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花の音  作者: 高山之信
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72 楽園追放

ショッピングの帰り道、花菜は行きと同じく家族と同乗していた。

帰りは父親の隣の助手席に座っている。

なにかの勝負で父親が勝ったらしい。

一体花菜が見ていない間に、なにをしているのか謎であった。


花菜は都を介抱した後は母親達と合流して、普通に通常のショッピングを楽しんだ。

服をあの手この手で勧めるのは、本日は無理なのを理解してくれたのかもしれない。

その代わりといってはなんだが、父親のシャツを選んだりするのには付き合った。

花菜が選んだと知れば、父親も喜ぶだろう。


「あっ、私帰りに友達の家に寄るから途中で降ろして」

「友達って、芳川さんかい?」

「うん、お土産買ったの。早く渡してあげたいから」

「本当に仲がいいんだね。お父さん焼けちゃうなぁ」

そう言いながら、父親はカラカラと笑った。

花菜は調理部の面々と出掛けることはあっても、それほど友人と密になることはこれまでなかった。

純粋に仲のよい友人ができて、喜んでいるのかもしれない。


「あ、この辺でいいよ。降ろしてぇ」

見知った住宅街に近付き、響のマンションが近くなると花菜が父親にそう告げた。

響のマンションはファミリータイプのものではないため、目前で下ろしてもらうわけにはいかない。

一人暮らしであることが、バレるわけにはいかないのだから。


「花菜ちゃんとのドライブが少なくなっちゃうの……悲しいな……」

「凄くご近所だから! すぐそこ! もうほとんど着いてるでしょ⁉」

演技だろうが、哀愁をたっぷり滲ませながら言ってくる父親を花菜が(たしな)める。

父親はそう言いながらも、車を寄せてハザードを出して停めてくれる。


「冗談だよ。遅くならない内に帰ってくるんだよ」

「芳川さんによろしくね、花菜ちゃん」

「うん、いってきます」

花菜は両親に見送られがら、車を降りて響宅へと向かって行った。


響には事前にメッセージで連絡もしていたので、建物の前に着くと(つつが)なく中に通してもらえた。

インターホンを押すと、響が扉を開けてくれた。


「いらっしゃい、花菜」

「お邪魔しまーす、響ちゃ……ん?」

出てきた響は格好はいつもの部屋着なのだが、少し火照(ほて)った肌で髪は少し濡れていた。

バス用品とケア用品の香りが全身から漂い、いい香りがする。


「ごめん。花菜が来るって思ってなかったから、結構ガッツリ運動してて。汗かいてたから、シャワー浴びてたんだ。まだちょっと、髪が湿ってるかも」

「そ、そうなんだ……」

「立ち話もなんだし、入って入って」

「う、うん……」

花菜は口籠りながら、おずおずと室内へと入って行った。

諸々を済ませて室内に入ると冷房がかかっているのだが、少し籠ったような空気を感じた。


「ひゃうっ⁉」

「どうしたの、花菜?」

竦んだようになる花菜に、響は純粋に不思議な目線を向けてくる。


「響ちゃん……。結構室内でも運動されてましたか……」

「ああ、うん。走りに行ったりもしたけど、室内でもそこそこ」

「そ、そう……」

「ああ、そういう……。ごめん、窓開けようか」

「いえ、お構いなく」

響特有の香りが部屋に籠っているのを、特にそういうものに敏感な花菜が意識してしまっているようだった。

響は気付いて換気を提案するのだが、花菜は拒んだ。

響の香りに酔っていたいという欲求の勝利である。


「それに湯上り響ちゃんは、凄くいいと思います」

「凄いね、花菜本当にうっとりしてくれてるね」

花菜の包み隠さない物言いに、流石の響も笑いが零れてしまった。

そして、そこでふと気付いたように思案顔になる。

響はつつつとベッドまで歩み寄ると腰かけていた。


「花菜、なにとは言わないから。こっちに来て一緒に座ってお話しない?」

「うーん、今の私でも分かるぐらい明らかに罠」

「流石に無理か……」

響が今の花菜なら行けるとそのままことに及んでしまおうと画策していたようだが、流石に見え見えの罠には掛からない。


