せぶんす・あふたー外伝2
「え? 来いって言われて行かなかったんですか!」
そこはレオの自室。
今はライエルの昔の話を聞いていた。
だが、そこでレオが気になったのは【オクトー】の話である。
百階を超える迷宮に挑み、そこから自分に通じるドアを用意した。真実が知りたければ自分のところまで来い……というのがオクトーの言葉である。
だが、それに対してライエルたちが出した答えは――。
『そんな暇もなかったし、当然スルーするに決まっているだろうが。というか、その時は忙しかったの』
オクトーに真実を知りたければ、などと言われたのにスルーしたライエル。
それを聞いてレオは首を横に振るのだった。
「真実を知りたいとか思わなかったんですか?」
ライエルは宝玉内から、鼻で笑う。
『はっ! 真実を知れば全ての問題が解決すると思うのか? それよりこっちは目先の問題で手一杯だったの。というかさぁ……オクトーさんも気が利かないよね。大体、百階突破とか俺たちの時代だと不可能だったし』
レオはそれを聞いて考え込む。
「あれ? ご先祖様、俺に昔の人間はもっと強かった、的な事を言いませんでした? もしかして……嘘とか?」
するとライエルが憤慨する。
『馬鹿野郎! 迷宮攻略はただ強ければいい、って問題でもないんだぞ! 前衛で戦う人間をサポートするのに、倍以上の人間がいるんだよ。お前ら、便利な道具があるから簡単に考えているかも知れないけど、その便利な道具を開発したのは俺だからね! 俺とモニカや、ダミアンとかその他諸々だからね!』
レオの自室。
いきなり天井から顔を出したモニカが、懐かしそうに語り出す。金髪のツインテールが天井から下がってポヨポヨと動いていた。
「どこから顔を出しているのさ、モニカさん」
「懐かしいですね。暇だからと色々と開発したものですよ」
レオの疑問をスルーしながら、モニカは天井から飛び降りた。そして何事もなかったかのように話を続けるのだ。
「まぁ、二千年も経てば、私たちがまったく関係ない発明も出ていますけどね。言っておきますが、ポーターを作ったのはチキン野郎とこのモニカですよ」
ポーター……今では移動手段として欠かせない道具を、二人が作ったと聞いてレオは疑うのだった。
「そんなに凄そうに見えませんけどね。というか、暇なら迷宮攻略すれば良いじゃないですか」
ライエルはレオに言い聞かせる。
『俺が現役を退いて、息子の後見をしながら徐々に仕事を減らしたらもう四十代だぞ。現役なんかとうに終わっていたの』
レオはそれでも食い下がる。
「誰かに任せるとか? ほら、息子さんが大勢いたなら、その誰かに――」
すると、モニカが焦ったように首を横に振った。
「なにを言っているのですか、レオ様。チキン野郎のヒヨコ様を、そんな危ない目に遭わせるなど出来ません。断固として拒否します」
ライエルが思い出す。
『実際に大反対されたね。元気すぎる息子に「お前、行けよ」って言ったら後宮で大問題になって吊し上げをくらったな。俺、その当時は元皇帝だよ。もっと大事に扱って欲しいよな』
レオは思う。
(俺、これまで結構危ない目に遭っているけど、その辺はスルーなのかな?)
レオの疑問を勘違いしたモニカが、当時の迷宮攻略について話をするのだった。
「昔は今よりも不便でしたからね。缶詰や保存食などもありませんでしたし、迷宮攻略と言えばそれこそ何百人と人を集めていました。もしも百階層を攻略しようと思うのなら……必要期間は年単位。必要人員は後方支援も合わせて万単位になるでしょうね」
レオは驚いた。
「そんなに!?」
ライエルもモニカに同意をする。
『持って行ける食糧にだって限りがある。それを運ぶ奴、先に進む奴。途中でキャンプ地なんかも設営したら、そこに人を配置しないといけないからな』
モニカが頬に手を当てて溜息を吐いた。
「あの当時、そんな余裕はありませんでしたね。まぁ、そこまでしてオクトーに会いに行こうとも思えませんでしたが」
『お前、ノウェムとかオクトーとか大っ嫌いだよな』
「はい。嫌いです。今でも殺意がわきますよ」
レオは俯いて考え込む。
顔を上げ、そして二人にたずねた。
「あの……二人は真実に興味がなかったんですか?」
ライエルは素直に答えるようだ。
『あったよ。あったけど、どう考えても優先順位が低かったんだよね。歴代当主たちもスルーしていい、って言ったからそうした。実際困らなかったし』
「真実など、時として知らない方がいいものです。実際、今日に至るまで必要とは感じませんでしたね。……あ!?」
