26.パーティー結成と獣導師の家
マリネアさんの提案にギルドの剣士たちはギョッとして、俺たちを見る。キャリメラがそんなことは気にせず、キャッキャッと興奮した。
「それすごくいい。ショウヤが一緒にパーティー組んでくれるなら心強いよ。あっ、でも、ショウヤがいいならだけど……」
キャリメラは嬉しそうにしていたが、俺の意思も尊重してくれた。
キャリメラは本当に優しい子だ。
だが、その言葉は俺も同じ。ならばこそ──。
「いえいえ。むしろ、こちらも同じことです。キャリメラがいいなら、ぜひパーティーを組んでいただきたい」
「本当に? 本当にいいの?」
「ええ、もちろん」
「やったー」
キャリメラはぴょんぴょんと跳ねて、大喜びではしゃいでいた。俺やマリネアさんはもちろんのこと、剣士たちも殺気がこもった視線も和らいでいるほど、微笑ましく思っていた。だが、俺は六剣聖の弟子として戻らないといけない。
「あっ、でも、俺は六剣聖の稽古を弟子として稽古場に戻らないといけないんだ。二ヶ月もないくらいだけの間だけでも一緒にパーティーを組んでもいい?」
「うん、ちょっと残念だけど、それでもいいよ」
「では、そうしましょう。マリネアさん、パーティー登録構いませんか?」
「ええ、すぐに用意するわ」
マリネアさんは事務の方に行くと、剣士たちがざわざわと陰口を言っていた。
「女一人に囲われやがって」
「六剣聖の弟子だからって調子に乗ってる」
「キャリメラなんかと組むのか」
俺は無視して、聞き耳を立てなかった。
しばらくして、マリネアさんが受付に戻ってきた。
「お待たせ。こちらの書類に名前を書いて」
マリネアさんが書類を持ってきてくれて、俺たちはそれに名前を書く。そして、最後の方を見ると──。
「マリネアさん、ここ最後の『パーティー名』だけど、ここも記入しないとだめ?」
「そうですね。キャリメラちゃんはまだパーティーを作ってなかったですし、ショウヤさんたちのパーティーだと分かるようにするためにも、付けていただければと」
これは参った。俺はネーミングセンスが絶望的に無い。下手なパーティー名を付けるわけにはいかない。
俺はどうしたものか悩んでいると、キャリメラが言い放つ。
「じゃあ、『獣導の協奏』にしようよ」
「えっ?」
「駄目だった?」
「いや、駄目じゃない。そんなすぐに決めていいかなって」
「即断即決だよ。こういうのは、深く考えちゃ駄目だよ」
この思い切りの良さは、キャリメラの強みかな。
「そうか。じゃあ、なんでそのパーティー名にしたのか。理由を聞いてもいい?」
「うん。あの時、ルナたちと戦ったショウヤ、かっこよくて感動したの。まさに獣たちとの連携だった。だから、私がリーダーなら私の職業も込めて、獣導の協奏にしようと思ったの。どうかな?」
「うん、いいね。リーダーに関しても異論は無いよ。キャリメラの方が経験は上だし、俺はそれでいいと思う」
「ありがとう。じゃあ、マリネアお姉ちゃん。獣導の協奏で、私がリーダーで登録お願い」
「分かったわ。頑張ってね、獣導の協奏のお二人」
マリネアさんがそう呼び、俺たちは少しニヤけた。
「よし。これでショウヤさんのパーティー勧誘が終わりますね」
「マリネアさん、これを狙ってました?」
「さあ、どうでしょう?」
マリネアさんも食えない人だ。
「それじゃあ、あとは宿だな。早く稼いで家を確保しないと」
「それなら、私の家に泊まる?」
「へぇ? いいの?」
「うん」
────────
キャリメラの無邪気な答えに俺は動揺する。その様子を面白おかしくマリネアさんが声をかけてきた。
「良いんじゃない?」
「いや、でも女性の家にあがりこむなんて……」
「大丈夫よ。お父さんとお母さんはたまにしか帰ってこないけど、キャリメラちゃんの家に何回かあがったけど、獣の皆がいて楽しい場所だよ。余計なことさえしなければ噛みつかれないから大丈夫」
「そうか、じゃあ世話になろうかな。お願いするよ、キャリメラ」
「うん、いいよ。これからが楽しみ」
物騒な単語が出てきたが、俺はキャリメラの家に居候することになった。
──────
俺はキャリメラの家に向かっていた。ルナの背に乗って、ゆっくりと王都の道を歩いてくれていた。
その間にキャリメラが興味本位であることを聞いてきた。
「ショウヤってなんで剣士になったの?」
「剣士になった理由?」
「そう」
今まで深く考えたことがなかったことだ。改めて、深く考え込んだ。少し待ってもらい、答えを言う。
「やっぱり、最初は剣を振るのが好きだったからかな。剣を持って振るわれる人の姿がかっこよくて綺麗だったから、剣士になりたいって思ったのが始まりかな」
「そうなんだ」
「でも、今は……。好きな人に認められるためかな」
「えっ」
その意外な言葉にキャリメラは驚いた。そして、問い詰めてくる。
「えっ、誰? 誰? マリネアお姉ちゃん?」
「キャリメラ、落ち着いて。とりあえず落ち着いて、ちゃんと話すから」
「はっ、ごめん。ちょっとびっくりしちゃって」
(ちょっとではないよ。)
キャリメラが深呼吸をして、改めて聞いてきた。
「じゃあ聞くよ。好きな人は誰? マリネアお姉ちゃん?」
