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14話:ダルコ武闘学校

 ダルコ武闘学校、それは創立150年を誇るダルコ州最大にして最初の武闘学校である。

 『武闘』とは、南方の大国ムロザを中心に発達した武術を基本とし、そこに北方の魔法大国ラルエメスから流入した魔法と交わる事で生み出された、魔物の軍勢を葬る力である。

 武闘学校とはかつて、未来の戦士となる若人達に武闘を伝授するための場所なのだ。


 もっとも、戦争が終結した今は、マティアス達が通う『ダルコ総合学園』と同じで若人に教育を施すための機関へと移り変わっている。

 そういう意味では、武闘学校も、魔導学校も、総合学園も、みな同じ教育機関なのだが。

 しかし150年の歴史はそう簡単に薄れる事はなく、今でも武闘学校は特色を色濃く残した生徒たちが主に通う学校であった。


「くっくっく、武闘学校に通ってる奴らは総合学園よりも更に好戦的にちげーねぇ。熱いサブマッチになる事間違いなし、受けも良い筈だ」


 尚且つ、他校の生徒であるマティアスとガーネットが挑戦状を叩きつけたとなれば、武闘学校におけるサブマッチの盛り上がりは絶好調になるだろう、というのがデスティの弁であった。


 そういう訳で、マティアス達4人はその日の放課後に、ダルコ武闘学校へと足を運んでいた。


「着いたな」

「此処が武闘学校……。来るのは僕も初めてですけど、これは……」

「コレはいわゆる……モノモノしい雰囲気、ってやつデスネ」

「くっくく、実にらしい(・・・)外観じゃねーか」


 そこにそびえ立つのは、マティアス達の背を軽々と越す塀に囲われた、巨大な城とも言うべき建造物だった。

 建物の構成に何かしらの金属類を使っているらしく、塀も学校も西日に照らされ鈍い光を反射しており、圧倒的な重厚感にあふれていた。

 そして一番目立つのは、学校中央上部に埋め込まれたシンボルである塔時計だろう。

 なにせ時計の側面左右にはニョッキリと、一対の黄金の『ツノ』が――片方は途中で折れているが――生えているのだから。


「いやいやおかしいやろ学校ちゃうやん要塞やろコレ。しかもなんで学校にツノが生えとるんや、ツノが。片っぽ折れとるし」

「大戦時に創られた学校だ、要塞としても使えるようにしたんだろーな。ツノは知らねーが……」


 大雨が降って雷でも鳴っていれば、まさに悪の要塞にしか見えない。

 そんな武闘学校の全貌に、ツッコミを入れるのは残念ながらジュンコしかいなかった。


「ンー、折れてるの、ツノだけじゃナイみたいデスヨ? この学校あちこちボコボコデスネ」

「えっ、この距離でも見えるのガーネットさん。凄い……」

「くっくく、さすが魔弾の射手。……だが、ボコボコだと? 老朽化にしちゃ妙だな」


 マティアスはガーネットの視力に驚き、デスティは学校の状況に首を傾げる。

 ダルコ州では歴史のある学校なので設備の破損自体はあってもおかしくはないのだが……ガーネット曰く、老朽化というにはあまりにも直接的な破壊の跡が、この学校のあちこちに散見しているようだった。