「ほら、メッセージでも言ってた通りお土産買ってきたんだよぉ。恐いところいないで、こっちに来て」

「冗談だって、ありがとう。お茶にしようか」

花菜は気を取り直して、お土産が入った紙袋を響へと差し出す。

それを受けて、響はベッドから立ち上がると花菜に近寄ってきた。

紙袋を受け取ると……おもむろに花菜へと抱き付いた。


「なっ! なにしてるの響ちゃん⁉」

「いやぁ、今日は花菜に会えないと思ってたから嬉しくてつい」

「全然ついって感じじゃないよぉ⁉」

湯上りのいい香りと響の感触が花菜を包んで思考を(とろ)けさせる。

響の身体は鍛えられて少しガッシリとしているが、それでも女性特有の柔らかさが感じられる。

花菜としては理性がガリガリと削られていくのが分かる。


「それに私、汗臭いでしょ⁉ 離れよう、響ちゃん!」

「そんなことな……ん?」

「なに⁉ やっぱり臭かったんだ!」

擦り寄ってきていた響が動きを止めた。

自身の汗の匂いが気になったのかと思い、花菜が慌てる。

今日は冷房がある程度効いた建物内とはいえ半日程度歩いて、シャワーも浴びていないのである。


「いや、花菜って香水ってつけてたっけ?」

「えっ、ううん……。付けてないけど……」

花菜は自分でも言うように、香水の類はつけていない。

響が鼻を寄せてスンスンと花菜の体臭を遠慮なく()いできた。


「ひっ、響ちゃん⁉」

花菜が慌てて身を(よじ)るが、響がガッチリと抱きしめてそれを許してくれない。


「コスメショップとかに寄った感じじゃなくて、誰かに移された感じだ……」

「ええっ……そんなの分かるのぉ……。響ちゃん、はなっ……離してっ……!」

「花菜……誰かに密着されたりしたの……? 他の女の匂いだ……」

花菜の抗議は空しく、響は離そうとしない。

そして段々と、響の目付きが少し(ただ)ならぬものへと変わっていく。


「ええっ⁉」

「まさか、花菜……浮気……?」

「ちっ、違うよぉ! そんなことしてないよぉ⁉」

「本当……?」

「お母さん! お母さんにっ、抱き付かれたりしたよぉ!」

花菜があらぬ嫌疑をかけられ、咄嗟(とっさ)に母親に抱き付かれたことを思い出して抗議する。

そして、同時に都に抱き付かれていたことを思い出し背中に嫌な汗が流れるのを感じた。

花菜は今日都が付けていた香水が、響と会ったときと同じものかなど分からない。


「なるほど、お母様の香りかぁ」

「そっ、そうだよぉ! 」

響が納得したようだったので、花菜は安堵した。

そして、抱き付かれている状況がなにも安堵できる状況でないことも思い出した。


「取りあえず響ちゃん! お土産お菓子だから! 一緒に食べよ! ね!」

「分かったよ、花菜とのハグは食後にお預けだね」

「食後もないよ⁉」

どうにも本気ともつかない提案を残しながら、響は身体を花菜から離してくれた。


「私、お茶の用意するね!」

花菜は二重の意味でドキドキが収まらないまま、逃げるようにキッチンへと向かって行った。

響はなにごともなかったかのように、お菓子を紙袋から取り出してローテーブルへと広げようとしている。


花菜は扉が閉まったキッチンで、お茶を入れながら幾分落ち着いていた。

どうやら響の嫌疑は晴れたようなのだ。

響に抱き付かれたドキドキも同様に落ち着きを取り戻していった。

お湯が沸くまでの間にも、深呼吸をする。

暫くしてお湯が沸くころには、平常心を取り戻せていた。

そうしてお茶を入れるとお盆に乗せて、響の待つ部屋へと戻っていった。


部屋に戻ると響は花菜からのお土産をローテーブルへと広げており、顔には嬉しそうな笑顔を浮かべている。

花菜も先程の嫌疑を忘れて、ここは響と楽しもうと気持ちを切り替える。


「響ちゃん、お待たせ」

「ありがとう、花菜。お饅頭(まんじゅう)なんだね。凄く美味しそう」

「そうなんだよぉ。ここのお饅頭、美味しいよぉ」

花菜が買ってきたお土産は饅頭で、大ぶりで餡子(あんこ)が詰まったものであった。

以前家族で購入した折に好評だったので、是非響にも味わって欲しいと思って買ってきたものである。


「じゃあ、花菜と一緒ならもっと美味しいね」

「もう、響ちゃんは……そういうこと言う……」

なんの臆面もなく言う響に、花菜の顔は紅潮する。


「よく言うでしょ、楽しいことは二倍、悲しいことは二分の一って。花菜はそう思わない?」

