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花の音  作者: 高山之信
心に咲いた花
83/105

83 家族会議らしきものは続いて

「あと、芳川さんの帰郷(ききょう)に同行するというお話しだったわね」

「僕的には、それがメインだと思ってたんだけど……」

家族会議は話の方向が急転換した。

助かったのか助かっていないのか、花菜にはもう分からなかった。

当座助かりはした、というのが正しいのかもしれなかった。

そして、響のご両親にご挨拶(あいさつ)に行くという現実からは逃れられない。

両親がどのような反応を示すのか、花菜は思わず身構えてしまう。


「これに関しては、お父さんと話し合いました」

「そうだね」

どうやらもう話し合われて、結論は出ているらしい。

花菜は審判(しんぱん)のときを待つ。


「大人の方も同行されるようだし、OKよ」

それを聞いて、一旦花菜はホッと胸を撫で下ろす。

どうやら、無事両親からのお許しを得ることはできたようだった。

やはり、都と凪乃の存在は大きいのかもしれなかった。

響に朗報を持ち帰れることに関しては、花菜の中で喜ばしいことである。

だが響の両親に挨拶をするという不安は、一向に無くなりはしない。


「ただし、お母さんもご挨拶(あいさつ)に伺います」

「お父さん」

「全部聞いて、花菜ちゃん」

母親が挨拶に伺うということは、花菜達に同行するということだろう。

純粋にお世話になっているので、挨拶には伺いたいと前から言っていたのは事実である。

このままでは、花菜の事情が出会い(がしら)に先方に伝わってしまう。

それ以上に、親同伴で恋人の家にご挨拶に伺うのが恥ずかしいという側面もあった。

これを受けて、花菜が思わず父親に声を上げる。

だが、どうやらまだそのことに対する説明があるらしかった。


「芳川さんって、お母さんの田舎に居たあの芳川さんだったんでしょ? それだったらお母さん、知ってる知ってる! 何年(なんねん)振りかしら! 覚えてるかなぁ」

「お母さん、芳川さんが花菜ちゃんと昔遊んでた響ちゃんだって知ってからご両親にご挨拶するのが楽しみだったんだよ。お母さん、昔の知り合いだからね。そしたら、ご近所じゃなくて遠方だって言うじゃないか。相原のお盆は軽く済ませて花菜ちゃんと一緒に会いに行くって聞かないんだよ……」

