33.ショウヤのスープ
俺が眠っている間に、騎士たちは交代で見張りをしながら、野営の準備を進めてくれていたようだ。盗賊たちは騎士たちが交代で見張っていたうえ、クレインも近くにいたため、おとなしくしていたそうだ。
森の中にいた俺たちに夜明けの光が差し込む。俺は目を覚まし、荷物から食材を取り出して料理をした。といっても、今回は純粋に煮込みスープ。食材を多すぎず、少なすぎない量で鍋に入れ、香辛料を加えて煮込んだ。
その匂いにつられてか、騎士たちが一人また一人と目を覚ました。そして、ノエラさんも目を覚まして挨拶をした。
「おはようございます、ショウヤさん。お早いですね」
「おはようございます、ノエラさん。もうちょっとかかりますので、お待ちください。人が多いので⋯」
「わざわざ、騎士団の分までありがとうございます」
「いえいえ。そんな大した量ではないので、王都に着くまでの腹の足しとして考えてください」
「それでもですよ」
「そうですか。では、満足のいく味になるよう頑張ります」
「はいっ」
互いに笑い合って会話をして、しばらくして俺は料理を完成させた。鍋から一人分ずつよそっていく。騎士たちがスープを食べていく。その反応は──。
「美味い」
「美味しいです」
「野営の中、干し肉以外のこんな美味しいものを食べられるなんて⋯」
「感動です」
騎士たちは狂喜乱舞するかのように歓喜の声を上げる。ノエラさんも例外ではなかった。
「本当に美味しいわ、ショウヤさん」
「お褒めいただき、ありがとうございます。もう少し肉とか入れて味付けも濃くしたかったのですが⋯口に合ったなら、何よりです」
それにしても、騎士の数人が涙を流すほどの感動っぷりを見るかぎり、よほど携帯用の食事は物足りなかったのだろう。
「本当にショウヤの料理は美味しいよね。この間の朝食も美味しかったし、楽しみが増えて嬉しい」
「⋯⋯朝食?」
キャリメラも皆の意見に賛同していると、ノエラさんはキャリメラの言葉を聞き逃さなかった。
「キャリメラ、朝食とはどういうことでしょう?」
「えっ? ショウヤは同じパーティーで宿暮らしだったから、一緒に住んでるの」
「「「「「「ぶっはっ」」」」」」
キャリメラの言葉に騎士たちがむせた。ノエラさんは⋯だいぶ呆れたご様子だった。
「キャリメラ、それは聞いていないわ」
「えっ?」
「ショウヤさんと一緒に暮らしているのは、聞いてないわ。お互い、異性と共に暮らすということにもっと危機感を持つべきです。まあ、ショウヤさんは誠実な人とお見受けしましたので、信頼して同居は許します。次からは早めに言うようにしなさい」
「ごめんなさい。次から気を付けます」
「ショウヤさんもです」
「申し訳ございません」
やはり、考えが甘かった。親御さんにも伝えるようにすべきだった。今回は信用してもらったから良かったが、こんなことがないようにと肝に銘じた。
謝ったキャリメラの頭をノエラさんは撫でた。その光景に騎士たちは和んだ。
そして、俺は残しておいたスープを鍋ごと持って動いた。持っていった場所は────盗賊たちの乗った馬車だ。
「失礼」
「「「「「⋯⋯」」」」」
俺が入ってくるなり、盗賊たちは殺意を込めて睨みつける。そんなものは無視して、鍋とスプーンをいくつか置いた。
「これ少ないけど、食べな。じゃあ」
「⋯⋯何のつもりだ?」
盗賊の一人が口を開いた。怒りの感情を込めたその言葉に足を止め、踵を返して俺は真剣に受け答えをする。
「何のつもりか? 食ってないんだろ。俺は殺すつもりはない。だから食え」
「おこぼれのつもりか?」
「ふっ。あの時の夜で、俺からの反省は終わらせた。今は一人の人間として、食事を振る舞っているだけのこと。では」
「ちょっ、待っ⋯」
言いたいことだけ言って、その場を離れた。そこから、騎士に押し問答されるが、盗賊たちと同じようなことを言って会話を終わらせた。それを聞いたノエラさんは、すれ違うなり呟くように俺に言った。
「お人好しですね。でも、それがあなたの良いところなんでしょうね」
「ふっ」
俺は小さく笑って、少しニヤけていた。
「さて、では昨日の約束、お忘れではありませんね」
「そうでしたね。では、お話ししましょうか」
そして、俺とノエラさんは朝食の間と移動の際に、六剣聖の稽古の頃の話をした。
一方、俺は知らなかった。
その頃、盗賊たちの乗った馬車の中では、誰一人として口を開く者はいなかった。
ただ、差し出されたスープを黙々と口に運びながら、何人かの頬には涙が伝っていた。
────
それからしばらくして、俺たちは王都に着いた。俺たちはギルドに立ち寄るため、ノエラさんたちと分かれた。
「ショウヤさん、お話を聞けてよかったわ。これからも娘をよろしくね」
「はい。同じパーティーメンバーとして尽力します」
「お願いね、ショウヤさん」
「あの⋯すいません」
「なんでしょう?」
「その、ショウヤさんという呼び方、変えてもらえませんか? その⋯キャリメラと同じ年なのに、さん呼びされますと申し訳なく思ってしまいまして⋯もちろん、無理に変えてもらう必要はないので、よければと⋯」
「フフッ。そうでしたか。じゃあ、ショウヤくんとお呼びしますね」
「ええ、ありがとうございます。ノエラさん」
「じゃあ、また会いましょう。キャリメラもね」
「うん。お母さんも頑張って」
「ええ、それでは」
そして、俺たちは分かれてギルドに向かった。帰ってきて早々、マリネアさんがキャリメラに抱きついたりして賑やかだった。
「おかえり、キャリメラちゃん。予定より一日早く帰ってくるなんて、さすがは獣導の協奏のお二人」
「マリネアお姉ちゃん、ちょっと苦しい⋯」
「マリネアさん、キャリメラが苦しそうです。早くクエスト達成の確認と報酬を」
「あら、これは失礼しました。確認しますね」
マリネアさんを落ち着かせて、クエストの達成報告をして報酬を貰った。そして、キャリメラの家に帰ろうかと思っていると、マリネアさんが俺の腕を掴んだ。
「では、失礼し、ます?」
「ショウヤさん、お食事は?」
「食事⋯⋯? あっ⋯⋯、確認するの⋯忘れてました。⋯ごめんなさい」