「そう……思います……」

「フフッ、お揃いだね」

花菜はカップルがイチャイチャしているようだと感じたが、そういえば自分達は付き合っているのだと再認識して猶更(なおさら)照れてしまう。

なぜ響はこうも平気なのだろうかと、心の中で(もだ)える。


「さささ、響ちゃん。食べて、食べて」

「花菜を?」

「お饅頭!」

「分かってるって。それじゃ、いただきます」

冗談とも本気とも取れるような言葉を交えつつも、響は花菜のお土産に手を伸ばした。

花菜は黙してそれを見守った。

響の反応が気になったのもあるし、純粋に響が美味しそうに食べているのを見るのが好きなのもあった。


「ん」

響が一口食べて咀嚼(そしゃく)すると、驚いたような顔をする。

そして嚥下(えんげ)すると、笑顔になった。

それに併せて、花菜も笑顔になる。


「響ちゃん、美味しかった?」

「うん、餡子いっぱいだね。凄く美味しい!」

「よかったぁ」

花菜は自分が選んだ土産で響が喜んでくれて、満たされていた。

今の花菜にとって、響の笑顔に勝るものなどないのだ。


「私もいただきます」

そう言って花菜も自らのお持たせに手を伸ばした。


「とってもお茶にも合うね」

「そうだよねぇ」

花菜は、ほっこりしながら饅頭を()んだ。

甘い味が広がり、ショッピングで歩いた疲労に心地よい。

そして、先程まで張っていた気も抜けていく。

今日はいろいろあったので、響と一緒に(くつろ)ぎたかった。

甘みのあとにお茶をすすると、ほっこりとして落ち着いた。

響の家も、すっかり第二の我が家のようになっている。


「花菜は今日のショッピングでなにか買ったの?」

「お父さんのシャツとか選ぶの手伝ったけど、ちょこちょことした衣類ぐらいだよぉ」

「そうなんだ」

「お母さんとかは、この前の響ちゃんが勧めてきた服とか買わせようと躍起(やっき)になって大変だったよぉ」

「買っちゃえばよかったのに。あぁ、でもそういう服は私と一緒のときに買って欲しさもあるなぁ」

「そう言うと思ったぁ」

響が案の定な言葉を言うものだから、花菜は思わず笑ってしまった。

やはり、服は響と一緒のときに買おうと思った。


「そういえば、都姉さん元気だった?」

「うん、ちょっとしょんぼりしてたけど。それは解決しぃぃぃぃぃいぃぃぃてぇぇぇえええぇ?」

「そっかぁ」

なにも変わった風がない響に対して、花菜は先程までの寛ぎは消えて身体がすっかり緊張してしまっている。

響の方に目を向けることもできない。

心なしか、呼吸も乱れてきている。

饅頭の味も分からなくなってきていた。

あんなに美味しかったのに。

花菜は完全に気が抜けて、油断していた。


「へー。そうなんだ」

響は饅頭を一つ食べ終わるとパンパンと手を払った。

お茶を一口飲んで口を潤していた。

花菜はその時間が、(いた)くゆっくりに感じられた。


「ねぇ、花菜」

「な、なぁに……?」

響は腰を上げると、花菜の隣まで移動してきた。

花菜は分かっていても、動けずにいる。


「花菜、恋人に隠し事は無しって言ったよね? どうして花菜が姉さんのこと知ってるの?」

響は花菜の腕を掴むと、身体をにじり寄せてくる。

口は笑っているのに、目が笑っていない。


「ち、違うの響ちゃん! こっ、これには深い訳が……」

花菜は焦る中で口を突いて出た言葉が、嘘臭い三流文句のようになってしまったのはなぜだろうと自分でも不思議に思ってしまっていた。


「どういう訳?」

そう言いながら響は顔を近付けると、花菜の匂いを嗅いでくる。


「やっぱり、これ姉さんの香りだったんだ……」

響は近付いたのを切っ掛けに花菜に体重を乗せた。

カーペットへと押し倒す形になる。


「ひっ、響ちゃん! な、なにするの⁉」

「なにをするかは花菜次第だよ……」

「と、とりあえず離れよう!」

「姉さんとは密着できて、私とはできないの?」

「そっ、そうじゃなくってぇ……」

首筋に顔を埋められ、花菜はゾワゾワとした感覚に捕らわれる。


「えっと……えっと……」

早く説明しなければと思うのだが、焦って適切な言葉が出てこない。

都のことをどう説明すればいいのか、全て語ってしまってもいいのか分からない。


