80 初めまして、あれ?
「凪乃、今日も綺麗だねぇ。好きだよぉ」
『都、なにか誤魔化したいの?』
「そんなことないよぉ~。本心からの言葉だよぉ~」
『やめなよ、そこ妹さんもいらっしゃるんでしょ』
「OK、二人きりのときにねぇ」
デレにデレた都がスマホに映る恋人に向かって、人目も憚らず猫撫で声を出していた。
都は二人きりだと、この調子なのだろうか。
それに対して、恋人である凪乃は落ち着いた声でなにごとも無かったかのように返している。
こちらは、二人きりだとどういう対応をしているのかは分からなかった。
「あんなデレデレな姉さん、初めて見た……」
「ほら、響ちゃん。貴重な機会だと思って」
「そういうものなの?」
響自身も花菜に対しては人前とは異なっているのだがと、花菜は思わなくもなかった。
『そんなだから、今ビデオ通話する羽目になるって分かってる?』
「なんでぇ……愛は本当なのにぃ……」
『もういいから、妹さんに出てもらって……』
どうやら囁いていた愛の言葉は、誤魔化しも多分に入っていたらしい。
前科があるのだろうなと花菜は直観的に感じ取った。
早速都が凪乃に怒られている。
「ほら、響。出てよぉ~」
都が無造作にスマホのインカメラを響に向けてきた。
響の視線がカメラの向こうの姉の恋人である凪乃と合う。
花菜はこれを見越して、既に響から少し距離を取って画角に入らないように配慮していた。
「あっ、えっ。初めまして、都姉さんの妹の芳川響と申します」
『こちらこそ、急に申し訳ありません。話は都から聞いているかもしれませんが、都の恋人で沢渡凪乃と申します』
「あっはい、姉さんからお話は伺っています……」
恋人の妹と姉の恋人という微妙な立場の二人が初対面の挨拶を交わす。
響が都をフォローするように、恋人のことを聞いていたような口振りでもって返す。
写真を見せてもらって話はしたので、まるっきり嘘というわけではない。
『この度は、都が私が原因でご家族にご迷惑を掛けたとかで……。大変申し訳なく……』
「いえ、この件に関しては凪乃さんも被害者だと思いますから。その点は、本当にお気になさらずに」
凪乃は都が絶縁状態だったことを大まかに把握している。
それが自分のせいだと責任を感じているのだろう。
『いきなり女性が恋人だなんて、ご家族も混乱されたかと……』
「その点は姉さんからも聞いているかもしれませんが、私のパートナーも女性なのでご安心ください」
花菜もこれに関しては、実際心強いかもしれないと思う。
都から自身の恋人が女性だと告白されたときも、身近に同一の人間がいることが嬉しいという思いもあった。
今回の件で都が家族との仲を取り持った切っ掛けも、響と花菜との関係が一役買っていたわけであるのだから。
『そうなんですね、よかった。また都が適当なことを言っているのかと不安になっていました。簡単に話は通るからなんて……』
「都姉さんの言うことなんて、真に受けられませんからね……」
「二人して、私の悪口言ってるのは分かるよぉ~?」
「言ってるんだよ。自覚して」
「あっ、はいぃ……」
今回の件に限らず、都の信頼が凪乃の中でも低いことが伺えた。
響が言う通り、これに関しては自覚があった方がいいと花菜も思った。
『今回の件は……都の管理を怠ってしまった、私にも責があるかと思います。あの子……帰省時期に帰らないのも、私が居ないときに近所にいる妹のところに会いに行ってるから大丈夫だからって……。妹さんのところに偶に親も会いに来てるから、そのときに顔を合わせてるからって嘘まで言って……』
「凪乃さんから、ちょっと厳しい目になにか灸をすえられませんか?」
凪乃の口から、都のとんでもない嘘が露見する。
響は軽い口調だが、なかなか腹に据えかねている様子であった。
『半分は私のことを思ってのことだったので、強く言えず……。すみません……』
都は凪乃は帰省しないと言っていた。
どういった事情があるかは分からないが、一人にしたくなかったのかもしれない。
