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40.副団長シャニーナ

 グレマルーが抜いた剣はシャムール刀のような形の剣だった。だが、刀身の幅や曲がりが大きく、柄が長い両手剣だった。一方のシャニーナの剣は、他の騎士と同じような、目立った装飾のないロングソード。構えを取った二人に俺は合図を出す。


「では────はじめ」


 合図と共に、グレマルーがシャニーナとの間合いを一気に詰めた。両手で握った剣が、横薙ぎに振るわれる。

 シャニーナは咄嗟に後方へ跳び、斬撃をかわした。そのまま上段に構え、振り下ろす。

 だが、グレマルーはすでにそこにはいなかった。一歩後ろへ退いたかと思えば、素早く右へ回り込む。


「っ!」


 シャニーナが振り向くより早く、下段から斬撃が迫る。


ガキィン!


 シャニーナは剣の側面を滑らせるようにして斬撃を弾いた。弾かれた剣を返し、今度は自ら踏み込む。

 しかしグレマルーは再び後退した。そして、また回り込む。


 斬撃。


 シャニーナはかわす。


 斬撃。


 今度は受け流す。またグレマルーが回り込む。


 グレマルーは剣を振っては、シャニーナによって弾かれ、回避して、受け流す。そして、グレマルーは躱して回り込むことを繰り返す。

 その攻防を目の当たりにして、周りの騎士が呟く。


「くっ⋯やはり速い」


 その発言で俺の考えは核心へと近づいた。


「やはり、あの足捌きが強みか?」

「⋯えっ、どういうこと?」


 俺は思っていたことを口にしたようで、キャリメラが尋ねてきた。


「あの剣士⋯グレマルーの剣士の強みはあの足にある。あいつはあの脚力と足捌きで一気に距離を詰めたり、回避して回り込んだりしている。振るっては下がる。移動してまた振るう。それがあいつの剣だ。機動力重視の剣だ」

「じゃあ、このままじゃ⋯⋯シャニーナお姉ちゃん負けちゃうの?」


 悲しそうにしていたキャリメラに俺は俺の見た限りの事を言った。


「心配することは無い。シャニーナさんが勝つさ」

「?⋯何を根拠に?」

「見てれば分かる」


 そう言って、俺はシャニーナさんを見守る。キャリメラもシャニーナさんを信じて見守った。


────

 グレマルーは数え切れないほどの斬撃を振っている。機動力を活かした剣戟。それがグレマルーの剣────だが、グレマルーは僅かに焦りを覚える。


(当たらない? 当たらない? かすりもしていない。なぜだ? なぜだ!!???)


 あれから幾度となく剣を振るっている。だが、シャニーナ本人もグレマルーに剣を当てられてはいない。だが、グレマルーの剣もまた届いていない。全て防がれ、躱されているのだ。

 その事実に耐えかねたのか、グレマルーは瞬間的に速度を上げて剣を振るう。


キィィィン──。


 甲高い音が響く。シャニーナの肩の装甲に当たった。


(やった。)


 だが、次の瞬間────シャニーナの剣が最初より鋭い上段で振り下ろされた。グレマルーは咄嗟に後ろに下がり回避した。はずだったが、肩側の服がかすり血がにじみ出ていた。


「くっ」

「ふぅーー」


 そして、また再び激しい攻防の剣戟が走る。

 先程の攻撃で互いに当たりはしたが、僅かな差が見えてきた。その光景を見てキャリメラは驚いていた。俺はそんな彼女に声をかけた。


「なっ、大丈夫だろう」

「どういうこと?」

「グレマルーはたしかに速い。シャニーナよりもだ。だが────」

「だが?」

「それだけだ。他は全部シャニーナさんが上だ。シャニーナさんの先の読み合いや受け流しなどの技術は高い。日々の鍛錬を怠らずやっていたってことだ。先の乱戦も見た限りだが、分かる。だからこそ、あいつが負けるとは思っていない」

