エアハルト編2
エアハルト・バウマンは、タンクトップの似合うナイスガイである。
帝国から自由騎士という立派な称号を貰う、実力のある冒険者でもあった。
今日も背中にクロスバックしているタンクトップが、鍛え上げられた体を締め上げ気分が良いと思うエアハルトだった。
少し前に皇帝となったライエルに呼びつけられ帝都を訪れていたが、今日にでも帰ろうと連結馬車の出発を待っている。
チケットを購入し、ベイム方面へと向かう連結馬車へと乗り込み座っていた。
「戻ったらパーティーの事も考えないと」
結婚適齢期後半に差し掛かった女性冒険者たち。
彼女たちが狙っているのはエアハルトであり、パーティー内で激しく女の争いが続いている。
このままではパーティーが解散してしまう。
「いや、いっそ解散して自由になった方が――」
まるでこのまま逃げてしまってもいいのではないか? そう、自分の中で魅力的な提案に拒絶しようと精神的な葛藤をしていると声が聞こえてきた。
「は、離してください!」
「いいから来い!」
フードをかぶった女性を、三人の男たちが連結馬車から少し離れた場所で囲んでいた。視線を向けると、人混みの中に消えていく。
エアハルトは髪を乱暴にかいた。
「くそっ! 見なければ良かった」
見てしまったからには助けるしかないと、立ち上がって連結馬車から降りる。御者に自分が間に合わないときは先に出発して構わないと告げて、だ。
そこは建物同士の狭い隙間。
薄暗く、そしてゴミ箱が置かれ腐臭が漂っている。
「……戻りません。今戻れば、私は!」
女性が三人の男たちを前に拒絶を示していた。
「わがままを言われても困りますね」
「皇帝陛下に救いをお求めになるつもりで?」
「貴方が助けを求めたところで、皇帝陛下は動きませんよ」
男たちはどこか気怠げに。そして、女性に対して呆れていた。
俯き、下唇を噛みしめる女性――。
そんな女性の下に現われるのは、大剣を担いだエアハルトだった。
「おい待てよ。女一人を三人囲んで恥ずかしくないのか?」
挑発するエアハルトに対して、三人の男たちは幾分か焦っていた。だが、エアハルトが狭い場所に入ってくると言い放つ。
「これはこちらの問題だ。関わらないで貰おうか」
リーダー格の男の言葉に、エアハルトは目を細めた。
「気に入らない。俺の関わる理由はそれだけだ。それとも、何か理由があるのか?」
男たちは言いよどんでおり、後ろ暗い何かがあるのは明白だった。
「なら……」
エアハルトが近付いてくると、三人組みの男たちは腰に武器を下げているのに素手で殴りかかってきた。
その動きは訓練を受け、戦い慣れている者たちの動きだった。
「三人がかりなら!」
男たちが狭い場所で襲いかかってくると、エアハルトも素手で迎え撃つ。
三人組みも強かったが、自由騎士という称号をライエルがただの酔狂で与えたわけではない。
エアハルトが強く、そして冒険者として――人として成長したから与えたのだ。
そこに色々と面白そうとか、こうやれば嫌がるとか、ライエルの個人的な感情は確かにあったが――エアハルトは強かった。
「分かりやすくて良いね」
拳で三人を迎え撃ち、汚れた地面に沈めるとエアハルトは小さく息を吐く。
「連結馬車は出発しただろうな」
すると、女性がエアハルトの胸に飛び込んで来た。
「え? あ、あの――お嬢さん、助けられたからってそんなに簡単に男を信用するものじゃ――」
エアハルトが胸に飛び込んで来た女性の両肩を掴み、自分から引き離すとフードが脱げる。
紫色の髪が揺れ、僅かに香水の臭い。
潤んだ瞳に柔らかそうな唇……そこにいたのは。
「エアハルト様が助けに来てくださるなんて」
頬を染めたアンネリーネだった。
帝都の宿屋。
エアハルトは頭を抱えていた。
理由は、帝都にロルフィスの王女殿下であるアンネリーネが来ていた事に加え、そんなアンネリーネを付け狙っていた一団。
厄介事でしかない。
「……すぐにロルフィスに戻りたいと?」
しかも、悪友であるライエルを頼れないというのだ。
アンネリーネが困っているのなら、エアハルトの方からライエルに話をすると当然申し出た。
しかし――。
「はい。それに、帝都にはあの者たちの手が回っています。皇帝陛下に助けを求める事は出来ません」
俯くアンネリーネを前に、エアハルトは髪をかく。
(政治、って奴か? そう言えば、皇帝なら何でもできるわけじゃないとかライエルも言っていたな。つまり、ライエルでも助けられない事情があるのか?)
帝都に助けを求めに来たが、既に襲撃した者たちの手が回っていた。
「迂闊でした。私がもっとしっかりしていれば――」
悔しそうにするアンネリーネを見て、エアハルトは腕を組んで天井を見上げ思案する。しかし、自分が馬鹿だったのを思い出すと深い溜息を吐いた。
「エアハルト様?」
不安そうにするアンネリーネに、エアハルトは笑顔を向けた。
「気にしないでください。俺も戻るところでした。王女様を無事にロルフィスまでお届けして見せますよ」
手を胸の前で組み、感動して泣き出してしまいそうなアンネリーネは何度もお礼を口にするのだった。
(追手が来なければいいんだけどな。たぶん、無理だろうな)
自分一人で守れるだろうか?
エアハルトは覚悟を決め、アンネリーネと共にロルフィスを目指す事に決めた。
丁度その頃。
宮殿ではライエルが三人の男たちと面会していた。
護衛の者たちを率いるバルドアは、怪我の目立つ三人を前に少し苛立っている。何しろ、本来であればライエルに面会できる者たちではないのだから。
「こ、皇帝陛下――」
緊張する三人の代表を前に、ライエルは椅子から立ち上がる。
「前置きはいい。帝都で騒ぎを起こしたのも不問にしてやる。だが、事実か?」
男たちは痣の目立つ顔で必死に何度も頷いた。
ライエルはあごに手を当てる。
「面倒になったと思ったんだが、まさかエアハルトが」
バルドアが、ライエルに忠言するのだった。
「陛下、今回の一件は関わるべきではありません。これはロルフィスの問題で有り――」
ライエルはバルドアを手で制し、そして部屋で控えていたメイドに視線を向けた。
モニカは黙ってカテーシーをすると、部屋から出て行った。
「バルドア、俺の言いたいことが分かるか?」
不満そうにしているバルドアに対して、ライエルは薄らと笑っていた。バルドアが手を握りしめ、口を閉じた。
「政治や色々なしがらみが増えて困る。だが、エアハルトくらいは――」
自由騎士エアハルト――友人の事を思い浮かべ、ライエルは微笑んだ。
そして真剣な表情になると、ライエルは身を縮こまらせた三人に視線を向けるのだった。
「帝都で騒ぎを起こしたんだ。お前たちにも働いて貰おうか」
三人組みの男たちは、ライエルを前に必死に頭を下げるのだった。
「さて、久しぶりに楽しくなってきたじゃないか」
エアハルトが動き、ライエルも動き出す。
ロルフィスを中心とした動きは、大陸に影響を及ぼすことになるのだった。
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モニカ(*ノ∀ノ)「今回はハーレムでキャッキャッウフフの展開で、もうアレやコレやで口の中が甘くなりそうな描写有り! Web版とは違う書籍版セブンスをよろしくお願いいたします」
モニカ(´∀`*)ノシ「以上、モニカの宣伝でした」