52.赤髪の剣士 紅蓮
木剣が激しくぶつかり合う。
「くっ!」
速い。
輪天さんの剣は、とにかく速かった。
踏み込みから斬撃へ移るまでの動作が短く、こちらが防御に入った瞬間には、すでに次の一撃が迫っている。
俺は必死に木剣を合わせる。
右、左、正面────。
次々と繰り出される斬撃を受け流し、時には後ろへ下がりながら凌いでいく。
「まだだ!」
輪天さんが踏み込み、俺も前へ出る。
木剣と木剣がぶつかり、乾いた音が響いた。
「ぐっ……!」
押し切られる。
俺は身体を捻りながら横へ逃れ、再び距離を取る。
だが、輪天さんは追ってくる。
速い。
やはり、風剣。
その名に相応しい剣速だった。
それでも――。
ただ受け続けるつもりはない。
俺は輪天さんの斬撃を弾き、僅かに間合いを開けた。
さらに一歩。
もう一歩。
大きく後ろへ跳ぶ。
輪天さんの間合いから、完全に外れた。
「……!」
輪天さんが追撃のために踏み込もうとする。
その瞬間。
俺は地面を強く蹴った。
膝を伸ばし、足首から力を伝える。
一気に身体を前へ運ぶ。
「っ!」
輪天さんの懐へ入り込む。
木剣を振り上げるのではなく、そのまま身体の勢いを利用して――。
輪天さんの腹部へ木剣を突き出した。
寸前で止める。
「……!」
輪天さんの動きが止まった。
俺も木剣を引く。
「一本」
俺は静かに息を吐いた。
そして、輪天さんと向かい合う。
二人で木剣を下ろし――。
互いに頭を下げた。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
顔を上げる。
輪天さんは、どこか悔しそうな表情を浮かべていた。
「……悔しいな」
「え?」
「いや、こちらの話だ」
そう言って輪天さんは苦笑する。
俺は少し考えてから口を開いた。
「でも、今回は輪天さんの勝ちですよね」
「ああ」
「六対四でしたから」
「……そうだな」
輪天さんは頷く。
けれど、その表情にはまだ納得しきれていないものがあった。
「静剣の稽古の時に打ち合った時は、七対三だった」
「……」
「今回は六対四だ」
輪天さんは自分の木剣を見つめる。
「一応、縮まったということだな」
「たしかに、そうですが……」
俺も自分の木剣を見る。
六対四。
数字だけを見れば、まだ俺の負けだ。
それでも――。
以前より一本多く取れた。
俺は少しだけ嬉しくなった。
みんな成長するものだから、こういうこともあるんだと思う。
俺だけじゃない。
輪天さんだって、これから強くなる。
なら、俺も負けてはいられない。
そんなことを考えていると――。
「いいもん見ましたわ」
突然、後ろから声が聞こえた。
俺と輪天さんが同時に振り返る。
そこに立っていたのは、あの赤髪の女性だった。
「風剣。そして――ショウヤだったわね?」
「……はい」
彼女の視線が俺たちの間を行き来する。
「なかなか面白いもんを見せてもらった」
輪天さんが彼女へ目を向ける。
「紅蓮、いつからいた?」
「少し前からよ」
紅蓮と呼ばれた女性は、頭の後ろを掻きながら答えた。
「稽古場から音が聞こえてきて。何をしてるのかと思って来てみたら、ちょうど二人が手合わせしてたんだ」
「それで?」
「集中してるところに入っていくのも悪いでしょうから、そこで見てました」
そう言って、紅蓮は少し離れた場所を指差した。
どうやら、ずっとそこで俺たちの立ち合いを見ていたらしい。
「それにしても、風剣から四本取るとはな」
紅蓮が俺を見る。
「大したものです」
「ありがとうございます」
「けど――」
紅蓮は口元を吊り上げる。
「少し休憩したら、私とも手合わせしてくれ」
「……はい?」
「二十本」
「二十本……ですか?」
思わず聞き返してしまう。
十本でもかなりの運動量だった。
それを二十本。
俺が驚いていると、紅蓮は当然のように答えた。
「私の実力を知りたくないですか?」
「……」
「だったら、多いに越したことはありません」
確かに。
一本や二本の立ち合いだけでは、その人の強さをすべて知ることはできない。
特に実戦では、一度の攻防だけで終わるとは限らない。
長く戦うことになれば、体力も集中力も必要になる。
それを考えれば――。
「分かりました。お願いします」
「よし」
紅蓮が嬉しそうに笑う。
俺は木剣を握り直した。
相手は、まだ名前を聞いたばかりの女性。
けれど、先ほどから感じる雰囲気だけでも分かる。
この人も、強い。
どんな剣を使うのか。
どれほどの力を持っているのか。
実際に剣を交えなければ分からない。
「少し休んだら始めよう」
「はい」
俺と紅蓮は、それぞれ距離を取った。
そして――。
「では、始めますか……」