「そうだったんだ」


 俺の言葉に納得したのか、キャリメラは笑顔になっていた。


「だが、決め手が何かまでは分からない。先の集団は柄で気絶させていたが、グレマルーは速いからな。当てられないかもしれない。だから、どう決めるのかで勝敗が分かれる」


 それからも二人の攻防は続いていた。そして、ついに終わりを迎えようとしていた。

 グレマルーは大きく横薙ぎの一閃を繰り出す。シャニーナは体をギリギリで屈み込んで、振られた剣の側面を力強く叩き込んだ。


ガギィィィィン──。


 シャニーナの剣がグレマルーの剣を叩き折った。


「なぁっ」


 グレマルーは刀身が折れた剣を見て、座り込んでいた。その背後から、シャニーナは剣を向けた。そして、言葉を放つ。


「私の──勝ちです」

「うぉっ⋯」

「「「「「「うぉぉぉぉぉ」」」」」


 その光景に騎士たちの大歓声、俺と師匠とキャリメラのお兄さんは笑って見ていた。キャリメラは────事態を飲み込みきれていないようだった。


「⋯最後、どういうこと? なんで剣が折れたの⋯⋯力業?」


 俺はキャリメラに最後の結果を教えた。


「最後は力もそうだが、他にも勝因はある」

「他?」

「そう。実はあの攻防の中、シャニーナさんは攻撃を弾く際に同じ箇所に剣を入れたんだ。それを繰り返して、剣に僅かに亀裂を入れたんだ。そして、相手の勢いの乗った振りに合わせて、本人の膂力を加えたんだ。そして、グレマルーの剣が折れたんだ」


 かなりの技量がいる実力だ。それをなせるのだから、シャニーナは副団長に相応しい技量がある。シャニーナは剣を納め、俺たちの方に声をかけに歩み寄った。


「ショウヤさん、キャリメラちゃん、終わったよ」

「シャニーナお姉ちゃんすごいよ」

「見事だったよ。だが──」

「死ねぇぇぇぇ」

「えっ?」


 シャニーナの後ろから折れた刃先を持って、グレマルーが突っ込んできた。シャニーナは油断して避けることはできない。


キィィィン────


 甲高い音が響く。俺はグレマルーの刃を弾いたのだ。グレマルーの態勢が崩れ、俺はグレマルーの足を踏み、鳩尾、顎、顔面に素手と柄を打ち込んで気絶させた。


「一騎討ちはシャニーナの勝ちです。さらに、生き恥をさらすとは情けないですね」


 倒れ込んだグレマルーにそう言い残して、俺はシャニーナに声をかけた。


「シャニーナさん、一騎討ちはお見事。ですが、一応ここは戦場です。油断なされぬように」

「ええ、すいません」

「謝ることはない。むしろ、一騎討ちにしたのは俺なのだから、こちらが申し訳ない」

「いえ、ショウヤさんのおかげで色々吹っ切れました。ありがとうございます」


 シャニーナさんは倒れたグレマルーを見つめる。そこに怒りはなかった。

 ただ、かつて尊敬していた騎士がこんな姿になってしまったことへの、僅かな悲しみだけがあった。


「⋯⋯グレマルーさん。私は、あなたに認めてほしかったわけではありません。ただ、同じ騎士として⋯正しい道を歩いてほしかった」


「そうか、ならよかった。では盗賊の捕縛は済んだし、獣たちと行方不明者の解放をしますか。ということで────はい、これ」


 俺は懐から鍵を取り出した。


「この鍵って⋯?」

「密猟集団から回収した」

「えっ、いつ?」

「最初に二人気絶させたろ。その一人が持ってた。俺は師匠たちと密猟集団を見張っているよ」


 俺はシャニーナに任せて、騎士たちにも大きな声でお願いした。


「騎士の皆さん、獣たちと行方不明者たちの解放に尽力してください」

「「「「「「「うぉぉぉぉぉ」」」」」」」


 そして、俺たちは任務の後処理を始める。

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