↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
49/53

49.城剣との立ち合い

 六剣聖との新たな稽古が始まった、その初日。


 俺は今、稽古場の中央で一人の剣士と向かい合っている。

 騎士団長剣聖『城剣』ナイパーさん。以前、王城で一度顔を合わせたことはある。

 けれど、こうして剣を持って向かい合うのは初めてだ。

 ナイパーさんは木剣を手にしながら、穏やかな笑みを浮かべていた。


「あなたと立ち会えること、楽しみにしていたのです」

「こちらこそ、お相手出来ることを嬉しく思います」


 互いに一礼する。

 俺は一度、深く息を吸った。

そして、ナイパーさんを真っ直ぐに見据える。そして、もう一つ確認しておきたいことがあった。


「全力を出して構いませんか?」

「構いません。私も全力でお相手しましょう」


 その言葉に、俺は頷く。


 そして、もう一つ追い打ちをかけるように確認しておきたいことがあった。


「体術も使いますが?」


 ナイパーさんが少しだけ目を見開く。けれど、すぐに笑みを浮かべた。


「ええ。構いません」

「ありがとうございます」


 俺は木剣を握り直す。

 少し離れたところでは、静剣が審判として俺たちを見ている。

 周囲には、六剣聖やその弟子たち。そして国王陛下と王妃様、騎士たちもいる。

 これだけの人に見られていると思うと、少し緊張する。


 けれど――。


 今は目の前の相手だけを見ればいい。


「――始め!」


 静剣の声が響いた。

 俺とナイパーさんは、同時に正眼へ構える。


 だが、どちらも動かない。


 互いの目を見ながら、相手の出方を窺う。

 俺が前へ足を半歩だけ進める。

 ナイパーさんも、わずかに前へ出た。


 その瞬間だった。


 俺は一気に間合いを詰める。

 ナイパーさんも同時に踏み込んできた。


 先に届くのは――。


 俺の剣。


 そう判断した瞬間、俺は身体をわずかに沈め、左から中段へ木剣を振り抜く。


 ナイパーさんの木剣とぶつかった。


 パンッ!


 乾いた音が稽古場に響く。

 だが、俺はそのまま力比べをするつもりはなかった。

 ぶつけた俺の木剣の向きを変える。ナイパーさんの木剣の側面を撫でるように、左下へ受け流した。


 その瞬間――。


 ナイパーさんの右側が空いた。

 俺はそこへ踏み込み、身体をぶつける。


「っ!」


 ドンッ!


 体当たりを受けたナイパーさんの身体が、わずかに後ろへよろめいた。


 俺はその隙を逃さない。

 すぐさま木剣を横薙ぎに振る。

 ナイパーさんは身体を反らして避けた。

 続けて、下から斬り上げる。

 これも紙一重でかわされる。


 なら――!


 俺は木剣を頭上へ振り上げ、そのまま振り下ろした。


 ナイパーさんは体勢を立て直す。

 そして、振り下ろされた俺の木剣を、自らの木剣で受け止めた。


 ガンッ!


 木剣同士が激しくぶつかる。

 そのまま互いに押し合いになるが⋯


(重い)


 俺の腕へ、じわじわと力が伝わってくる。


 これが――城剣。


 騎士団長として、自らの力だけで剣聖にまで上り詰めた剣士の力。

 俺は歯を食いしばり、さらに力を込める。


 だが――。


「……っ!」


 押し返された。


 俺は咄嗟に後ろへ下がる。


 ナイパーさんが追撃する。


 横薙ぎの一撃。


 俺は身体を引いて避ける。


 続けざまに踏み込まれると思い、俺は大きく距離を取る。


 だが、ナイパーさんは追ってこない。その場で木剣を正眼へ戻していた。


 距離を取った俺は、木剣を霞の構えへ。


 互いに、再び相手を見据える。


「いきなりやられてしまいました。まともに態勢を崩されたのは久しぶりです」


 ナイパーさんが、少し驚いたように笑う。


「いえいえ決めきれなかったので、まだまだです」


 俺がそう答えると、ナイパーさんは目を細めた。

 その表情から、さっきまでの穏やかさが少し消える。


 俺も木剣を握り直す。


 稽古場にいる誰もが、俺たちの次の動きを待っていた。


 そんな中――。


「……まさか、あんな手に出るとは」


 国王陛下が口にした。

 周囲からも、小さなどよめきが起こる。


 俺が先ほど使ったのは、剣だけの技ではない。


 剣を受け流し、相手の空いた場所へ身体ごと踏み込む。


 実戦ならば、当然あり得る攻め方だ。


「実戦では、あれくらいの手はあり得ます」


 技剣が淡々と答える。


 国王陛下が技剣へ視線を向ける。


 技剣は俺たちを見たまま、続けた。


「剣だけで戦う必要はありませんから」


 その言葉のあと、少しだけ間が空いた。


 俺は技剣の話し声を微かに捉えながらも、ナイパーさんへ視線を逃さない。

 ナイパーさんも、すでに構えを整えながらも視線は俺に向いている。


 ナイパーさんの立ち姿────先ほど体勢を崩したことなど、まるでなかったかのように力強く立っている。


 ――まだ終わっていない。


 むしろ、ここからだ。


 そう思ったときだった。


「……まだまだこれからだ。あいつの剣は」


 剛剣が、静かに呟いた。


 俺は木剣を握り直す。


 そして――。


 ナイパーさんを、真っ直ぐに見据えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。