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花の音  作者: 高山之信
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70 ウキウキ合同ショッピング、だがしかし

休日の午前中、花菜は父親の運転する車に母親と一緒に乗っていた。

相原家が車で出掛ける際は花菜が助手席に乗るか、花菜と母親が後部座席に乗るかの二択である。

基本両親が花菜の隣を取り合う形になる。

今日は母親がなにかの勝負で勝ったのか、花菜は後部座席に居る。


「花菜ちゃん! 着いたら、この前買ったみたいなかわいいお洋服買いましょ!」

「えーっ……いいよぉ……。そんなに要らないよぉ……」

あれは響に言われて、テンションがおかしくなっていたのだ。

そうそう買って着るようなものではない。

着飾ると響は喜びそうだと思うが、同時に自分が選びたかったと嫉妬(しっと)しそうでもあると花菜は勝手に考えていた。


「着いたらお母さんと一緒にいる時間の方が長いのに……。移動中ぐらい、お父さんと一緒にいてくれてもいいんだよ? 花菜ちゃん」

「お父さん、運転に集中しなきゃよ? ほら、安全運転」

父親が苦言を(てい)すが、母親が切って捨てる。

花菜もそんなに時間がかからないドライブに、花菜の隣を主張し合わなくてもと呆れてしまう。

目的地は近所と言って差支えない、少し離れたところにあるショッピングモールなのだ。

土地が必要なためか、少々緑が濃い場所にある。

こんな言い合いながら花菜を取り合っている両親だが、仲は大変いいのだから不思議である。


「お母さん、日頃から花菜ちゃんとお話する機会多いんだから。お休みぐらいお父さんが優遇されてもいいと思うよ?」

「三者面談お父さんになったでしょ! 今は私! ねーっ、花菜ちゃん」

そう言うと、母親は花菜と腕を組んでくる。


「くそぅ! 女親だかって、そんな気さくに!」

バックミラー越しに父親の視線が険しくなる。


「フフッ。お父さんは、下着一緒に洗わないでって言われなかっただけ幸運に思うのね!」

母親が勝ち誇ったかのように、意味の分からないセリフで父親を(あお)っている。

世間一般そういうこともあるらしいが、花菜にはいまいち分からない。


「いや、そのイベントは少し遭遇(そうぐう)してみたかったなぁ。花菜ちゃん反抗期とか全然なかったし」

「してみたかったの⁉」

黙していた花菜が思わず夫婦の会話に割って入ってしまった。


「だって、浪漫があるじゃないか」

「無いと思うよ……そんなの……」

父親は偶に変なことを言うが、今日は飛び切りだった。


「少し、分かるわね」

「お母さん分かるの⁉」

「だろう?」

父親が先程とは一転、母親の理解を得られてしたり顔である。


「娘とは、仲よくしたいんじゃないの?」

「そんなの当たり前じゃないか、花菜ちゃん」

「そうよ、花菜ちゃん。花菜ちゃんは私達の宝物よ」

そう言って、母親は花菜の手を大事そうに握ってくる。

父親からもバックミラー越しに、慈しみの視線を感じる。


「えっえっ、これって私の方が理解できてないの?」

浪漫とはなんなのか、花菜には分からなかった。

(しばら)くそんな話をしていたら、あっという間に目的地に着いていた。





目的地のショッピングモールに着くと、立体駐車場に車を停める。

そして、相原一家はフロアに直接繋がっているエレベーターで店内へと移動した。

本日は吉田家と合同でのお買い物となっており、一階の広場で待ち合わせすることになっている。

向かっている途中、よく分からないオブジェの前で吉田一家がこちらに目を向けたのが分かった。


「吉田さん!」

「相原の!」

父親が先に来ていた吉田一家に声を掛け、吉田家の家長がそれに応える。


「いやぁ、奥方に花菜ちゃん。ちょっと振りかな」

「おじさん、お久しぶりです」

「ご無沙汰しております」

父親同士はちょこちょこ交流があるようだが、花菜と母親が会うのは少し振りであった。


吉田家の父親はアウトドア好きなこともあり地黒な肌は焼けている。

ポロシャツから覗く体躯はガッシリとしており上背があって年相応以上の貫禄があった。

母親の方はそんなに背が高くはないので、和樹の背丈は父親似なのだろう。

花菜の父親が横に並ぶと、線が細くて少し頼りなく見えてしまう。


「それにしても、花菜ちゃんは会う度にかわいくなっていくなぁ。こんな娘がいたらと思うけど、かわいすぎたらそれはそれで気が気がじゃなさそうだからな。ウチはドラ息子でよかったと思っておくわ」

