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12話:煌く一番星へ

「サバイブ・マッチにはまだまだ発展の余地がある。だからどう発展するかの方向性を定めるために、アンケートをとって選手や観客がサブマッチに望んでるもんを知ろうとしてるわけだ」

「はぁ」


 胡座をかいて横に座るデスティの言葉を聞きながら、マティアスは手渡された用紙を床に置き、正座の姿勢でサラサラと筆を走らせる。


 アンケートの内容としては、設問に対し全て答えが用意されており、性別や年齢、そしてサブマッチの種目に対しどのような感想を抱いたのか等を、予め用意された回答にチェックを付けていくものだったので、記入にそう時間はかからなかった。


「はい。一応、感じた通りに書きました」

「協力感謝する。収集した意見や情報はサブマッチの改善以外には使用せず、サブマッチ振興委員会以外での公開はしないことを約束するぜ」

「律儀すぎてちょっと怖いんですけど……」


 やたら丁寧にアンケートを扱うデスティの態度に、少しだけ薄気味悪さを覚えるマティアス。

 その代わりマティアスがデスティに対して抱いていた、得体がしれない故の恐怖心や緊張感はすっかり吹き飛んでしまっていた。


 今はというと、せいぜい『外見は怖いけど、サブマッチに対する情熱と行動力と金銭力が並外れている凄腕ネクロマンサー』というぐらいである。


「こういうのは律儀にやっとくもんだ。それに貴重な若手サブマッチャーの意見、丁重に扱わないとな」

「ああもう僕サブマッチャーにカウントされてるんですね……というか、僕なんかの意見が貴重ですか?」


 食堂での返事を聞くまでもなく、デスティの中ではマティアスはサブマッチャーとして認定されてしまってるらしい。

 ただサブマッチに特に不満も抱いていないので、マティアスは否定しなかった。したとしてもあらゆる手段でサブマッチに勧誘されそうなので、諦めたともいうが。

 代わりに、自分の意見が思った以上に重要視されていることに疑問を感じた。

 

「貴重だ、若くて強いサブマッチャーは少ないからな。具体的に言えば全体の2割もいねぇ」

「2割……」

「これまでサブマッチを他国に広めてきたんだが、ジジババばっかりハマりやがる。まぁ、実際今のジジババ世代は親から戦闘技術を受け継いでるのが多いから仕方ねーが……」


 「サブマッチはシニアスポーツじゃねぇんだがなぁ」と続けてぼやくデスティをよそに、マティアスはふと気がつく。


「もしかして、デスティさんがサブマッチを広めようとしてるのは、戦闘の技術を継承する機会を作るためでもあるんですか?」

「今はそうでもある」

「今は?」

「技術の継承、力が活きる場所の創造、新しい需要を生み出すこと、サブマッチが広まっていく内にいろんな理由が増えたが、初めは……」


 マティアスはデスティがサブマッチを広めようとする理由を、尊敬の意も込めてそう解釈した。

 そしてデスティは軽く肯定するも、その言葉はどこか含みを持たせていて、マティアスは疑問符を浮かべる。


「……オメーはこうして道場で鍛えてて、武術を鍛えても将来ためにならない、無駄だって言われたことあるか?」

「? あるには、ありますけど」


 話の途中、デスティは唐突にそんな事を聞いてきた。

 ちょうど先ほども両親に同じことを言われていたので、マティアスは肯定する。


「そんとき、めちゃくちゃカチンときただろ?」

「それは……はい」

「くくくっ、だろ? それが最初だ(・・・・・・)。俺はその言葉に腹が立ったからサブマッチを作り上げた」

「そ、それだけですか?」

「理由なんざそんなもんだ。平和な時代に対する反骨心ってやつ」


 デスティは愉快そうに笑う。

 恐ろし気な雰囲気、いや実際に残忍な笑みを浮かべているのだが、それは顔と雰囲気が怖いせいで、実際は同類を見つけたとばかりに嬉しそうだった。


「それがどんどん高じてって、今や俺の目標はサブマッチを全世界へ広め、この世で一番つよいサブマッチャーを決めるための世界大会を開催する、って所まできた」

「世界大会」

「くっくくく、スケールがでかくてビビったか? だが夢物語じゃねーぞ。中央国ラージャ、西のアメスタン、北のラルエメス、南のムロザは既にサブマッチの基盤を整えてある」