 なにやら様子がおかしいと、マティアス達がそのばで疑っていると……。


「おおおぉぉぉぉおおぉぉ………!!!」


 身の毛もよだつようなおどろおどろしい音が、マティアス達に降りかかったのだ。

 音の発生源はもちろん、目の前の武闘学校である。


「どわーっ!!? ななな何や今のおっかない声!?」

「チャイムじゃないですよね絶対!?」

「オ、恐ろしい音デシタ!?」

「くくくくく、面白くなってきやがった」


 突然の怪音にデスティを除いた全員が怯むも、異常はそれだけには留まらない。


「わああぁぁぁあああ!!!」


「!? まっ、窓から人が落ちてきたぁ!?」

「今助けますっ!」


 ばりぃん、と学校の3階部分の窓ガラスが割れる音と共に、そこから男性らしき人影が外へと投げ出される姿があった。

 そのまま落下すれば大怪我は必至だったが、即座にワイバーンへと変身したマティアスが飛翔し、彼をその背中に受け止める。


「う、うう……」

「大丈夫ですか!?」


 その男性――年齢や服装から生徒ではないようだが――は、服も体もボロボロの状態であった。

 ワイバーン姿のマティアスを認識出来ないほどには朦朧としているらしく、これはマズイと判断したマティアスは、ひとまず男性と共にデスティ達のところへ戻ることにした。


「デスティさん! この人、酷い怪我ですっ!」

「よくやったマティアス。オレの治癒魔法じゃ大した出力はねーんだが、気休めにはなるか」 

「アッ、ワタシ、治癒魔法の魔弾持ってきてマスヨ!」

「よ、よかった……」


 デスティ達の元へとんぼ返りして、男性を地面へ寝かせてから、マティアスは人間の姿に戻った。

 マティアスはこの中で治癒魔法が使えそうな人間に心当たりがなかったので不安だったが、幸いなことにガーネットが治癒に使える魔弾を持っていたらしく、安堵する。


「チョットズドンとしますヨー」

「ナイスやガーネットちゃん! ……って待て待てなに魔弾を銃に装填しとるんや!? 撃つ気か!? 死に体のオッサンに銃で治癒の魔弾撃ち込む気なんか!?」

「魔弾だけ寄越せ、オメーの銃で撃ち込んだら治癒どころか死ぬ」

「ハッ!? つい癖デ銃に弾込めしてマシタ……」


 魔弾を銃に込めて撃とうとしていたガーネットから魔弾だけを奪って、デスティはその弾頭をボロボロの男性の首辺りに押し付けて魔法を発動した。


「ふむ、派手にボロボロだが骨とかは折れちゃいねーな。吹っ飛ばされた時に身体を強く打ったか――」

「あ、あなた達は……我が校の生徒では無いようですね……」

「気づいたか。そういうオメーはここの教員だな」

「は、はい。その逆立つ白髪に、翠緑の瞳……も、もしや貴方はデスティナ・ズゥ・ハークさん……!?」

「おう、依頼どおりサブマッチを広めに来た」

「よ、よかった、これで我が校は救われる……」

「誰にやられた?」

「し、四天王……と……がくっ」

「四天王だと?」


 学校の教員らしきその男性は、デスティの姿を一目みた瞬間、安堵の涙を流すと共に失神してしまった。

 どうやら体の傷は言えたものの、気力が尽きてしまったらしい。

 

「コノ人、四天王って言ってマシタネ」

「そういや前に教師陣から文通でサブマッチャー候補について聞いたんだが。この学校じゃ、実力トップクラスの生徒が『生徒会四天王』を名乗って生徒を支配してるだとか書いてあったな」