それはそれで、凪乃を思っての側面もあったのだろう。
「あんなのですけど、凪乃さんを好きなのは本当っぽいんですよね」
『それは……確かに……』
さっきのデレている様や、仲直りに必死な様を見ていて、響もそう感じたのだろう。
凪乃も恋人として、愛されている実感はあるらしい。
『でも、妹さんと仲直りしたのは本当っぽくて安心しました』
どうやら今までのやり取りで、姉妹仲がいいのは確認してくれたようだった。
「その点に関しては安心してください。きちんと家族とも和解してます」
『えっ、家族とも……⁉ 段階的にって……』
まずは妹からという話としか、凪乃は未だに聞いていないようであった。
「一足飛びにしました。いえ、させました」
「させられましたぁ~。てへ☆ 凪乃のことも伝えてあるよぉ」
『都は、なんで報連相ができないの……? ねぇ、なんで……?』
都が本当に適当に誤魔化す気満々だったのを伺い知れる。
なにも凪乃に報告をしていない。
「だってぇ……。今度のお盆休み、私帰省することになったって言うの気まずくてぇ……」
「そこがダメなんだと思うんだけどなぁ……」
『そういうダメなところは……私は嫌いじゃないけど、人様というか家族に迷惑かけちゃダメだよ……?』
どうやら、凪乃は都のダメなところにもそれなりに甘いようだった。
でなければ、関係が成り立っていないかもしれない。
「そういうところも合わせて、私ってことでぇ~」
「姉さん、これ言われてる内が花ってヤツだから。弁えて。調子に乗らないで」
「あいぃ……」
花菜は情けない都の姿をよく見るなぁと心の中で思った。
確かに凪乃にも限界はあるので、許してもらえている内に直した方がいいだろう。
『まぁ、いいじゃない。久しぶりに家族水入らずでしょ。楽しんできなよ』
「やだなぁ……正直気まずいなぁ……。母さんと話したのだってぇ、ほとんど響だしさぁ……」
『言い方を変えるよ。話してこい』
「あいぃ……」
花菜は情けない都の姿を先程も見たはずなのになぁと、ぼんやりと考えていた。
どうやら凪乃も、甘いばかりではなく厳しい側面もあるようだった。
でなければ、都とはやっていけないかと花菜は思い直す。
「凪乃さん」
『はい、なんでしょう?』
「お盆休みはおありなんですよね?」
『はい、昨年は都と一緒に過ごしてましたから』
「なら、今回からは姉さん帰ることになって少し寂しいですね」
なにやら思い付いたらしい響が凪乃に対して質問を重ねていっている。
花菜は部外者として、眺めることしかできずにいた。
『そうですね。でも、数日のことですし……』
「でも、折角のお休みですよ?」
『確かに、そこは少し残念ですね……』
「では、今回も一緒に過ごしましょう」
『は?』
「はぁ?」
都と凪乃のカップルは、揃って響の提案に疑問の声を漏らした。
花菜も会話に加わっていたら、同じ声を出していたかもしれない。
「姉さん。凪乃さんを我が家にご招待すれば、一緒にいられるよ。ほら、誘って誘って」
「なに言ってるのさ、この響はぁ⁉ 」
「いつかは紹介するんでしょ? 早い方がいいよ」
「物事には順序ってものがあるぅ!」
「姉さんが言っても説得力無いよ」
確かに都が言っても説得力に欠けることは事実であった。
ここで凪乃を紹介させて、更に逃げられないようにした方がよいと響は画策しているのかもしれない。
『あの……私も心の準備が……』
「凪乃さんも、当日までに準備しておいてください」
「遠足のお菓子感覚かよぉ!」
突然の提案なので、凪乃の当惑は当然であろう。
「旅費なら安心してください、都姉さんが出します」
『あっ、はい……。それに関しては、まったく気にしてませんでした。そうなるだろうなって』
「事実そうなったら、私が全部出すよぉ! ああ……違うわぁ。出させていただきますよぉ~!」
響は畳みかけるように更に話題が転換させる。
都は凪乃が言う通りに、都が旅費の全額負担を約束させられた。