「ええっ!? 大国にはあらかたもう広まってるんですか!?」

「ああ。このダルコ州は東のミクスへサブマッチを広めるための『とっかかり』ってやつだ」

 

 デスティが今述べた国々は、この世界における主要国の数々である。

 その話が本当であれば、サブマッチは最早全世界に知れ渡るメジャーな競技と言っても過言ではないだろう。


(す、すごい。デスティさん、僕と歳は近いのに――いや近いのかなぁ? 『俺は実は悪魔で1000歳を超えてる』とか言われたら信じちゃいそうだけど――自分で作った競技を各国へ広めて……僕なんかと全然スケールが違う)


 とても学生の身分で出来るような所業ではない。

 マティアスはデスティに対し驚嘆すると同時に、両親が言っていた『ズゥ・ハーク家はこの世の裏の支配者』なる発言はあながち間違いじゃないのかも……と思うのであった。



「さて、おまちかね肝心のアンケートは――最後の自由記入欄まできっちり書いてあるな。マジメで結構」

「あの、流石に目の前で見られるのは恥ずかしいんですけど……」


 手にしたアンケートをまじまじと確認するデスティに、マティアスは少々気恥ずかしくなる。

 別におかしな事を書いたわけではないのだが……。


 しかし、デスティの視線がある一点で留まった。

 『やってみたいと思うサブマッチの種目はありますか』という設問の、自由記入欄に書かれた内容は。


「だが『選手同士の直接対決』か。わりーがコイツはまだ……」

「えっと、そこはぱっと思いついたから書いただけで! そんな真剣に考えて貰わなくても」


 読み上げるデスティの顔は真剣そのもの。

 ただマティアスとしては、その分は特に深い意味があったわけではなかったので、念を押す。

 

 そう、深い意味はない。

 ただ単純に、アンケートに書かれたサブマッチの種目に直接対決がなかったから思いついただけ。

 直接対決がどれほど難しいのかなんて、分かりきっているのだ。


「それに実際にやったら、間違いなく死人が出ちゃいますし」

「まーな。サブマッチャー同志が直接やり合えば、良くてどっちかが死ぬ、悪くてどっちも死ぬ。最悪は観客たちも巻き込まれて全滅だ。それこそ『ロゴス・クボア最終戦争』みたいにな」


 デスティが例えとして言ったロゴス・クボア最終戦争とは、魔物大戦の後に起きた戦争である。

 その名の通り、ロゴスとクボアという仲の悪い小国同士で始まり、その日のうちに両国の滅亡という形で終結した、最悪の戦争であった。


 両国が滅亡した理由はごく単純で、事故のようなものだったと、当時、2人の容疑者――元、両国の兵士は証言していいる。

 2人の兵士達は敵国を攻撃しようと、ほぼ同時刻にお互いの都市へ向けて技を放った。

 本来なら魔物の大軍を屠るための技を、牽制のつもりでただ一撃。


 それだけ。

 たったそれだけで、ロボスとクボアの都市とそこにいた数千の人々は、跡形もなく消えたのだ。

 一人が一国を滅ぼしたこの戦争は、大戦にて培われた『魔物を屠る技術』を、人間に向けて使ったらどうなるのか、それを端的に表した出来事なのである。


「……確かに、国が滅んでもおかしくないですね」


 マティアスの千変万化流もまた、大戦時にて培われた『魔物を屠る技術』の一つ。

 そんな技術同士が直接ぶつかり合えば危険なのは間違いなく、安心安全を謳うサブマッチには選手同士の直接対決という種目が存在しない。それはマティアスも分かっていたのだ。


「あの、そこに書いた意見は無かったことに――

「ただ気持ちは滅茶苦茶わかる」

――え?」


 よくよく考えたら軽率なことを書いてしまったかもしれない、マティアスは意見を無かったことにしてもらおうとしたのだが……。

 デスティの方はというと、その意見にうんうんと頷いていたのだった。

 まさか同意されるとは思わず、マティアスはポカンと口を開けて呆けてしまう。


「『どっちが強いか』決めたいなら直接殴り合うのが一番だ。俺だってそう思う。それに」


 ひとしきり頷いた後、デスティは仲間を見つけたと言わんばかりに笑みを浮かべて。


「ぱっと思いつくくらいには、おめー、ガーネットと直接()ってみたかっただろ?」

「!」

「分かるぜ、変身魔法使いと魔弾の射手が正面から戦ったらどっちが勝つ? どっちが強え? そんなこと誰だって知りてぇ。あんな力見せつけられたら知りたいに決まってる」

 