「生徒会……四天王? 書記とかそういうのではなく?」

文化ブンカの違いでショウカ?」

「……この学校どないなっとるんや??」


 ひとまず男性を塀のそばで寝かせた後、マティアス達は異様な現状に首を傾げる。

 学校はあちこち傷つき、正体不明の恐ろしい声が鳴り響き、挙句の果てには窓からボロボロの教師が落ちてくる始末。

 そして教師からの四天王というメッセージもまた、只事ではない事態が起きているのではないかと予感させられた。


「じゃあこの人は、四天王にやられてこんなボロボロになったんですかね?」

「そう思うのが自然だが……」


「「「「ふははははは――」」」」


 ――その時であった。

 高らかな笑い声が学校から響き渡り、教員が落ちてきた所と同じ階層の窓ガラスが四つほど割れ、そこから四つの人影が校庭へと飛び降りてきたのである。


「はは――はわあぁ……その制服、他校の生徒でごわす……すぴぃぃ……」

「教師の治療……ご苦労なこったね……むにゃむにゃ……zzz……」

「だが敵に塩を贈るとは感心しない――くあぁぁ……」

「我々で……返り討ちに……かくっ」


「なんかアイツら様子おかしくねーか」


 飛び降りながらそれぞれ喋っている謎の4人組だが、デスティのいう通り様子がおかしい。

 具体的にいうなら、全員が眠たそうだった。


「「「「我ら……ダルコ武闘学校生徒会四天王べぶぅぅぅっ!!!?」」」」

「地面に激突しちゃったー!!?」


 四天王と名乗りを挙げた彼ら4人は、名乗りあげながら見事に地面へと激突落下を決めてしまった。

 もうもうと立ちこめる砂煙、マティアスは思わず悲鳴をあげあながらツッコミを入れる。


「アイツら四天王って言ってたが、何がしたかったんだ……?」

「ンー、随分変わった歓迎カンゲーデスネ?」

「どうみても歓迎ちゃうと思う!」


 ガーネットは歓迎だと思っているものの、正直に言って寝ぼけて窓から落下したと言った方がよほど信じられる状況である。


「あー……ダメだ、このまんま倒れてたい……」

「アタイとしたことが……う、うっかり着地をミスったね……」

「ごわすぴぃぃ……ぐううぅぅ……」

「ぬうう……」


 煙が晴れて、落下してきた四天王らしき四人の姿が露わになる。

 彼らは武闘学校の制服に身を包んだ、槍を持つ男、戦鎚を背負った女、たくましい肉体の巨漢、巨大な剣を持つ偉丈夫たち。

 みな、落下地点から動けないらしい。落下で大怪我をしたというワケではなく、なんなら初めからどこかボロボロになっていて、今は眠たくて動けないと言った様子だった。


「え、えっと、大丈夫ですか?」

「ふ、ふふふ……心配なぞ不要! お陰で目が冴えた……。ようこそ、他校の生徒達よ、むっ随分と背が高いな」

「あの、それ、木ですけど……」


 とりあえずマティアスは剣の男に話しかけるも、男は校庭に並んで生えている木にむかって返事をする始末。絶対目は冴えてないと確信した。


「失礼した。我は……ダルコ武闘学校生徒会四天王、雷刃のヴェルゼル! お主たち総合学園の生徒とみたが、この学校を制覇したくば先ずは我々と戦ってもらおうか」

「ああどうも総合学園のマティアスです……ってえっ!? 戦うんですか!?」

「カチコミに来たわけじゃねーよ。確かに俺達はダルコ総合学園の生徒だが、今日はサバイブ・マッチっつー競技を、この武闘学校に布教しにきただけだ」


 ふらふらと男――ヴェルゼルはマティアス達の方へ向き直ると、今度は剣を構えて戦う準備をし始める。

 正直手合わせなどやってられないのでデスティが即座に断ると、ヴェルゼルは拍子抜けしたように「サバイブ・マッチ?」と呟いて、考え込んだ。


「そういえば……確か教師たちが言っていたな、なんでも傷を負うことなく己の力を発揮できる競技だとか」

「そうだ、ちょうどオメーらみたいな強そうなヤツにピッタリな競技なんだが……」


 デスティは四天王を名乗る彼らに対し、ここへ来た目的を説明する。

 見たところ間違いなく武芸に長けているであろう4人、本来であればサブマッチャーとして参加してもらおうとデスティは考えてただろうが、彼らのあまりの体たらくに言葉が続かない。


「なるほど、お主達はサバイブ・マッチを開催しに来たのか。本来であれば歓迎するなり、意気込んで力試しをするべきところなのだろうが……生憎、今この武闘学校ではふわあぁぁ……催し物などと、言ってる場合ではないのだ」

「だろーな、流石のオレでも今にも寝そうなオメーらにサブマッチやれとは言わねー。というか何があったんだ?」

「今さっきも、窓からここの先生がボロボロになって落ちてきました。あなた達に何か関係してるんですか?」


 ヴェルゼル曰く、今の武闘学校はサブマッチができるような状態では無いらしい。

 マティアス達は先程の教師の件も含め一体何が起きているのか尋ねると……。


「まずは教師の救護に感謝しよう。そこな教師は、我々四天王と生徒達の戦闘に巻き込まれただけなのだ……」

「戦闘に巻き込まれたって……」

「生徒同士で戦ってんのか? この学校」


 信じられないという表情で、マティアス達は聞き返す。

 マティアスやガーネットのような、魔物の大群を殲滅できるほど強大な力を持つ人間は稀にしかいないが、それでも人間同士で力のぶつけ合いをするのは命懸けになってしまうからだ。


「それもこれも『下剋上の掟』のせいなのだが……」

「下剋上の掟?」

「うむ。ダルコ武闘学校は、強い生徒が他生徒の上に立って支配するのが伝統。我々四天王は、生徒達に命令し束ねる存在なのだが……。『立場が下の人間は、上の人間に勝負を挑み勝つ事ができればその座を奪う事ができる』という校則が新しく作られてな。もちろん殺しは厳禁で加減は絶対なのだが……」

「伝統も校則もメチャクチャですね!?」


「というか『強いものが支配する』て、荒みすぎんかこの学校」

「言ってやるなジュンコ。文化が違うんだ文化が」

「違うとゆーヨリ、100年クライ文化が遅れてマセンカ?」


 要するに、今の武闘学校では新しい校則のせいで生徒間の権力争い(物理)が発生しており、先程落ちてきた教師はその争いに巻き込まれてしまった、というのが真相であるらしい。