「今、ドラって付ける必要あった?」

花菜は吉田のおじさんからのいつもの社交辞令かなとは思うのだが、息子の和樹からは真摯な突っ込みが入っていた。


「花菜ちゃん、しっかりしてますから。その辺りは大丈夫かなと」

「むしろ楽しみですよ。ねぇ、お父さん」

娘に対する信頼故か父親が答えて、母親がそれに続く。

花菜としては連れてくるのが響になるため、なんとも言えない心持にしかならない。

むしろ、気が気ではない。


「この信頼……半分とは言わねぇから、少しだけウチにもくれねぇかなぁ……」

「あんたは、花菜ちゃんの半分でもいいからしっかりしておくれよ」

相原家の関係を羨んで和樹が零すのだが、吉田家の関係を表すように吉田夫人にしっかりと(たしな)められていた。





「それじゃ、また後でね」

「気を付けるんだよ」

男性陣と女性陣で分かれて買い物に行くことになっており、相原家は軽い別れの挨拶を済ませると早々に各々の陣営へと去っていった。

男性陣はアウトドア用品やスポーツ用品を見に専門店に赴くようだった。

和樹の父親がアウトドア派なので、花菜もそれに付き合ってバーベキューなどをご相伴に預かったことがある。

花菜の父親も、男子はいくつになってもアウトドア用品のガジェットが好きなものだと言っていた。

見るだけで楽しいらしい。


対して女性陣は、洋服や生活雑貨のお店を巡ることになっている。

相原家と吉田家で合同で買い物に来るときは、大体こういった分け方になる。

この際に相原家は父親の服も買ったりするので、なにも女性の買い物ばかりというわけではない。

本日和樹が着ているよく分からない英語が書いてあるロングTシャツも、和樹の母親の見立てである。

花菜は和樹はもう少し服に気を遣えばいいのにと思うのだが、人のことは言えないので口には出さない。

だが、そんな服を着ていても和樹は特段おかしくは見えないのだ。

身長や体型のお陰なのだろうか。

そんな服を着こなせているのだから、和樹が凄いのかなんなのかは花菜には分からなかった。


女性陣に分かれた後、花菜達は衣料品店に来ていた。

ショッピングモールの中、専門店から量販店が立ち並んでいる。

その中の女性服専門店、少しかわいらしい服を取り扱っている店の中で三人は商品を見繕(みつくろ)っていた。

いや、正確には親二人が花菜に服を試着させようと躍起(やっき)になっていたのである。


「花菜ちゃん! これどうかしら! きっと似合うわよ!」

「花菜ちゃん、これなんてどうだい? 」

「えっと……。どっちもかわいいと思うけど……。私にはどうかなぁ……」

母親が勧めてくるのは、どう考えても甘ロリ系であった。

吉田夫人が勧めてくるのも、どうにもフリル成分が多いロック系のように見える。

二人とも花菜にかわいい服を着せたいのは分かるのだが、少し行き過ぎではないかと感じていた。


「私はもっと落ち着いた服がいいかなぁ……なんて……」

「花菜ちゃん! 若い内から、もっとかわいい服着ておかなくちゃ!」

「まったくだよ! 花菜ちゃんはかわいいんだから!」

母親は、以前響と一緒に買ってきたかわいらしい服が(うらや)ましいらしかった。

自分も花菜に買ってあげたいらしい。

そしてどうにも吉田夫人も、娘がいない欲求を花菜で解消しようとする傾向がある。


「それに、今日の目的はお父さん達の服だったんじゃ……」

「服なんて適当に選んでおいてって言うような人達の物なんて後回しよ!」

「野郎の服なんて、後だよ! 後!」

「ええっ……」

花菜は服に関しては父親の血を引いてしまったのか、あまり頓着(とんちゃく)が無い。

最低限の流行さえ外していなければ、なんとでもなると思っていた。

なので、こういった尖ったセンスの衣服にさほど興味が示せずにいるのだ。

響に言われたら、ホイホイと着てしまった過去はあるのだが。


「お願いよぉ……花菜ちゃん……」

「そうだよぉ……。助けると思って……」

花菜はなにが二人をそこまで掻き立てているの理解できない領域にまで到達していた。


「そこまで言うなら……。一着だけ……着てみるだけなら……」

「本当ね⁉ 約束よ⁉」

母親が前のめりになってくる。

花菜は少しテンションに付いていけず、恐怖すら覚えた。


その後花菜は試着してみるのだが、終始二人のハイテンションに付いていけなかった。

そして、そんな二人に一着だけという約束など守られるはずもない。

次から次へとこれもこれもと異様なテンションで服を勧めてくる。


そんな中、花菜がとった行動は……逃亡だった。

二人が服を選んでいる隙を見て逃げ出したのだ。

メッセージで休憩しているだけだからという旨を伝えるのも忘れない。

そして花菜は、そっとスマホをサイレントモードにするのだ。

こうして、相原花菜は静寂(せいじゃく)を手に入れる。

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