36.ショウヤの服選び、そして晩餐
指名依頼は明後日から動くことに決まった。メンバーは副団長さんと六人の部下、それから応援も声をかけておくつもりのようだ。
「それでは、これにて内容確認は以上になります。では、明後日、お願いします」
「分かりました」
「頑張ります」
(明日にはそれ相応の準備をしないと。⋯)
そういえば、シャニーナさんはともかく、なぜノエラさんがここにいるのだろう。
「あのー、ノエラさん?」
「はい」
「ノエラさんはどうして、ここに?」
「休みをもらってね。あなたたちもお付き合いしてくれないでしょうか?」
休暇でキャリメラの顔を見に来るとは、やはりノエラさんは良い母親だ。
「俺は良いですよ。キャリメラはもちろん⋯?」
「もちろん、お母さんと一緒に休む」
「だよな。明後日は騎士との合同クエストだから、今日くらい羽を伸ばそうか。ああ、そうだ。マリネアさん」
「あっ、はい」
マリネアさんは話を振られ、驚いていた。俺は詫びの品を手に持って渡した。
「はい、これ。自作のアップルパイ。冷めててごめんだけど、お詫びの品としてどうぞ」
「ありがとう。ショウヤさん、今日も食べに行っていいですか?」
マリネアさんは週に三・四回ほどキャリメラの家に来る。食料費は出してくれているとはいえ、来すぎな気がするけど、俺の料理が気に入ってくれたなら嬉しい。とはいえ────。
「それは俺じゃなくて⋯、キャリメラに聞いてね」
「そうでした。キャリメラちゃん、いいですか?」
「いいよ。お母さんも一緒に」
「そうね、ご一緒するわ。ショウヤさん、料理楽しみにしてるわ」
「ご期待に添えるように頑張ります」
「なあ、俺も食べに行っていいか?」
「あの、私もぜひ⋯」
いつの間にか、ギルド長とシャニーナさんまで食いついてきた。
それに関して、キャリメラは是非もなかったが、ノエラさんも助けに入る。
「はい。ぜひ、一緒に食べよう」
「キャリメラ、ショウヤの負担も考えなさい」
「うっ、そうだった」
「いえいえ、お気になさらず。皆で食べるのは楽しいですし⋯、作り甲斐がありますよ」
「そうですか? でも最低限、食料費は受け取りなさい」
「そうですね。それは貰いましょうか」
「おう、分かった」
「そうでしたね、失礼しました。お料理、期待しています」
「ええ、気合を入れて作らせて頂きます」
それからは、俺はノエラさんとキャリメラの三人で羽を伸ばしに出かけ、他のみんなは持ち場に戻った。
「さて、どちらに向かいましょうか?」
ノエラさんは会いに来るのがメインらしく、明確な予定はないようだった。
「では、服を見に行きましょうか? 実はそろそろまともな礼服を、と思っておりまして⋯」
「よろしいのですか?」
「何がでしょう?」
「つまらなくないですか?」
女性の買い物に付き合うのは面倒くさい──と思われるのはこちらでも同じようだ。だが────。
「服はみんな着るものだし、自分に合ったものを考えるのも大事と思って⋯⋯」
「そうでしたか。では、そうしましょう」
「早く行こう」
「そうだね」
そして、俺たちは服を見に行くことにした。
──────
俺たちはギルドから少し離れた服屋で服を見ることにした。
ノエラさんが気にかけてくれて、男性用と女性用がある店に案内してくれた。俺も女性服メインの店に入るのは、さすがに気後れするものだったから。その気遣いに感謝した。
その服屋に入ると、色鮮やかな服が置かれており、店員の女性が元気よく挨拶してくれた。
「いらっしゃいませ」
俺は軽く一礼して、店の奥に入っていった。そして、服の多様性に言葉が漏れた。
「──へぇー、結構いろんな色で、違った種類の物が多くありますね」
