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第十四章『醜き産子』

 光さんを見失ったことに、ようやく気づいたときには手遅れというもので、道なき道を走っていた僕は、いつの間にか迷子になっていた。

 声をあげて呼びかけるべきなのだろうが、なぜか僕はそれをためらってしまう。星明かりすら届かないこの森の暗さは、奈落の底のようで、僕の声など吸いこまれてしまうと思ったからだ。

 立ち止まって耳を澄ませると、森に圧倒的に音が欠けているということに気づかされる。そのかわりにこの森を覆っているのは、粘着性をまとった不穏な空気である。

 僕はその空気を掻きわけるようにして、重々しく一歩を踏みだす。粘着質の空気はまとわりついてくるどころか、急きたてるようにして僕の背中を押しこんでいく。まるで僕をどこかへ誘うように。

 しばらく歩いていると、目の前の茂みがガサついてることに気づき、僕は再び立ち止まって、茂みを凝視する。

 しばらく経って、茂みから飛びだしてきたのは、憔悴した表情を浮かべた本山さんだった。

「せ、先輩……?」

 僕の顔を見て、本山さんはホッとしたのか、驚いたのか、複雑な表情を浮かべる。彼女は息も絶え絶え、服は泥だらけ、体のあちこちにすり傷を作っている。まるでなにかと格闘してきたあとのようだ。

 僕は憔悴しきった本山さんに駆け寄り、近くにあった木の幹に彼女をもたれかけさせた。

「一緒に来たヤツとは一緒じゃないのか?」

 本山さんは震えながら、首を横にふる。

「わからない。気づいたら途中ではぐれていたから……」

「だったら――」と僕が言いかけたときである。背後でまた茂みが揺れた。

 その音を聞いた本山さんはいきなり頭を抱えて怯えだす。僕は背後に気配を感じ、懐中電灯とともに、ゆっくりと顔をふり向けた。

 しかし、ふり向いてもそこには何もいない。僕は首をかしげて、本山さんに向きなおろうとしたときだった。

「先輩、うえ!」

 本山さんが叫び、僕はとっさに左腕で頭をかばう。すると左腕に激痛が走るのを感じ、僕は思わず悲鳴をあげる。

 僕はその食らいついてくるような痛みを剥がすために、無我夢中で左腕を振りまわし、あたりをのたうちまわった。

 そうしている間に痛みのもとは剥がれる。おかげで痛みは少し引いたが、それでも燃えるような痛みが左腕に残っている。暗がりでよくわからないが、出血してるのかもしれない。

「アイツだ。もう追いついてきたんだ……」

 本山さんがうわごとのようにつぶやく。アイツとは誰なのか、僕はそれを確認するためにあたりを注視する。

 懐中電灯の明かりを音がするほうへ、少しずつ近づけていく。

 そして、僕は見た。

 ソレは歯を鮮血で塗らしながらこちらに顔を向けてくる。一瞬、人間かと思ったが、それは大きな間違いであることに、気づくのにそれほど時間は要さなかった。

 一見、三歳児かと見間違うソレの手足は驚くほどに細長く、腹がでっぷりとでている。充血しきった瞳、禿げあがった頭は醜悪そのものであった。

 ソレは金切り声をあげると、再び僕の左腕にかぶりついてくる。その小さな体からは考えられないような力で、肉が剥ぎとられてしまうのではと思ったほどだった。

 だが、僕もいつまでも無抵抗のままではない。懐中電灯の柄のほうをソレに向けて、思いのかぎりの力で殴りつけたのだ。

 その一撃が効いたのかはわからないが、ソレは呻き声をあげ、僕の腕から離れた。

 するといつの間にか本山さんがソレの後ろにまわって、両手で抱えた大きな石で殴りかかったのである。

 鈍器で頭蓋をかち割る鈍い音がソレの呻き声と協奏する。

 本山さんはナニかに憑かれたような表情を浮かべながら、何度もソレを石で殴りつける。何度も、何度も……


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