43.適材適所
今回の討伐クエストの相手は非常に厄介で危険度がAランクの獣だからだ。そいつは周辺の獣たちや村の作物を食い散らかしていき、俺たちは討伐するため、目撃が多い南の森へ入る。
「さて、手がかりを探せばいいのか?獣呼びを吹けば、すぐに事足りるのでは?」
森の中、無作為に探るのは危険と思い、俺はキャリメラに提案した。すると、キャリメラは顔を横に振る。
「今回の子は、笛の音で落ち着くタイプじゃないの。この森の中で笛の音に反応すれば、襲いかかってくるから手探りで探すしかないよ」
「⋯よほど厄介な獣のようだな。では今回は逃がすのを避け、討伐に集中すればいいってことだな」
「うん。お願い、お兄ちゃんもね」
「おう、任してけ」
今回は討伐のみを考えないといけない獣。しかも、討伐対象の危険度はAランク。俺たちは森の中を進みながら、討伐に集中することを決めた。すると────茂みの中から
「ガゥッ」
突如として、一メートルほどの小型の獣が俺にとびかかってきた。俺は体をかがませ、剣を抜刀する。獣の腹に剣が入った──だが
キィィィン──
甲高い音が響き、獣はふっ飛ばされる。地面に接したと見るや、ダメージは無いと言わんばかりに勢いよく茂みの中を駆け回っていく。
俺たちは、背中合わせにして周りを警戒する。キャリメラはルナたちの陰に隠れた。そして、確認する。
「あいつが討伐対象か?」
「うん、間違いない。『スケイルラーテル』」
『スケイルラーテル』。前世のラーテルより体は大きく、背中はゴムのような弾力がある。そこに加えて、弱点だった腹側に硬い鱗が生えている。そのため、俺の斬撃は通らず、今は茂みの中にいるというわけだ。
「今の一撃で攻撃が通らないとは、本当に厄介だな⋯。しかも、小型でここまで速いと、捉えにくい⋯」
「任せろ。このあたりは木がそんなに密集していない。レオポルなら、あの速さについていける。ここは俺とレオポルがやる。いくぞ、レオポル」
「ガァァォォッ」
そう言って、ビスターはレオポルの背に乗った。レオポルは揺れる茂みの中を駆け回るスケイルラーテルを追うように、森の中を駆ける。
俺はキャリメラの護衛にまわり、ビスターの戦いを観察する。
レオポルが近づいたと見るや、咆哮をあげながら、爪を大きく振り上げた。
「ガァァァ──」
スケイルラーテルは攻撃を察知してか、横に跳躍する。レオポルの攻撃はかわされ、スケイルラーテルが側面から噛みつかんと飛び込んでくる。
それを阻止せんと、ビスターがラーテルの頭上に上段の一撃を振る。ラーテルは地面に叩きつけられるも、すぐさまビスターに牙を向けた。ビスターが横一閃に振って、ラーテルは横に吹っ飛ぶ。
ラーテルは地面に叩きつけられ、体が大きく弾む。宙に浮くラーテルにレオポルが爪で攻撃し、また地面に叩きつけた。
ラーテルは一瞬怯み、その隙を逃さんとビスターが地面に沿うように剣を振るい、首元に剣を当てる。
「キュイッ」
ラーテルが僅かに唸る。首元には微かに血が滲んでいた。だが、まだ余裕そうで、再び周りを駆け回った。
「くっ、やっぱり手強い⋯。だが、俺たちが倒すから、手出しは⋯」
「いや、俺もやろう。動きはだいたい分かった」
ビスターがレオポルの背に乗って、再び追いかけようとするが、俺は剣を抜いて参戦しようとする。
「あいつを宙に浮かせる。その隙で剣を振ってくれ」
「それで倒せるわけ⋯」
「ビスター⋯俺を信じろ」
俺は真っすぐビスターを見る。俺の瞳を見たビスターは息を吐く。
「俺はどうすればいい?」
「あいつを追いかけてもらったらいい。俺があいつを浮かすから、剣を振ってくれたらいい」
「お前、追えるのか?」
「回り込むから、大丈夫」
「⋯よし、じゃあ────いくぞ」
ビスターたちはラーテルの後ろから追いかけていく。俺はビスターたちの動きをよく見て、先回りをして剣を構え、ラーテルの前に立ち塞がる。
ラーテルは臆さずに俺に向かって走り────大きく跳ぶ。
俺は体を少し横にずらして、ラーテルの腹もとに剣を斬り上げる。
「フゥッ」
キィィィン──
鱗によって、斬撃自体は入らなかった。だが、ラーテルを宙に浮かせた。
「今だ。背中に攻撃を──」
「とうっ。⋯⋯うぉぉぉぉぉ────」
俺はビスターにそう言いながら、再び剣を構える。ビスターはレオポルの背から跳び、上からラーテルに向かって雄叫びをあげながら剣を振るう。
