動揺で覚醒したらしい。
直ぐに一礼すると、彼は残りの三人を起こしにかかった。
「ローモック、ソニヤーン、アタスロット、起きるんだ。会長がおいでなられた」
「ごわぁ……もう朝でごわすか……!? あっ、か、会長でごわす!?」
「むにゃ……なんだいもうちょっと……んん!?」
「んあ……? まだねむ……って会長とセネート!?」
ヴェルゼルに起こされた他の三人もまた、アルマの姿に驚きながら覚醒する。
そして――
「いっ一体全体どうなってるでごわすか」
「……見りゃわかるだろ、会長がここに来て、アタイら追っかけてきた生徒は全滅してる」
「オレたち会長に助けられたってワケか」
「その通りだ。……みな、備えろ、好機だ」
――ヴェルゼルの一声で、四天王全員の目付きが変わった。
「みんなおはよー、夕方だけど。危なかったね、アタシが助けに入らなかったらボコボコにされてたよ?」
「ねえねえアルマちゃーん、おはようのハグは? ハグならいいでしょ?」
「だーめ、みんな弱ってるんだから」
「ケチー」
アルマは四天王たちに気に安く話しかける、彼らの違和感には気付かないまま。
精霊セネートもまた主人であるアルマの命令で、少し離れた所で待機したままだ。
「うむ、かたじけない――
「いやあ助かったでごわすなぁ――
「今回ばかりは助けられたよ――
「さすが俺たちの会長だね――
四天王たちは声こそ普通の声音で返事をする。
しかし、アルマからは見えないように、各々の武器に手を伸ばし。
「「「「――――くたばれぇええええええええええ!!!!!」」」」
雄叫びと共に武器を抜き、アルマへ向けて思い切り振り抜いた。
眩い閃光と大爆音が場の空気を揺らし、魔法をぶつけ合うことで生まれた柱の形をした光に、アルマは声を出す間もないままに飲まれていった。
「「!?」」
「な、なんや!? 四人がかりで会長ぶっ飛ばしおったーーーーー!!!?」
一部始終を目撃したマティアス達。
マティアスとガーネットは言葉が出ないほど仰天し、ジュンコはありえない光景に思わずツッコミながら叫んだ。
四天王が繰り出したのはただの攻撃ではない、その武器は抜かれた瞬間から何かしらの魔法により、雷や炎を纏っていた。
それは明らかに武術と魔法を混合した、魔物に振るうべき力。
間違っても人間相手にぶっ放すものではない。
そう、四天王達が実行しマティアス達が目撃したのは殺人と言っていいだろう――
「う、嘘でごわす……!?」
「くそったれめ……こ、ここまで、頑丈だなんて……」
「だ、だめだ、もう力……使い、きっちまった――」
「不意打ちとは考えたね、ちょっとゾクっときたよ。おかげで……制服がボロボロになっちゃった」
――アルマが死んでいれば、の話だったが。
煙の中から聞こえてくるアルマの声は思った以上に元気で、むしろどこか嬉しそうな声音だった。
逆に四天王達は力を振り絞った攻撃のせいで、ヴェルゼルをのぞいた3人がその場で力尽きてしまっている始末。
「そ、そんな……我ら渾身の技を、全て重ねた一撃をっ……?!」
「セネっち、このまま全裸は恥ずかしいから早く服戻して」
「はいはい。残念ね四天王ちゃん達、アルマちゃんに勝ちたかったら不意打ちするより、今の10倍の威力を持ってくきたら良かったわね」
ペチン、とセネートが指を弾いた途端、煙の中が一瞬だけ発光する。
煙があっという間に晴れていって、そこにはアルマが全く無傷の状態で立っているのであった。
「ほんと……そのくらいあったら、もっと楽しめたかなぁ」
そうしてポツリとつぶやいたアルマの声は、先程までの懐っこい印象から掛け離れて、冷たく乾いていた。
「な、何が起きたんや……!? アルマちゃんは無傷やし攻撃が当たらんかったんか?」
「イイエ、攻撃は当たってマシタ、アルマは何もしてマセン……。見えたから間違いないデス」
「攻撃を無抵抗で受けてなお、アルマには毛程も効いてなかった――ってことだな。度を越して頑丈な肉体、戦士型の生まれだとしてもあそこ迄はそうそういねーぞ」
四天王たちの攻撃がアルマの身体に傷一つ付けられなかったのは、信じられない事に彼女の身体が異常なまでに頑丈だからという、それだけの理由らしい。
「とっ、というか! みなさん何をしてるんですか!? アルマさんは皆さんを助けてくれたんですよっ!?」
「そんな気にしなくていいってマティアスくん。見てのとーり、アタシ全然効いてないから」
「そうみたいですけどっ。でも……!」
一同がアルマの頑丈さに驚いている中、マティアスはただ一人四天王たちの凶行を問いただしていた。
そう、アルマは彼らを助けに来たはずである、事実、襲いかかって来た生徒を蹴散らして、彼らを保健室まで連れて行こうとしていた。
にもかかわらず、四天王達は結託しアルマへ襲いかかったのだ――魔物に向けるべき力を使って。
「あんな技、人に向けて良いわけないでしょう!」
まるで効いていなかったとしても、アルマが裏切りを何とも思っていなくとも、マティアスはその事実を見過ごせなかったのである。
「そこまでして、アルマさんを倒す意味なんて」