「わぁ……。うん、分かったぁ……」

母親の響の両親に対する情熱が、花菜の予想を上回っていた。

顔見知りのご近所さんといった感じではなく、結構思い出深い人物だったらしい。

これは説得では、どうにもなりそうもなかった。

このまま花菜は、響を(たぶら)かした悪女として紹介されてしまうことになるのだろう。

どうにか印象が悪くならないことを祈るしかなかった。

そんな事情を知らない母親は、只管(ひたすら)に楽しみにしてそうであった。

思えば母親も芳川家の騒動を知らないわけである。

花菜の口から人様の家の事情を説明するわけにもいかず、対面した際の温度感が心配になった。


「相原の人達、大体ご近所さんじゃない」

「そうだね、結構会いに来てくれたりするからね。特別な日だからって、集まったからどうこう言う間柄でもないね」

父親は三人兄弟の次男坊であった。

上に兄と下に妹がおり、花菜からすれば叔父叔母がいる形になる。

相原の人間は近所に住んでおり、祖父母は叔父夫婦と生家で一緒に暮らしている。

叔母も近所に(とつ)いだので、それなりに顔を出してくれる。

それぞれ子供がおり、そこそこ交流はある。

花菜が一番上になるのだが、懐かれてはいた。

会う度にベッタリで、遊びに付き合わされる。

年下の従姉妹(いとこ)達はかわいくはあったが、花菜からすると偶に会う親戚の距離感を出なかった。


「娘の大切な人の親御さんに、ご挨拶に行くのも大事でしょ」

「その言い方すると、お爺ちゃんとお婆ちゃんビックリしちゃうよぉ……。絶対に言わないでね……」

「その落ち着かせる役、お父さんに丸投げして行くのも止めてね?」

母親が相原の祖父母にどう告げるのか、父親と娘が不安がった。

先程までの暴走が尾を引いているのだろう。


「花菜ちゃんとお父さん、どうする? 村雲(むらくも)の方に顔出す? あれならお母さんだけ顔出してくるけど」

相原家としては母方の生家である村雲家は遠方なので、年一で会えればいいかの距離感である。

お正月には顔を出したので、お盆はどちらでもいいかといった風なのだった。

これはおおよそ、交通事情の如何(いかん)によるところが大きかった。

母親は二人兄妹で兄もおり、嫁いでいることもあってのこともあるのかもしれない。

お墓参りも墓守(はかもり)は母親の兄に任せてあるので、気楽に構えているのだろう。

この辺り、相原家は大らかである。

お盆、お彼岸に決まりはなかった。

花菜がお世話になっていた頃は、お盆には必ず参っていたのだが。

母親は自分だけでもお墓参りと、健勝である実母と会いたいのかもしれなかった。


「私もお婆ちゃんに会いたいなぁ」

「花菜ちゃん、本当に村雲のお婆ちゃん好きね」

花菜は物心つく前に相原の祖父母に世話になっていたのだが、その()従姉妹(いとこ)が生まれて(せわ)しなくなったので母方である村雲の祖母の世話になることになったという経緯(けいい)がある。

母方の祖父は既に亡くなっており、兄妹(きょうだい)二人が揃って家から出ていることもあり、両親が田舎で一人にしている母方の祖母に孫の顔を見せたいという意向もあったのだろう。


響に会う前から、花菜は母方の祖母に懐いていた。

花菜的には響がいるときは、誰よりもいち早く響とのことを聞いてもらった存在であった。

それに響がいなくなった後は、長期休みの間にいろいろと教わった過去もある。

祖母は(いま)だに花菜のことを、はなちゃんと相性で呼んでくる数少ない人物であった。

それに釣られて、花菜も祖母の前では自分のことを相性で呼んでしまう。

花菜は懐かしくもあって、自身のことを相性で呼ぶのは嫌いでなかった。


「でも……折角響ちゃんのご実家に行ったのに直ぐに()っちゃうと、寂しがっちゃいそう……」

「じゃあ、今回その辺りは芳川さんと話し合って決めちゃいなさい」

「分かったぁ」

「お父さんも、花菜ちゃんに合わせるよ」

田舎の祖母とは会いたかったが、時期的に離れると響が寂しがりそうである。

凪乃も滞在するであろうし、協力体制を()かなければならないかもしれない。

それに響と都が帰省するタイミングにも()ってくる。

お盆前の土日などの休日を利用して早めに到着するのであれば、事前に十分時間が取れる。

これに関しては、都と凪乃の都合もあるだろう。

その辺りの事情を精査する時間が必要であった。


「ねぇ、お母さん、お父さん。二人とも居るから聞いておきたいんだけど……」

「なんだい、花菜ちゃん」

「なぁに?」

「響ちゃん、家に連れてくるってお話なんだけど……」

花菜は両親が揃っているよい機会であったので、以前より双方から要望があった響来訪の件に関して切り出した。


「連れてきてくれるの⁉」

「いつ⁉ 次のお休み⁉ 花菜ちゃん達夏休み入るわよね? 次の土日、どっちでもお母さんとお父さんOKだから!」

「準備万端だよ!」

両親が前のめりで娘の恋人の来訪に関して乗り気であった。

言葉通り、両親が二人とも少し腰を浮かして花菜の方に身体を寄せている。

どれ程待ちわびているのだろうか。


「えっ、あっうん……。伝えておくね……。多分、その日程で大丈夫だから……」

目をキラキラさせて娘の恋人の来訪を歓迎する両親に対して、花菜は少し引き気味である。

相原家の響人気が(とど)まるところを知らない。

花菜にいい影響を与えている存在を確かめたいという親心もあるのかもしれないが、期待に満ちた目はもう一人の娘を待ち望んでいるような雰囲気(ふんいき)が伺えた。

響も乗り気であったし、不安でいるのは花菜自身のみとなる。


「楽しみだねぇ、お母さん!」

「楽しみねぇ、お父さん!」

花菜には二人のキラキラした笑顔が(まぶ)しかった。

これ程喜んでくれるのならと、純粋な嬉しさすらある。


「ねぇ、二人とも……響ちゃんに私の恥ずかしい話とかしないでよ……?」

花菜は、この二人がどこかしら感性が人と異なる上に親馬鹿なところがあるのだと認識している。

そして、響が花菜の恋人として邂逅(かいこう)する。

少し恐ろしかった。


「なにを言ってるんだい! 花菜ちゃんに恥ずかしいところなんてないよ!」

「そうよぉ! 自慢の娘なんだから!」

「あっ、ダメそう……」

花菜は遠くない未来に思いを()せた。

それはきっと、幸せなときなのだろう。

愛する人を、愛する家族が認めてくれる。

幸せが広がる瞬間なのかもしれない。

その場に立ち会えることに、花菜とて幸福を感じている。

だが、両親の暴走を止めるという使命を抱かずにはいられなかった。

話数による文字の均一化ができないのは、もう許してください。

今回はあっさり。

いや、通常営業?

決して長尺の一話を分割したら凸凹になったとか、そういうわけではなくてですね……。

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