↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
36/55

36.ショウヤの服選び、そして晩餐

 指名依頼は明後日から動くことに決まった。メンバーは副団長さんと六人の部下、それから応援も声をかけておくつもりのようだ。


「それでは、これにて内容確認は以上になります。では、明後日、お願いします」


「分かりました」


「頑張ります」


(明日にはそれ相応の準備をしないと。⋯)


 そういえば、シャニーナさんはともかく、なぜノエラさんがここにいるのだろう。


「あのー、ノエラさん?」


「はい」


「ノエラさんはどうして、ここに?」


「休みをもらってね。あなたたちもお付き合いしてくれないでしょうか?」


 休暇でキャリメラの顔を見に来るとは、やはりノエラさんは良い母親だ。


「俺は良いですよ。キャリメラはもちろん⋯?」


「もちろん、お母さんと一緒に休む」


「だよな。明後日は騎士との合同クエストだから、今日くらい羽を伸ばそうか。ああ、そうだ。マリネアさん」


「あっ、はい」


 マリネアさんは話を振られ、驚いていた。俺は詫びの品を手に持って渡した。


「はい、これ。自作のアップルパイ。冷めててごめんだけど、お詫びの品としてどうぞ」


「ありがとう。ショウヤさん、今日も食べに行っていいですか?」


 マリネアさんは週に三・四回ほどキャリメラの家に来る。食料費は出してくれているとはいえ、来すぎな気がするけど、俺の料理が気に入ってくれたなら嬉しい。とはいえ────。


「それは俺じゃなくて⋯、キャリメラに聞いてね」


「そうでした。キャリメラちゃん、いいですか?」


「いいよ。お母さんも一緒に」


「そうね、ご一緒するわ。ショウヤさん、料理楽しみにしてるわ」


「ご期待に添えるように頑張ります」


「なあ、俺も食べに行っていいか?」


「あの、私もぜひ⋯」


 いつの間にか、ギルド長とシャニーナさんまで食いついてきた。


 それに関して、キャリメラは是非もなかったが、ノエラさんも助けに入る。


「はい。ぜひ、一緒に食べよう」


「キャリメラ、ショウヤの負担も考えなさい」


「うっ、そうだった」


「いえいえ、お気になさらず。皆で食べるのは楽しいですし⋯、作り甲斐がありますよ」


「そうですか? でも最低限、食料費は受け取りなさい」


「そうですね。それは貰いましょうか」


「おう、分かった」


「そうでしたね、失礼しました。お料理、期待しています」


「ええ、気合を入れて作らせて頂きます」


 それからは、俺はノエラさんとキャリメラの三人で羽を伸ばしに出かけ、他のみんなは持ち場に戻った。


「さて、どちらに向かいましょうか?」


 ノエラさんは会いに来るのがメインらしく、明確な予定はないようだった。


「では、服を見に行きましょうか? 実はそろそろまともな礼服を、と思っておりまして⋯」


「よろしいのですか?」


「何がでしょう?」


「つまらなくないですか?」


 女性の買い物に付き合うのは面倒くさい──と思われるのはこちらでも同じようだ。だが────。


「服はみんな着るものだし、自分に合ったものを考えるのも大事と思って⋯⋯」


「そうでしたか。では、そうしましょう」


「早く行こう」


「そうだね」


 そして、俺たちは服を見に行くことにした。


──────


 俺たちはギルドから少し離れた服屋で服を見ることにした。


 ノエラさんが気にかけてくれて、男性用と女性用がある店に案内してくれた。俺も女性服メインの店に入るのは、さすがに気後れするものだったから。その気遣いに感謝した。


 その服屋に入ると、色鮮やかな服が置かれており、店員の女性が元気よく挨拶してくれた。


「いらっしゃいませ」


 俺は軽く一礼して、店の奥に入っていった。そして、服の多様性に言葉が漏れた。


「──へぇー、結構いろんな色で、違った種類の物が多くありますね」


「そうですね。それにしても、服の買い物にここまで真摯に向き合っているショウヤも、また珍しいですわね」


「そうですか?」


「うん。他の男性ならげんなりした目になって、しばらくしたら店を出るものだよ」


 ノエラさんとキャリメラが俺の行動を不思議そうに見ていた。俺は二人の方を見て、自分なりの考えを軽く言ってみた。


「そういうものなんだな。でもさっきも言ったけど、服は誰だって着るものだし、おしゃれに気を配ったり、催事に備えたりと分ける必要があるでしょう。着られればいいと、着るものを分けることをちゃんと考えたら、そうなるんじゃないかな」