「そうですね。それにしても、服の買い物にここまで真摯に向き合っているショウヤも、また珍しいですわね」
「そうですか?」
「うん。他の男性ならげんなりした目になって、しばらくしたら店を出るものだよ」
ノエラさんとキャリメラが俺の行動を不思議そうに見ていた。俺は二人の方を見て、自分なりの考えを軽く言ってみた。
「そういうものなんだな。でもさっきも言ったけど、服は誰だって着るものだし、おしゃれに気を配ったり、催事に備えたりと分ける必要があるでしょう。着られればいいと、着るものを分けることをちゃんと考えたら、そうなるんじゃないかな」
俺の言葉に二人はキョトンとした。俺は女性用の服を見て、話を続けた。
「それに女性との服選びなら、可愛いや綺麗とかの、その女性の感性を理解する場と思えれば、楽しい時間になるんじゃないかな」
そんな答えを出すと、二人は笑った。意表を突かれたような無邪気な笑いだ。
「ふふふふっ。ショウヤってそんな事も考えてるんだね」
「本当に変わった人ね。でも、悪い気はしないわ。寧ろ、楽しいわ」
「いい答えを聞いてもらえたなら、良かったです」
俺は笑顔でそう言うと、ノエラさんは意外な質問をしてきた。
「ショウヤって、キャリメラのこと狙っていますか? 私は悪くはないと思いますが、母親として寂しいですわ」
「お母さん、それはないよ。ショウヤ、好きな子いるんだから」
ノエラさんの発言に俺は驚いていたが、キャリメラがすぐに弁解してくれた。
「あら、そうでしたのね。今度、そのへんの話は聞きたいですわ」
「あははははっ。ええ、また別の機会で⋯。とりあえず、服を見ましょうか」
俺は苦笑いして言質を取られつつ、服を見て回る。
といっても、いろんな種類があって俺は迷っていた。そんな俺に二人は服を勧めてきてくれたんだが⋯⋯。
「ショウヤ、これはどうかな?」
「ショウヤにはこれが似合うと思うのだけれど。貴族の会合にも合ってると思いますわ」
キャリメラが持ってきたのは、白がベースになっていて、刺繍が細かく編み込まれた、綺羅びやかな服。一方、ノエラさんは、ひらひらや豪勢な装飾のデザインが多く付けられていた服だった。俺から見ると、二人の選んだ服はちょっと派手に見える。
「ええと⋯うん、いいと思うんだけど⋯ちょっと派手すぎないかな?」
「何を言ってますの? もう結構な有名人でしょう」
「グッ」
もっともな意見だった。だが、これはちょっと派手すぎる。良くて、馬子にも衣装だ。ここは俺の主体性を見せなければと思い、他の服を見て一つの服に目を止める。そして、俺はその服を指さした。
「あっ、あれなんかはどうかな?」
「あれ?」
「地味ではないでしょうか?」
俺の選んだのは、黒がベースとなったジャケットだ。たしかに、地味な方かもしれないが、あくまで清潔感を出しつつ正装で着るものを考えていたので、これぐらいがちょうどいい。それに、服も締め付けすぎず動きやすそうだ。
「あれぐらいの服が俺には合うよ。それに、動きやすいほうが俺はいいよ」
「そうですか⋯。ショウヤが決めたのならそれで良いけど⋯」
「キャリメラ、次はあなたの服を選びましょう」
「うん」
自分のおすすめが選ばれなくて残念そうだったが、ノエラさんが服選びをすることで元気をすぐに取り戻した。そして俺は、たまに主体性を出すように心がけた。
──────
そして俺たちは、夕方になる前には市場で食材を買いに行った。市場でキャリメラと共に行くと、とにかく肉を勧めてくる。
買ってもいいんだが、俺は体調を考えて野菜や果物を多く買う。味付けを調えてあげれば、野菜も残さず食べてくれるから俺は精一杯作る。
そして、俺たちはキャリメラの家で料理を始めた。ノエラさんとキャリメラも手伝ってくれた。
「ショウヤさん、手際が良いですね」
