37.指名依頼出陣
─今日は指名依頼の決行日。俺とキャリメラはルナの背に乗って、集合場所である北門に向かった。今回は、俺とキャリメラ、そしてルナ、リンクス、カルタノ、グラスの六人――いや、二人と四体でクエストを受けることになった。リンクスは俺の傍で身を預けていた。
「リンクスは本当にショウヤのこと、気に入ったんだね。」
「そのようだな。一緒に闘うことが増えたのも、大きいかもしれないな。今回のクエストも期待しているよ、リンクス。」
「ガウゥッ。」
「シャニーナお姉ちゃんと一緒に今日も頑張っていこう。」
「そういえば、シャニーナさんのことをお姉ちゃん呼びですね。お知り合いですか?」
以前、ノエラさんが一緒に来た時も、自然とお姉ちゃん呼びだった。面識があるってことだろう。
「シャニーナお姉ちゃんは騎士団に入って、お母さんから剣を教わっていたの。それで会う機会ができて、お姉ちゃんとして話していたの。」
「そうだったんだな。」
「お母さんも見込みがあると思ってたみたいだけど、副団長になるとは思っていなかったって、驚いていたね。」
「アハハハッ。まあ、良いことじゃない。弟子が出世して、師匠であるノエラさんも鼻が高いものだよ。」
「それもそうだね。」
実の姉ではないが、仲がいいみたいだ。俺とミャールもこんな感じだったのかと、ふと思った。
そうこうしているうちに、俺たちは北門に着いた。
「おはようございます。シャニーナさん。」
「おはよう、シャニーナお姉ちゃん。」
「おはようございます。獣導の協奏のお二人。」
キャリメラはいつもどおり、シャニーナさんをお姉ちゃん呼び。立場もあるから注意すべきかと思ったが──シャニーナさんは特に気にしていない様子だ。どうやら呼び方に関してはもう許しているようだ。
「応援にも声をかけましたが、王都周辺の別件対応もあり、難しいようです。」
「仕方ないですよ。俺たちで頑張りましょう。」
「はい。お願いします。」
つい言ってしまったが、俺のやれることをやるだけだ。
シャニーナさんは踵を返して、部下たちの前を先導するように────北門をくぐる。
──────
北の森は希少種も生息しているが、危険な獣もいて、熟練の剣士でも命を危ぶまれる場所。今回の密猟グループ『黒獅子のたてがみ』は、その奥の遺跡を拠点として活動しているようだ。
俺たちは王都からの道中、獣を討伐したり逃がしたりして、昼過ぎにはその遺跡の近くまで来た。森の茂みの中から遺跡の入り口を見る。遺跡の入り口近くには見張りが三人いた。
「報告通り、ここで間違いないようだな。」
「ええ、一斉に行きたいですが、戦力が心細いですね⋯。」
シャニーナは困り果て、悩み込んだ。仮に俺たち獣導の協奏六人と騎士団七人の合計十三人で挑んでも、後から号令で敵が一気に来たら厄介だ。応援も期待薄⋯⋯ならば──
「俺が先陣を斬る。」
「えっ、でも⋯。」
「三人だけなら、すぐに済みます。」
俺は真剣な顔で、シャニーナに言った。シャニーナがまた必死に止めようとするが、キャリメラが彼女の腕を掴んで笑った。それを見ると、シャニーナさんは引き下がってくれた。
「わかりました。お願いします。」
「はい。では⋯行きます。」
その瞬間、シャニーナたちの前から俺は消えた。そう思って、混乱する暇を与えずに遺跡の方からうめき声がした。
「ぐぁっ。」
「カハッ。」
「ガッ。」
みんなが遺跡の方を見ると、そこには────地面に倒れ込んだ見張りと、鞘に入れた状態の剣を持った俺が立っていた。無拍子を使ったからだ。俺は剣を腰に戻して、キャリメラの方に声をかける。
「さぁ、行こうか。」
「分かった。みんな行こう。」
「「「「「「「⋯⋯⋯。」」」」」」」
「どうした? 早く行くぞ。」
「あっ、失礼しました。」
キャリメラはすぐにこっちに来たが、シャニーナを含む騎士団は何が起きたか分からず、魂が抜けてしまった様子だった。だが、時は惜しい。すぐに正気に戻して、遺跡に乗り込んだ。
そういえば、調べていたとはいえ、そう容易く拠点を見つけられるものなのか。大規模な密猟グループがこんなミスを起こすものか。俺は罠を考慮しながら遺跡に入っていく。
──────
遺跡の道は十人くらい横並びできるほどの広さで、高さは5メートル以上もあり、ルナたちも一緒に俺たちは奥に進んでいく。進むたびに密猟の剣士たちがちらほら見張っており、号令される前にシャニーナたちの騎士が無力化させていく。