 暴力に塗れた校風に、マティアス達全員もドン引きであった。


「つーと、学校が妙に破壊されてんのと、オメーらが見るからに本調子じゃねーのは下剋上のせいってことか。……一応聞くが、オメーら以外でこの学校に強い奴はいるのか?」

「我ら以外となると、最も強き生徒会長と、次点で副会長の2人しかおらぬ」

「生徒会長と副会長は普通なんですね……」

「2人か、まあこっちもマティアスとガーネットで2人だからちょうどいい。……まさかそいつらも下剋上でヘロヘロになってるとかねーだろうな?」

「いや、それは無い――


 サブマッチに出られる人員はこの学校にいるのか、デスティはヴェルゼルに聞いてみると、どうやらいるにはいるらしい。

 デスティがその2人は参加できそうか聞いた、その時である。


「「「「下剋上じゃああああ!!!」」」」


 武闘学校から大量の怒号が発せられて、あらゆる階層の窓や正面玄関から、わらわらと人間が飛び出してきたのだ。

 割れる窓。上がる土煙。マティアス達の方へ押し寄せてくるその集団は、皆武闘学校の制服を身に纏い、それぞれ武器を持ち出している。

 時刻は放課後を過ぎているとはいえ、どうみてもこれから下校するような雰囲気ではなかった。


「な、なんやなんや!? 学校からえらい数の人間が出てきおった!?」

「ちぃっ! もう出てきたかっ……! この通り今武闘学校では全校生徒が下剋上に夢中なのだ。おかげで我ら四天王は、寝る間もなく……というか寝込みすら襲われる始末で……ぐぅ、ぐぅ……」

「校則ゆーても限度があるやろ!? バカばっかりちゃうかこの学校!?!?」


 ヴェルゼルは「不味い」といった感じで顔をしかめるも、睡魔に負けて寝そうになってしまっていた。

 あんまりにもあんまりな状況に、ジュンコは思わず叫んでツッコミを入れる。


 どうやら学校の損傷も、四天王達が寝不足気味なのも、文字通り四六時中、全校生徒達から下剋上と称して襲撃を受け続けたせいらしかった。


「み、みなさん! ちょっとまって下さい! この人達はもう戦えません!」


「四天王がいたぞー!!」「弱っている今の内だ!」「倒したもん勝ちだ!」「勝ち上がるぞー!」「俺が先にやる!」「ぶっ倒してやるわ!」「次の四天王の座は俺のものだ!」


「ひえぇぇ全然聞く耳を持ってくれないー!!?」

「暴走したモウモウ(ウシ型の家畜魔物)の群れもカクヤ、というヤツデスネ……」


 満足に立つことも出来ない四天王たちの様子を見て、マティアスは止まるように集団に呼びかけたが……生徒たちは今が好機と思っているのか、マティアスの言葉を全く聞かずヤル気満々であった。


「ど、どどどどないするデスティ!?」

「しゃーねえ、オメーらは四天王を連れて逃げろ、オレが死体の軍勢で迎え撃つ」


 このままでは集団リンチ秒読み、とった様相。

 ジュンコは慌ててデスティにどうするか聞くと、デスティは自分が生徒達を足止めすると言い出すのであった。


「デスティナさん1人でデスカ!?」

「あ、危ないですよ!? もしあの中に僕達ぐらい強い人がいたら……!」

「サブマッチのために連れてきたオメーらを戦わせる訳にゃいかねー。それにオメーらが戦ったら死人が出る」


 確かに、あの数の人間相手にマティアスとガーネットが手加減ができるかと言えば、非常に難しいと言わざるを得ないだろう。

 軍勢には軍勢をぶつけるという意味では、デスティが足止めしたほうが良さそうに見える。

 しかし、もしあの中にマティアスと同じで、魔物の群れをものともしないほどの生徒が居たら、危険なのはデスティの方であった。

 

