35.獣導の協奏の指名依頼
あれから二週間が経った。
俺たちは、いつの間にか王都でも有名なパーティーになっていた。
獣導師と剣士の二人組──正確には、ルナたち獣を従え、盗賊たちを返り討ちにしたり、数々のクエストを達成したりするパーティーとして知られるようになっていた。
そして、俺はいつの間にか『獣導師の懐刀』と呼ばれるようになっていた。
⋯⋯なんとも大層な呼び名だ。
そんな俺たちは、今日もクエストを受けるためにギルドへ向かっていた。
その途中、俺は自作のアップルパイをマリネアさんへの差し入れとして用意していた。
先日の盗賊の件では、捕縛した盗賊たちの報酬や村への手続きなどで、マリネアさんにかなりの負担をかけてしまった。どうやら、あの盗賊たちはそこそこ名の知られた連中だったらしく、報酬もかなりの額になっていたらしい。
その分、手続きも増えてしまったようだ。
せめてものお詫びとして、今日はアップルパイを持ってきた。
────
ルナの背に乗ってギルドへ到着した俺たちは、扉を開ける。
すると、そこには騎士の格好をした二人の女性が立っていた。
一人はノエラさん。そして、もう一人は以前、六剣聖からの勧誘を止めてくれた騎士団の副団長──シャニーナさんだった。
二人の姿を見つけたキャリメラは、嬉しそうに駆け寄っていく。
俺はその後ろを静かに歩いていった。
「お母さん。シャニーナお姉ちゃん」
「キャリメラ」
「キャリメラちゃん」
「二人とも、どうしてここに?」
ノエラさんとシャニーナさんは、少しだけ顔を見合わせる。
「あなたに……いや、正確にはあなたたち、『獣導の協奏』にお願いがあるの」
「私たちに……?」
「お願い?」
俺も気になって口を挟むと、二人の視線が俺へ向いた。
「ショウヤも来ていたのね。仲が良くなって嬉しいわ」
ノエラさんはそう言って微笑む。
「少し話があるのだけれど、マリネアさん。応接室をお借りしてもよろしいかしら?」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
マリネアさんがすぐに応じ、俺たちは応接室へ案内される。
流れるように話が進んでいく。
だが、俺には気になることがあった。ノエラさんもシャニーナさんも、普段とはどこか様子が違う。
表情こそ落ち着いているが、どこか切迫したものを感じる。
──ただ事ではなさそうだ。
────
俺たちは応接室へ入り、ギルド長とマリネアさんを含めた六人で話し合うことになった。
「さて、それでは話を聞こう。シャニーナ副団長、よろしいでしょうか?」
「はい」
シャニーナさんは姿勢を正し、真剣な表情で口を開いた。
「結論から申し上げますと、『獣導の協奏』のお二人に指名依頼をお願いしたいのです」
指名依頼。
それほどまでに俺たちを信用してもらえているということなのだろう。
だが、俺たちはまだBとCランク。果たして、そんな俺たちに務まる依頼なのだろうか。
「まず、依頼内容を聞かせてください。俺たちに務まるかどうか、それを確認してから判断したいと思います」
「何を言っている? お前たちは一つずつランクが上がって、今はBとCだぞ」
「……え?」
ギルド長の言葉に、俺は間の抜けた声を出してしまった。
「どういうことですか?」
「どうも何もない。以前、二体の希少種を保護し、さらに盗賊を捕縛しただろう。ランク昇級に見合うだけの実績だ」
「⋯⋯聞いていないです」
「私も聞いてない」
キャリメラも驚いたように声を上げる。俺たちは二人揃ってマリネアさんを見る。
「マリネア、どうなんだ?」
「あっ、その……」
マリネアさんは申し訳なさそうに目を逸らした。
「⋯⋯忘れてしまったようです。すいません」
「まあ、忙しかったことでしょうし、仕方ないですよ」
原因はマリネアさんだった。とはいえ、そもそも俺たちが盗賊を捕縛したことで、ギルドの仕事を増やしてしまったのも事実だ。
俺はそれ以上、責めるつもりはなかった。
そんな俺たちのやり取りを、ノエラさんとシャニーナさんは微笑ましそうに見ていた。
「おっと、失礼しました。改めて、Bランクの剣士とCランクの獣導師に務まるかは分かりませんので、依頼内容をお聞かせください」
「はい。では、本題に入りましょう」
シャニーナさんの表情が再び真剣なものへ戻る。
「実はここ最近、確認されていた希少種をはじめとした獣たちの数が、大きく減少しているのです」
「なるほど……。その調査が今回の依頼ですか?」
「それもあります。ただ、私たちはその原因として、密猟集団が関わっているのではないかと考えています」
「密猟集団?」
「はい。この国では、必要な手続きをしないかぎり、希少種やその他の獣を個人で保護したり、所有したりすることは認められていません」
そこで、シャニーナさんは一度言葉を切った。
「そして今回、その規則を無視して獣たちを捕らえている集団がいると考えています」
「……名前は?」
「『黒獅子のたてがみ』」
聞き慣れない名前だった。
「かなり大きな組織と考えられています。すでに居場所にも見当がついています」
「そこまで分かっているなら、どうして俺たちに?」
「獣導師であるキャリメラの力が必要なのです」
「……なるほど」
俺は頷いた。
もし捕らえられた獣たちが現場にいるのであれば、キャリメラなら彼らを落ち着かせることができる。
そして、無事に自然へ返すこともできるだろう。
ならば、問題は──。
「その内容なら、キャリメラだけでもいいように思えます。パーティーとして俺も呼ばれるということは、俺の力も必要だということですか?」
「その通りです。こちらも人手が足りていない状況でして……」
「人手が足りない?」
騎士団もかなり忙しいのだろうか。そう思っていると、ノエラさんが静かに口を開いた。
「実は、子供をはじめとして、王都内で行方不明になっている者が増えているのです。その捜索にも人員を割いています」
「⋯⋯行方不明者が?」
思わず聞き返してしまった。騎士団が獣の密猟だけでなく、人の捜索にも追われている。それなら、人手が足りないのも当然だ。
そして、ふと嫌な考えが頭をよぎる。
(もしかして……)
だが、俺はすぐにその考えを振り払った。今は憶測で判断するべきじゃない。
まずは目の前の依頼だ。
「行方不明の件は気になりますが、指名依頼の内容は分かりました」
俺は隣にいるキャリメラを見る。
「俺はリーダーのキャリメラに委ねます。どうする?」
「もちろん、やるよ」
即答だった。
「即答か。でも、そりゃそうだよな」
キャリメラらしい答えに、俺は小さく笑った。
「では、俺たち『獣導の協奏』も引き受けさせていただきます」
俺の言葉に、シャニーナさんが深々と頭を下げる。
「ありがとうございます」
ノエラさんも安心したように微笑んだ。
「あなたたちなら、そう言ってくれると思っていました。でも、無茶だけはしないように」
「「はいっ」」
「では、明後日よろしくお願いします」
「分かりました。早いに越したことはありませんから」
こうして俺たちは、正式に指名依頼を引き受けることになった。
その後、俺たちは依頼の細かな内容を確認していった。