「違う違うぅ! こわっ! 口車に乗せられようとしてるぅ! 凪乃も目を覚ましてぇ! このままだと、響の手の平の上だよぉ!」
『えっ……。いやでも、私両親いないし……。ご挨拶するのが許されるなら、してもいいかなって……』
響の提案を止めに入ろうとした都によって、凪乃の衝撃の事実が明らかになる。
どうやら、親元に戻っていない理由はこのためのようだった。
「んんっ……!」
「姉さん、そんな人の前で親元に戻ってなかったの……」
「だから、バチクソキレられたぁ……!」
「そりゃそうでしょ!」
花菜も同意として、思わず頷いてしまう。
『付き合って以来の大喧嘩になりました……』
「もうあんなに怒った凪乃見たくないよぉ……」
『見せたくないから、怒らせないで……』
凪乃も本気で怒ったことに対しては、少しの後悔がある様子であった。
それ程の喧嘩だったのだろう。
たが、凪乃を一人にさせたくないという都の気持ちも分かる部分が花菜にもあった。
そして、これまでの生き方的に親元に隠したい気持ちも分かってしまうのである。
「そして、そこでみんな大変そうだなぁって思ってお茶をすすってる相原花菜!」
花菜は丁度お茶に口をつけて喉を潤している最中であった。
完全に観客の姿勢であったのだが、唐突に響に指名される。
「えっ、私? みたいなリアクションとらないの!」
心構えなどないので、花菜は相原花菜が自分以外にいないか周りを見渡した。
バッチリ視線は合っていたのだが、自身になんの関係がある流れなのかが理解できない。
「花菜も一緒に行くよ! だから、えっ私未成年なんで親の承諾が要りますみたいなリアクション取らないの!」
花菜は、自信を指さしながら頭を振っていた。
なぜ響は、リアクション一つでそこまで深読みできたのか分からないが正解であった。
両親の了承も必要であったし、お盆休みは全日ではないが親戚に会いに行くことが通例である。
ご近所である父方の実家は少し顔を出す程度なのだが、母方の実家は遠方なので移動だけでもそこそこかかる。
それに、花菜は響が一人暮らしであることを報告していないのである。
一緒に親元に帰るという説明になると、矛盾が発生してしまう。
「大体私が一人暮らしをしているのもまだ親に報告してないのに? って顔しないの! 両親には私のこと恋人だって説明済みなんでしょ? だったら、いけるって!」
「えっ、一人暮らしって言ってないのぉ?」
そんな顔をしていると響が読み取ったのか、またもや言語化の上に説得されてしまう。
花菜はそんなに自分は分かり易い人間なのかと、ふと違う意味での自信が喪失されようとしていた。
そして、響は話しながらも先程からなにやらスマホを取り出して操作をしていた。
「さっきから、なんで一方的にコミュニケーションが成り立ってんだよぉあんた達ぃ……。花菜さんも喋りなよぉ……」
「通話に割り込むのが悪いと思ってるんだよ」
『妹さんの恋人さんも一緒にいるんだ……』
「そうだよぉ、花菜さん。ほら、私がよく相談で通話してたって話題のぉ」
『ああ……あの……』
「話題なんだ」
「私は花菜さんとの通話で浮気が疑われてたんだぁ! それに妹の恋人だぁ! 話題にもなるよぉ!」
どうやら浮気を疑われたあとも、妹の恋人として話題にあがっているようだった。
都の口からどのように伝えられているのか、若干不安になってしまう。
『あの……初めまして花菜さん……。初対面で不躾なお願いなんだけど、もし私が都の実家に行くことになるんだったら一緒に付いてきて欲しいんです……。部外者が一人だと不安で……』
「ほら、花菜。凪乃さんからもお願いされてるよ!」
花菜が凪乃からも見えるよう、芳川姉妹は花菜の方へと移動してきた。
二人の視線がバッチリと合う。
凪乃からのお願いは、花菜からも魅力的に見えた。
初めてお邪魔する恋人の実家において、注目度が分散するのであれば少しありがたいのではと考えたのだ。
しかも、両名とも娘に女性が恋人である。
