8.剣の旅立ち
父との稽古を始め十年が経ち、俺は十五歳になった。体も引き締まり、165ぐらいになったと思う。
父の教えを守りつつ、一端の剣士にもなれたと思う。
一方、ミャールは二年前、俺より先に十五歳となり、王都へ剣の修行に赴いた。
そしてこの年は、剣舞大会と呼ばれる大きな大会で、五年に一度
開催される数多の剣士が剣を競う大会。
その大会に彼女は準優勝を決めたと手紙がトレーマンに届いたようで、トレーマンは大歓喜。
「うおおおお。あの子がついにやり遂げたのか、王都へ会いに行かなければ──」
その暴走に奥さんは、落ち着いてほしいと思いながらも、くすくす微笑んでいた。
結局、トレーマンは愛しの娘に会いに行こうと、王都に向かおうとした。
その機会を逃さんと俺は両親と、ある相談をした。それは勿論、
「お父さん、お母さん。僕も⋯王都に出向いてよろしいですか」
両親はほぼ同時に息を呑んだ。そして、二人は見つめ合い互いに顔を一回縦に振り、俺の方へ向けて笑顔で言った。
「「行ってきな(さい)」」
俺は少し驚いた。
その反応に両親は少し笑った。そして、母が口にする。
「あなたが言い出したことじゃない」
「ちょっと意外だった。もう少し⋯反対するかと。ほら、僕十五歳だし⋯」
その言葉に父は腕を組み、語る。
「たしかに、思うところがある。
だがな、お前は教えた基礎をしっかり受けて、一人前の剣士になれたと俺は思う」
父は肩をなで下ろし、話を続ける。
「だからこそ、王都へ行って強くなってこい。これが俺の意見だ」
「お父さん⋯」
父の言葉につい、言葉が溢れた。そして、俺は母の方にも視線を向けた。母は笑顔で話す。
「私もお父さんと同じよ。ミャールちゃんが十五歳で王都に向かったなら、ショウヤも向かうと思ってた。あなたは私たちにとって、立派な息子よ。だからこそ、好きにさせてあげたい気持ちがあるの。行ってきなさい、王都に」
二人の思いに、思わず涙が湧いた。俺は涙を指を拭い、笑顔でただ一言
「ありがとう」
「「ふっ」」
両親は笑った。
そこからは、トレーマンに俺も同行することを了承してもらい、乗り合い馬車が立ち寄る3日後まで準備をした。
そして、3日が経ちついに王都に向かう時が来た。村の入口に両親三人で向かった。
そこにはまだ馬車は来ていなかったが、村人みんなが集まっていた。
「みんな。こんなに集まって見送りにきたの?」
その疑問にみんな笑って
「「「当然」」」
俺が目を丸くしているとみんなが次々に言う。
「ミャールちゃんが王都に向かうときが来てから、もしかしたらは充分考えていた」
「そして⋯このときが来たのよね」
「ショウヤは昔から、良いやつで努力をしていた」
「ちょっと寂しいけど、応援したいから、こうやってみんな見送りに来たんだよ」
「ショウヤ兄ちゃん、王都でも頑張ってね」
みんなの一言一言で、心が温かくなる。その想いに感謝を込めて笑顔になる。
「ありがとう、みんな」
その言葉にみんな笑顔になる。
そして、後ろから母が声をかける。
「ショウヤ。これ」
母が差し出したのは、弁当だった。俺はこれを手に取った。
「ありがとう、お母さん。おいしくいただくね」
「ふふっ。ただし、お残しは許しませんからね」
今まで残したことないのに、母らしい冗談だ。
「はいっ」
これを持つと嬉しくもあり、残念でもある。王都へ行くとしばらく母の料理が食べれないことはやはり残念に思う。
そんなふうに思っていたら、父が俺に歩み寄って俺の肩を叩く。
「行ってこい。強くなれよ」
短くも力強い言葉をかけた。
俺もそれに応えるように
「うん」
そうこうしているうちに、乗り合い馬車が入口近くに来た。
トレーマンが俺に声をかける。
「よし、行くぞ」
俺は覚悟を決めた目で頷く。
俺たちは馬車に乗り込み、御者がそれを確認し馬車が動き出す。
すると、子どもたちを始め、村のみんなが大きな声で手を振った。
「「「「いってらっしゃーい。気をつけてね」」」」
俺も負けじと大きな声で手を振った。
