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花の音  作者: 高山之信
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67 父親との三者面談

時間は午後も半分を過ぎたころであるが、七月も半ばともなれば酷暑(こくしょ)も厳しい季節である。

花菜の通う高校の色褪せた塗装に太陽の光が照り付け、まばゆさを与えていた。

そんな中でも放課後の運動部の声援が聞こえてくる。

校舎からでも目を向ければ、日に焼けた生徒が頑張っているのが見えるだろう。

花菜はそんな中、一人廊下を歩いていた。

授業が終わって暫く経った時間なのもあって、廊下には生徒が疎らにしか見受けられない。

廊下に冷房は無かったが、日陰になっているので暑さは幾分マシではあった。


花菜が向かっているのは来客用を兼ねた職員用玄関である。

その日は花菜の三者面談の日であった。

順番は基本は出席番号順なのだが、都合諸々(もろもろ)によって前後する。

相原なので先頭なのだが、他の生徒の都合で日程を調整していた。

なので、珍しく後方の日程に当たっている。

花菜が玄関に着いて暫く待っていると、父親の姿が見えた。


「お待たせ、花菜ちゃん」

声を掛けてきた父親は、暑い中日頃付けていないネクタイや羽織っていないジャケットまで着用してビシッとしている。

髪型もいつもは適当に下ろしているのに、今は後ろに撫でつけていた。

容貌だけなら、できるサラリーマンだ。

花菜も詳しくは知らないが父親はそれなりにできる人らしいので、あながちイメージに間違いはないのかもしれない。

父親は背丈はそれほど高くない人なのだが、今はいつもより大きく見えた。

だが、同時に気合が入り過ぎであるように感じてもいる。

対して花菜は少し大きめのカーディガンを羽織っただけで、なにも気合を入れているわけではない。


「来てくれてありがとう、お父さん。でも、そんな髪型までビシッとしてこなくていいよぉ……。いつもちょっとだけやる気なさそうなのに……」

「なにを言ってるんだい。お仕事と違って、花菜ちゃんの晴れ舞台だよ? ここで気合を入れなくていつ入れるんだい」

「三者面談は、晴れ舞台でもなんでもないってぇ……。あと、お仕事も大切にね……」

「花菜ちゃん、お仕事は家族のためにやっているんだよ」

「う~ん、ありがとう……」

父親は基本的にフォーマルな格好を好まない人なのだが、気合が入り燃えている今日は別なようだった。

ネクタイも父親の誕生日に、母親と花菜で一緒に選んでプレゼントしたお気に入りである。

仕事をないがしろにする人ではないのだが、家族のことになるとギアが一段階違うタイプである。


「いやぁ、花菜ちゃんの学校久しぶりだからテンション上がっちゃうよ」

「なにも珍しい物なんてないよぉ……」

父親は辺りを見渡し、花菜から見ても年甲斐もなく浮かれているように見えた。

この父親は花菜に関わることであれば、大体いつもこうであった。

来訪できる学校の祭事には、必ず参加する。

今回はそれなりに久しぶりなこともあってか、いつもより少しその度合が強い。


「花菜ちゃんが日頃過ごしているところを見学できるということだけで、お父さん達は嬉しいんだよ」

「そういうものかなぁ?」

「そういうものだよ」

花菜には見慣れた光景だが、確かに父親には年に数度の光景であろう。

学生達が社会見学に行くのと逆のようなものだろうか。

花菜は父親を面談のある教室まで案内しながら、ぼんやりとそんな疑問を考えていた。


階段を登って(しばら)く歩くと、指定された教室が見える。

そこには窓側に椅子が並べてあり、父兄と生徒が座って待てるようになっていた。

相原親子は暫くそこで大人しく座って待つ。

すると、教室の扉がガラリと開いた。

先に面談を受けていた父兄の姿が目に()まる。

フォーマルな装いの婦人と、その息子である短くカットした髪に上背(うわぜい)のある男子生徒であった。

婦人は扉が閉まると同時に、包み隠さない大きな溜息を吐いた。


「和樹、あんたね……。少しは真面目に喋りなさい……」

「いやぁ俺としては、真面目だったんすよぉ」

そんな会話を始めたのは、相原家とは馴染みが深い吉田|母子であった。

吉田夫人の様子から見て、花菜には和樹がふざけていたようにしか感じられない。

家族ぐるみの付き合いである吉田家、挨拶をと思い相原親子は二人して席を立つ。


「吉田の奥さん、この前振りです」

「おばさん、お久しぶりです」

父親と花菜が吉田夫人へと声を掛ける。

吉田夫人は待っている二人に気付いていなかったのか、こちらを向いてハッとしたような表情になった。


「あら、相原さんの……。驚いた、ビシッとしちゃって。一瞬誰だか分からなかったわ。花菜ちゃんは、少し振り。元気そうね」

「はい」

「花菜ちゃんは素直でいいわね。それに比べてウチの和樹ときたら……」

そう言って夫人は和樹を睨み付ける。

和樹はバツが悪そうに視線を逸らした。


「まぁ、この年の男の子はいろいろあるんですよ」

「そうっすよ、もっと言ってやってくださいおじさん」

「だったら、花菜ちゃんとウチのを交換してちょうだい」

「それは無理です。花菜ちゃんは、世界で一番かわいいので」

「裏切りが早いな、おじさん」

父親が和樹へのフォローを入れるものの、夫人の一言で簡単に(ひるがえ)る。

花菜はそのやり取りを、呆れたような目で見守ることしかできない。


「やめてよお父さん、学校で恥ずかしいよ……。先生の前では、ちゃん呼びもヤメてよ?」

「それはね。善処はするよ」

「善処だけじゃダメだよ⁉」