そういう観点でいけば、凪乃の意見は花菜にとって渡りに船であった。
凪乃も一人で不安であるという気持ちであると共に、そういった感情もあるだろう。
ここは同じ立場の人間として、一致団結するときなのではないだろうかと花菜の中に感情が芽生える。
「初めまして……! その……凪乃さんが行かれないって選択肢は⁉」
「あ、やっと喋ったぁ」
しかし口を開いた花菜から出てきた言葉は、後ろ向きな提案であった。
花菜と響は、付き合い始めて数日の高校生である。
響は絶対に添い遂げるつもりで、家族に花菜のことを紹介するだろうことが想像できた。
いくら好条件とはいえ、花菜はそんな状態で恋人の両親に挨拶をしなければならない状況に及び腰である。
『先程も申し上げた通り、できるものなら都のご両親にご挨拶したいなって……』
「花菜の頑張りが、凪乃さんの願いを叶える一助になるのにな~」
「ぐぬぅ……!」
『やっぱり、無理しなくても……。私一人で……』
花菜としては、凪乃の意思も無碍にはできない。
両親がいないのだから、恋人の両親には自身を認めて欲しいという願い。
女性のパートナーを持つ者としても、それは猶更だろう。
そこは花菜とて同じであるため、尚のこと理解ができる。
都の恋人ということであれば、これからも交流があるだろう。
できるならば、力になってあげたいという心が花菜の中にもあった。
「……せていただきます……」
「なんてぇ?」
「行かせていただきます……」
「もっとぉ! 大きな声でぇ!」
「行かせていただきます! お母さんとお父さんも説得します!」
都の煽りで、花菜は綺麗に宣誓させられてしまう。
どうしてだろうか、都はどちらかというと花菜の味方だったのではなかったのではないか。
「いいねぇ! 花菜さん、 気風がいいねぇ~!」
「姉さん、家族に自分の恋人を紹介する覚悟はできたの?」
「その現実逃避をぉ! 今してたんだよぉ~!」
『花菜さん、ありがとう。でも未成年だし、無理はしないでくださいね』
どうやら、花菜は都の現実逃避に付き合わされていたらしい。
凪乃が来るのは、もう止められないと諦めたようであった。
よい風に取ると、恋人の意見を尊重するできたところもあるようである。
「大丈夫。今花菜のお母様に訳を全部メッセージで話したら、色よい返事はいただけたよ。でも、取りあえず今夜家族会議だっておっしゃってたよ」
「ふえぇぇっ⁉ さっきからスマホ触ってたの、お母さんに連絡してたのぉ⁉ マルチタスク⁉」
どうやら、響は裏で手を回して花菜を逃げられないように画策していたようであった。
そして、花菜にとっては母親のレスポンスの早さも恨めしい。
「えっ、もしかしたら……私ここに来にくくなるかもなんだよぉ?」
一人暮らしというのはなんとなく黙っていたが、友人ならともかく恋人ならどうなのかと考える。
友人でもなんとなく言うのが憚られていたが、恋人となると話は別のように感じられた。
花菜は、年頃の一人娘である。
「そのときは、私が花菜のお宅にお邪魔するよ。大丈夫、私が愛する花菜から一時たりとも離れるなんてあるわけないよ」
そう言うと、響は花菜の髪を一房手に取って唇を落としてくる。
花菜としては熱烈な愛情表現は嬉しいのだが、如何せん人前である。
「響ちゃん、だから人前では止めようよぉ……。恥ずかしいよぉ……」
「花菜さん、愛されてるねぇ~」
『花菜さん……。芳川の人間に愛されたら、簡単に逃れられると思わない方がいいみたいですね……』
「なんだよぉ凪乃ぉ、私の愛が重いみたいにぃ~」
『私は嬉しいんだけど、人によっては重いと思うよ……。私は嬉しいんだけどね?』
先程から軽く流されている都だが、どうやら愛自体は相当重いらしい。
よくよく考えると、あの響の姉である。
言わずもがなかもしれなかった。
どうやら凪乃も花菜と同じタイプらしく、重く愛されることに喜びを見出しているようであった。
