79 ギルティ?
「花菜は私だけのものだし、私も花菜だけのものだが?」
「そういう理屈かぁ」
どうやら、響は花菜に言った女性との接触すら浮気になるという言葉を自分にも適応しているらしい。
本当に花菜以外には男女関わらず自分に触らせる気がないようである。
都も先程のことがあってか、響の言を理解する。
「花菜さ~ん、響借りていいぃ~?」
「いいですよぉ」
「花菜⁉ 私が他の女に密着されてもいいの⁉」
都はストレートに恋人へのレンタル許可を貰いに来た。
快諾する花菜。
もちろんであるが、響は猛抗議だった。
花菜はこういうときのために、都から同席して欲しいと言われたのだろうなと理解していた。
「響ちゃん、家族は別だよ? 私がお母さんと一緒でも大丈夫でしょ? 姉妹は仲よくだよ」
「響ぃ、ほらぁ~! 」
都は響に対してにじり寄ると、肩を突き合わせ腕を伸ばしてスマホのインカメラを向けてきた。
「なになに! 一体なんなのさ!」
「響ぃ……。私には今ぁ、証明が要るんだぁ~」
「協力してあげてね、響ちゃん」
「花菜まで⁉」
事情を分かっていない響は困惑するばかりで、状況が呑み込めない。
事情を知っている花菜は、笑顔で響を応援する。
「ほら、響ぃ! はいチーズ!」
「ええっ……」
響はシャッターが切られた瞬間も困惑した顔しかできなかった。
一も二もなにも理解できていないので、当然の反応であった。
「これでよしっとぉ……」
「今ので大丈夫ですか?」
「大丈夫っしょ~」
響を置き去りに、恋人と実姉は物事を進めていた。
たまったものではないだろう。
「もう! 私も混ぜてよ!」
訳知り顔の二人に対して、響が許容値を越えたのか抗議の声をあげる。
「あっ、ごめんね響ちゃん。都さん、ちょっと恋人さんに喧嘩というか怒られたことがあって……。一応の仲直りはしたんだけど、ちょっと許してはもらえてない部分があるというか……。それを許してもらうために、響ちゃんとの仲直りの証明が必要だったの」
その仲直りの証明が響とのツーショット写真になるのである。
「詳しいことは分かんないけど、なんで姉さんが私との仲で怒られてるの……」
もちろんであるが、花菜の説明では響が納得できるものではなかった。
まず響からしたら、なぜ都が怒られているのかすら分からない。
「都さんが、恋人さんに家族との関係を一切話してなかったからだよぉ」
「へぇ、そりゃ怒るね。怒って当然……ってはぁ⁉ 嘘でしょ⁉」
響から花菜の説明を聞いて、信じられないといったリアクションを返す。
花菜も当然の反応だと心の中で同情する。
「当面、響ちゃんと仲直りすることを条件に一時的に許してもらってたんだ。ほら、今恋人さんに画像を送信して謝ってるよぉ」
「本当だ……。姉さん虚空にお辞儀してる……」
響が困らないよう、花菜は追加で情報を開示していく。
都に注目するように誘導すると、丁度画像を送信して謝っている最中であった。
「へへへぇ……。これで完全に許してもらうんだぁ……」
「むしろ家族と仲直りしたんだから、根本的に解決してるんじゃないの?」
「言い出す勇気が無いんだよ」
「花菜、姉さんに詳しいね……」
響が最もな意見を口にするが、花菜の情けない事実によって否定されてしまった。
花菜の都の詳しい部分に、響も納得するところがあったのだろう。
「相談に乗っていた賜物だよ。でも、その相談が頻繁過ぎて恋人さんに浮気を疑われたらしいよ。妹さんに会いに行ってるのも本当なのかって」
「それはあの姉なら、私でも疑うね」
同棲している恋人が毎日誰かと通話しており、これまで特段断りを入れて会いに行くことをしていなかった妹に日中や休日を使って頻繁に会いだしていたら怪しまれもする。
「その言い訳してたら、響ちゃんや家族のことポロっと話しちゃったみたい」
「ああ……姉さんならやるね……」
