27.獣導の協奏、始動
今日も朝日が昇る前に俺は起きた。俺が寝ていたのは客が泊まるように空けていた部屋だったらしく、貴族ではないようだが格式の高い家になっていてキャリメラが何者か気になった。
それはそうと、俺の枕元にはリンクスが体を丸めて寝ていた。いつの間にか俺の部屋に入り込んだらしい。
(俺のことは少しは懐いてくれたのかな)
俺はリンクスを起こさないように部屋をそっと抜けると、別の部屋のドアが開いた。キャリメラも起きたようだ。
「おはよう、早いねショウヤ」
「お互いさまだよ。⋯キャリメラもおはよう」
「ふっ、そうだね。私は外の子たちにご飯をあげるけど、ショウヤはどうする?」
「俺は料理を作っていくよ。好きに使っていいんだろう?」
「うん、ありがとう。お願いするね」
そう言って、キャリメラは庭に行き、俺は台所へ向かった。料理で切ったり焼いたりすることは普通にできるが、この世界では火をつけるのは火打ち石で必死になって付けなくてはいけなかった。前世の利便性に感謝しないといけない。
俺は台所にあった少ない食材や香辛料を使い、簡単な料理を作った。といっても、固いパンを溶いた卵に浸して焼いたり、肉に香辛料をまぶして焼いただけの料理だ。料理が完成したので、庭に行ってキャリメラを呼んだ。
「キャリメラ、料理ができたよ」
「⋯はい、今行く」
俺は台所で待ってしばらくすると、キャリメラが来た。
「お待たせ。って、すごくおいしそう。パンも黄色くてきれい」
「ありがとう。さあ、冷めないうちにどうぞ」
「うん、そうだね。いただきます」
嬉しそうにキャリメラはフォークを持って、パンを食べる。その一口で、キャリメラの目が見開く。
「美味しい。ふわふわのパンに濃厚な卵が沁み込んでいて美味しい。新感覚だよ」
「そんなぁ、まだまだだよ。砂糖は入れてないから、甘味が少なくて未完成だし」
そう、本来はスイーツ系の物だが砂糖は入れずに腹持ちを良くして作ったものだ。肉もソースなどを作って、味付けを加えたわけじゃない。だから、今回は手軽な料理を作ったということだ。
キャリメラは、肉は食べる。そして、物騒なことも言った。
「この肉も美味しい。ちゃんと、火が通っていて香辛料が効いていて美味しいよ」
「ちょっと待って⋯。火が通ってないことがあるの?」
キャリメラは気まずそうに、
「⋯うん、私がやると焦げるか生焼け⋯」
キャリメラは料理があまり慣れていないようだ。それから、キャリメラは目を輝かせて前のめりになって俺に話しかける。
「だから、こんなに美味しい料理が食べれるんなら、これからも料理を作ってよ。お願い、ショウヤ」
キャリメラは大喜びで交渉してきた。だが、ここまで絶賛してくれるなら、俺はそれに応えるまでの事。
「好評でなによりです。では、その言葉にお応えしましょう。このパーティーにいる間、料理担当──任されます」
それからは、朝食を食べ俺は獣たちの世話を手伝ってみることにした。
────
俺たちはキャリメラの子たちに会いに庭へ向かった。
「ありがとう。みんなの世話を手伝ってもらって⋯⋯」
「気にしなくていい。ルナたちみんなに世話になるのだ、これくらいしないと失礼だろう」
「⋯⋯ありがとう。でも、ショウヤって、ちょっと変わってるね」
「ふっ。いつも、言われてる」
そんな会話をしてながら、獣舎に着いた。
「じゃあ、毛を梳かす前に会ってない子の紹介するね」
そう言って、キャリメラが前に出て紹介した。
「この茶色い大きな牛は、『鋼牛のカルタノ』。重い運搬とか力仕事を任してる」
「モォォォ──」
そう紹介すると、カルタノは大きな鳴き声をあげた。二メートルを上回る巨体だが、暴れるようなことはなくおとなしくしていた。俺がそう思っていると、キャリメラは紹介を続けた。
「次、いくよ。──この子は『メンチモンキーのクレイン』。小柄だけど、力はしっかりあって早く動くから。荷物の番を任しているの」
そう紹介すると、琥珀色の体毛をした猿──クレインは、俺を値踏みするように睨んでくる。
「そして、この綺麗な馬の子は『美雪馬のハク』。希少種なんだけど、私に懐いて、ついてきたの。この子は、軽い運搬や人を乗せて行ってくれる役割なの」
一般の馬の大きさだが、雪のように白い体毛で輝いていた。それに、ルナの他に希少種がまだいた。獣導師の才覚が凄まじい。
「最後に、今は眠っているけど、昨日会った『バットハウンドのウィン』。あの子は、番獣って言ってね、この家を守ってくれてるの。基本は夜行性だけど、昼間も違和感があれば起きて守ってくれる」
昨日、俺に警戒してくれた子だ。なるほど、俺を警戒してあの威嚇か。主人のためだったんだな。
「まあ、あともう一人いるけど、その子とはあとで会わせるよ」
「なるほど、分かったよ。じゃあ、とりあえず毛を梳かしていくか」
「うん」
そう言って、俺はカルタノと昨日一緒に帰ったミルの毛を梳いていた。どうやら、ミルやもう一人の子はたまに野に出て遊びに出しているため、ミルは昨日、東の森にいたようだ。この子たちはおとなしい方だから、俺は任されたんだが、──この子たちを傷つけないように丁寧に毛を梳いてあげた。