 俺の言葉に二人はキョトンとした。俺は女性用の服を見て、話を続けた。


「それに女性との服選びなら、可愛いや綺麗とかの、その女性の感性を理解する場と思えれば、楽しい時間になるんじゃないかな」


 そんな答えを出すと、二人は笑った。意表を突かれたような無邪気な笑いだ。


「ふふふふっ。ショウヤってそんな事も考えてるんだね」


「本当に変わった人ね。でも、悪い気はしないわ。寧ろ、楽しいわ」


「いい答えを聞いてもらえたなら、良かったです」


 俺は笑顔でそう言うと、ノエラさんは意外な質問をしてきた。


「ショウヤって、キャリメラのこと狙っていますか? 私は悪くはないと思いますが、母親として寂しいですわ」


「お母さん、それはないよ。ショウヤ、好きな子いるんだから」


 ノエラさんの発言に俺は驚いていたが、キャリメラがすぐに弁解してくれた。


「あら、そうでしたのね。今度、そのへんの話は聞きたいですわ」


「あははははっ。ええ、また別の機会で⋯。とりあえず、服を見ましょうか」


 俺は苦笑いして言質を取られつつ、服を見て回る。


 といっても、いろんな種類があって俺は迷っていた。そんな俺に二人は服を勧めてきてくれたんだが⋯⋯。


「ショウヤ、これはどうかな?」


「ショウヤにはこれが似合うと思うのだけれど。貴族の会合にも合ってると思いますわ」


 キャリメラが持ってきたのは、白がベースになっていて、刺繍が細かく編み込まれた、綺羅びやかな服。一方、ノエラさんは、ひらひらや豪勢な装飾のデザインが多く付けられていた服だった。俺から見ると、二人の選んだ服はちょっと派手に見える。


「ええと⋯うん、いいと思うんだけど⋯ちょっと派手すぎないかな?」


「何を言ってますの? もう結構な有名人でしょう」


「グッ」


 もっともな意見だった。だが、これはちょっと派手すぎる。良くて、馬子にも衣装だ。ここは俺の主体性を見せなければと思い、他の服を見て一つの服に目を止める。そして、俺はその服を指さした。


「あっ、あれなんかはどうかな?」


「あれ?」


「地味ではないでしょうか?」


 俺の選んだのは、黒がベースとなったジャケットだ。たしかに、地味な方かもしれないが、あくまで清潔感を出しつつ正装で着るものを考えていたので、これぐらいがちょうどいい。それに、服も締め付けすぎず動きやすそうだ。


