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10話:サバイブ・マッチ決着!

「勝敗を分けたのは、全力を出したタイミング。これに尽きる」


「マティアスは最初から大技で勝負を決めに行ったが、ガーネットはガトリング砲を使う前に普通の銃を数発撃った。これがタイムに影響した」


「初っ端からガトリング砲撃ってたら勝負はわからなかっただろーな。まあ、様子見は戦闘なら間違いじゃねぇし、先鋒だからターゲットにどんな魔物が出てくるか分からねーって不利あるが……タイムアタックで出し惜しみは致命的だったな」


 歓声とわずかな悲鳴が飛び交うサブマッチ会場にて、デスティは淡々とマティアスの勝因について解説する。

 マティアスの勝利が告げられた瞬間、サブマッチ会場は激しい歓声で大盛り上がりだった。

 それは、今朝のサブマッチとは比べ物にならないほど騒がしい、音量という意味ではそう変わらないのだが、金が関わっているせいか、歓声に悲喜こもごもな感情がこもっていた。


「や……やった――っ!!」


 そんな中、マティアスは両手をグッと握りしめてガッツポーズをとる。

 大音量の歓声もまるで気にせず、ただ純粋に、自分の力でガーネットに勝てたことを喜んでいた。


「なるほどなぁ。ちなみにガーネット選手、ガトリング砲を最初に使わんかった理由はなんかあるん?」

「ウゥ……ジツは、お小遣いが足りなくテ……十分な弾ガありまセンデシタ……」

「世知辛い敗因やなー……」

「弾の消費が激しすぎて弾薬費がかかる。ガトリング砲の明確な欠点だな」


 そんなマティアスとは対照的に、ガーネットは両手を地面につけるほどにガックリと項垂れていた。

 ガトリング砲でふんだんに魔弾を撃ったのに敗北したのだから、その悔しさもひとしおである。


「マティアス、こっちまで来れそうか?」

「あ、はい! 今行きます」

「よくやったな。サブマッチもひと段落ついたっつーことで、最後は選手へのインタビューで締めるぞ!」

「えっ、インタビュー……!?」


 デスティに呼ばれてマティアスは駆け出すも、直後の言葉で軽く硬直する。


(こんな大勢の前で、僕、何を喋ればいいの……!?)


 サブマッチ中の大暴れはどこへやら、カチコチに固まりながら、えっちらおっちらとマティアスは解説席へ向かった。


「ほいじゃ勝者のマティアス選手から。今回のサブマッチやけど、手応えや感想はどんな感じやった?」

「あ、あっと、ですね。その……」


 さっそく拡声器を向けられるも、サブマッチをどう勝つかばかり考えていて勝利後のことを全く考えていなかったマティアスは、しどろもどろになる。


「……マティアスくん、さっきまでタコやったとは思えんくらいカチコチになったな」

「いっそタコ姿でインタビューやるか?」

「やめとき、なんか正気じゃおられんよーな絵面になるから」

「……私のお小遣い……コレジャ無駄遣い……」

「ガーネットちゃんもえらいショック受けとるし」

「小遣い注ぎ込んだ魔弾を撃ち込んで、結果負けちまったからだろーな」


 もたついている間に拡声器を切ったデスティとジュンコは、小声で選手2人の体たらくを心配する。


(うーん、感想? 何を言おう? ま、魔物が沢山いて凄かったです? いやいや我ながらちょっと酷すぎる……でもどんな事言えばいいか分からないよ。うぅ……せめてガーネットさんの後にしてくれれば何か思いついたかもしれないのに……)


 頭の中で悩みつつ、マティアスはガーネットの方を見遣みやる。


(ガーネットさん……。よし)


 敗北のショックですっかり元気をなくし、項垂れたままの彼女をみて。

 マティアスはようやく、言うべき事を思いついた。


「えっと、サブマッチの感想というか。ガーネットさんに言いたい事があります」


 マティアスはジュンコから拡声器を貸してもらうと、ガーネットの正面に立って一言告げた。


「勝負は僕の勝ちです」

「ガーン!!!」


「やろうトドメさしやがった」

「容赦ないなマティアスくん」


 死人に鞭を打つがごとき勝利宣言に、ガーネットはショックで跪いたまま石像のように固まってしまった。

 あまりの容赦のなさに、デスティとジュンコも思わずドン引きしている。


 しかし、マティアスはただ追い打つだけで終わらせるつもりはなかった。


「マケ……ワタシの……負ケ……」

「『命拾いしたのに、なに死んだような面してんだ?』」

「!」


 マティアスの口調がガラリと変わる。

 見覚えのあるその言葉に、ガーネットははっと顔を上げた。


「『運良く生き延びたんだ、今日の負けと恥は一夜の酒で流せ。そんで素知らぬ顔してまた明日かかってこい。それが俺たちガンマンだろ?』」

「ソ、そのセリフは……ディザスター・ベーブの第三巻、『ベーブ対殺し屋ガルボ』で、ベーブが勝負二勝ってモ、ガルボの命までは奪わなかった時ノ……」

「ベーブ好きの同志としての、励ましです。やっぱりガンマンに、落ち込んだ姿は似合わないと思うんですよ」


 西方小説のセリフを引用する形で、マティアスはガーネットを励ます。

 続けて、今回のサブマッチに対する感想を、そのまま素直に言うことにした。


「ガーネットさん。僕は今回のサブマッチ、勝てたことはもちろん嬉しいんですけど、それと同じくらい楽しかったです」


「僕は今までずっと、自分の鍛錬の為に技を使い続けてました。あんな風に魔物に向けて技を思い切り撃ったのは初めてだったんです。だから凄い新鮮で、やってる最中もずっと楽しかった」


