7.父の教え
稽古を終え、家の前で母が出迎えてくれた。
「おかえりなさい」
「「ただいま」」
二人仲良く言った。
二人の姿を見て、母は微笑んだ。
「温かいご飯を用意してるから、体と顔を洗ってきなさい」
「「はーい」」
と水場へ行き、洗ってきて温かい夕食を囲んだ。
食べながら、今日の稽古のことを聞かれる。
「ショウヤ、今日の打ち込み楽しかった?」
「うん、楽しかったよ」
無邪気な答えで答える。
その答えに母も笑って、
「そう良かった」
そこに父が、
「ショウヤのやつ、今日はミャールちゃん相手に結構いい勝負をしてたんだ」
その言葉に、
母は驚き、俺を見る。
「まあ、本当? それはすごいじゃない」
「うん、でも最後失敗して負けたけどね。ハハハハッ」
俺は頭をかきながら、笑う。しかし母は、
「でも、ショウヤくらいの年のなかでは一番強い子と打ち合ったんだから凄いわ。ああ、私も見に行きたかった」
母は結果よりも、俺が挑戦したことを喜んでくれる。
前世では、こんなふうに褒められることはあまりなかった。
だからこそ、その笑顔が胸に沁みた。
本当に母のこういうとこが好きだな。
そこからも、失敗した技のことも話したりして食卓を終えた。
「ごちそうさま。今日は夜風に当たってくる」
母は不思議そうな顔になった。
「あれ、今日は本読まないの、珍しい」
俺はただ笑顔で返す。
「今日はちょっと休みにする。じゃあ」
俺は扉を開けて、外に出た。
家の中では、父さんと母さんが顔を見合わせていた。
「今日は珍しく本を読まないのね」
「……負けたことを気にしてるのかもしれないな」
目を閉じて、深く深呼吸をして夜風を感じ夜空を見上げた。綺麗な光景が目に映って、今日のことを思い出す。
今日は実に有意義な打ち合いだった。
一番強いミャールとやり合えたのは特にいい経験だった。
そして、足りないことも気付けた。
俺は前世の記憶がある。この世界にとって、とても有利で貴重なアドバンテージ。
でも、届かなかった。知識だけでは勝てなかった。5歳の体とはいえ、まだ不完全。今後の方針が決まった。俺は顔を下に向けて自分の両手を見て、強く握る。
「ちゃんと鍛錬して、強くなってみせる。──よし」
顔を再び上げ、夜空を見て笑う。
すると、
「ふっ、どうやら心配する必要はなかったな」
その声に振り返ると父がいた。父は肩の荷が下りたようで笑顔で安堵していた。
でも、俺は気がかりだった。
「お父さん。心配って?」
父は笑いながら言う。
「お前な〜。普通お前みたいな年頃の子は、負けたことを悔しがるもんだぜ」
そう言いながら、俺の方へ歩み寄る。
「それなのに、お前ときたら反省して、次に向け頑張って鍛錬を積もうとする。そんな落ち着いた判断、普通しないぜ」
父は俺の近くで足を止めた。
「心配して損したよ。ふっ」
「ははっ。たしかにそうだね」
俺は頭をかいた。
父は大きく笑い、胸を張る。
「でも、それでこそ俺たちの子だ」
歯を見せて笑う。
「ところで、鍛錬をするとか言ったな。俺が教えてやろうか。付き合うぜ」
「えっ。いいの」
「当たり前だ。俺はお前の父だぜ。教えてやる」
父は親指をぐっと立ててまた笑う。
俺には嬉しいことだ。父レーリルは剣聖ではない。でも村でトレーマンさんに次ぐ剣士。教えてもらって損はない。
「じゃあ、お願いします。先⋯生?」
「はははっ。いつもどおり、お父さんでいいよ」
「じゃあ、お父さんお願いします」
父は少し照れながら、
「任せとけ」
その言葉を言ったあと父は真剣な顔つきになっていた。
「ショウヤ、一つだけ約束してくれ」
「ショウヤ。俺は、剣は勝つためでも、倒すためでもないと思っている」
「守るために振るうものだと考えている」
「この考えを忘れるなら、俺はお前に剣を教えない」
その言葉に俺は強く惹かれた。前世の記憶を持つ俺は、どうしても強さを気にする部分があった。
でも、父の剣の道は『守るための剣』。強くなって守るではなく、守るために強くなる。似てるようだが、少し違う。
もしかしたら、俺の目指す剣は父の教えにあるのかもしれない。
そして、俺は拳を固く握り締めて覚悟を決め、力強く答える。
「分かった。お願いします」
「よし、明日からビシバシ鍛えるぞ」
「はい」
これが俺たち親子の稽古の始まりだった。
それからというもの、村の子たちと打ち合いを重ね、父との稽古も欠かさなかった。
勝つ日もあれば負ける日もある。
前世の知識を試しては失敗し、そのたびに皆で笑い合った。
笑う日もあれば、泣く日もあった。
それでも俺は、一日も木剣を握ることをやめなかった。
父の教えを胸に、守るための剣を磨き続ける。
そして、時は十年――。




