エアハルト編3
エアハルト編も終わりです。
ダラダラやっても飽きちゃうからね。
タンクトップの両肩を指で持ち上げ、離すとパチンと肌に張り付く。
今日もピチピチのタンクトップを着る良い男であるエアハルトは、真新しいタンクトップの感覚に満足していた。
「やっぱりゴムが緩むと力が出ないな」
周囲にはアンネリーネ――ロルフィスの王女殿下を狙った刺客たちが転がり、エアハルトの後ろには狙われているアンネリーネが控えていた。
一人の男が立ち上がろうとする。
「止めておけ。これ以上は血を流すことになる」
エアハルトは刺客たちを殺していない。これはアンネリーネの願いでもあった。殺すと厄介な事になると言われている。
刺客の一人は小さく笑っていた。
「あんた強いよ。自由騎士だったか? 確かに強いが……もう終わりだ。どこにも逃げ場なんかないぜ」
刺客の言葉に、エアハルトは背中を向けた。
刺客は言いたい事だけを言って倒れ、気を失ってしまったからだ。
「まぁ、目的地はロルフィスだからな。こいつらもそれは分かっているか」
アンネリーネを守りロルフィスを目指しているのだ。刺客たちにとって罠を張りやすいし、エアハルトにしてみれば不利である。
だが、エアハルトはそんな事でアンネリーネを見捨てたりはしない。
不安そうな顔をするアンネリーネは俯いている。
エアハルトは頭の上に手を乗せ、そして乱暴に撫でてやった。
「な、なにを!」
顔を真っ赤にするアンネリーネに、エアハルトは笑顔を向けるのだった。
「いい顔だ。王女様が落ち込んでいる姿は似合わないぜ。このままロルフィスまで行けばどうにかなるんだろ?」
アンネリーネは小さく頷く。
「けれど、エアハルト様にはなんの得にもなりません」
エアハルトは自分の髪をかいた。
そして、小さく笑うのだ。
「いいさ。あんたを助けて大きな借りをライエルの野郎に作るのも悪くはない。それに、困っている奴を見捨てるなんて出来ないね」
かつては周囲に迷惑をかけ、ライエルに喧嘩を売った世間知らずの冒険者だったエアハルトは成長していた。
アンネリーネの手を掴む。
「ほら、追手が来ないうちに逃げようぜ。このまま連結馬車でロルフィスを目指すか?」
アンネリーネは慌てて提案してきた。
「ま、待ってください! て、敵も連結馬車を見張っているはずです。ここは、時間はかかろうとも確実にロルフィスを目指したいのです」
アゴに手を当てて首を傾げ、エアハルトは「それもそうか」と呟きアンネリーネの提案に賛成するのだった。
(仲間と合流できたらいいんだが、どうしたものかな)
頼りになる仲間たちは、今頃ベイムで休暇中だろう。
呼び寄せる手段もないエアハルトは、一緒に村を出た仲間たちの顔を思い浮かべる。少し前は田舎者だった少年たちが、今ではベイムでも指折りの冒険者だ。
頼もしい仲間たちがいてくれたら、そう思いながらエアハルトとアンネリーネは移動する。
アンネリーネと旅をするエアハルト。
当然だが、身分を隠すために豪華な宿になど泊ることはできない。場合によっては二人で一部屋に泊ることもあったが、エアハルトは王女殿下に手を出すほどに女に飢えてもいなかった。
もっとも、手を出してはいけない女性だ。色んな意味で危険であるのを、エアハルト自身も気が付いている。
そうしてロルフィスを目指し、ようやく明日には到着という頃。
二人でロルフィス行きの荷馬車を探して交渉を終えると、エアハルトの仲間たちが駆け寄ってきた。
「エアハルト!」
必死の形相で近付いてくる仲間たちに、エアハルトは手を大きく振る。
「お前ら! あ、聞いてくれて。実は――」
アンネリーネ王女を紹介し、ロルフィスまでの護衛を手伝って貰おう。エアハルトはそう思っていた。
しかし、ここで周囲からローブを身に纏った刺客たちが出現する。
エアハルトが大剣の柄を手で握り、いつでも抜けるように構えた。
「やっぱり隠れていやがったか!」
刺客たちは、エアハルトと仲間たちを合流させないように分断する。
囲まれたエアハルト。
「お客さん、早く!」
荷馬車の持ち主である商人が、律儀にエアハルトたちを待ってくれていた。
刺客たちはエアハルトの仲間たちに人数を割いており、どうやらこちらは手薄である。それに、分断が目的であって殺意を感じない。
(このままここで暴れ回る方が危険だな)