「本当にショウヤって凄いよね」
「お褒めいただき、ありがとうございます。元々、できるレベルではあったのですが、剣を使って力加減を知っていくと自然と早くなったんですよ」
「意識の違いでここまでとは⋯、さすがは六剣聖の弟子ですね」
「あははっ。師匠たちに相応しい弟子になるよう、努力はします」
そんな風に話をしていき、俺たちは晩餐に相応しい料理を並べた。
その出来栄えに二人は感嘆の声を上げた。
「ふうー。完成だね」
「すごいわ。まるで、舞踏会で並ぶ料理だわ」
「おいしそうな匂いが漂って、食欲が抑えられない」
「我慢しようか。まだ三人とも来てないんだから」
しばらくして、マリネアさんたち三人がやってきた。出迎えは俺がした。
「「「お邪魔します」」」
「いらっしゃい。料理はできてるよ、さあ奥へ」
俺の料理に三人は二人と同じ反応を見せた。
「料理は変わらないのに、盛りつけが豪華」
「これほどとは⋯」
「これなら、食料費を出してでも食べに行きたくなるな」
「じゃあ、みんな揃ったことだし食べようか」
「「「「「はぁい」」」」
「「「「「「いただきます」」」」
ブラワルさんやシャニーナさんは俺の料理を食べ、感動の雄叫びを上げた。最初に聞いてきたのは、ブラワルだった。
「美味い、美味いぞ。ショウヤ、これ本当に全部一人で作ったのか?」
「いえ、キャリメラたちと一緒に作りました」
「とはいえ、ほとんどショウヤさんが作っていましたよ」
「そうなのか?」
そんな風に話していると、シャニーナさんが俺の腕を掴んでくる。片手には酒が入っていたであろうジョッキを持って話し始める。
「あのー、どうしました、シャニーナさん」
「⋯ショウヤさん、騎士団に来ませんか?」
「うんっ? 料理人としてですか?」
「違いますよ。騎士としてですよ」
「? どういうことですか?」
「⋯ヒック、騎士団が遠征の際、干し肉とか質素な物ばっかで⋯辛いんですよ」
「はぁー、何となく察せます」
シャニーナさんは泣き崩れそうになりながらも、俺の勧誘を続ける。
「ですから、美味しい料理を作って遠征の疲れをぶっ飛ばして、ヒックくださいよ」
「アハハハッ、すみません。俺は騎士ではなく剣士ですから」
「そうですか、悲しいよ⋯ヒック」
俺が断ると、シャニーナさんが泣き出した。彼女の涙に罪悪感が湧き、俺はキャリメラに聞いてみた。
「⋯キャリメラ、シャニーナさんもたまには俺の料理を食べに来てもらってもいいですか?」
「うん、もちろん」
「だそうですよ」
「ショウヤさん⋯⋯」
俺の言葉にシャニーナさんは涙を流しながら抱きついた。
「うぇぇん。ありがとう⋯ありがとう、ショウヤさん」
どうやら、シャニーナさんは酒に弱いらしく、弱音をつい吐いてしまう人のようだ。俺は抱きついたシャニーナさんから離れて話した。
「シャニーナさん、まだデザートのフルーツがあるのでそれもぜひ」
「ショウヤさん⋯⋯、いえショウヤ様」
俺を様呼びにしだしていたが、気にしないようにと俺はフルーツを持ってきた。
「はい。フルーツ盛りだよ。新鮮なフルーツに飾り付けを工夫しました」
「これはまた⋯」
「食べるのが勿体ないくらいキレイ」
「作っている時に見たけど、本当にすごいわね」
フルーツは固まりすぎない配置で、点々と置いた。それはまさに複数の色を持つ華のように。これまでの盛り付けで一番気合を入れたものとなった。
「さあさあ、折角切ったんですから皆さん食べてください」
「「「「「「はぁい」」」」」」
それからも、みんなで呑んで食べて騒いで、俺たちは楽しい時を過ごした。こうして笑っていられる時間が、これからも続けばいい。
だが、明後日には俺たちを待つ新たな依頼がある。今はただ、この時間を楽しもうと思った。