一方、キャリメラは他の子たちを小さい大きい関係なしに早く梳いていく。しかも、満足そうにしているようで手慣れていて「さすが」の一言だった。
そうこうしているうちに、二人の毛を梳き終え、ホッとしていると──
「ガウ」
後ろからリンクスが歩いてきて、俺の足を擦ってきた。俺はどうしたらいいか、困惑しているとキャリメラがリンクスに声をかける。
「リンクス。──もしかして、ショウヤに毛を梳いてほしいの?」
「ガウァァァ」
「ふっ、ショウヤ。リンクスの毛も梳いてあげて」
「おっと、そうか。分かったよ」
俺はしゃがみこんでリンクスに声をかける。
「じゃあ、リンクス。毛を梳くからじっとしててね」
「ガウッ」
俺は丁寧にリンクスの毛を解いていく。リンクスは気持ちよさそうにしていた。
その姿を見てか、カルタノとミルも俺の背中に寄りかかるように集まった。俺はどこか安心感を抱きながら、毛を解いていった。
──そして、毛を解き終えた。
「リンクス、終わったよ。どうかな?」
「ガゥァァ」
リンクスは高い声で鳴いて、俺の足に擦ってきた。俺はリンクスを抱きかかえるとリンクスは顔や胸などをさすってきたので、頭を撫でた。
そんなところを見たキャリメラが声をかける。
「終わったみたいだね」
「ああ、三匹しかやってあげられなかったけど⋯⋯」
「ううん、ありがとう。⋯⋯それにしても、こんなすぐに懐いてくるなんて、よっぽどショウヤの梳かし方は良かったんだね」
「そうなのかな? まぁ、でも懐いてくれて嬉しいよ」
俺はリンクスたちを撫でると、三匹は擦り寄ってきた。
────
俺たちはギルドに向かった。今回、同行するのは──ルナ、ハク、カルタノ、クレインの四人を連れて向かった。リンクスはお留守番で、少し悲しそうにしていた。俺はメンバー編成に理由を聞いた。
「今日はリンクスが留守番みたいだね。なんで?」
「実は今日、前々から予定された運搬のクエストでね。ここから往復二日かかるの。さらに、到着した場所でクエストを一つ行うから、このメンバーにしたんだ。リンクスはこういった長旅は向いてないから」
今回はあくまで運搬。戦闘になることは⋯いや、もう一方のクエストはなんだ。
「なるほど。ところで、もう一方のクエストは何かな?」
「もう一つは、もしかしたら私なら何とかできるかもなクエスト」
「ほう」
キャリメラがわざわざ受けるクエストとは、一体何なんだろう。
会話を続けている間にギルドに着いた。
────
扉を開け、剣士たちの視線が注目されるが、俺たちはちょうど空いていたマリネアさんに声をかけた。
「マリネアさん、おはようございます」
「マリネアお姉ちゃん、おはよう」
「おはようございます、獣導の協奏のお二人さん」
「その呼ばれ方、慣れないと駄目だな」
「すぐに慣れるよ」
パーティー名が正式に決まったからとはいえ、ちょっと恥ずかしい。成果を出して、胸を張れるようにしないとな。そして、キャリメラが話す。
「以前から予約したクエストを受けに来ました」
「はい、承ります。例の担当も手配しておりますので、ご安心を」
「ありがとう」
「うん? ちょっとごめん。例の担当って⋯?」
俺が気になって、確認するとマリネアさんは丁寧に教えてくれた。
「はい、前々から予定されていた運搬のクエストと、もう一つのクエストを受けることになっています。ここから片道一日くらい。往復なら二日ですが、道中で野営を行い、到着した場所でクエストを一つ行います。その後、その村で一泊してから帰ってくる予定です。つまり、約四日間王都を離れることになります」
「そうですね」
「その際、キャリメラちゃんの獣たちの管理を任せる者が必要なので、最低限の面倒を見てくれる方の手配を済ましたのです」
「なるほど、そうでしたか。これは失礼しました」
そうだな。しばらく、家に戻れない。キャリメラの子たちは優秀だが、心配はあるからギルドの方が見てくれる。なかなか手厚い支援だ。
「さて、あと二時間ほどで出発なされますね」
「そうだね。早く準備しないと」
「あっ、キャリメラ。俺はちょっと食材を買ってくるから、ちょっと離れていいかな?」
「うん、また美味しい料理、楽しみにしてる。じゃあ、西門の前に集合ね。遅れないでね」
そう言って、キャリメラは先に行ってしまった。よほど出発の準備があるんだろう。俺も出ようとすると、マリネアさんが止めた。
「ショウヤさんって、料理できたんですね」
「まだ疑ってたんですか?」
「⋯⋯はい、すいません。でも、キャリメラちゃんが大袈裟なくらい笑顔なのでちょっと、気になります」
マリネアさんは羨ましそうな顔で伺ってきた。俺は一つ提案をした。
「じゃあ、今度帰ってきたらご馳走に誘っていいか、キャリメラに聞いてみるよ」
「本当ですか?」
マリネアさんは興奮気味に聞いてくる。俺は気圧されそうになるが踏みとどまり話を続けた。
「⋯う、うん。確認してからね」
「はい」
言質を取られつつ、俺は市場に向かった。




