50.城剣との攻防
俺は初手に使った技から体術を使わずに、純粋な剣技で二つの木剣が激しくぶつかる。その度に互いに距離を取り、再び構え直す。
俺は大きく息を吐きながら、正眼に構えるナイパーさんを見据えた。
ここまで何度も木剣を交えた。
それでも――まだ、届かない。
ならば、今までに学んだものを全部使う。
俺は地面を蹴った。
ナイパーさんも同時に踏み込んでくる。
互いの木剣がぶつかり合った。
パンッ!
そのまま一度離れ、俺が横薙ぎに振る。
ナイパーさんは木剣で受け流し、俺はさらに踏み込む。
上段。
横薙ぎ。
斜めからの斬撃。
それらをナイパーさんは一つずつ受け、避け、時には俺の木剣を弾いてくる。
俺も負けじと食らいつく。
木剣が何度もぶつかり、乾いた音が稽古場に響き渡った。
互いに離れる。
また踏み込む。
そして、再び木剣が交差する。
「くっ……!」
俺はナイパーさんの木剣の側面へ、自分の木剣を滑らせる。
そのまま相手の剣を外側へ流し、開いた身体へ向かって木剣を振り抜いた。
だが――。
ナイパーさんは身体を大きく反らした。
木剣が、その胸元を僅かにかすめる。
俺はそのまま振り抜き、身体を戻そうとした。
その瞬間だった。
「――!」
下から木剣が迫ってくる。
ナイパーさんの反撃だ。
俺は咄嗟に木剣を下ろし、受け止める。
ガンッ!
「おっと……!」
強烈な衝撃に身体が後方へ弾き飛ばされた。
俺は空中で体勢を整え、地面へ着地する。
そのまま数歩後ろへ下がりながら、木剣を握り直した。
すぐに顔を上げる。
ナイパーさんは、すでにこちらへ向かっていた。
俺も地面を蹴る。
再び、木剣がぶつかった。
何度も斬り結ぶ。
ナイパーさんが俺の木剣を外へ流そうとする。
――来る。
俺はその動きを感じ取った。
今までなら、流されるままに剣を持っていかれていた。
けれど。
「……させるか!」
俺は逆に力を込めた。
流されようとした木剣を、そのまま押し切る。
ナイパーさんの剣を上へと弾き飛ばした。
――今だ!
俺は身体を低くする。
そして、右手を開いた。
五指を揃え――。
貫手を、ナイパーさんの顎へ突き出す。
だが、ナイパーさんは首を僅かに横へ逸らした。
俺の手が空を切る。
その直後。
ナイパーさんの右手の木剣が、俺の左側から迫ってきた。
俺は右へ跳ぶ。
同時に木剣を掲げた。
ガンッ!
受け止めた瞬間、腕に強烈な衝撃が走る。
「ぐっ……!」
重い。
俺はそのまま後ろへ押し込まれ、数歩退いた。
そして――。
再び距離が開いた。
そしてまた、互いに構え直す。
俺は大きく息を吐いた。
目の前にいるナイパーさんを見つめる。
力も、速さも、他の技も――師匠たちほどではない。
だが⋯剣士として、一流。
上手く崩せない……。本当に強い。
騎士としての正々堂々を貫いた、その剣技。
俺はそんな相手と剣を交えられていることが嬉しかった。
だからこそ――。
このまま負けるわけにはいかない。
俺は木剣を強く握り直した。
そして、一つの考えが浮かぶ。
「あれを……やってみるか」
俺は構えた。
次の瞬間────地面を蹴る。
身体を前へ投げ出すように、一気に距離を詰めた。
疾剣との稽古で見た、あの速さ。
それを俺なりに使う。
ナイパーさんが木剣を振り上げる。
――ここだ!
