47.獣導の協奏と約束を
王城から招待を受けてから、二ヶ月。
俺たちはこれまでと変わらず、キャリメラたちと共にクエストをこなしていた。
危険な獣を討伐したり、村の人たちから依頼された仕事を手伝ったり。
そんな日々を過ごす中で、俺はキャリメラたちと過ごす時間が、少しずつ残り少なくなっていることを感じていた。
六剣聖との稽古が始まる。
それは、俺が剣士としてさらに強くなるために必要なことだ。
けれど――。
この場所を離れるのは、やはり寂しかった。
その日の夕方。
俺はキャリメラの家で、みんなに話があると伝えた。
「みんなに話しておきたいことがあるんだ」
キャリメラ、ビスター、今日も食事に来ていたマリネアさん、そしてルナたちが俺を見る。
俺は一度息を吸い、言葉を続けた。
「近いうちに、俺は六剣聖の稽古を受けることになった」
「……!」
キャリメラの目が大きく開かれる。
「だから……しばらくの間、獣導の協奏を抜けようと思う」
その言葉を口にした瞬間、胸の奥が少し痛んだ。
俺自身も、この場所を離れることが寂しいようだ。
キャリメラは何も言わず、俯いた。
そして、しばらくしてから小さな声を出す。
「……そう、ですか」
その声には、隠しきれない寂しさが滲んでいた。
俺はそんなキャリメラを見て、すぐに言葉を続ける。
「でも、一時的な別れだ」
「一時的……?」
「ああ。六剣聖との稽古が終わったら、またここに戻ってくる」
キャリメラが顔を上げる。
「そして、またみんなでパーティーを組もう」
「……本当ですか?」
「ああ。約束する」
俺がそう答えると、キャリメラは少しだけ笑った。
「……はい」
けれど、その笑顔にはまだ寂しさが残っていた。
すると、キャリメラが何かを思い出したように立ち上がる。
「ショウヤさん、ちょっと待っていてください」
そう言って、キャリメラは家の中へ走っていった。
しばらくすると、両手で何かを大切そうに抱えながら戻ってくる。
「これ……」
キャリメラが差し出したものを見て、俺は目を丸くした。
それは、一枚の小さな金属製のエンブレムだった。
円を描くような意匠の中心には、一振りの剣が刻まれている。
その剣を挟むように、左右には異なる獣を思わせる意匠があった。
片側には、月夜を思わせる青白い獣。
もう片側には、花びらのように広がる桃色の獣。
そして剣の下には、大きな肉球の紋章が刻まれている。
円環の頂には星のような飾りがあり、それぞれの意匠が一つの紋章として繋がっていた。
それは、俺たちが共に過ごしてきた時間を、そのまま形にしたような紋章だった。
「これは……?」
「私たちのエンブレムです」
キャリメラは嬉しそうに笑った。
「獣導の協奏を作った時に、みんなで考えたんです」
俺はもう一度、手の中のエンブレムを見る。
剣だけではない。
獣だけでもない。
それぞれ違うものが一つになっている。
それが、俺たちのパーティーを表しているように感じた。
「これを……俺に?」
「はい」
キャリメラは頷く。
「ショウヤさんも、獣導の協奏の仲間ですから」
そう言って、キャリメラはエンブレムを俺の手のひらにそっと乗せた。
「約束の証です」
俺は驚きながら、そのエンブレムを見つめた。
「約束の……証?」
「はい」
キャリメラは俺をまっすぐ見つめる。
「だから……絶対に戻ってきてください」
俺はエンブレムを強く握りしめた。
「ああ」
そして、キャリメラに向かって頷く。
「絶対に戻ってくる」
「……約束ですよ?」
「約束だ」
キャリメラは、ようやく少しだけ笑った。
俺たちは互いに笑った。
その後、荷物をまとめ、俺はその夜をキャリメラの家で過ごした。
そして翌朝。
俺はいつものように料理を作り、キャリメラとビスターと一緒に朝食を食べた。
食事を終えると、俺はキャリメラの家を出ることにした。
「それじゃあ、行ってくる」
「はい!」
キャリメラは笑顔で手を振ってくれた。
俺も手を振り返し、その場を後にする。しばらく歩いたところで、俺は一度だけ振り返った。
キャリメラはまだ、こちらを見ていた。
俺は小さく手を上げてから、前を向いた。
そして、その姿が見えなくなった頃。
「……行っちゃいましたね」
キャリメラは、ぽつりと呟いた。笑顔を作っていた顔が、少しずつ崩れていく。
「……寂しいな」
その目から、一粒の涙が零れた。キャリメラはそのままルナの身体に抱きつく。
「ルナ……」
ルナは何も言わず、キャリメラの身体に寄り添った。
「……よく耐えたな」
後ろからビスターが静かに声をかける。
キャリメラは涙を拭いながら、兄を見る。
「……うん」
「ショウヤは戻ってくるって言ったんだ。だから、それまで待っていればいい」
「……うん」
ルナがキャリメラの頬を舐める。すると、他の獣たちも次々とキャリメラの側へ集まってきた。
キャリメラはそんな仲間たちに囲まれながら、涙を流していた。
「みんな……ありがとう」
その声は震えていた。
けれど、キャリメラの顔には少しずつ笑顔が戻っていった。
――一方、俺は六剣聖の稽古場へ向かっていた。
歩きながら、俺は何度も手の中にあるものを見る。
獣導の協奏のエンブレム。
キャリメラたちと過ごした時間。
共に戦ったクエスト。
笑い合った日々。
そのすべてが、この小さなエンブレムに詰まっているような気がした。
「……絶対に戻ろう」
俺はエンブレムを握りしめる。
そして――。
「戻った時には、今よりもっと強くなっていよう」
それが、俺の新しい目標になった。しばらく歩くと、目の前に大きな門が見えてきた。
その先にあるのは、これから俺が挑む新たな修行の場所。
俺は門の前で立ち止まり、ゆっくりと顔を上げた。
六剣聖の稽古場。
これまでとは比べものにならないほど厳しい稽古が、ここから始まる。
俺は手の中のエンブレムを一度だけ見つめる。
そして、それを胸元へしまった。もう一度、門を見る。俺は拳を固く握った。
もう一度、門を見る。
俺は拳を固く握った。
いよいよ、次の稽古が始まる。
六剣聖との、新たな修行が。