 どちらにせよ危険、しかし一刻を争う事態にマティアス達は――



「全 校 生 徒 の 小 僧 小 娘 どもー?」


 ――突如として降りかかった野太く大きな声に、びくりと硬直することとなった。


 その場にいる全員が、声のした方向である学校の屋上辺りに視線を向ける。

 そこには、学校の上からこちらを見下ろす――筋肉モリモリマッチョの、全身ピンク色をした巨人がいたのだった。


「な、ななな……! なんや、あのでっかい人間……人間? 巨人?」

「巨人にしたって、何かおかしいですよ!? 煙みたいに突然現れて、あんなハデな色してて……というか空中に浮いてませんか!?」

「デモ見てクダサイ、武闘学校の人タチも止まってマス」

「恐れてるみてーだな。にしてもアイツは……」


 音もなく唐突に現れた巨人、あまりの不自然さにマティアス達はてんやわんやの大騒ぎである。

 それとは真反対に。学校から溢れだした生徒達は驚愕と恐怖で凍り付いているといってもいい様相であった。


「毎日毎日、下剋上下剋上って! 授業はほっぽりだすわ、放課後になってもやるわ、寄ってたかって四天王チャン達ばっかり喧嘩売るわ……! あてくし、そーゆー戦乱嫌いじゃないわ!」

「嫌いじゃないんかい!?」

「嫌いジャナイって言いましタネ」

「あきらかに止めに来た雰囲気なのに!?」

「――嫌いじゃないけど、いつまーでもやってるのはちょっと頂けないのっ!」


 ピンクの巨人はまるでいつまでも遊び呆けている子供を注意する母のような口調で、生徒を叱り始める。

 彼女(?)の体色のおかげなのか、口紅を塗りたくったような真っ赤な唇のおかげか、顔はめちゃくちゃ彫りの深い男性顔なのに、しなのきいた所作に違和感がなかった。

 

「遊び過ぎを諌めるのも、武遊チャンピオンであるこの精霊セネートの役目っ! とゆーわけでアルマちゃん! 生徒会を執行してきなさいっ!」


 自らを精霊セネートと名乗った巨人はそう言うと、すぉぉ……とゴツく、しなやかな右足を天高く上げ、右手に何かを握って振りかぶっている。

 それはまさに――右手の『何か』を地面へと叩きつけんとする動作。


「メタル・バング・スラムッッッ!」

「伏せろお前ら! 吹っ飛ばされんぞ!」


 直下へと投げ放たれた『何か』は、スッパァァン!! と乾いた炸裂音と共に地面へと衝突する。


「「「「「ぎゃああああああ!!?」」」」」」

「な、んて……風っ……!?」


 直後に、凄まじい突風が落下地点を中心に吹き荒れた。

 あまりの強さに武闘学校の生徒達は落ち葉を散らすように吹っ飛ばされていく。

 既に倒れていた四天王たち、そしてマティアス達はデスティに言われて身を伏せることで、なんとかやり過ごすことができた。


 そうして風が止んだあとは、死屍累々の有様。

 校庭のあちこちに風で吹っ飛ばされ、倒れた生徒達が散らばっている、四天王に襲い掛かろうとする者は1人とて残っていないだろう。


「な、なんやったんやあのデカイの……? 四天王達助けたんか?」

「いつの間にか姿が消えてますし。一体どこに行ったんでしょう?」

「アッ、ミナサン見てクダサイ! アノ巨人ジャイアントが何か投げた場所バショ! 誰かイマス!」


 ガーネットが指差した方向――突風を引き起こした落下地点には砂煙がもうもうと立ち込めているものの、彼女のいう通り人影が動いているのが確認できる。小柄な、人の形の影だ。


「ほ、ほんとだ、誰かいる。でもさっきまであこそに誰も居なかった筈……」

「つーとあの巨人、『人間』を投げたのか?」

「んなアホな!? 人間を叩きつけてあんな突風おこせるわけ、いやそれ以前にタダじゃ済まんやろ!?」


 落下の直前までその場所に人はいなかった。

 であるとすれば、落下地点でうごめく人影があるというのなら、あの巨人が投げ込んだのは人間に間違いなく。



「はーいどーも、生徒会長のアルマ・ラ・ジーンでーす」


 砂煙は収まり、晴れた視界の中、彼女はどこか気の抜けた声と共にクレーターからひょっこりと姿を現した。

 背丈はマティアスとそう変わりなく小柄で、灰色の髪をしたボブカットの少女である。

 ピンク色の宝石がはめ込まれたネックレスが特別目立つ以外は、武闘学校の制服を着たただの一般生徒に見えるだろう。


 しかし、制服の左腕に縫い付けてある腕章が、彼女の役職と強さを示している。


「この度は授業を脱走してまで下剋上に夢中な全校生徒のみんなに、生徒会を執行しにきましたよっと」


 生徒会長の称号、即ち、ダルコ武闘学校にて最強の生徒である事を。

当作品に評価していただき、誠にありがとうございます!

とても嬉しいですので、この場を借りて読者の皆様にお礼を申し上げます!


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