44.獣導師の父
ギルドへ戻ると、マリネアさんが俺たちを出迎えてくれた。
「お疲れ様でした。まさか、日が暮れる前に討伐を終えてしまうとは思いませんでしたよ」
「ありがとうございます」
俺が頭を下げると、マリネアさんは笑みを浮かべる。
「今回のクエストも無事に終わって何よりです。それにしても……」
マリネアさんが俺を見る。
「以前より、さらに腕が上がっていませんか?」
「そうでしょうか?」
「ええ。Aランクの獣を相手にして、あれほど早く討伐を終えるなんて。皆さんとの連携も含めて、以前とは違うものを感じます」
そう言われると、少し照れ臭い。
「そう言っていただけるのは嬉しいです。ありがとうございます」
「ふふっ。では、今日はゆっくり休んでくださいね。皆さんのお話を聞けるのを楽しみにしています」
「はい」
マリネアさんと別れた俺たちは、そのまま市場へ向かった。
今日の夕食に必要な食材を買い揃え、キャリメラの家へと向かう。
家に着くと、俺は台所へ立った。
「じゃあ、俺は料理をしますね」
「お願いね、ショウヤ」
キャリメラとビスターは獣舎へ向かい、獣たちの世話を始める。
俺は食材を切り、火を入れ、料理を仕上げていく。
しばらくすると、玄関の方から声が聞こえた。
「こんにちはー!」
「マリネアさん?」
振り返ると、マリネアさんが立っていた。
「少し早く来てしまいました。待ちきれなくて」
「ありがとうございます。料理はもう少しで完成しますよ」
「楽しみにしていますね」
そう言って笑うマリネアさんを見て、俺も自然と笑みがこぼれた。
料理の準備を続けながら、ふと気になったことを尋ねる。
「そういえば、マリネアさん」
「はい?」
「ビスターって、昔はどんな子だったんですか?」
「ビスターさんですか?」
マリネアさんは少し考えるようにしてから、柔らかく笑った。
「そうですね。昔から元気な子でしたよ。よく外へ出て遊んでいました」
「外に?」
「ええ。朝から出ていって、日が暮れるまで帰ってこないこともありました」
「へえ……」
その話を聞いて、俺は獣舎の方を見る。
そこではビスターがキャリメラと一緒に獣たちの世話をしていた。
だが、ふと疑問が浮かぶ。
(そうなると……キャリメラは?)
幼い頃のキャリメラが、一人で家にいる姿を想像する。
その瞬間――以前、過去の話を聞いた時に見た幼いキャリメラの姿が脳裏に浮かんだ。
小さな体で獣たちと触れ合いながら、それでもどこか寂しそうにしていた彼女。
(……もしかして)
俺はビスターを見る。
(ビスターが外へ遊びに出ていた頃、キャリメラは一人でいることが多かったんじゃないか?)
そして、ルルナに会ったあの日――寂しさを紛らわせるように一人で森へ入ったキャリメラを見たことで……幼い妹が一人で森に入ったそのことを────
その時、ビスターの中に芽生えたのかもしれない。
(俺が側にいてやらないと)
それまで以上に、「自分が守らなければならない妹」として意識するようになったのではないだろうか。
だからこそ、今のビスターはキャリメラを何かと気にかけている。
少し過保護なくらいに。
(……なるほど)
俺は心の中で納得する。
(あの時の「自分が側にいれば」という気持ちが、今のビスターに繋がっているのかもしれない)
そう考えると、ビスターがキャリメラを大切にしている理由も分かる気がした。
(それが……今のシスコンに繋がったのか)
俺は思わず苦笑する。
その時だった。
「ただいま」
玄関から穏やかな声が聞こえた。
「お父さん!」
「ただいま、キャリメラ。みんなも来てくれていたんだね」
キャリメラが嬉しそうに声を上げる。入ってきたのはキャリメラの父親だったようで、彼は柔らかな笑みを浮かべていた。俺は頭を下げ、挨拶をした。
「はじめまして、お邪魔しております。キャリメラたちとパーティーをしております。ショウヤです」
「やあ、キミがショウヤ君だね」
明るい茶髪と瞳をした、朗らかな顔立ちの男性だった。声にも、どこか人を安心させるような温かさがある。そして、頭を下げて丁寧に挨拶をしてくれた。
「はじめまして。私はキャリメラとビスターの父、獣導師のライ。よろしくね、ショウヤ君」
挨拶を終え、ライさんは顔を上げる。その顔はニッコリしていた。
ビスターも世話を終わらせ、ライさんを見る。
「……おかえり、親父」
「ただいま、ビスター」
ライさんはそれだけ言うと、嬉しそうに微笑んだ。
その後、ノエラさんも家へやってきて、皆で食卓を囲んだ。
今回は、キャリメラの家族が勢揃いということもあり、いつも以上に盛り付けにも気を配った。
そんな些細な気遣いにも気付き、みんな褒めてくれた。
料理を食べながら、今日の討伐の話や、ビスターの昔話などで自然と会話が弾んだ。
食事を終えた俺は、少し腹を休めるため外へ出た。
「ふぅ……」
夜の空気を吸い込む。
すると、後ろから足音が近づいてきた。
「ショウヤ君」
「ライさん?」
振り返ると、ライさんが穏やかな表情で立っていた。
「少し、話してもいいかな?」
「もちろんです」
二人で並んで夜空を眺める。
「キャリメラも、ビスターも……私にとっては自慢の子だよ」
ライさんは優しく微笑んだ。
「二人とも、それぞれ違う道を歩いているけれど、一生懸命頑張っている。それを見ることができるのは、親として嬉しいものだね」
「はい。俺も二人が頑張っているのは知っています」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
ライさんは少しだけ間を置く。
「これからも、二人のことを頼んでもいいかな?」
「……はい」
俺は迷わず答えた。
「ずっとは無理かもしれません。なにせ六剣聖の稽古もありますし⋯⋯でも、俺にできることなら、力になりたいと思っています。なにせ、同じパーティーの仲間ですから⋯」
「ありがとう」
ライさんは柔らかく笑った。
「それなら、私も安心だ。そろそろ、家に入ろうか」
「そうですね」
俺は小さな誓いを胸に、ライさんと共に家の中へ戻った
すると――。
「ショウヤ」
ノエラさんがこちらを向いた。
「はい?」
ノエラさんは静かな笑みを浮かべる。
「明日、私と手合わせをしていただけませんか?」
「……手合わせ、ですか?」
「はい」
穏やかな表情の奥に、僅かな闘志が見える。
「少し……あなたの今の実力を確かめてみたくなりました」
俺は驚きながらも、その申し出を受け入れた。
「分かりました。明日、よろしくお願いします」
こうして、翌日の手合わせが決まった。




