第五話
清じいの葬儀には、思ったよりも多くの人が集まっていた。
口数の少ない人だったが、人望があったのだろう。
考えてみれば、よそ者だった父を弟子にして娘を娶らせ、また血の繋がっていない父の連れ子であった俺までとても世話になったのだ。
しかも村を代表する鍛冶職人で、刀まで打てる。
俺よりも長い付き合いの村人たちが、世話になっていないはずもない。
葬儀を執り行うために、近くの寺から僧が見習い小僧とともに列をなしてやって来る。
その中に、見知った顔があることに気付いた。
気付いたというか、向こうがこちらをちらちら見ているので気付かされたというほうが正しいか。
「お虎……?」
思わずつぶやく。
前に見たときよりも背丈がいくらか伸びているが、間違いではないだろう。
こちらの声に喜色を浮かべ、何かを言いたそうな、しかし我慢して道具を運んだりしている様子は、微笑ましかった。
「おしょうさま、これはどこにおくのじゃ?」
鍛冶場で小便を垂れていた幼子とは思えないほど、よく働いているようだった。
しかし葬儀が始まると、これが誰のものであるのか思い出したように、お虎の顔が曇る。
清じいの遺体が納められた棺を前に、僧と小僧、家族に親族、そして村人がみな、悄然とした面持ちで居並ぶ。
「南無妙法蓮華経……」
僧の唱える題目に合わせ、坊主も村人も区別なく声を重ねていく。
葬儀が終われば行列の中で棺を担ぎ、墓地へと向かう。
村はずれの共同墓地には、あらかじめ棺を埋めるための穴が掘ってあり、そこへ棺を丁寧に安置すると、土をかぶせていった。
清じいに最後の別れを告げ、埋葬を終える。
それまで清じいによって生活の糧が得られていた家は、俺の稼ぎで支えなければならなかった。
幸い、いつもの刀槍の修理で蓄えた銭があったし、最近では個別でも仕事がくることもある。
農具や調理具の修復なんかもこなしていく。
そこからは、濁流に呑まれるように日々は過ぎていった。
いつからか、大量の刀槍が持ち込まれることはなくなっていた。
しかし時折、武家がやって来て武具の手入れを頼んでくる。
しかも名刀や名槍の類だった。
まだまだ歴史に名を残すような名物は無理だったが、それでも数打ちではない刀を依頼されることもあった。
そのときそのときで、全身全霊を注ぎ込み、知恵と工夫を織り込んで、一本一本鍛え抜いては、仕上げていった。
見たこともない長い筒状のものが持ち込まれたときは断ったが、それ以外の仕事なら、大抵はそつなくこなせるようになった。
一度、火の始末が不十分で火事が起きたことがある。
風呂に入っていた祖母を、継母が風呂桶ごと抱えて救い出したそうだ。
そのときは家の一部が燃える程度で済んだが、二ヶ所に仕事場を抱えていては、家のことに目が届かない。
以前の工房を引き払い、清じいの工房を引き継いで専念することにした。
お虎が寺から送り返されたのもその頃だった。
申し訳なさそうな顔で、戸口に立っていた。
「兄上……すみませぬ、わしは僧には向いていないと言われたのです」
俺の肩くらいにまで身長の伸びたお虎は、読み書きはもちろん、唐本、漢籍を色々と学んだという。
しかしお虎が興味を持ったのは漢籍とは言っても、六韜であったり三略であったりした。子どもの読むものではない。
しかも坊主や近所の子を集めて、陣取りをして遊んだりする始末。この子は武家のほうが向いている、僧にするのはもったいない、と和尚に言われたらしい。
それでもしばらくは修行を続けていたのだが、まだ幼い身でありながら力も強く、和尚の強い勧めで戻ったそうだった。
読み書きができるというのがよかったのか、お虎は戻ってきてから何かと忙しそうだった。
家を空けることが多かったが、何をしているのかまではわからないまま、日々は過ぎて行く。
さらに数年が過ぎ、俺は弟子を持つまでになった。
「師匠、もうよいか?」
「まだ駄目だ。鉄がまだ若い」
まだ芯まで火の入っていない鉄を取り出して打とうとする弟子をたしなめる。
弟子は素直に鉄を炉へ戻す。
「どこを見ればわかるのです?」
「色だけを見るな。鉄の表面をよく見て、火の中でどう動いているかを見ればわかる」
「……はい」
再び炉に入れた鉄を、弟子が真剣な目で睨んでいる。
赤熱した塊が金床に置かれる。
「違う。そこでは槌を入れるな」
「はい」
かつて清じいに言われた言葉が、今度は自分の口から出ていることに、ふと気付く。
清じいなら、もっと上手く教えただろう。
父なら、黙って見守っていただろう。
それでも、俺なりに覚えてきたことを、この若者に渡していく。
かつて清じいに教えられたように、何度も叱り、何度もやり直させながら。
そうして工房に籠っていると、入り口の戸が開いた。
「兄上、そろそろ飯にしてもよいのではないか?」
お虎にそう声をかけられて、ふと声の位置が高いように思えて入り口を見る。
「……いつの間に、俺より大きくなったんだ」
お虎に背を抜かれていた。
父が死んで十年が経った頃。
お虎は仕官のために家を出る、と言い出した。
毎回ラストで主人公にダメージを与えていくスタイル