そうやって、四人くらいのグループの見張りを三組ほど無力化していき、俺たちは大きな広間に出た。そこには、入ってきた入り口以外の通り道の類が無かった。
「行き止まり?」
「どういう事だ⋯。」
「まさか、誘い込まれた?」
「そんなはずはない。たしかに、希少種たちを連れてここに入った報告はあった。」
騎士たちが動揺していた。シャニーナさんと俺とキャリメラは背中合わせになって、周囲を強く警戒した。
「やっぱり⋯⋯罠なのでしょうか? シャニーナさん。」
「可能性は⋯ありますね。」
「あるいは────隠し部屋、とかだな。」
「ワフッ。」
そんなことを言ってみると、グラスが壁の前で吠えた。キャリメラと俺はグラスの方に駆け寄る。
「どうした? ⋯まさか、臭いがするのか?」
「ワンッ。」
俺は剣を手にして、耳を壁に押し当てる。そして、柄で軽く叩いた。
コンッコンッ──。
向こう側から、空間のある響き方がした。
「空洞だ。向こう側に何かある。」
「グラス、よくやったよ。」
「ワンッ。」
キャリメラはグラスの顔をワシワシした。シャニーナさんは部下たちに指示を出し、騎士たちは強く返事した。だが────
「そうと決まれば、どこかに隠し扉を開ける方法があるはず。総員、捜索開始。」
「「「「「「はっ。」」」」」」
「その必要は無い。」
「えっ?」
俺は静止させた。シャニーナさんは俺の判断に怪訝な反応を見せた。
「えっ、どういうことですか?」
「さっき叩いた感じ、この石はそんなに硬くないし、厚さは無い。斬ったほうが早い。離れろ。」
俺がそう説明すると、全員が俺から離れた。俺は離れたことを確認し────身を低くして居合の構えを取る。そして、一呼吸取った。
「ヒューー。」
抜刀。左上、右上、左下、右下と流れるように素早く剣を振り、最後に壁に蹴りを打ち込んだ。すると、壁はひし形に切り取られたように穴が開かれた。
「よし、いけるな。とはいえ、暗いな。松明を頼みます。」
「あっ、あっ⋯⋯。」
俺は松明を所望すると、シャニーナさんたちは声がうまく出てこないようだった。
「⋯う? どうした?」
「あ、いや、すいません。すぐに用意します。」
落ち着いた瞬間の行動は早く、松明の準備に取り掛かった。その間、俺は入ってきた入り口と斬った入り口に警戒した。
その間、騎士たちはコソコソと話していたが、俺は聞こえなかった。
「さっきのもそうだったけど、見張りを倒した時、何か分かったか?」
「さっきのは、居合で四回斬ったんだろうけど⋯。」
「それでも、岩の壁を斬るって⋯。」
「最初のは全然分からなかった。」
「やっぱり、六剣聖の弟子の実力は本物だな⋯。」
そして、松明の用意ができ、俺たちは中に進んでいく。敵の気配を逃さんとするが、特に感じられなかった。だが、俺でも分かる獣臭がしてきた。それと同時に、誰かの泣く声がした。
そして進み、わずかに明るい広い空間に出た。そこには無数の檻が置かれ、希少種を含めた多くの獣たちが閉じ込められていた。
「グスッ、グスッ。」
「あっ。」
俺はローブで覆われた方から涙を啜る音が聞こえ、そちらに向かってローブを剥がした。そこには────
「子供?」
「ショウヤさん? なぁっ、この子たちは⋯行方不明と呼ばれた子供と一致します。」
「まさかあいつら、子供たちを労働力として奴隷に?」
「何という⋯所業。」
「最悪の事態だな。」
檻の中に鎖で手錠と首輪をされた子供たちがいた。行方不明者も関与してしまう最悪の事態が起きていた。この国では、奴隷は禁止されている。俺も前世の記憶があり、この行為には憤りを抱く。そんな風に思っていると、奥の方から────
コンッ、コンッ────
足音がこの施設内に響いた。その事態に俺たちは剣の柄を握り、ルナたちはキャリメラを守るように囲んだ。近付いていく足音は仄暗い向こう側から来て、松明の明かりからその顔があらわになった。三十手前の中年の男性が騎士団の鎧を着て現れた。騎士から奪ったと思った俺は剣の柄を強く握り直す。だが、騎士たちは手を柄から離して唖然としていた。シャニーナまでも──
「どういうことですか? ⋯なぜあなたがここに⋯⋯?」
シャニーナの声はいつにもなく、怒号をあげた。
「なぜいるのですか、────グレマルー。」
「よお、キャリメラ。そして、カスどもが。」