モニカが両手で口元を押さえた。
『またどうせどうでもいい事だろ?』
ライエルが呆れていると、モニカは口をパクパクさせ本当に焦っている様子だった。そして真剣な表情になる。
「実はこの数百年、メンテと更新もあって眠っていたのですが……起きて調べてみると、どうやら迷宮から数多くの魔物が出ているようです。しかも、厄介な事に魔物も迷宮も大型化をしているとか」
レオは知らない内容なので首を傾げた。
「そうなんですか?」
『それで?』
モニカは未だに興味なさそうな二人に対して、自分の集めた情報をまとめ、分かりやすくしてから説明する。
「いえ、確かにそれだけなら、人類が引きこもったせいで迷宮の暴走が繰り返し起きていると考えられます。ですが……最近では、暴走した迷宮は消えずに残っているらしいのです」
ライエルの声も少し低くなり、真剣なものになっていた。
『厄介だな。引きこもれるコロニーがあるだけに、今の時代は迷宮を放置している。それなのに消えずに残っているとなると……地上は本当に魔物の楽園だな』
モニカは仮説を立ててみた。
「もしかして、という程度ですが……実はオクトーがこの件に絡んでいるとは考えられませんか? ノウェムと同じ強硬派だったオクトーなら、人類総引きこもりをどうにかしようとするはずです」
ライエルもしばらく考え込み……。
『有り得るな。それとも、俺が顔を出さなかったから怒ったか?』
二千年も待たされれば怒るよね、などと言って笑うライエルだった。
モニカも同様だ。
「まぁ、そういう事です。こちらには関係ないので、スルーしておきましょう。あ、レオ様、お食事の用意が出来たので呼びに来たんでした。早く食べないと冷めてしまいますよ」
だが、レオは違う。
「待ってくださいよ!」
ライエルとモニカが口を閉じ、レオに意識を向けた。
「そ、それって……ご先祖様がオクトーさんに会いに行かないから、こうなったって事ですか!?」
だが、ライエルも外見は三十代だが、中身は老人になるまでの記憶を持っている。ふてぶてしさに磨きをかけていた。
『そうね。だから? 俺は俺のやるべき事をやったし、今の時代の連中で頑張って解決しようよ。それがいいって。俺、もう、十分に頑張ったもん』
モニカも賛成らしい。というか、モニカはチキン野郎と言ってライエルを貶してはいるが、基本的にライエルを全肯定する。
「そうですよ。チキン野郎は少しも悪くありません。むしろ頑張りすぎです。というか、今の時代の人類が悪いですよ。みんなで外に出ればオクトーも許してくれます、って。たぶん」
レオが叫ぶ。
「たぶん!? たぶん、ってなんですか! そこは真剣に考えてくださいよ!」
レオの生きる時代。
それは、人類が地上からコロニーという限られた生活圏に隠れ住む時代でもある。外には凶悪な魔物たちが歩き回り、人々を苦しめていた。
生活圏を広げるため、コロニーは魔物と戦うハンターを育成しようとしているのだ。レオにしてみれば、関係ない話ではないのだ。
ライエルは少し考え込み。
『なら、レオの目標はオクトーさんに会って謝罪することだな。そこまで行ければどう考えても最強のハンターだろ』
モニカも納得する。
「いいですね。あやふやな目標より、そうした分かりやすい目標も大事ですからね。チキン野郎の尻拭いをして貰いましょう」
『尻拭い、って言うなよ。俺が悪いみたいだろ』
レオは二人を前にして困惑した。
「え? ……俺ですか?」
ライエルは笑いながら言うのだ。
『頑張って謝ってきてくれ。ライエルが「ごめんね♪」って言っていたと伝えてくれるだけで良いから』
モニカも笑っていた。
「オクトーの苛立つ顔が見られるなら、私も協力します。姉妹たちもノリノリで嫌がらせに協力してくれますよ」
レオは部屋から宝玉を大事そうに持って出て行くモニカの背中を見て、手を伸ばすがモニカもライエルも気づかないまま部屋の外に出ていく。
「……俺の目標が嫌がらせのついでに決まるなんて」
肩を落とすレオは、無事にオクトーに合う事が出来るのだろうか?
ライエルヽ(・∀・ )ノ「嬉々として嫌がらせを行う! それがウォルト家の神髄! 煽りなら任せろぉ! ついでに8月31日はセブンス三巻の発売日ぃぃぃ!」
モニカヽ(*´∀`)ノ 「チキン野郎が輝いてるぅぅぅ! ついでに三巻も買ってね!」
レオ(´・ω・)「……こいつら最低だよ」
オクトー(#・∀・)「……別に怒ってないし」