「――意味はあるっ! そもそも『下剋上の掟』は現会長であるこやつが作った掟だ!! 今の副会長から会長の座を奪い拷問にかけ! こうして武闘学校が戦乱の有様になっているのも! 全てはこやつが元凶なのだ!!」
「「「!?」」」
「こやつを倒さねば……! 武闘学校に平穏は訪れない!」
そんなマティアスの言葉を遮って、ヴェルゼルはそれまでの言葉遣いをかなぐり捨て、衝撃的な事実を告発するのであった。
その内容に、マティアス達は驚きで硬直するが……。
「はぁ……あのねーヴェルゼル。今のはちょっと語弊のある言い方だよ」
「そーよ酷いわヴェルゼルちゃん! アルマちゃんを悪の親玉みたいに言うなんてっ!」
当のアルマとセネートは、やれやれと言った様子でため息をついている。
隠していた悪事がバレたと言った様子ではなく、2人は本気で困っているような表情をしているのであった。
「……ええっと、つまり、どういう事情なんでしょうか……?」
「まず会長の交代は、校則にのっとった正当なやり方だよ。アタシは四天王の皆を一回倒して、それから会長にも勝っちゃったから生徒会長になってるの」
どうやら手段に関しては不正はないらしく、その点で言えばアルマは確かに正当な生徒会長であるらしい。
「ほな、拷問ゆーのは?」
「してないしてない! 元会長――えっと今の副会長には、ただ生徒会の会計とか諸々の机仕事をやってもらってるだけなんだってば」
「それが拷問と言わずしてなんと言う! 我ら生徒会に会計とか書記などの頭脳労働ができると思っているのかっ! 聞こえているだろうあの苦しみの悲鳴を!」
「いや普通生徒会は机仕事やろ!? まさかアンタら会計とか書記ができんから四天王名乗っとるんちゃうやろな!?」
拷問というにはあまりにも斬新な拷問に、思わずジュンコはツッコむ。
ヴェルゼルが拷問などと言うものだから、アルマが一体どんな非道を働いているのかと想像していたマティアス達は、全員揃って拍子抜けした。
「アノー、モシカシテさっき学校から聞こえたオソロシイ声ッテ……?」
「それが副会長の悲鳴だ……拷問(机仕事)に今も苦しみ続けているのだ」
「いやアタシも無理なら他の人に頼むって言ったんだよ!? それが副会長ってば『無理じゃと? 貴様わらわの事を侮っているのか! その程度の些事など、最強たるわらわが片手間で終わらせてくれようぞっ!』って意地張って自分からやりだしたんだよ!?」
「……この学校っておバカさんばっかりなのでデショウカ」
しかもその拷問も副会長自らが望んでやったことなのだからどうしようもない。ガーネットはそんな生徒達を束ねる立場にあるアルマに対し哀れみの視線を向けた。
「下剋上の掟を作ったのはどーしてだ?」
「確かにその掟はアタシが作ったよ。でもほんとは、もっと簡単にアタシに挑んでもらうために作ったんだけどね……」
「なるほどな。オメーが硬すぎて誰も勝負にならなかったから、次は四天王を狙い出したってわけだ」
「その通りよデスティちゃん。まったく、アルマちゃんに勝てないからって狡いことを考えるわよねー」
どうやら彼女も武闘学校の生徒らしく、溢れる闘争心を満たすために掟を作ったとのこと。
だがどうにも、現状は期待はずれの結果になってしまったようだ。
「あの、掟を撤廃とかはしないんですか?」
そこでふとマティアスは思いついた。
生徒会長が掟を作れるのなら、撤回することも可能なのではないかと。
しかしアルマは「いやー、それがさ……」と気まずそうに頬をかいた。
「一度作った掟は一年は撤廃できないんだよ。そうホイホイルールが変わったらルールの意味がないって理由でさ。まあ今すぐ取り消す方法もあるけど……アタシから会長の座を奪うか、生徒みんなが反対しなきゃダメなんだよねー」
「ああ……他の人にとっては下剋上は魅力的なんですね……」
「そゆこと。はぁ、アタシはゾクゾクする戦いがしたかっただけなのに……」
がっくりと肩を落とすアルマとマティアス。
タチの悪いことに、下剋上の掟は大多数の生徒には人気があるのである。
その上アルマを倒して撤廃しようにも、彼女を物理的に倒せる人間がそもそもいなさそうなのも事実だった。
「くくくく……!」
しかし、彼女の言葉を聞いたデスティは、ニィィ……と口を邪悪な愉悦の笑みを浮かべた。
「そうかそうか、ゾクゾクするよーな戦いがしたいか……!」
「あっ、デスティさん悪い顔してる」
「ナントナク考えてる事がワカリマスネ」
「ほんまこのサブマッチバカは分かりやすい……」
マティアス達は、この後デスティが何を言わんとするか察しがついた。いや元よりそのためにここへやってきたのだが。
「デスティちゃん、なにか良いアイデアがあるみたいね?」
「ああ、オメーも、四天王も、生徒どもも、全員が満足できる方法って奴だ!」
「おおっ、その方法とは!?」
「――サブマッチだ! 今からダルコ武闘学校VSダルコ総合学園のサバイブ・マッチを開催すっぞ!」
「「「やっぱり」」」
余りにも予想通りすぎて、マティアス達3人の声も重なるのであった。