 デスティの言うことは、まさに図星であった。

 サバイブ・マッチの最中、魔弾でターゲットを次々と撃破するガーネット見て、マティアスがそう思わないわけがなかったのだ。


「……そうですね。多分、そうなんだと思います」


 マティアスは頷いて、ガーネットの事を、あの恐るべき威力の魔弾を思い出す。

 サブマッチでこそ勝利することができたが、直接対決であればどうなっただろう?


 自分がどんな魔物に姿を変えたとしても、彼女の多種多様な魔弾は通用するに違いない。

 それなら魔弾は、千変万化流より強いのか? 自分がガーネットと戦えば、どちらが勝つ?

 いや、自分が勝ってみせる、磨き上げたこの技が上だと、証明してみせたい。



「でもやっぱり、できませんよ。サブマッチは『安心安全』なんですよね?」


 それでも、平和を築き上げたこの力を血に染めることはマティアスはできない。

 どれほど血気あふれようが、闘争心が高まろうが、マティアスはその一線だけは踏み越えない。


「まーな。現状だとどうしても直接対決は命がかかる。……だがな」

「サブマッチはサブマッチャーの要望に応え、日々進化を重ねていく」

「期待してな。いつか命を気にせず、安心安全かつ全力で殴り合える日は来る。必ずな」


 そんなマティアスに対し、デスティはまるで予言するように、笑いながら断言するのであった。




「さて、世間話はここまでにして、もう一つ用事を済ませるか」

「えっ? まだなにかあるんですか?」

「ああ、こんな夜中にアンケートだけを取りに来たと思ったら大間違いだ。いやまあアンケートだけでも十分来るんだが」


 受け取ったアンケート用紙をカバンの中にしまい込むと、デスティは胡座をただして、マティアスの向きながら、正座の姿勢をとる。


「オメーの同門と技を教えた師匠の住所を教えてくれ、そいつも是非サブマッチャーに――」

「あっ無理ですね。じいちゃんは二年前に病気で亡くなりましたし、平和な世の中じゃ使い道がないからって理由で、千変万化流の後継者は僕一人です」

「チィッ、アンケートの『自分の他にサブマッチに参加してくれそうな人間に心当たりがありますか?』の欄が無記入だから大方予想していたが、おのれ平和な世界め……!」

「デスティさん、セリフがやばいです」


 サブマッチャーの更なる増員という目論見を速攻で潰されてしまい、先程まで安心安全を謳っていた人物とは思えない言動をとるデスティ。

 まあ確かに、千変万化流の後継者はマティアスただ一人なのは真実であるのだが……。


「はー。簡単に若くて強いサブマッチャーを大量ゲット、って訳にはいかねーか」

「もし他の門下生がいても、そんなに簡単に人の住所を教えたりできませんよ……」


 そういうことであった。マティアスも、流石に今日初めて会ったばかりのデスティに何でもかんでも教えるほど警戒心がない訳ではないのである。


「じゃあ仕方ない、最後の用事だ」

「……まだ何か、あるんですか?」


 正直そろそろ鍛錬を始めたいんですけど、といった意味合いも込めてマティアスはデスティに問いかける。

 デスティは再び改まった姿勢で、マティアスに向き合うと――


「千変万化流の鍛錬を見学させてくれ」


 ――ちょうど間の良い事に、鍛錬を見せてほしいという頼み事をするのであった。



「すみません、わざわざ山を直してもらって」

「見学させてもらう身だからな、これぐらいはしねーと」


 頭を下げるマティアスに対し、デスティは当然といった態度で返す。

 鍛錬を見学するという申し出を、マティアスは素直に受け入れた。

 どういう意図があって見学したいのかは知らなかったが、求める者には技を披露するべしというのが祖父の教えでもあるからだ。


 そのお礼として、デスティは道場の中央に描かれた魔法陣に乗って、そこに刻まれた時間魔法を起動し、道場外にある山を再生させたのだった。


「でも助かりました。今日は朝からほったらかしにしてたから、山を再生させるだけでへばっちゃうところでしたし」

 