「もしかして、花菜……。やっぱり浮気してる……?」

「ええっ⁉ してないっ! してないよぉ! というか、お姉さんには恋人さんがいるでしょ!」

「ダブル二股? もしくは姉さんの恋人がフェイクだった?」

「ええっ、そういう解釈⁉ 自分がフラれるって考えは昨日今日の状況的にないもんね!」

最近あれだけ劇的に告白しておいて自身がフラれるという選択肢がないとなると、花菜が二股をかけるという選択肢しかないようだった。

花菜に好かれている自覚はあるのだろう。


「私の顔が好みだって言ってたから、よく似てる姉さんにまで手を出すなんて……」

「出してない、出してないよぉ! 誤解だよぉ!」

「やった人はみんなそう言うよ……?」

八方塞(はっぽうふさがり)になるヤツだ!」

響が聞く耳を持ってくれる状況でないことに花菜は気付いてしまった。


「私には花菜しかいないのに……! どうして……!」

「私だって響ちゃんだけだよぉ!」

花菜とて響を中心に世界が回っていると言っても過言ではないのだ。

ここは言い返さなければならない。


「だったら、密着なんてしないでしょ……!」

「女子同士ならあり得るから!」

「私という恋人がありながら!」

一般的に女子同士のスキンシップ程度ならと言って恋人のスキンシップを花菜としてきたのは響の方だったのだが、このときは完全に棚上げしていた。


「ひっ、響ちゃんだって人と密着することぐらいあるでしょ⁉」

以前響が言ったことでもあるので、当然であるが花菜も言い返す。


「いや私はそういうのまったく無いし、花菜以外とするつもりもないよ」

「あっ、これ本気の目だ。私、想像以上に本気で詰められてるんだ」

そう言われると、響は学校で過度な接触などまったくと言っていい程無かった。


「分かってもらえてなかたんだ……!」

どうやら響の中では女性も十分嫉妬の対象らしく、花菜と密着するなど許されざることらしい。

ショックを受けたような声が響から零れる。


「花菜は私が想うより、私のことが好きじゃないんだ!」

「はあっ⁉」

流石の温厚な相原花菜も、この言葉にはカチンと来たのか今まで発したことが無いような声が出た。

思わず、キッと響の顔をねめつける。

響はその目線を真っ向から受け止めていた。


「ねぇ、響ちゃん……。響ちゃんは、私とずっと二人きりでいたい?」

「叶うなら、24時間ずっと花菜と一緒にいたいよ……」

二人が二人、願望を煮詰めたような言葉の応酬になる。

きっと響の言葉は、嘘偽りの無い本心なのだろう。


「だったら、もっと……もっともっともっともっと私を愛してくれなきゃダメだよぉ……!」

「花菜……?」

突然声を荒げた花菜に、響が少し困惑したような様子を見せた。

花菜は押し倒された状態から、掴まれた腕を振り払い伸ばして響の頭に手を回した。

そして花菜は響を抱き寄せると、有無を言わさず自分の胸元へと頭部を埋めさせた。


「大体響ちゃんの方が私より美人さんなんだから、不安で言ったら私の方が大きいんだからね! もっと世界一綺麗なのを自覚してぇ! 」

本人は無自覚であるが、響は学校では男女問わず人気がある。

学外の街中で注目を集めるのだって、花菜としてはハラハラしてしまう。

花菜にとっては、そのままの意味で芳川響は世界で一番美しいのだ。

それが無防備に歩いているだけで、気が狂いそうになる。

そうやって生きてきた。


「嫉妬してくれるのは嬉しいけど、信じてくれないのはヤダ! だったら私をもっと束縛して! もっと私を求めて! 私がおかしくなっちゃうぐらい愛して欲しい!」

花菜は駄々をこねるように足をジタバタと動かしながら響への胸元の拘束を強める。

花菜は自身が言う通り、少し束縛をされることを好む傾向がある。

なので、焼きもちを焼かれること事態は嬉しかった。

だが、信じてもらえないのは別なのだ。

花菜としては、それは逆に愛が足りていないのだ。


「私だって本当は24時間響ちゃんのためだけに生きていきたいけど、それだとダメだって分かってるから致し方なく普通に生活してるの。だってそうでしょう、私がどれだけ響ちゃんに片思いしてたと思ってるの? 大好きな家族だって、本当の私を知らない。知ってるのは響ちゃんだけ。ダメだってことは分かってるけど、もっと私をドロドロに依存させて欲しいよぉ……! 」

