38.強者の価値観
グレマルーはくすんだ水色の髪で、百七十後半の身長。細身ながら筋肉質な体つきを持ちつつ、足の筋肉が一般剣士のそれとは違っていた。騎士たちが困惑する中、俺はグレマルーに警戒心を持って身構える。グレマルーは俺を見ると、ニヤついた。
「おっと、動くなよ。こいつの命がどうなってもいいなら、別だが⋯な。」
「ヒッ。」
グレマルーが手に持った縄を引っ張ると、首輪を付けられた小さな少女が引っ張られた。グレマルーが腰に携えた剣を引き抜き、少女の首元に近づける。
「卑怯だぞ。」
「なんだ、来るのか? いいぜ、来いよ。その前に斬るがな。」
「ヒィッ。」
「グヌッ。」
騎士が異議を申し立てるが、グレマルーは少女の首にさらに剣を近づける。騎士たちは一歩下がり、俺も剣から手を離す。
それを見ると、グレマルーはニヤつき、足で地面をトントンと叩いた。すると、入ってきた入り口を含め、周囲一帯から足音がドタドタと響く。そして、出てきたと思えば、入り口を塞いでいた。見たところ、四十人ほどの密猟グループの仲間が、完全に俺たちを挟んだ。
「さあて、投降してもらおうか?」
グレマルーが勝利を確信するように言い放つ。それに対して、シャニーナさんが一歩出て、対話に出た。
「グレマルーさん。なぜ、このようなことを⋯。あなたは騎士として尊敬していました。なのになぜ?」
シャニーナさんはその人のことを強く尊敬し、憧れていたのだろう。故に、信じたくないのだろう。こんな非道なことをしていることに納得がいかなかった。それに対し、グレマルーは意外な答えだった。
「お前の⋯お前のせいだ。」
「えっ?」
その言葉にシャニーナは言葉が出ずに戸惑う。グレマルーはそんな彼女に怒りを込めた声で、今までの過去の話を続ける。
「あの頃の俺は、騎士団として努力を怠らずに剣を振るい、強くなってきた。騎士団長になるのが俺の夢だった。なのに⋯騎士団長になったナイパー様は俺ではなく、お前に⋯俺より年下で⋯俺より弱い女のお前に、副団長を任命しやがった。騎士としてのプライドが俺は許さなかった。」
騎士として認められなかったと思う感情に、俺は失礼かと思ったが、同情を抱いた。だが────
「そんな騎士団で忠誠を誓うのは、馬鹿に思えた。だが、給与はいいからなぁ、辞める気は無かったよ。うんで、たまたまこいつらの話を聞いてなあ、上手い儲け話だったからこうやって手を貸してるんだよ。そして、気付いたんだ。強者と認めねえ奴には興味はねぇ、行動で俺が強者だと知らしめてやる。世の中は弱肉強食なんだよってな。グハハハハハ──。」
その言葉にシャニーナを含め、騎士たちやルナたちが歯を食いしばったり、唸ったりと怒りがこみ上げる。だが、動けない。少女を人質に取られ、動けない⋯⋯俺を除いては────
「ハハハハ⋯⋯。あっ?」
高笑いしたグレマルーの腕から少女の感覚が消えた。ふと自分の懐を見ると⋯少女はいなかった。
「うぁぁ⋯、グァッ。」
「フゥッ、カァッ。」
グレマルーが後ろを向く。そこには、少女を抱えた俺がいて、集団から離れた二人の剣士をのした。
俺は一人にすぐさま鳩尾に貫手を打ち込み、もう一方は背後から剣を振ってきたようなので、俺は居合で抜剣して剣を弾いた。そこから流れるように距離を詰めて、柄尻で顎を打ち、気絶させた。
その光景にグレマルーたち密猟集団も当然、騎士たちも怪訝な様子で俺を見ていた。俺は少女を抱えたまま、その場を離れる。そして、ゆっくりと少女を下ろした。