俺は合わせるように腹にもう一閃、剣を振るう。
「ふぅっ。」
キィィィン──ビキッ⋯ズバン。
ラーテルの背と腹に二人の剣が当たり、鱗が壊れる。俺の剣が肉を斬る。
「グギャァッ」
ラーテルはうめき声をあげながら、地面に倒れ動かなくなった。
レオポルが警戒しながらも、ラーテルに触れた。ラーテルはやはり動かず。それを確認した俺は静かに言った。
「討伐完了⋯だな」
そう言った俺に、キャリメラとルナたちが駆け寄ってきた。
「二人ともお疲れ様。無事に討伐できてよかったね」
「ああ。ビスターとレオポルが追い込んでくれたおかげだ」
「ねえ、今のってどうやって倒したの? 鱗はすごく硬いし、背中は柔らかいのに?」
キャリメラが不思議そうに聞いてくる。でもたしかにそうだ。スケイルラーテルの強みは性質的な防御力が高いことだ。それを突破したことに疑問を持つのは当然だ。
俺は自分の考えを教えた。
「単純な話だ。あいつの鱗と背中を、上下から挟み込んだんだ。」
「挟み込む?」
「ああ。ビスターが背中から、俺が腹から同時に斬った。二方向から力を加えたことで鱗と背中に負荷が集中して、鱗が耐えきれずに割れたんだ。鱗が割れずに、背中から斬れる可能性もあったんだけどな」
「なるほど……せん断したってこと?」
「そういうことだね、でもビスターのおかげだ」
俺はそう言って、ビスターたちを見る。ビスターは⋯⋯浮かない顔をしていた。
「ビスター、どうした?」
俺が聞いてみると、ビスターは言葉を詰まらせながらも答えた。
「⋯っ、その⋯なんだ⋯ごめん」
ビスターが頭を下げ謝ってきた。先の戦いで十分な実力を出して、討伐を達成した。なぜ、謝る必要があるのか俺は分からなかった。不思議になり聞いてみた。
「? どうされましたか?」
「最初は俺たちに任せろって言ったのに……結局、お前の力を借りちまった」
「それは⋯」
「それに⋯、市場のクエストもまともにできなかった。それに関してもだ⋯すまない」
ビスターは今日のことを本人なりに猛省していたんだな。自分の実力不足と責めている。ここで適当な言葉はただの毒。俺は真剣に受け止め、俯いているビスターに声をかける。
「ビスター、お前は今日、何をした?」
「……スケイルラーテルを追った」
「それだけか?」
「……レオポルと一緒に、奴を追い詰めた」
「それで十分だろ」
その言葉にビスターの体が僅かに揺れ言い返してくるが、俺はただ一つの俺なりの正論を伝える。
「でも、俺は買い物やら何やらでは……」
「俺だって全部できるわけじゃない。キャリメラには獣の扱いで敵わないし、レオポルたちには獣としての力で敵わない。だから一緒にいるんだろ」
「……」
「得意な奴が得意なことをやる。それでいい。むしろ、それが一番効率がいいんじゃないか?」
「……適材適所、ってことか」
「ああ。むしろ、俺たちが広く動けば依頼した多くの人の助けになるんだ。得意分野が戦闘なら、これからも俺はビスターに頼る。これじゃあ⋯駄目かな?」
俺なりに必死に考えた答えにビスターは⋯⋯俯いて顔を上げ、体を起こして、俺を見て話す。
「こんな俺だが⋯これからもパーティーとして⋯仲間として一緒にいていいのか?」
「もちろん。キャリメラもそうだろう」
「当たり前だよ。お兄ちゃん、これからも頑張って」
キャリメラもそう言い、ビスターは────
「フッ、フハハハハハハハ──。」
大きく笑った。さっきまでの落ち込みが嘘のように笑う。
しばらくして笑いが終わり、満面の笑みで俺を見る。
「ありがとうよ。なあ、ショウヤ」
「?なんでしょう」
「これからは俺のことを──『兄貴』って呼んでくれ」
「⋯⋯なるほど、わかりました。これからもよろしくお願いします。ビスターの兄貴」
ビスターはニヤつくなり俺に兄貴呼びをお願いしてきた。俺は今後世話になることだと思い、喜んで兄貴呼びした。
兄貴呼びされたビスターはさらにニヤついて笑っていた。もう少し浸ってもらおうかと思ったが、俺はビスターに声をかける。
「さて、今日はノエラさんも家に帰ってくるし、ラーテル持ってギルドに報告しますか。そして、すぐに買い物だ」
「「おおーーーーー」」
俺たちはいつも以上に上機嫌で森を抜け、王都に向かった。




