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13話:新たなる戦場

「……絶対似合わない、似合わないよ……」


 翌日、ダルコ学園、1年生の教室にて、マティアスはがくっと机の上で突っ伏していた。

 理由は言うまでもない、昨夜の鍛錬中にデスティから宣告された、マティアスをこの国で最強のサブマッチャーに君臨させる、という言葉のせいである。


「マティアス? 何ダカ疲れてマスネ?」

「あ、ガーネットさん……」

 

 頭上から声をかけられてマティアスが顔を上げると、ガーネットが机の前に立っていた。

 彼女は不思議そうな表情で、顔を斜めに傾けている、後ろに括った髪がひょこっと揺れた。


昨日キノーのサブマッチで全力出し過ぎテ、疲れてルのデスカ?」

「ああいや、そうじゃなくて。昨日の晩にデスティさんが訪ねて来てさ……」


 このまま一人で不安にうなされるより、誰でも良いから話したら気が楽になるかもしれない、マティアスはそう思って、ガーネットに昨夜の出来事を話すことにした。



「オゥ、この国でサイキョーのサブマッチャーデスカ!?」

「うん、突然勝手に決められちゃって、困ってちゃってるというか……」

「羨ましいデス! ワタシ、その話デスティナさんからされてマセン!」

「羨ましい話かな!?」

「ハイ! ベーブは最強サイキョーのガンマンなのデスヨ! ナラバ当然、ワタシも最強を名乗ッテみたいデス!」


 まさか羨ましがられるとは思わず、愕然とするマティアス。

 どうやらベーブ・ディザスターに憧れるガーネットは、『最強』という称号は是非とも欲しいものだったらしい。


「ガーネットさんにとってはそうなんだろうけど。でも、僕ってその、『最強のサブマッチャー!』って性格じゃないというか、今まで地味に過ごしてたから……」


 ただマティアスは、最強のサブマッチャーとして祭り上げられることが不安で仕方がなかった。

 そう、不安なのである。なにせこちとら、心情発現型という体質をひた隠すために十年間、目立たず騒がずこっそり鍛錬をモットーに生きてきたのだ。

 それが突然、誰もを魅了するサブマッチの一番星にさせる、などと言われれば。


「いきなり言われても、何も分かんなくってさ……」


 なにをするのか、させられるのか、まるで想像がつかなくて、不安になってしまうのだ。

 そんなマティアスの弱音を聞いたガーネットは、「ウーン、地味デスカ」と考え込むと。


「でもマティアス。今はモウ十分、目立ってるト思いマスケド」


 ふっ、と言い放ったその言葉を受けて、マティアスは教室の四方を見渡す。

 クラスメイト達の視線が、興味が、意識が、じぃーっ、とマティアスへ注がれているのを確認する。

 全員、いつマティアスに話しかけようか、ちょっかいをかけようか、あるいは勝負を挑もうかと、足踏みをしているようであった。


「…………それについては、うん、僕もちょっと思った」


 はふう、とマティアスは軽くため息をついた。

 マティアスが抱える疲れの内、何割かはいわゆる注目疲れというやつであった。


昨日キノーの活躍デ、すっかり注目の的デスネ。確か今朝モ登校中トーコーチューにサブマッチを申し込マレてましたヨネ、3人くらイ」

「正確にはサブマッチは2人であと1人は実戦申し込みだったよ……流石に断ったけど」

「ワォ、実戦は命シラズデス」


 そう、不安に思わずとも、昨日のサブマッチによる活躍の影響でマティアスの勇名はすっかり学園中に響き渡っていた。


 そのせいで、腕に覚えのある生徒たちが次々とマティアスに勝負を申し込まれたりする始末。

 ただ、サブマッチの方はデスティの方から企画しない限り受けようが無いので適当に流し、実戦申し込みの方は間違いなく殺し合いになるので丁重にお断りするしかないのだが。


「みんな意外と血の気が多くてびっくりした……」

「マァ平和で暇ですカラネ」


 マティアス達が通うこのダルコ総合学園は大戦以降に創立した、新しめの教育機関である。

 武闘学校や魔道学校のような『元は魔物と戦う術を学ぶ場所』と違い、『魔物との戦いが終わったので、集中して教養を高める場所』として総合学園が創られたのだが、どうにも退屈とは人を好戦的にしてしまうらしい。


「トユーか、このままサブマッチをシテ挑戦者チャレンジャーを倒してイケバ、自然とスーパースターになれると思いマス」

「そ、そんなごく自然な流れでなれちゃうものなのかな」

「ナレますよキット。ソレとも、マティアスはサブマッチするの嫌デスカ?」

「それは……」


 ガーネットに問われて、マティアスは少し考え込む。

 スーパースターになるかはさて置いて、自分自身はサバイブ・マッチという競技をどう思っているのだろうか?