俺はグレマルーを鋭い目つきで見る。グレマルーは一瞬臆していたが、すぐに睨み返してきた。俺はグレマルーに静かに重みをこめて聞く。
「弱肉強食でしたか? 己が強者だと?」
「はっ、そう言ってるだろうが。俺は強者だ。」
グレマルーは当然のような物言いをする。それに対し、俺は溜息を吐いて、剣先をグレマルーに向けて、俺は言葉に力をこめて語る。
「はあーーー。弱者の価値観ですね。」
「なんだと?」
「俺の抱く弱肉強食は違います。
弱肉強食とは命を繋ぐためのものです。互いに命を懸け、その命を糧として生きていく。それが、俺の知る弱肉強食です。」
俺の言葉に密猟集団も騎士たちさえも動かなかった。騎士たちは前のめりになって話を聞く。キャリメラもルナたちの体に触れる。ルナたちは低く唸り、俺は話を続ける。
「それなのに、あなたは何ですか。力なき子供を食い物にして、それで自分を強者だと驕っている。そんなものは、ただの贋物です」
俺の言葉にグレマルーは眼光をさらに鋭くする。だが、俺は言いたいことを出し続けていく。
「ノブレス・オブリージュ。弱き者を助け、悪を討つ。力ある者には、力ある者としての責任がある。それが──俺の抱く、真の騎士です。」
騎士たちの瞳から輝いた眼差しが俺に向けられる。シャニーナも息を呑む。
「それが無かったあなたに、騎士団長を夢見るには不相応なだけのことです。だからこそ、副団長にシャニーナが選ばれたのは必然です。」
その言葉にシャニーナは一筋の涙を零していた。一方、グレマルーは拳を固く握り、歯を食いしばっていた。
「黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れー。」
グレマルーが逆上し、俺は剣を構える。騎士たちも剣を構え、戦闘態勢を取る。すると、グレマルーは大声で叫んだ。
「お前ら、あれを解き放てぇぇ。」
そう言い放つと、奥の方から鉄の音がした。それは檻の扉が開かれた音のようだ。すると、蹄が擦れる音と獣の声が響く。少女は俺にしがみつく。俺も安心させるように、そっと少女の手に手を添えた。
「「ブワァァァ。」」
獣の姿が見えた。そいつは二体いた。俺たちが集団でいたためか、警戒して距離を取っていた。それにしても、厄介な奴を捕まえていた。
「おい、あれって⋯。」
「『ニードルボア』。」
「こいつら、こんな奴まで捕まえやがったのか?」
「これは⋯まずいな⋯。」
『ニードルボア』。討伐指定ランクAランクの危険な獣。突進力と背中に生えた鋭く大きな角。突進を回避して、背後を狙うのが厄介な二メートル超えの巨大な猪。それが二体。
二体だけなら騎士たちと連携すれば勝てるかもだが⋯⋯周りは密猟集団の剣士たちがいる。そいつらも混じって、乱戦になると手強い。どうしたものかと悩んでいると────
「ここかぁぁぁ──。」
猛々しく聞き覚えのある声に、耳を傾けると、
バゴォーン。
入ってきた入り口から大きな音がした。そこから足音が人とは思えない疾さでこちらに近付いてくる。
そして──
「ガウオオ──。」
密猟集団は入り口から離れ、入ってきたのは、犬歯だけでも三十センチはあろうかという巨大な牙を持つ、二メートルを超える雌のライオン型の獣だった。──その背には二人の剣士が乗っている。
一人は若い男。そしてもう一人は、大太刀を携えた男。その姿を見た瞬間、俺は目を見開いた。
「剛の師匠?」
「お兄ちゃん?」
「よっ、応援に来たぞ。ショウヤ。」
「キャリメラ、無事か?」
応援に来たのは、剛剣の剛焔とキャリメラのお兄さん(?)だった。