相原花菜は芳川響がいなければ生きていけないように作り替えられたいとすら望んでいる。

日頃素を出せていないのは響の方だが、本当に仮面で生きているのは花菜の方なのだ。

とてもではないが、社会性がある内面ではない。


「か、花菜……。うわ、嬉し……。でも綺麗とかは言い過ぎ……」

花菜の重ね重ねの言葉を受けて、響の瞳は輝いていた。

喜びに満ち(あふ)れている。

響も花菜と同様の心持なのだろうことが見て取れる。

今すぐにでも、花菜とドロドロに一つになるように溶け合ってしまえたら幸せだろうと物語っていた。

二人の関係がなかなかの綱渡りであることが露呈(ろてい)した形となった。

お互いがお互いの幸せを望んでいるからこそ成り立っているのだろう。


「それなのに響ちゃんが信じてくれない!」

「えっ……あっ……。ごめん……」

花菜の本気の抗議、愛情の深さに、響は恍惚(こうこつ)としたのも束の間思わず口からは謝罪の言葉が飛び出る。


「私も! 響ちゃんだけなの!」

「はい……。あの……花菜さん……。胸がすっご……。ブラ越しなのに分かる……」

重々に花菜の言葉を承知はしてそうなのだが、現在響は花菜の胸に顔を埋めるような形になっている。

今まで響は花菜の胸に対して抱きしめることで間接的に触れ合うことはあっても、直接触れる機会はなかった。

奇しくもこんな折にその機会が訪れてしまい、花菜と真っ直ぐ向き合わないといけないと分かってはいても思わず心の声が漏れてしまっていた。


「なにも分かってくれてない!」

それを聞いた花菜が、理解を得られたと納得できる訳がなかった。


「分かった! 分かったんだよ! ただ、ご自身の兵器の凄さを理解されて欲しくて!」

欲望に忠実な響が敢えて直接触るのを今まで避けていたほど、花菜の胸の破壊力は凄まじいものがあったのだ。


「花菜のこと信じる! 信じるから!」

「嘘だぁ!」

「なるほど、これか。今度は私が信じてもらえない側ってヤツだ!」

響が逆の立場になり、八方塞の状態を理解する。


「怒った」

「それは、分かってる……」

花菜が怒りを端的に述べる。

だが、響に花菜の怒りは十分に伝わっていた。


「大体、都さんとだって響ちゃんのこと相談されてだった。響ちゃんが都さんと……家族と仲直りしないのが悪いんだよ……!」

「ああ、はい……。あのその……おっしゃる通りで……」

攻守は完全に逆転していた。

響は完全に頷くことしかできない。

頭に血が上っていなければ、花菜が都と連絡を持つ理由など思い付きそうなものである。


「私が先に家族に報告して、響ちゃんを追い詰めてやる……」

「どういうロジックで⁉ いやでも確かに、花菜にだけさせておいて自分だけ安穏(あんのん)としてるとかダメだと思うけど……」

花菜の中で理屈が成り立っているのか、響を脅すために自身の身の上を家族に報告するという決意を固める。