「お前ら、俺は先にロルフィスに行く! ここはなんとしても生き残れ!」
アンネリーネの手を掴み、荷馬車に乗り込むと商人は大急ぎでロルフィス方面へと向かう。
そんなエアハルトに、仲間たちが叫んでいた。
だが、周囲の刺客立ちに邪魔をされ、そしてエアハルトに声は届かない。
「違うんだ! エアハルト、実は――」
仲間たちが作ってくれたチャンスを有効活用し、エアハルトとアンネリーネはロルフィスへと向かった。
仲間たちが泣きそうな顔で叫ぶ。
「行ったら駄目だぁぁぁぁ! 戻って来い、エアハルトォォォ!」
仲間たちの声は、エアハルトに届かない。
ロルフィス王城。
そこで待っていたのは、ライエルをはじめとした各国の首脳陣たちだった。
アンネリーネを狙っていた小国の王子も、笑顔でエアハルトとアンネリーネを出迎えている。
拍手喝采のその場所で、エアハルトは護衛と称した見張りたちに囲まれていた。その見張りの中には、アレットの姿も確認できる。
「逃さない。絶対に逃さない」
ブツブツ呟き、エアハルトを血走った目で見ている護衛と称した騎士たち。
アンネリーネは頬に手を当てて身をクネクネさせて妄想の世界に浸っている。
「あぁ、私の身を守るために命懸けで戦ってくれた、エアハルト様。やはり、私とエアハルト様は運命の赤い糸で結ばれていたのですね」
エアハルトは気が付いた。
笑顔で拍手をしているロルフィスの騎士たちの中には、怪我をしている者たちが大勢いることに。
エアハルトは指を差す。
「お、お前ら――」
そう。そこには、帝都でアンネリーネを囲んでいた男たちの姿もあった。
彼らも笑顔で拍手を送っている。一人は涙を流し「良かった。これで王女殿下も無事に結婚して、王家が存続できる。本当に良かった」と、泣いていた。
普段よりも豪華な服装。そして装飾品を身に付けたライエルが、まだ理解を拒んでいるエアハルトに近付き肩を叩く。
周囲に聞こえる声で言うのだ。
「行方不明の王女殿下をよく救出してくれた、我が騎士エアハルトよ。その功績に酬いるため、俺はお前にアンネリーネ王女殿下との結婚を認めよう。帝国内でのロルフィスの階位を上げ、我が騎士にして友であるエアハルトの功績に酬いようと思う」
顔を近づけるライエルは、周囲に聞こえない声で言う。
「おめでとう、エアハルト。コレでお前も本物のハーレムの主だな。安心すると良い。お前の仲間たち――女性陣にもちゃんと声をかけている。お前たちの椅子も用意している、ってね。みんな大喜びだったよ」
下卑た笑みを浮かべるライエルは、エアハルトの健闘を称えるように抱きついて背中を手で叩く。
エアハルトは拳を作るが、ライエルに押え込まれる。
「お、お前……まさか!」
ライエルはエアハルトの耳元で囁く。
「良かったな、エアハルト……お前の夢だっただろ?」
「ふ、ふざけんな! 俺はもうそんな事は考えていないんだよ!」
それは何も知らない冒険者に成り立ての頃だった。
エアハルトも男であり、ハーレムパーティーに憧れていた。女性に囲まれ、イチャイチャしたかった。
だが、現実は甘くない。
ハーレムの大変さを知り、そして仲間たちと冒険者の仕事やら出来事を通して考えを改めた後だった。
周囲ではこれから行われる結婚式に参加する各国の首脳陣たちがおり、ここで結婚しないというと個人ばかりか国とか色々と迷惑がかかる。
しかも、周囲ではエルフたち――エヴァが、二人がいかに過酷な旅を乗り切ったのかを歌っていた。
二人で安い宿に泊った話も語っており、どこかで監視していたのが分かる。
(は、謀られた。そうか、あいつらが言いたかったのは……俺の本当の敵は!)
ライエルがエアハルトから離れ、そして笑顔を向けていた。まるで友人を自分と同じ地獄に引きずり込み、それが楽しくて仕方がないという顔だ。
これから同じ地獄を体験できるね。などと言っているような顔である。
「喜べ、エアハルト……お前の夢は叶ったぞ」
殴りたいと思ったエアハルトは悪くないだろう。
こうして、エアハルトは自由騎士から王になり、数多くの女性を囲うハーレムの主になったのだった……。
めでたし、めでたし……。
「こんな、こんな事が許されるのかよぉぉぉ!」
クラーラ(;@∀@)「……まだ純粋だったライエルさんが見たい方は書籍版をどうぞ。書籍版4巻は本日2/27日発売です」