事前に釘を刺していたことを確認するが、この父親は普通にやりかねない。

基本真面目なのだが、どこか抜けてる上に感性が少し独特なのだ。


「ほら、母ちゃん。俺だって、あれぐらい愛してくれてもいいんだぜ?」

「本当かい? 本当にあれぐらいがいいのかい?」

「いや、ちょっと盛ったわ。すまんかったわ。今回に関しては、俺に反省点がわるのは認めるわ」

和樹が相原家の仲を見て進言するが、夫人の一言で一蹴されてしまう。

相原家の親馬鹿っぷりは、流石の和樹も遠慮したいらしい。


「その調子で、今回のことも勉強のことも進路のことも反省しておくれよ」

「ええっ……。ほとんど、なんか全部じゃない和樹くん……」

「いや、まだ俺には部活や出席日数なんかも残されている。遅刻もしてないしな」

「残されてる、じゃあないんだよ!」

和樹が人前であるにも関わらず、夫人によって頭を叩かれた。

相原家の前だと気心が知れているのが見て取れる。

夫人はさほど背が高いわけではないのだが、背丈の差の割には腰が入ったいい音がした。


そんな話をしていると、教室の扉がガラリと開いて担任の教諭が顔を出した。

中肉中背の女性の教諭で、スーツ姿で長い髪を背中で(まと)めていた。


「お待たせしました、相原さん」

両家の話し声が聞こえていたのか、担任の教諭が掛けてくる声が控えめであった。


「はい。行こうか」

「うん」

父親に誘われて、花菜も教室へと向かう。


「吉田さんも、それでは」

「はいな、また今度。二人とも頑張ってね」

「はい」

親同士が短く挨拶を交わして、花菜もそれに倣った。

和樹は無言で軽く会釈をする。

その後、二組は教室と玄関へと別れていった。






花菜と父親は三者面談が終わり、校舎の外を二人歩いていた。

そのまま一緒に帰るため、花菜は通学鞄も所持している。

照り付ける太陽の下であるが、父親は厚着をしながらもご機嫌であった。

まだ校内ということもあり、服装は着崩していない。


「いやぁ花菜ちゃん、褒められてたね」

「うん……」

直近のテストの成績がよかったためか、担任の教諭からはお褒めのも言葉をいただいていた。

花菜の日頃の授業態度などもあったのだろう。

学校では真面目な生徒である花菜は、この手のイベントではこれといって大きく外すようなことはしていなかった。


「それに、進路も知らない間に具体的になっていたんだね。前に聞いたときは、もっとフワッと……」

「う、うん。いろいろあって」

響のこともあってか、いろいろと進路に迷いがなくなっていた。

それを今日、担任にも親にも伝えることができたのは大きな躍進(やくしん)であったかもしれない。


「もう少し上も狙えるかもしれないって言われてたし。学校の夏期講習の参加とか……。あれなら塾なんかも気になるなら、気兼ねなく相談するんだよ」

「うん、ありがとう。でも、今は友達と勉強するのが向いてると思うから」

今は響との時間を大切にしたいという思いもあったし、それ以上に響という教師が花菜には一番向いていると感じていた。

好きな人に教えてもらえるのも、好きな人に応えたい気持ちになるのも。


「芳川さんだったよね。お母さんは連絡先交換してるって聞いてるよ。お世話になってるし、お父さんもお会いしたいなぁ……。今度お(うち)に連れてきてよ。お礼を伝えたいよ」

「本人には伝えておくね」

相原家の響人気がうなぎ上りである。

いつか本当に招かないと、いつまでも突かれそうだなと花菜は感じていた。


「それに花菜ちゃん、最近なんだか前より元気だね。それも、芳川さんのお陰かな」

「えっ、そうかな?」

「うん。それに、なんだか今は以前より清々しい顔をしているね」

花菜としては些細(ささい)な変化だと思っていたのだが、そんなに分かり易かったのだろうかと自分の行動を振り返る。

確かに響に説得されて、今の花菜は前を向いている。

それ以上に、響と正式にお付き合いして浮かれているのだろうか。

どうやら、父親は花菜のことをよく見ているようだった。


会話をしながら歩いていると、校舎のある敷地から少し離れた来客用の駐車場まで着いた。

父親は車で来訪していたので、花菜も帰りは同乗することになった。

白い乗用車まで近付くと、父親がスマートキーで開錠したのかガチャっと鍵が開く。


「今日はこのままどこかに寄っていこう。久しぶりにお父さん、花菜ちゃんを独り占めしたいよ。最近花菜ちゃん忙しそうだったし、あんまりお父さん構ってもらってないもの」

「もう、しょうがないなぁお父さんは。付き合ってあげる」

「やった。ありがとう、花菜ちゃん」

いつまでも子離れできない父親に、花菜は苦笑してしまう。

確かにテスト期間や響のことで忙しくしており、帰りが遅い父のことが最近おざなりになっている傾向は花菜の中に自覚があった。

今日は折角面談に来てくれたのだし、応えてあげようと思った。

響にもこうなるであろうことが分かっていたので、事前に連絡はしてある。


「お母さんにはお土産買って帰るって連絡してね。なにか文句の連絡が来ても、花菜ちゃんスルーするんだよ。料理の写真とか送って、自慢してやろうね」

「ええっ……」

「いやぁ、この前会社の人と行ったお店美味しかったんだよ」

花菜の両親は今でも仲がよい。

休日に花菜が用事があったりすると、二人だけでも買い物に出掛けたりする程だ。

花菜が夜に階下に降りると、二人で談笑しているのだってよく見かける。

だが、花菜の独占権に関しては一切の容赦(ようしゃ)が無かった。

二人して、この年の娘に対して競うように親馬鹿である。

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