俺はさらに踏み込んだ。
膝と足首を一気に伸ばす。
身体が爆発するように加速した。
ナイパーさんの横を抜ける。
そして――。
俺とナイパーさんは、互いに背を向ける形になった。
俺は足を止めず、身体を捻る。
右側へ大きく身体を回し、その勢いを木剣へ乗せる。
自分自身の力。そして、回転によって生まれる力。
その二つを重ね合わせ――。
「――っ!」
右から、渾身の回し斬りを放つ。
同時に、ナイパーさんも動いた。
先ほど振りかけた木剣を止め、俺が背後へ回ったことに気付いたのだ。
ナイパーさんも身体を捻る。
右から木剣を振り抜く。
そして――。
ガァンッ!!
木剣同士が激しく衝突した。
衝撃が腕を突き抜ける。互いの木剣が、限界を迎えた。
バキッ!
バキッ!
二本の木剣が、ほぼ同時に折れた。
「そこまでです!」
静剣さんの声が響く。
俺とナイパーさんは、折れた木剣を手にしたまま立っていた。
「この勝負、引き分けとします!」
――引き分け。
その言葉を聞いた瞬間、俺は大きく息を吐いた。
「……ありがとうございました」
俺が頭を下げる。
ナイパーさんも、折れた木剣を下ろした。
「見事でした、ショウヤ殿」
「ありがとうございます」
「最後の一撃には、驚かされました。まさか、あの状況から背後へ回られるとは思いませんでしたよ」
「俺も……決まると思ったんですけどね」
思わず苦笑する。
けれど、悔しさよりも嬉しさの方が大きかった。
今の俺にできることを、全部出し切った。それで、この人と引き分けることができた。
「ショウヤ殿」
ナイパーさんが手を差し出す。
「これからも、その剣を磨いてください」
「はい!」
俺はその手をしっかりと握った。
その様子を見ていた国王陛下が、ゆっくりと立ち上がる。
「実に良いものを見せてもらった」
国王陛下は俺とナイパーさんを見ながら、穏やかに告げる。
「これからも励みたまえ」
「「はい!」」
俺とナイパーさんは同時に返事をした。
王妃様も、俺たちへ柔らかな笑みを向けてくれる。
国王陛下は満足そうに頷くと、騎士たちを伴って稽古場を後にしようとする。
その途中。
ふと、国王陛下がノエラさんへ視線を向けた。
「ノエラ」
「はい」
「ショウヤ殿に声を掛けたいのなら、行ってきなさい」
「……ありがとうございます」
ノエラさんは一礼すると、俺の方へ歩いてくる。
「ショウヤさん」
「ノエラさん」
ノエラさんは、少し嬉しそうに微笑んだ。
「見事でした」
「ありがとうございます」
「私との手合わせで得たものを、もう自分の力として使っているのですね」
「はい」
俺は頷く。
「あの時、ノエラさんと手合わせをしたからこそ、できたことだと思います」
「それなら、私も嬉しく思います」
ノエラさんは穏やかに笑った。
「これからも、その調子で励んでください」
「はい。もっと強くなってみせます」
「ええ。楽しみにしています」
ノエラさんもそう言うと、国王陛下たちの後を追うように稽古場を去っていった。
俺はその背中を見送る。
そして、振り返った。
そこには――六剣聖の師匠たちが並んでいた。
「さて」
剛剣が腕を組む。
「ここからが本番だ」
疾剣も静かに頷いた。
「これより先は、我々の門下生としての稽古となります」
技剣、心剣、眼剣、静剣。
それぞれの師匠が、自らの弟子や門下生たちへ視線を向ける。
俺も背筋を伸ばした。
これまでの稽古とは違う。
ここからは、それぞれの剣聖が持つ剣を、直接学んでいく。
俺は木剣を握り直した。
キャリメラたちとの約束。
そして、自分自身がもっと強くなるために。
――負けていられない。
城剣との立ち合いは終わった。
けれど――。
俺の新たな稽古は、ここから始まる。
六剣聖との、本当の稽古が────。