「でも、そもそも僕がサブマッチを楽しめたのは、ガーネットさんが僕に『勝負』を挑んできてくれたお陰です。ガーネットさんがああ言ってくれたから、僕、勝つために凄く熱くなれたんですよ?」


「だからガーネットさん、今日はありがとうございました」


 ガーネットは一端顔を伏せて、身体を振るわせると、がばと立ち上がった。


「ソウです、そうデシタ」


 その表情に暗い感情は見当たらない、僅かな悔しさと清々しい活力が混ぜ合わさった、奮起の表情だった。


「イツまでも落ち込ムのは、ガンマンじゃアリマセン。生きてイル限り、失敗も敗北も笑ッテ蹴散らすのが、ガンマンの――ベーブの生き方デス」

「マティアス! 次はワタシが勝ちマス! 今よりモッット銃も魔弾も腕も磨き上げて、リベンジデス!!」


 びしり、と手を銃の形にしてマティアスを指差し、勇ましく宣言する。


「はい、またやりましょう。でも次も負けません」


 マティアスもまた堂々と宣言を受け止めるのであった。


「カッハッハ! 選手共々楽しんでもらえて何よりだ! こりゃさっさと正規のサブマッチ会場を決めて、リベンジマッチの準備もしなきゃなぁ!」


 そんな二人のやり取りを前にして、デスティはとても満足そうに笑っていた。


「おっともちろん、新規参入も大歓迎だぜ? サブマッチをやりたくなった奴、力を見せつけてぇ奴はいくらでも参加しに来い!」

「そんなわけで――今回のサブマッチの終了を宣言する!」


 さらなるサブマッチの参加者を促すよう宣伝して、デスティはサバイブ・マッチを締め括った。




「観客のみんな! これまでの観戦ありがとうなー! 今からは自由にしてええで! 帰る人は気をつけてなー!」

「ああそうそう、配当金の払い戻しは、専用の死体人形んとこ並んでンモガッ」

「だからそれは大きな声でうなっちゅーたやん! 不健全や!」

「小声じゃ伝わんねーだろ」


 デスティとジュンコのどつき漫才に近いやりとりが拡声器で広まっていく。

 試合の予熱が残る校庭はがやがやと慌ただしい雰囲気に包まれていて、フィールドだった校庭は死体人形達が整備をしていた。


「とりあえず、ベーブの教えに従ッテ、今日のマケはお酒をグィッと飲んで流そうと思いマス」

「いやいや、僕たちまだ未成年だからダメだよ」

「大丈夫! お酒風のジュースデス」

「それならいいけど……」


 そんな中マティアスとガーネットはというと、未だ結界に覆われている解説席で雑談をしていた。

 サブマッチは終わったので帰っていいと思うのだが、外側の観客席にはまだまだ沢山の観客がうろついていて、今出て行ったら確実に人混みに飲まれてしまうのが容易に想像できたのだ。

 なので人の数が減るまで少々待っていよう、というつもりなのである。


「ウウ……デモお酒を飲めるナラ飲まずにはいられないデス……敗北もショックなのデスガ、お小遣いもピンチなのデス」

「……魔弾って、結構お金がかかるんだね」

「ガトリング砲が撃ちスギなのデスヨ。今回使った以上の量を作って貰うナラ、バイトを沢山カケモチデス……」

「あー、ガーネットさんがアルバイトしてるのって、銃関連の物を買うためだったんだ」


 そんな風に仲良く雑談をしていた、その時であった。


「魔弾の費用? そんなに心配するこたぁ無いと思うぞ。ほら」


 二人の雑談を聞きつけたらしいデスティは、何かがパンパンに詰まった、丈夫そうなカバンをガーネットに手渡した。


「デスティさん。コレは?」

「賞金だ」

「ワッツ? デモワタシ、負けましたヨ?」

「選手にとっちゃあサブマッチは仕事みてーなもんだ。そりゃあ勝ち負けで多少差は付けてあるが、報酬は出す。今回は2人とも良いタイム出したしな」

「オゥ……! コレだけアレバ、今回使った魔弾を全部回収――どころか、チョット増やせるくらいアリマス!」


 ガーネットはカバンの中身を覗き込み、声を弾ませた。

 どうやら相当な額が入っているらしい。


 しかし、賞金と聞いたマティアスはというと、猛烈に嫌な予感がした。


「あのーデスティさん……もしかして賞金って僕も……?」

「なーに言ってんだマティアスくーん? 今回のサブマッチの勝者が、まさか、賞金を受け取らないなんてこたぁねーだろーな?」

「い、いやあの、今朝も手に負えない額のお金渡されてちょっと困るっていうか……」


 今回のサブマッチに勝利した人間に、賞金が与えられない筈がなかったのである。

 デスティがどこからともなく巨大なカバンを取り出したのを見て、マティアスは思わず後ずさりする。

 ガーネットの賞金より明らかに多い、というか今朝のサブマッチで貰った分より多いのではないだろうか。


「くっくっく、金なんてあるだけ困りゃしねーんだから潔く受け取っとけ。というか受け取らす、具体的には拒否したら倍額にして自宅に送りつけてやる」

「前代未聞の脅迫ですよ!?」


 まさか金を送り付けるぞと脅迫されるとは、露ほども思っていなかっただろう。

 こうしてマティアスは、千変万化流の流儀を以て大興行を成し遂げ、不本意ながら手に余る金銭を手に入れてしまったのであった。

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