 この魔法陣は時間を巻き戻すことによって、破壊した山を再生させるという仕組みなのだが、時間が経てば経つほど使う魔力が増えてしまう欠点がある。

 一日近く放置していたのでマティアスは限界近くまで魔力を使うことを覚悟していたのだが、その点、デスティは山を完璧に直しつつもケロッとしていた。


「にしても、えらい抉れてコゲた地形だと思ったが、元は山かコレ。鍛錬の度に吹き飛ばしてんのか」

「あ、はい。良い感じの標的がこれくらいしかなくって」


 道場の外に出て再生が終わった山を見上げ、デスティは感心したように質問し、マティアスは肯定する。

 千変万化流は魔物の大群を相手取るための武術、よって、その技をぶつける対象は並大抵のものでは務まらなかった。


「くっくっく、なら早速、その山をもぶっ飛ばす千変万化流の技を見せて貰おうじゃねーか」

「えっ、大技は普段最後にやるんですけど。山を直すのに魔力使っちゃいますし」

「いいじゃねーか、今日はオレが全部直す担当やる! 派手でおもしれーやつは最初に見てえ!」

「えーっと、わ、わかりました」


 まるで子供のように駄々をこねるデスティ。

 例え山を直すのを負担してもらっても大技は疲れるのだが、デスティの熱意に押されて了承することとなった。


「それじゃあ、デスティさんは道場の中に戻って見学してください。近付くと危険ですから」

「よっし、了解した」


 素早く道場へと駆け込み、デスティは正座の姿勢で待機する。

 マティアスはそれを目視で確認したのち、自身は再生したての山へと向き合った。


 草木が生えておらずゴツゴツとした岩盤が重なったこの山は、急勾配も相まって岩の壁のようにマティアスの前へと立ち塞がっている。

 

 この不動の壁を撃ち砕く。

 否、千変万化流の鍛錬はそれだけには留まらない。


(鍛錬、始めッ)