「ありがとう〜、行ってきます」
──────
ここから王都までおよそ2日、俺たちはゆっくり少しずつ王都に向かっていた。
一日目は何なんなく進み、もう少しで森を抜ける。抜ければ、王都が見える。
俺は興奮が抑えられず、トレーマンに声をかける。
「そろそろ、王都ですね」
「ああ、ついに娘に会える。楽しみだ」
そんな会話をしていると、馬車が止まった。その瞬間、俺とトレーマン⋯先生は気を引き締めた。剣を持ち、身構える。
先生が御者に確認した。
「どうした」
「⋯ま、前に⋯」
震える声で、前を指を指す。
俺と先生は前を覗き込む、そこにいたのは大型犬の姿に額に大きな角が生えた犬が十匹ほど、
「オオツノイヌか」
先生がそう呟く。
この世界には、異世界によく出てくるスライムといったモンスターはいない。だが、前世の動物に似たものがおり絶滅したようなものも進化して生き残っている。それらを総称して『獣』と呼んでいる。
オオツノイヌは攻撃的で群れで行動する。額の角で攻撃しようとしてくることも多々ある危険な獣。
先生は他の乗客にも目を向け、俺に声をかける。
「ショウヤ。俺がこいつらをやる。お前は後ろに警戒し、他の乗客の守りに徹しろ」
その冷静な判断に俺は静かに、
「分かりました、先生」
先生は頷き、すぐさま馬車の前から上へ飛び、敵を迎え討つ構えを取る。
俺は馬車の後ろを中から警戒した。
先生の方から、強く息を吸う音がする。獣たちが唸り威嚇する。
息を吸うのを辞めたと思えば、先生が声を強くあげる。
「行くぞ」
先生が地面を蹴ると、複数の獣が先生めがけて襲いかかる。
一匹一匹また一匹と襲いかかるが、先生は的確に一匹一匹また一匹と首元を斬り狩っていく。
後ろを警戒している俺は見えないが、先生の剣を振る音、獣たちの鳴き声で信頼を含めて何となく分かる。
さあ、問題はこっちだ。先生が「警戒しろ」と言ったのは、他でもないオオツノイヌの習性。
奴らは賢く前を囮にして、後ろから襲いかかることがある。そのためにもら俺が警戒しているが、さあどうか。
しばらく沈黙が続いた。
すると、茂みが微かに揺れ俺は視線を向ける。その瞬間、
「ガオォォ」
背後からオオツノイヌが現れ、
「ガアァァ」
先に向いた茂みの方からも別のオオツノイヌが来た。
「キャッ」
「いやぁぁ」
馬車の中の乗客は悲鳴を上げる。俺はただ静に身を低くして、鞘にしまわれた剣の柄を握る。その瞬間、獣たちが馬車の中めがけて大きく飛び上がった。俺は馬車の中で床を蹴り、獣の首元めがけて──抜刀。
剣閃が走る──。
地面に着地した俺は静かに血振りを行い、剣を鞘へ納める。
一拍遅れて、二匹の獣が地面に崩れ落ちた。
すると、馬車の前の方から足音が聞こえた。先生が笑いながら、こっちに向かう。
「無事だったようだな」
「なんとか、ギリギリ」
「ギリギリねぇ~」
俺の言葉に顎をこすりながら、獣二匹を見る。
「まぁ、無事ならいい。ガハハハ──。さて、こいつら早く解体して行くか」
「そうですね」
そんな会話を二人がしていたが、御者と乗客は唖然としていた。
────
解体を終え、俺たちは王都に無事到着した。到着した途端、乗客のみんなが俺たちに感謝した。それはそうか、獣に会えば剣士以外普通は逃げるか隠れるかだからな。俺たちの村が慣れすぎている。
みんなそれぞればらけたところで、俺とトレーマンはギルドに向かう。
「ギルドにいるんでしょうか」
「さあな。そこにいれば話が早いが、まぁいなければ受付に確認するだけだ」
そんな会話もしながら、王都を見て回りギルドに着いた。
扉を開けると、中がとてつもなく賑やかだった。
「ふっ。相変わらずこの雰囲気は変わってねぇな」
先生が溢れた言葉は昔を思い出しているようだ。そんな姿に嬉しく思った俺だったが、
「あれ、お父さん?」
その声の方にトレーマンと俺は振り向く。そこには、昔いた少し落ち着いた栗色の髪を高く束ねた少女だった彼女が──ミャールがいた。