花菜は先程響宅を訪れることに対してあのようなことを言ったが、このとき一人暮らしのお部屋にお邪魔して肉体関係を持っていないのはどういうことなのかと母親に問い詰められるのを想像していた。
口にした心配とまったく逆のことを考えていたのである。
むしろ、積極的に行って響を篭絡するように母親から父親の目の前で妙な説教をされる可能性すらあった。
花菜は、それが最も恐ろしかった。
だが自身の母親がそんな人間だとは、ここにいる人達には知られるわけにはいかなかった。
むしろ、響に対して自分を積極的に美味しくいただくよう諭していた可能性すらあると花菜は考えていた。
花菜は横目で響を見やるが、笑顔。
その表情からは、メッセージの内容まで窺い知ることはできなかった。
「響ちゃん、お付き合いにはなにごとにも順序がぁ……」
「都姉さんみたいなこと言わないの」
「飛び火しないでよぉ~」
『都は日頃の行いだと思うよ……』
花菜は無駄と分かっていても最後の抵抗を試みるが、横にいた大変ダメな例と同一視されてしまい不発に終わってしまう。
「都姉さんともう一人大人がいますって伝えたから、親御さん公認だよ?」
「わぁ、ズルい説得方法。えっ、大丈夫? 日程的に考えて、お母さん着いてこない?」
「あっ、その可能性は考えてなかったかも。そうか、相原家の方にそのまま移動って可能性あるのか」
響の実家と花菜の母方の実家は同一方向にあるので、もしかすると花菜をそのまま引き取るという名目で母親が同伴する可能性があった。
「大丈夫でしょぉ~。花菜さんのお母様っていったら、私達にとっては親戚みたいなものじゃないさぁ~」
『それは新感覚だよ……。大丈夫だよ、最悪私が送り届けるから……』
「そんな、凪乃さんに悪いですよ!」
『こういうときぐらい、大人を頼ってくれていいんだよ。むしろ、今回は私が花菜さんを頼ってる部分もあるわけだし……』
花菜の中で、凪乃は頼れる大人といった感じであった。
本日会ったのだが、姉がいたらこんな感じなのだろうかと思った。
だが同時に頼りなさそうな恋人の実姉が視界の端に留まってしまう。
ここ数日、情けない姿ばかりを目にしてきた人物。
「花菜さん、今チラッと私見たのぉ……頼れない大人だなぁって意味で見たぁ⁉ そういう目線だったよねぇ⁉」
「姉さんは、仕方ないよ」
『都は、自分を省みて……』
「二人して畳みかけなくてもさぁ……!」
目は口よりも物を言うとは、よく言ったもので。
都に花菜の言いたいことは、バッチリと伝わったらしい。
だが、二名からのバッサリと切るようなフォローが入りことなきを得る。
「というわけで、お盆休みにこの四人で私達の実家に突撃ということで!」
「おーっ! ほらっ! 二人もぉ!」
響が腕を挙げて音頭を取ると、都が声をあげながらそれに続いた。
先程まであれだけ腰が引けていた都が、率先して賛同の意を示していた。
自棄になっているのかもしれない。
姉妹に続くように言われた凪乃と花菜は、スマホ越しに目を合わせる。
凪乃が控えめに腕を挙げるポーズの姿勢を取るので、花菜も真似てポーズを取った。
『おっ……おーっ……』
「おーっ……」
凪乃が控えめに声をあげ、花菜がそれに続いた。
「声が小さいぃ!」
「ヤですよ……」
『なんで熱血指導なの……。勘弁してよ……』
心底恥ずかしいといった感じで、花菜と凪乃が手心を乞うた。
「ノリが悪いなぁ~。二人ともぉ~」
『そんなこと言われても……』
恋人二名は、完全に姉妹のノリに付いていけていない。
いや、この場合は都一人の勢いに近い。
「凪乃さん、当日までにまたお話ししましょう。今度はそちらに私達からもお伺いしますね」
「唐突に梯子外すしてくるじゃんねぇ~」
『はい、楽しみにしていますね』
音頭を取ったはずの主導者に裏切られ、都が非難の声をあげる。
漸く話が通じるようになったので、凪乃がそれに応じていた。
こうして、当初の目的を越えた波乱万丈な芳川家姉妹のお互いの恋人を交えたビデオ通話は幕を閉じていくことになる。




