第十三章『闇にヒカル』
僕は二人から逃げるようにして、こっそりともと来た道を引き返した。
出歯亀になるつもりは毛頭なかったし、田森の個人的な問題にこれ以上首を突っこむ気にもなれなかったのだ。
僕は何事もなかったように懐中電灯の明かりをつけなおし、肝試しを再開しようと思ったときだった。
「こんばんわ」
懐中電灯を照らした先に少女が立っていた。僕は思わず叫び声をあげそうになるのを必死でこらえながら、少女に顔を向ける。
「驚かせてしまいました?」
少女はいたずらっ子のような笑みを浮かべながら、そう言った。
邪気のない少女の笑顔を見せられ、僕は完全に毒気を抜かれてしまう。
可愛いといって差し支えのない少女であるが、黒髪は三つ編みにして、セーラー服の冬服を着ている姿が妙に違和感をあたえてくる。そういえば昨日出会った少年も学ラン姿だった。
「まさか、君はこんな時間に散歩、じゃないよね?」
しかも少女は明かり一つ持っていない。明かりがなければ、ほとんどが暗闇に閉ざされるこの森を、この少女は明かりもなしに歩いてきたというのだろうか。
「いえ、私は見まわりをしてるんです」
「見まわり?」
正直、奇妙なことを言う少女だと思った。見まわりというならば、彼女はいったい何を見まわっているというのか。
「ええ。この森にはヒトならざる者が息をひそめているんです。最近は大人しくしていたんですが、今日はヒトの臭いを嗅ぎつけて興奮しているようなんです」
僕は彼女の言ってることが理解できず、眉をしかめる。
「何が起こってるのか理解できないとは思いますが、いまは私と一緒に行動していただけませんか?」
僕はとりあえず「ああ」とだけ返し、彼女と行動を共にすることを了承した。断る理由がなかったということもあるが、この森は一人で抜けるには心細すぎたのである。
それから僕と少女は雑談をしながら、森を進むことになった。こうして会話しているだけでも、気の持ちようというのはまるで違うもので、少女の存在は非常にありがたかった。
ちなみに、この少女の名前は荷燈光。これは彼女との会話のなかで知ったものだ。他にも、僕がいま肝試しをしていること、この村に『妖姫伝説』の研究に来たことを教えた。
荷燈光さんという少女は、聞き上手らしく、話題も途切れることなかった。だが、その会話もすぐに中断することになる。
森の奥から女性の叫び声が聞こえたのである。
「気配とは逆方向からだなんて……。どうやら人繰に欺かれたようですね」
荷燈さんはそう呟くと、いきなり僕に向かって「私についてきてください」と言って、声の方向へ走りだしてしまった。
状況の掴めない僕は、言われるがままに彼女のあとを追う。
そのとき、僕は物事を楽観的に考えすぎていた。もう少し注意があれば、事態はあそこまで深刻にならずにすんだのではないか。その問いにはいまだ答えが出てないのだけれど……
ここで物語は中盤です。
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