「あれぐらいの服が俺には合うよ。それに、動きやすいほうが俺はいいよ」


「そうですか⋯。ショウヤが決めたのならそれで良いけど⋯」


「キャリメラ、次はあなたの服を選びましょう」


「うん」


 自分のおすすめが選ばれなくて残念そうだったが、ノエラさんが服選びをすることで元気をすぐに取り戻した。そして俺は、たまに主体性を出すように心がけた。


──────


 そして俺たちは、夕方になる前には市場で食材を買いに行った。市場でキャリメラと共に行くと、とにかく肉を勧めてくる。


 買ってもいいんだが、俺は体調を考えて野菜や果物を多く買う。味付けを調えてあげれば、野菜も残さず食べてくれるから俺は精一杯作る。


 そして、俺たちはキャリメラの家で料理を始めた。ノエラさんとキャリメラも手伝ってくれた。


「ショウヤさん、手際が良いですね」


「本当にショウヤって凄いよね」


「お褒めいただき、ありがとうございます。元々、できるレベルではあったのですが、剣を使って力加減を知っていくと自然と早くなったんですよ」


「意識の違いでここまでとは⋯、さすがは六剣聖の弟子ですね」


「あははっ。師匠たちに相応しい弟子になるよう、努力はします」


 そんな風に話をしていき、俺たちは晩餐に相応しい料理を並べた。


 その出来栄えに二人は感嘆の声を上げた。


「ふうー。完成だね」


「すごいわ。まるで、舞踏会で並ぶ料理だわ」


「おいしそうな匂いが漂って、食欲が抑えられない」


「我慢しようか。まだ三人とも来てないんだから」


 しばらくして、マリネアさんたち三人がやってきた。出迎えは俺がした。


「「「お邪魔します」」」


「いらっしゃい。料理はできてるよ、さあ奥へ」


 俺の料理に三人は二人と同じ反応を見せた。


「料理は変わらないのに、盛りつけが豪華」


「これほどとは⋯」


「これなら、食料費を出してでも食べに行きたくなるな」


「じゃあ、みんな揃ったことだし食べようか」


「「「「「はぁい」」」」


「「「「「「いただきます」」」」


 ブラワルさんやシャニーナさんは俺の料理を食べ、感動の雄叫びを上げた。最初に聞いてきたのは、ブラワルだった。


「美味い、美味いぞ。ショウヤ、これ本当に全部一人で作ったのか?」


「いえ、キャリメラたちと一緒に作りました」


「とはいえ、ほとんどショウヤさんが作っていましたよ」


「そうなのか?」


 そんな風に話していると、シャニーナさんが俺の腕を掴んでくる。片手には酒が入っていたであろうジョッキを持って話し始める。


「あのー、どうしました、シャニーナさん」


「⋯ショウヤさん、騎士団に来ませんか?」


「うんっ? 料理人としてですか?」


「違いますよ。騎士としてですよ」


「? どういうことですか?」


「⋯ヒック、騎士団が遠征の際、干し肉とか質素な物ばっかで⋯辛いんですよ」


「はぁー、何となく察せます」


 シャニーナさんは泣き崩れそうになりながらも、俺の勧誘を続ける。


「ですから、美味しい料理を作って遠征の疲れをぶっ飛ばして、ヒックくださいよ」


「アハハハッ、すみません。俺は騎士ではなく剣士ですから」


「そうですか、悲しいよ⋯ヒック」


 俺が断ると、シャニーナさんが泣き出した。彼女の涙に罪悪感が湧き、俺はキャリメラに聞いてみた。


「⋯キャリメラ、シャニーナさんもたまには俺の料理を食べに来てもらってもいいですか?」


「うん、もちろん」


「だそうですよ」


「ショウヤさん⋯⋯」


 俺の言葉にシャニーナさんは涙を流しながら抱きついた。


「うぇぇん。ありがとう⋯ありがとう、ショウヤさん」


 どうやら、シャニーナさんは酒に弱いらしく、弱音をつい吐いてしまう人のようだ。俺は抱きついたシャニーナさんから離れて話した。


「シャニーナさん、まだデザートのフルーツがあるのでそれもぜひ」


「ショウヤさん⋯⋯、いえショウヤ様」


 俺を様呼びにしだしていたが、気にしないようにと俺はフルーツを持ってきた。


「はい。フルーツ盛りだよ。新鮮なフルーツに飾り付けを工夫しました」


「これはまた⋯」


「食べるのが勿体ないくらいキレイ」


「作っている時に見たけど、本当にすごいわね」


 フルーツは固まりすぎない配置で、点々と置いた。それはまさに複数の色を持つ華のように。これまでの盛り付けで一番気合を入れたものとなった。


「さあさあ、折角切ったんですから皆さん食べてください」


「「「「「「はぁい」」」」」」


 それからも、みんなで呑んで食べて騒いで、俺たちは楽しい時を過ごした。こうして笑っていられる時間が、これからも続けばいい。


 だが、明後日には俺たちを待つ新たな依頼がある。今はただ、この時間を楽しもうと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。