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第二十二章『玖木晃三』

 いつだったろうか。

 それは交番に立ち寄ったときのことである。僕は道を聞こうと駐在さんを訪ねた。

 駐在さんは四十過ぎの男性で、神名村に来て三年ほどになると言っていた。

 他にもいろんなことを僕は聞いた。と言っても、別段にたいしたことじゃない。どうでもいい世間話程度の話だ。

 駐在さんはそのとき書類を書きながら、僕と話していた。そこで僕は見たのだ。書類を書くためにペンを握っているその手が小刻みに震えているのを。

 僕はその光景に既視感があった。

 ――玖木教授だ。

 僕はようやく思い出す。講義のとき、彼はチョークを握ると、なぜかその手があの駐在さんと同じように、小刻みに震えだすのである。

 僕は常々疑問に感じていた。だが、まわりの人間は無関心で、そんなことを気にするのはお前だけだと言われる始末だった。

 だから、僕はそれを教授に一度も聞けなかった。まわりの反応もある。しかし、僕はそれは聞いてはいけない――触れてはいけないことのように思えたのである。

 僕が訊ねあぐねていると、僕の目にこの村の地図が目に止まる。そして、僕は確認した。一軒だけ『玖木』と書かれた苗字が地図に載っているのを。


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