 心の中で発破をかけ、一礼をした後、マティアスは足元で踏んでいたもう一つの魔法陣に魔力を起動する。


 ――瞬間、岩山のてっぺん付近がちゅどっっ、と爆発した。


 足元の魔法陣は、山へ爆発の衝撃を与える。

 そしてもう一度言おう、この山は木などがほぼ生えていない、むき出しの岩山である。

 つまり、山を構成する土と岩を引き留めるための力が存在していないということだ。

 山の均衡を崩すような衝撃を与えてしまえば、当然。


 ……ゴゴゴゴゴゴゴ!!! と、凄絶な破壊音が一帯に鳴り響いた。

 爆発によって崩れ落ちる岩の群れは、下るごとに他の岩を巻き込み、あっという間に大きな岩雪崩と化したのだ。


 マティアスを軽く超える大きさの岩が大量に、猛烈な勢いで落ちてくる。

 転がり落ちる岩の一つ一つを、迫り来る魔物の群れと見立てて。


「千変万化流」


 想像する。

 それは地上で最も強い魔物、何物も通さぬ無敵の鱗に包まれ、山すら上回る体躯を誇る。

 巨大な翼による飛翔は何者も並ばせず、その吐息は万物を滅ぼす。


「上半型、ドラゴン


 自分の上半身は、無敵のドラゴンである。

 マティアスの身体の、胸から上が一瞬のうちにかき消えた。

 そう思った次の瞬間に、それは巨大な竜の頭へと挿げ替わっていた。


「竜型、竜哭無残りゅうこくむざん


 彼の想像の通りの、血のように赤い竜の頭が、大口を開けている。


「――ッGAAAAAAAAaaaaaaa!!!」


 咆哮一閃、その口から放たれたのは爆炎。

 ただの炎にあらず、絶えず爆発を繰り返す焔の波、何もかもを弾けて消し飛ばすドラゴンの吐息。

 放たれたソレは岩雪崩に直撃し、拮抗する間もなく呑みこむ――どころではなく。

 岩雪崩の大本、道場の前の山そのものすら呑みこんでしまった。


「――っふぅ」


 そうして吐息が終わって、マティアスの姿がまた一瞬だけ消え、元の姿に戻る。

 マティアスの前方には、既に何もない。転がり落ちる岩も、山も、何もかもが、再び姿を消した。

 ただただ黒い地平が広がっている、そこに山があったという形跡すら、残ってはいなかった。


「……くっ、くくくく! カッハハハハハハ!」


 ほんの僅かな沈黙の後、座ったままの姿勢でデスティは笑った。

 最初は笑い声が、抑えきれなくなるように段々と大きくなり、笑い転げているといってもおかしくないといった様相となる。


「なんっつーめちゃくちゃ! 的にするために土砂崩れ起こすとか正気じゃねぇ! そんで全部消し飛ばすとか戦争でもやってんのかっつー威力! スケールが違いすぎんだろ! 最高か!」

「えっと、ありがとうございます……?」


 どうやら鍛錬の内容によほど満足したらしい。

 めちゃくちゃだとか正気じゃないだとか、罵倒にも聞こえかねない感想ではあったが、賞賛されているニュアンスはマティアスにも伝わった。


「良いもん見せてもらったぜ」


 デスティはそう言いながら立ち上がる。

 大技を放った直後でマティアスの息が上がっているのを見越したのだろうか、デスティは道場の外に出て近づくと。


「やっぱオメー、サブマッチじゃ遠慮してたな?」


 マティアスの後ろに立ったデスティは、ズバリ言った。

 遠慮というのは、ガーネットとのサブマッチの時に、今の技を使わなかったことだった。

 確かに、大海坊主と巨大タコに分けて変身するより、ドラゴン姿で暴れた方が遥かに早くターゲットを殲滅できただろう。


「えっと、はい。でもサブマッチの時にこんな技使ったら、結界が壊れちゃうかもですし……」

「正解だ、ジュンコも流石にドラゴンブレスはビビる。防げるかどうかはやってみないと分からんし、ぶっつけ本番で試すもんじゃねぇわ」


 ただしそれは、結界が耐えられればの話だった。

 さすがのマティアスでも、ドラゴンのブレスを結界に当てずに魔物だけを焼き尽くすような器用な事はできなかった。

 間違いなく結界内全域にブレスが蔓延し、最悪結界が壊れて観客に被害が出てしまうだろう。だからマティアスは遠慮したのだ。


「だがやっぱり、おめーは俺が見込んだ通りのヤツだった!」

「は、はいっ?」


 がしっ、とデスティはマティアスの両肩を掴む。

 野心で爛々と輝くデスティの瞳を見上げる形となり、マティアスはとてつもない不安に駆られる。

 そう、嫌とかではなく、不安である。何かこう、身の丈に合わなさそうな、とんでもない事をやらされそうな不安だ。


「大戦時代の力をそっくりそのまま受け継いだ、若く強いサブマッチャー! オメーが活躍すりゃあ間違いなく、同世代の奴らは間違いなく燃える(・・・)! 皆がオメーを目指して、あるいは魅了されて、あるいは超えようとして! そしてサブマッチはこの国に素早く広まる!」

「ど、どういうことですか?」

「よーするにサブマッチが普及するにはな、スターが必要なんだよ。誰もがこうなってみたいと惹きつけてやまない、圧倒的な強さをもった輝く1番星だ! 強い奴が、強い勝ち方を魅せる事で、サブマッチの本当の面白さが世の中に伝わってくんだ!」

「えっと……スター? つまり、僕がその……」


 ずずいと、テンションの上昇に比例して、デスティから発せられる圧が増していく。

 そんな圧力に終始気圧されながら、マティアスは自信なさげな表情で自分を指さすと、デスティは大きく頷いた。


 即ちデスティの野心とは、マティアス・リーヴィングを。


「ああ、俺は決めたぜ――マティアス。俺はオメーを、サブマッチのスター選手としてこの国に君臨させる!」

「えっ、ええーーーっ!!?」


 夜の道場に、どこか情けないマティアスの驚愕の声が響くのであった。

ここまで読んで下さりありがとうございます。

これにて第一章VSフライシュッツ編は完了し、物語は次章へ続きます

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