響は響で、効果があるのか花菜だけにはさせまいと勢いのまま自分も続かざるを得ない状況に確かに追い込まれているようだった。


「響ちゃん、仲直りできるまでギュッてするの無しだからね!」

そう言うと花菜は、回していた腕を外して響を解放した。

こちらに関しては、確かに直接的に効果のありそうな提案である。

だが、響は花菜の胸にもたれかかって離れない。


「無理……。ここが天国……楽園……」

「ちょっと! 響ちゃん! 私怒ってるんだよ!」

「この状況で揉みしだいてない私は褒められるべきだと思うんだ。理性的だって」

響は初めて触れる花菜の胸を、大層お気に召したようだった。

以前から触れたいとは言っていたが、実際触れてみてもその言は揺るがなかったらしい。


「ダメだって言ってるでしょ!」

花菜が強引に()し掛かっていた響を払いのける。


「ああっ、私のパライソ!」

響は抵抗することなく花菜に力に従って体勢を起こすのだが、心底残念そうな顔をしていた。

本当に花菜の胸に顔を埋めていたのが嬉しかったらしい。


「響ちゃん、おっきい胸が好き過ぎるでしょ⁉」

「花菜の胸だから好きなんだよ!」

「嘘だぁ! 大きい胸の人だったら、誰でもいいんだ!」

「私の信用の失墜(しっつい)凄い! 花菜だって、私の胸だったら揉みたいでしょ⁉」

「そんなの当たり前だよぉ! 揉むだけじゃ済まないよぉ!」

「わぁ……。怒った花菜、はっちゃけぶりが凄い……」

日頃の花菜なら照れて言うのが(はばか)られるような言葉も、怒りで我を忘れているのか言わなくていいことまで言い切ってしまっていた。

そこで、花菜の怒り具合の強さを改めて悟ったのか響がしゅんとなる。

悟る基準が若干だがおかしい。


「今日はこの怒りが冷めやらぬ状態だから、明日! 明日決行します!」

「えっ⁉ そんな唐突に⁉」

拳を握り決意を新たにする花菜に、響が驚きの声を返す。

即断即決を求める響が言うのもおかしな話である。


「響ちゃんも明日お姉さんと仲直りしてね! 絶対だよ!」

「う、うん……。姉さんの予定もあるだろうけど……。大丈夫だとは思うから……」

花菜の言葉以上の圧力に負けて、響は頷く。

都の予定を無視している辺り、本当に頭に血が上っているのが分かる。


「大丈夫、今の私は二重スパイ状態だから。響ちゃんに秘策を教えてあげる……」

「わっ……わぁ……。ありがとう……」

今までで一番悪い顔をした花菜が、響を(そそのか)すように語りかける。

それを若干引き気味の響が、儀礼的に喜びお礼を返すのだった。


こうして、花菜と響の一大作戦は勢いのまま始まっていった。

他に比べて長いような気がするんですけど、まぁいいかって思いました。

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