「……違うよ。たしかに、マリネアさんは素敵な人だ。明るく元気で優しく、面倒見のいい人と見られる」
俺は静かに笑って答える。そして、話を続けた。
「でも、俺はマリネアさんと会う前に好きな人に会った。その人は遠い場所にいる。それに俺はまだその方に相応しい人間ではない。だから、剣を持って守るために強くなって、強さを正しく扱う。そんな風に、その方に相応しい人間に近づくために俺は剣士になった。どうかな?」
そう答えを言い切ると、キャリメラはモジモジして恥ずかしそうにしていた。
「そうなんだ。かっこいいね。その恋、叶うといいね」
キャリメラさんは笑顔で俺を褒めてくれ、応援してくれた。
俺はただ感謝した。
「ありがとう、頑張るよ」
「あっ、そろそろ着くよ」
そうこう話しているうちに、キャリメラの家に着いたようだ。
────────
キャリメラの家は、ギルドと王城の中間に位置している。しかも、中々大きな庭を持っていた。家はちょっと大きいくらいで、その近くに獣たちの小屋があるようだった。
キャリメラが先頭に立って門を開けた。
「さあ、どうぞ。あがって」
「ええ、お言葉に甘え……」
「ワォン」
入ろうとした瞬間、鉄黒色で蝙蝠のような大きな耳をした二メートル近い犬が、門の前で吠える。
「ウィン。大丈夫、この子はお客さんだから、吠えちゃ駄目」
「ガルゥゥゥゥ」
キャリメラが説得するが、ウィンは俺に唸り続ける。
俺が困惑していると、リンクスが俺の前に立った。
「リンクス」
「ガウ。ガウウッウ」
「ワォォン」
リンクスとウィンが会話したようで、ウィンは唸るのを止め、その場から離れた。
一方、リンクスは俺の足に寄ってきた。俺はしゃがみこんでリンクスの頭を撫でた。
「ありがとう、リンクス。説得してくれて」
「キュゥゥ」
リンクスは高い声で鳴く。その様子を見て、キャリメラは嬉しそうだった。
「リンクス。助けてくれたから、懐いたみたいね。でも、こんなに早くなんて……ショウヤも獣導師の才能あるかも」
「アハハハ。まあ、懐かれないよりは嬉しいね」
獣との触れ合いは楽しいから、俺を気に入ってくれて嬉しい。
「さあ、改めて入ろ、入ろ」
「うん、そうですね」
キャリメラは笑顔で家まで歩き、ドアを開けた。
「ここが私の家だよ。さあ入って、入って」
「ええ、お邪魔します」
そう言うと、キャリメラが人差し指を指して俺に言う。
「違うよ。しばらくここにいるんなら、ただいまだよ」
「うん、そうだね。ただいま」
「よろしい」
キャリメラはそこから家の中を案内してくれ、俺は大体の位置関係を教えてもらった。そして、最後に外に出た。
庭全体は前世の学校のグラウンドより大きかった。そう思っていると、キャリメラが説明した。
「ここが獣舎。獣たちの家みたいなとこ。まあ、たまに抜け出してそこらの庭で寝るけどね」
色んなサイズの獣舎がおよそ十五以上立ち並び、半分以上がキャリメラの獣たちと考えていると壮観だ。
「他の子も紹介したいけど、今日は寝かしてあげて、明日にでも紹介してもいいかな?」
「そうですね。では、また明日からお願いします」
「うん、ところで料理できる?」
「一人前とはいえないでしょうが、できる方かと」
「じゃあ、料理を任してもいい?」
「もちろん。世話になるんだからそれぐらい、どっと来いです。台所は好きに使っていい?」
「うん、大丈夫だよ。じゃあこれからもお願い」
「ええ、こちらこそお世話になります」
互いに笑顔で会話して、寝る支度に入った。
そして、約二ヶ月の居候生活が始まった。
──────
そして、時は遡り────。
白い花畑が咲き誇った場所に、光る水晶を覗き込む女神様がいた。
『いえいえ。むしろ、こちらも同じことです。キャリメラがいいならぜひパーティーを組んでいただきたい』
『本当に? 本当にいいの?』
『ええ、もちろん』
『やったー』
俺たちのパーティー結成に不服そうな顔をした女神様に、ジェルが声をかける。
「女神様、どうしたの? 例の人間、ショウヤを見てるみたいですが、何か嫌なことでも?」
女神様はいつも微笑みを作らず、真顔で話した。
「いえ、どうやらパーティー結成が決まったようなのですが、どうも女性一人と組んでいるようで面白くないです」
そんなことを言っていると、
『それなら、私の家に泊まる?』
『へぇ? いいの?』
女神様の顔は真顔だが、空気が重くなった。
『そうか、じゃあ世話になろうかな。お願いするよ、キャリメラ』
『うん、いいよ。これからが楽しみ』
女神様は静かに口を開いていた。
「私の想いは嘘だったんでしょうか?」
「……女神様、嫉妬しているの?」
「違います」
ジェルが女神様に確認したが、即答された。
女神様は不服そうにしながら、光の水晶を覗き続ける。
『でも、俺はマリネアさんと会う前に好きな人に会った。────その方に相応しい人間に近づくために俺は剣士になった。どうかな?』
女神様はその言葉を聞くと、重たかった空気を吹き飛ばすように明るく微笑んだ。
ジェルがそんな女神様に質問した。
「女神様、嬉しい?」
「……さあ、どうでしょう」
女神様は目を閉じつつ、言い流した。
それからも、俺のことをちょくちょく見ていたようだ。