妹からの絶大な信頼を裏切らない姉であった。
「というか、姉さん……私と話してるときに一生関わらないとか言ってたのに……。そのとき私が頷いてたらどうしたんだよ……」
「きっと、今みたいに適当にツーショットだけ撮らせてもらうつもりだったんだよ。最後の記念にとか言って」
「ええっ……誠実のせの字も無いじゃん……」
響が呆れたような視線を都に送った。
「ちょっと花菜さん……。そんな赤裸々に語らなくてもぉ……」
「都さんは、恋人さんとの仲直りに注力していただいて」
「いやまぁ、はいぃ……」
花菜があまりにも一部始終を語るものなので、都が抗議するも一蹴されてしまう。
こういう場合花菜は大体フォローに回るのだが、都に対しては辛辣である。
「どうですか、許していただけましたか?」
「いや、それが雲行きが怪しくてぇ……」
「あんな意気揚々だったじゃん……なにがあったのさ」
「ちょっと響ぃ、ビデオ通話に付き合ってもらっていいぃ?」
「本当になにがあったのさ⁉」
花菜が都に対して進捗を確認するが、なぜか唐突に仲直りに響の存在を要求されてしまった。
響の言う通り意気揚々だった都の影はなく、今は花菜のよく知る情けなさが滲み出る都になっていた。
「凪乃が妹が嫌がってそうじゃんってぇ……本当に仲直りしたのかってぇ……」
「姉さん、本当に恋人と仲いいの? 信用されてる?」
響は揶揄しているといった風ではなく、真剣な顔で都に問いかけていた。
どうやら、本当に都を心配している様子であった。
「なに言ってんだよぉ! おまっ! そりゃもう、ラブラブよぉ!」
「凪乃さんは、ちょっとクールでシャイなだけだよ。ちゃんと都さんのことは大好きだよ」
「花菜はなんでそんなことまで詳しいの⁉」
この前のメッセージのやり取りを代筆したことは、都以外に対しては墓場まで持っていかなければいけないと花菜は強く思っている。
なにせ、結構二人のプライベートな会話まで覗き見てしまったのである。
特に凪乃に知られるわけにはいかなかった。
「えへへぇ……凪乃ってば、超かわいいぃ……」
「ただ、都さんが信用されてるかは分からないよぉ」
「花菜さん⁉ ちょっ……えぇっ、花菜さん⁉」
味方だと思っていた存在の急な手の平返しに、都は花菜の方を二度見する。
花菜の中でも、都が恋人である凪乃に信用されているかは五分五分であった。
「わわっ、とりあえず響ぃ! 一緒にビデオ通話に出てぇ!」
「待ってよ、いきなりなんの前触れもなく姉の恋人と話す私の身にもなってよ……」
追い立てるメッセージが来たのか、都が慌てて響をせっつく。
だが、響の言い分も最もであった。
「いいから出てよぉ! 頼むよぉ!」
「本当なら、都さんの恋人に関しても響ちゃんにある程度説明するって前提があった気がするよぉ」
「えっ、じゃあ私このまま出たらダメなんじゃ……。姉さんやっぱり、信用に応えてないんじゃないの……」
都が必死に懇願するも、花菜から都の怠慢が暴露されて響が呆れたような声を出した。
「適当にやっときゃバレない予定だったんだよぉ~!」
「姉さん、順当にカスじゃん……。怒られなよ……」
「私も怒られた方がいいと思いますよ」
妹とその恋人から有罪判決が下され、都は追い込まれていく。
「花菜さん! 花菜さんだけはぁ、本当に最後まで味方でいてくださいぃ!」
「花菜がここまで言うって、よっぽどだと思うんだけど……」
相原花菜は基本人当たりがよく、人好きのする人物である。
なので、波風が立つようなことは基本言わないし賛同しない。
響が言う通り、よほどの事態である。
「あっ、ほらぁ! 通話来たぁ! 取るからねぇ!」
そうこう言っている間に都のメッセージは進んでいたらしく、恋人である凪乃からのビデオ通話が受信されていた。
こうして、響の同意と理解のない初めましてが開始されることになった。