 思いだす。

 ガーネットと競い合った激しい熱を、千変万化流の技でターゲットを撃破する爽快感を、勝利の末に得られた喝采の快感を。


「……嫌じゃないと思う。ガーネットさんとのはサブマッチは、楽しかった」


 つまるところ、マティアスはサブマッチを楽しいと感じていたのだった。

 マティアスの言葉を聞いて、ガーネットは自分もだと言わんばかりにニコリと笑う。

 

「フフフ、デショウ? 気負わずにサブマッチを楽しんでイケバいいんじゃないでショウカ」

「サブマッチを楽しむ……うん、確かにそれでいいのかもしれない。ありがとうガーネットさん、おかげで気が楽になったよ」

「フッ、礼には及ビマセン。ライバルが迷った時は道を指し示すのがガンマンの流儀デス。ソレニ、最強二なったマティアスにワタシが勝つコトで! ワタシがこの国最強(サイキョー)のサブマッチャーを名乗れマス!」

「着々と最強までのプランを練ってるね!?」


 マティアスの背中を押しつつ、ちゃっかり自分が最強の座に着くべく企むガーネット。



「っくっくく。既に学園中の注目を集め、最強への道のりを順調に歩んでるな、マティアス」

「ドアホか。どっからどーみても悪目立ちして困っとるだけやろ」


 そんな中、マティアス達の教室に諸々の根源たるデスティと、その付き添いであるジュンコが入って来た。

 デスティの本性をよく知らないクラスメイト達は、彼の恐ろしい雰囲気に押されて道を開け、デスティもまた慣れたものとばかりにずかずかとマティアスの机へ近づいてくる。


「デスティさんにジュンコさん。どうしたんですか?」

「ココ、一年の教室キョーシツデスヨ」

「くくっ、俺が学年の違い如きで遠慮するようにみえるか?」

「ちょっとは遠慮してほしいんやけどなホンマ。後輩のみんなもごめんな、このドアホ遠慮知らずで、噛みついたり吼えたりはせんから、身構えんといつも通りにしててええで」

「そ、そんな躾のなってない犬みたいな……」


 無駄に緊張感が走る教室をジュンコは宥めようと、後輩たるクラスメイト達に呼びかけた、少々辛辣な物言いで。

 それを聞いたマティアスは少し引くものの、言われ慣れているのかデスティは全く気にする素振りはない。

 

「さて俺がここに来た理由は勿論わかるな? そうサブマッチだ」

「あの、分かるんですけど、ちょっと回答する間とかないんでしょうか……?」

「モシカシテ、サブマッチの3回目、やるんデスカ!?」


 問いかけて即、要件を言うデスティにマティアスは少し呆れ、ガーネットはワクワクした様子で新たなサブマッチの開幕を予感する。

 

「ああそうだ。だが、ただの3回目じゃねー。このダルコ州でサブマッチを流行らすための重要な3回目になる。だからこの学園でも有数の実力者であるオメーらにぜひ協力して欲しくてな」

有数ユースーの……」

「実力者……」


 びっ、とデスティにピースをする形でそれぞれ指さされたマティアスとガーネットは、有数の実力者というワードを反芻する。

 サブマッチで好タイムを叩き出し、強大な力を存分に披露した2人だが、実際に実力者だと言われてみると、これまた悪い気分にはならなかった。


 「まーた若人を良い感じに乗せようとしとるなこの悪魔……嘘はいわんから性質たち悪い……」などとジュンコが小声で言っているのは、残念ながら2人には聞こえていないのだが。


「サブマッチは今日の放課後、場所を変えて開催する。オメーらが来てくれりゃ盛り上がること間違いなしなんだが……やってみねーか?」

「放課後デスネ! 大丈夫デス!」

「よし、ガーネットは参加だな」

「おおう、ガーネットちゃんは即決やな、まだ場所も聞いとらんのに……」


 デスティの誘いに、すっかり乗せられたガーネットは即答で参加を決めた。


「マティアス、オメーはどうだ? 次の相手はオメーやガーネットにも引けを取らねー強敵なのは間違いねーぞ」

「強敵……」

 

 マティアスはデスティの言葉を反芻する。

 自分が強者に分類されていることにはイマイチ実感が湧かなかったが、デスティの言い方からすれば、次のサブマッチで競う相手もまた、サブマッチ以外では居場所がないほどの強大な力を持っているのだろう。


(またサブマッチで競い合うんだ……。僕の千変万化流が、この世界でどこまで通じるのか……)


 どくん、とマティアスの胸がざわめいた。

 昨日のサブマッチと同じく、闘争心が燃え上がり、胸の内を熱くする。


「……僕も放課後は空いてます。サブマッチ、やらせて下さい」

「よし!」


 さきほどのガーネットの会話も後押しして、マティアスも参加を決めた。

 デスティは「大成功間違いなし」と言わんばかりに、浮かべていた笑みをますます深くすると。


「これで決まりだな! 次のサブマッチは『ダルコ武闘学校』で執り行う。総合学園のトップサブマッチャーであるオメーら二人が、ダルコ州で最大の武闘学校に殴り込みをかけるってわけだ!」


 高らかに、サブマッチの開催場所を宣言するのであった。

マティアス「あっ、でも。また優勝したら大金を渡されるのは困るんですけど……いや勝つ前提で話してるわけじゃなくてですね! 使い道がないって意味で!」

デスティ「現金じゃ困る? それじゃあ金額相当の金塊にでもしておくか……」

マティアス「いやいやソレはもっと困りますよぅ!?」

ジュンコ「ごめんなマティアスくん。コイツ無駄に金持ちやから常識に疎いんや……」

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